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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第四章 夏祭りと、秘めたる想い

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第31話 迷子になると危ないから、ね……



 ―――詩乃side



『……私も花火、甲斐くんと見たかったな』



 ……いつの間にか、そんな言葉を口にしていた。

 背を向けていたためか、甲斐くんには聞かれていなかったようだ。一安心する。


「……なに言ってるの、私」


 それは、なんて自分勝手な言葉なのだろう。

 花火があることは、知っていた。でも、甲斐くんと浪ちゃんを二人で行かせたのは私だ。


 つまり、一緒に花火を見れなかったのは私自身のせいだ。

 なのに……甲斐くんと二人で花火を見た浪ちゃんのことを、私は羨ましいと思っている。


「……おいし」


 貰ったたこ焼きを、食べる。まだ温かいや。


 ……あの二人、多分なにかがあった。それは、私には言えないこと。

 買い出しに行く前は悩んでいた様子の浪ちゃんが、今はスッキリした顔なのも気になる。


 高校生の男女が、二人きり……お祭りというシチュエーション。


「……もしかして」


 どちらかが、告白をした……ってことは、あり得るかな?


 多分、浪ちゃんは甲斐くんのことを好きだ。

 海で会ったときに、思った。彼を見る目が、他の人とは違うことに。


 それに気づけたのは、私が同じ女だからだろうか。それとも……


「……っ」


 ……胸のあたりが、もやっとする。


 築野 浪ちゃん。活発で、弟妹の世話をしている面倒見の良さもある子だ。

 あんなかわいい子に告白されたら、断る理由なんかないよ。年だって同じなんだし。


「……浪ちゃんと付き合っちゃうのかな……」


「なにか言いましたか?」


「っ! う、ううん!」


 浪ちゃんの言葉に、はっとする。声に出てた……!


 だいたい、なんでそんなこと考えてるの。甲斐くんは弟みたいな存在だから、姉心みたいなものだろうか。

 ……そう、姉心……


 ……胸の奥が、チクッとする。


「あの、改めてありがとうございます。二人を見てもらってて」


 私の悩みを知らない浪ちゃんは、眩しい笑顔を向けてくる。


「ううん、全然。勝手にどっか行くこともなかったし。楽だったよ」


「そうですか」


 ……お祭りも終わりかな。なんだか、寂しい気持ちだな。

 寂しいのは、お祭りが終わるから? それとも、別のなにか?


 この短い時間で……自分の気持ちが、わからなくなってる。


「あの、詩乃さんって……白鳥のこと……」


「おねえちゃぁん」


 ……浪ちゃんに抱き着く、楓ちゃんの乱入が、彼女の言葉を引っ込めた。


「楓? ……眠い?」


「ぅんん……」


「そっか。いっぱい遊んだもんね」


 お祭りという環境、大勢の人……私だって疲れるんだ。子供なら、疲れて当然だ。

 浪ちゃんは楓ちゃんを抱き上げる。


 それから、宇宙くんを抱いている甲斐くんの姿もあった。


「こっちも寝そう」


「わっ、宇宙ったら。白鳥、ごめん」


「いいって」


 おチビちゃん二人は、ダウン寸前みたい。

 宇宙くんは「まだあそぶぅ」と言っているけど、半分以上目が閉じられている。


「ほら、帰るから二人にバイバイして」


「やだぁ」


「あはは」


 楓ちゃんを抱いたまま、浪ちゃんは驚くことに空いた手で宇宙くんを受け取る。

 両腕に、それぞれ抱っこしている……だと!?


「わ……浪ちゃん、すごいね」


「そうですかね?」


 彼女は大柄ではない、一高校生だ。女の子だし、力も強くないはず。

 なのに、小学生とはいえ人二人を抱き上げるなんて……


「俺でもできないと思うよ……」


「二人の世話で慣れてるからかな。……女の子っぽく、ないよね」


「そんなことないよ、普通に尊敬する」


「! そ、そう」


 彼女はしっかり者だから、ご両親からもお世話を任されることが多いんだ。


 相手は遊びたい盛りの小学生。いくら弟妹でも、大変なんてものじゃない。

 そもそも、浪ちゃんだって遊びたい盛りの高校生なのに。


 ……私より、全然すごい。やっぱり甲斐くんも、こういう女の子の方が……


「二人とも寝ちゃったし、私は帰るね」


「そっか。送っていこうか?」


「いえ、大丈夫です。気にせずお祭りを楽しんでください」


 こんな状況でも、私たちのことを考えてくれるなんて。

 お祭りはもう終わっちゃうだろうけど……最後まで楽しんでくれと、気を回してくれる。


「じゃ、じゃあね白鳥……また」


「あ、うん……また」


 ぎこちないやり取り。やっぱり、なにかあったんだ。


 背を向け歩いていく彼女を、見送る。

 賑やかだったのが、急に静かになってしまった……周りは相変わらずなのに。


「……」


 甲斐くんと二人。ここに来た頃と違い……気持ちが落ち着かないのは、なぜだろう。

 二人になれたのが嬉しいのに、気まずい……

 あれ? 私……嬉しいって思ってるの?


 ……うん。あと少しでも、目一杯楽しみたい……そう思って、手元を見た。

 浪ちゃんと会うまでは繋いでいた手は、今離れている。


「……! し、詩乃さん?」


 私から……甲斐くんの手を、握りしめる。

 それに、彼は驚いた様子で。


「その……ま、迷子になると危ないから、ね……」


 ……すごく、恥ずかしい。


「そ、そうですね。……きれいな空ですね」


 若干緊張しているのだろうか、甲斐くんは空を見上げていた。

 すっかり暗い……私も空を見上げると、瞬く星が見えた。


 本当に、きれいだな。もっと見ていたい。


「でも、お祭りも終わっちゃうなぁ」


「え、どうしてです?」


「? だって、花火終わっちゃったし」


 その言葉が、よくわからない。花火が終わるから、お祭りも終わるんじゃないのか。

 すると、甲斐くんはくすっと笑う。


「花火は、二回あるんですよ」


「……えぇ!?」


 え、もしかして私……勘違いしてた!?

 うわ、恥ずかしい……! お祭り終わっちゃうって、花火見れなかったって……


 えぇ、毎年そうなのかな?


「そ、そうだったんだ。じゃあ、一緒に花火見られるんだね」


「はい、そうです……え?」


「……あっ」


 今私、また恥ずかしいこと口に出した……!?

 さっきから、顔が熱い。多分、顔は真っ赤だ!


 周りを見れば、ほとんど帰る様子はない。まだ花火があると知っているのだろう。

 ということは、また二人きりの時間が続くってことだ。嬉し……


「え……雨?」


 鼻先に、冷たい雫が当たる。手のひらを掲げると……ポツ、ポツと少しずつ。

 けれど、明らかに雨が降り始めていた。


「わ、まじかよ」


「降るって言ってなかったのに」


 周囲も、雨に気づいたようだ。

 まだ小雨だが、これから強くなると思わせるものだった。


 これじゃ、満足にお祭りを回ることができない。


「とりあえずこっち」


「え……わっ」


 とにかく、このままではびしょびしょになってしまう。帰るにしたって距離もある。

 いや、まだ一緒に花火見れてない!


 なら、雨宿りするか。確か……


「ええと、こっち……かな」


 記憶を掘り起こし……迷いながらも、目的地を思い出す。

 そう、こっちの道だ。


 雨が強くなるにつれ、足早に。

 木々の生え茂っている場所を抜け……会場から少し離れた場所にたどり着く。


「……神社?」


 ここだ、間違ってなかった。

 あそこなら、雨宿りができる!


「ふぅ。ここならしばらく大丈夫かな。

 近くに神社があるの思い出してね。あまり大きくはないけど、屋根があるから雨宿りさせてもらおうよ」


「ですね。こんな所があるなんて、知りませんでした。詩乃さんが居てくれてよかったですよ」


 それに、ここはわりと穴場なのだ。

 まあ記憶の中での話だったけど、他に雨宿りに利用している人はいないし、当たりだったみたいだね。


 雨も本降りになってきたし、ナイスタイミングだよ。

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