表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第四章 夏祭りと、秘めたる想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/56

第33話 今私の唇見てたー、やーらしいんだー



 雨の中、花火が上がる。それはとても幻想的な光景で……でも、長くは続かなかった。


「あっ……雨、やみそう」


「え」


 視線を空に向けると、雲模様は変わらないものの……聞こえる雨音は、確かに小さくなってきている。


 二人きりの、外界と遮断された空間。だから随分長い間ここに居た気がする。

 次第に、雨は完全にやんだ。


「これからどうします?」


 雨はやんだとはいえ、ぬかるんでいる地面の上を歩くのは……俺はともかく、詩乃さんにはきついのではないか。


 なんせ下駄だし。


「まだ、お祭りやってるのかな」


「まだ、やってると思いますよ」


 花火と同じで、豪雨でもない限り中止にはならない。もしくは、一時間を超える雨の場合。


 だから、まだお祭りはやっているはずだ。


「だったら、もう少しだけ楽しみたいかな」


「……大丈夫ですか?」


「確かに地面は濡れちゃってるけど、土の上を歩くわけじゃないんだし。それに……」


 参道を歩く最中、前を歩いていた詩乃さんが俺の手を取る。

 何気ないその仕草に、ドキッとする。しかも、振り向きざまに嬉しそうな表情を見せてくれるおまけつき。


「もし転びそうになったら、またこうして守ってくれるでしょ?」


「……それは、もちろん……」


 神社を出て、舗装された道を歩き会場に戻ってきた。

 既に屋台は再会されている。人の数も、先ほどよりは減ったものの賑わいには充分だ。


 雨で冷え込んだ空気は、祭りで盛り上がった熱気を程よく和らげてくれる。


「じゃあ詩乃さん、今度はなに……を!?」


 なにを頼もうか……考えている間にも、繋いだ手を引っ張られる。


「すみません! これください!」


 どこへ向かったのかわからないまま、足が止まる。

 軽く息を整えている間に、詩乃さんは注文を済ませてしまい……



 ぷしゅっ……!



「んぐっ……かはぁーっ! んまぁーーーっ!」


「……」


 屋台で買った缶ビール片手に、ぐいぐいと飲み込んでいく。

 うん、知ってた。


「くあぁあ、これこれぇ!」


 わかってたよ? だってさっき、自分で言ってたもん。ビールが飲みたいって。


 だからって……まさか、いきなりとは。


「やっぱ、外で飲むビールは格別ぅー!」


「そ、そうですか……」


 その姿は、先ほど神社で麗しかった雰囲気の欠片もない。

 ただ、これが詩乃さんらしいとも思うわけだ。


 ビール片手に喜ぶ、無邪気な姿。最初は驚いた姿も、実俺しか見ることのできない特権と思えば優越感がある。


 あっという間に一本飲み干して、二本目を購入。


「かぁー、おいちー! ……ん? どーしたの甲斐くぅん、私の顔じっと見ちゃって」


「え……うわっ」


 見ていたことがバレてしまったようで、詩乃さんは怪しげに俺を見た。

 そしてそのまま、肩に腕を回してくるではないか。


 すると、当然……お互いの距離も、近くなってしまうわけで。


「あー、もしかしてお酒飲みたいのー? ざーんねん、未成年にはあげれませーん」


「い、いりませんよ」


「あぁー、じゃあ、口移しで飲ませてあげよっかー?」


 ……は、い!!?


「くっ……っ……もしかしてもう酔ってます?」


 な、なんてこと言うんだこの人! 惑わされるな俺。これは酔っ払いの戯言だ。

 だいたい、言動はめちゃくちゃだ。お酒ダメなのに口移しなんて。


 ……くち、うつし……


「あー、今私の唇見てたー、やーらしいんだー」


「み、見てません!」


 ……本当に、もう酔ってんのか? まだ缶ビール二本目に突入したばかりだぞ?


 なんで酔ったんだこの人……


「ささ、もっとお祭りを楽しみましょー!」


「わっ」


 ただ、考えても意味がないことは確かだ。

 上機嫌な詩乃さんは、ぐいぐいと俺を引っ張っていく。


 ……仕方ない。こうなったらとことん付き合うか。



 ――――――



「うぅん……」


「寝ちまった……」


 現在俺は、詩乃さんをおぶって歩いている。酒を飲みながらあちこち回った結果、酔って寝たのだ。

 酔いつぶれた人をこれ以上歩かせるのは危険と判断し、祭りも充分楽しんだので帰ることに。


 足取りも怪しかったので、おんぶすることになったわけだが……背中にいろいろ当たるわけで。


「むにゃあ……」


 変なこと考えそう……いかん、煩悩退散。

 女の人を軽々抱えたい。と言いたいが……さすがに、年上で身長もあまり変わらない上に脱力している人は、重い。


「……あれ?」


 会場はもう遠く、アパートまでの道に人もあまりいない。この公園を抜ければ、もうすぐだ。

 そう思い、ふと気配を感じた。


「……姉ちゃん?」


 少し離れた自販機の側に、知った顔を見つけたのだ。

 向こうは気づいていない。辺りは暗いし、誰かと話しているっぽい。


 ……姉ちゃんめ、よくも約束を破りやがって。いや、おかげで詩乃さんと過ごせたけど……それはそれとして、だ。


「ふぅ……」


 約束を破るのはよくない。一言文句を言ってやろうと、一歩踏み出そうとして……


「……ぇ」


 ……足が、止まった。


 姉ちゃんは笑いながら、しかし照れくさそうに相手と抱き合い……

 お互いの顔が、重なったように見えた。


「……」


 それを見た瞬間、文句とか、背中に感じる重みとか柔らかさとか、いろいろなものが吹き飛んでいった。


 ……そういや、姉ちゃんが来なかった理由は彼氏と行くから……なんだっけ。

 じゃあ、あの人が彼氏ってことか……


「……っ」


 見てはいけないものを、見てしまった。そう理解した瞬間、足早に公園から抜け出した。


 高鳴る鼓動は、きっと早足のせいだ。詩乃さんを背負っているせいだ。


「はぁ、はぁ……」


 アパートにたどり着く。

 詩乃さんは寝たままなので、仕方なく俺の部屋へ……そのまま、ベッドへと寝かせる。


 べ、別にやましい気持ちなんかない。詩乃さんの部屋の鍵なんて持ってないし、鍵を探すために勝手に荷物を探るわけにもいかない。


「すぅ……かぁ……」


 浴衣姿で眠る詩乃さんは、俺がさっき見たものなんて、知る由もないんだろうな。

 そう、さっき見たもの……


「すぅ……」


「……」


 ……って、なにを俺は詩乃さんの唇を見てんだよ! 煩悩退散!


 起きたら水飲ませて帰らせよう。姉ちゃんのことは……とりあえず、忘れよう。

 はぁ、せっかく楽しかった祭りだったのに。よりによって姉ちゃんの……


「すやぁ……む」


「……」


「甲斐くぅん……」


 いや、ほんと、詩乃さんにはなにもしてないからね。しないからね。変な気分にはならないからね。


 ……うそ。寝顔を写真に撮った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ