第29話 あなたのことを好きな女の子がここにいる
―――浪side
まさか、こんなことになるなんて。
白鳥と二人で買い物!?
そもそも夏祭りで会うことになるなら、浴衣じゃなくてももっとおしゃれしてくるんだった!
彼も来るのは知っていたのに……油断してた。
それに……
(ぜ、全然うまく話せない……)
二人きりに緊張して、ちゃんと話せてる?
これじゃあ、騒がしくても宇宙や楓がいた方がマシだったかも。
私っていつもそうだな。学校では空光が、それ以外では弟妹がいないと、白鳥とちゃんと話も出来ない。
「なに食べたい?」
結局、ほとんど白鳥にしゃべらせてしまっている。
こんな黙ってばかりの女、つまらないはずなのに……何度も話しかけてくれて。やっぱり、良いやつだな。
詩乃さんと二人でお祭りを回っていたはずなのに、私たちも一緒にって言ってくれた。
……あの二人、いい感じに見えたな。
もしかして……付き合っているのかな?
「お嬢ちゃんたちカップルかい?」
カップル……そう見えているのなら、嬉しい。
でも本当は、買い出ししている姿が人から見たら、カップルみたいに映っただけだ。
……やだな。
「白鳥!」
気付けば私は……彼を呼び止めていた。
彼は優しい……でも、それはきっと誰にでもだ。クラスメイトにも……詩乃さんにも。
それが、彼の良いところだ。……私だけ見ていてほしいなんて、わがままだろうか。
それでも、カップル"みたい"にじゃなくて、本物がいい……!
込み上げてくる感情が、想いが……溢れそうだ。
口にするだけのことが、とても難しい。だけど……このチャンスを、無駄にしたくない。
「私、白鳥のこと……す…………」
勇気を出した……その瞬間だ。
打ち上げられた花火の音が、私の言葉をかき消した。
ドンッ……と、胸の奥に響く音。
注意を引かれてしまった白鳥は、夜空を見上げて。
「うわぁ、すげえでかいな」
「……っ」
そっか、夏祭りには花火が上がるんだった。
……急速に、熱が冷めていくのを感じる。はは、私……なに言おうとしてたんだろ。恥ずかしいったらないよ。
まさか……こ、告白なんてしようと、してたの?
「ごめんね築野さん。花火で聞こえなくて……もう一回いいかな」
「……ううん、たいしたことじゃないの」
いいんだ、これで。告白なんかしても、困らせるだけだろうし。
なんとなく、わかっていた。白鳥は多分……詩乃さんのことが、好きだ。
わかるよ……ずっと、見ていたんだもん。
みんなに向ける目と、彼女に向ける目が違うのくらい……わかる。
ただ、付き合っているのかは、わからないけど。
「だから、行こっ」
「う、うん」
第一、告白するにしても……シチュエーションは悪くないけど、こんな恰好じゃあね。
服だけじゃない、人ごみに揉まれて髪も乱れちゃったかも。変な顔になってるかも。
好きな人を困らせたくないし。だから……
『よかったね、お兄ちゃんと一緒で』
『な、なに言ってんの!』
『でも、あそこで一度引こうとしたのはだめかな。お姉ちゃん、そういうとこあるよね』
『だからなに言ってんの!』
白鳥たちと一緒に回ることになった時、生意気な弟がこっそりと告げた言葉を、思い出す。
そういうとこって、なにさ。
……白鳥は詩乃さんと、昔から家族ぐるみの付き合いがあったんだ。
いつから彼女を好きだったのかは知らないけど、ずっと好きだったんだと思う。昔から……
……私、だって……
『いえ、気になさらず。それより、もう目を離しちゃだめですよ?』
妹を救ってくれたあの日から……
『どうも、白鳥 甲斐です。って、改めて自己紹介となると恥ずいな』
彼と再会した時は……運命だと思った。私の二年間の想いが、実になるのだと。
でも、好きな人に好きな人がいて……自分よりもずっと長い片想いをしていて。好きになった時には、もう報われないと決まっていた。
そんなの、あんまりだよ。
「飲み物、あそこに売ってそうだよ」
……挙げ句弟にまで気を遣わせて。ダメなお姉ちゃんだな。
こんなんじゃ、呆れられても……
『少しは素直になりなよ』
……そう、言われた気がした。
あの時宇宙は、私をからかいながらも……私に勇気をくれていたのではないか? 数少ない、チャンスを。
……ここで引いたら……きっと私は、一生後悔する。ずっと変われない!
「花火終わっちゃう前に、戻らないと……」
「好き」
「え?」
この想いは、報われない。でも……それは、ゼロじゃない。
可能性が残っているなら、諦める理由にはならない。
だから……流れる涙は、悲しみ以外の気持ちも混ざっているはずだ。
「好き……白鳥のこと、好きって……そう言ったの」
かき消された言葉を……今度は、はっきりと伝わるように。
タイミングを計ったかのように、言い切った直後に花火が打ち上がる。
照らされた白鳥の顔は……みるみる、赤くなっていく。
きっと私の顔も、白鳥以上に赤くなっている。
これまでの人生で、こんなにドキドキしたことなんてない。
「……っ」
胸が苦しい。心臓が激しく動いている。身体も熱い。
けれど……これらは、不快なものではない。
「……えっと、それは……い、異性として……?」
「そうよ」
「……だよね」
私の告白を受けてどう思ってる? ドキドキしてる?
ただ一つ……彼が、私を意識してくれているのが、わかる。
「……築野さんの気持ちは、すごく嬉しいよ。正直、そんな風に思ってくれてるなんて、思いもしなかったから」
「うん」
「けど……俺は……」
しっかりと応えようと、さ迷っていた視線が、私を見た。
続く言葉が、私にはわかった。だから……
「好きなんだよね、詩乃さんのこと」
「うん…………え?」
「わかるよ、それくらい」
うわ、真っ赤っか。どうやら、図星みたい。
うろたえちゃってかわいい。でも、私に告白された時より赤くなっているのは、納得いかないな。
だから……これはちょっとした、意地悪だ。
「白鳥の気持ちは知ってる。その上で言ってるの……好きだって」
「あ……」
不思議なものだ。さっきまでは、あんなに恥ずかしく勇気が出なかったのに。
一度口にしたら、言葉が出てくる。
「初めて会った時から、好き。覚えてないかもしれないけど、二年前のあの時から……
再会して、嬉しかった。でも、今日まで勇気が出なかった。情けないよね」
「そんなこと、ない」
「ありがと。
……私は、あなたが好きです」
今まで、人を本気で好きになったことはなかった。だから、友達が告白したって話を聞いた時、なんとも思わなかった。
でも、今ならわかる。好きだと伝えることのすごさと、強さを。
心臓はどんどん、早くなってる。壊れてしまわないか、不安になる。
「すぐに返事をくれなんて言わない……白鳥の気持ちは、変わらないのかもしれない。でも……」
そんな不安な気持ちを、押し殺すように……私は、精一杯の笑顔を浮かべる。
「あなたのことを好きな女の子がここにいるって、知っておいて欲しいんだ」
これが、私の精一杯の……意地悪。
詩乃さんのことばかり考えている白鳥に、私のことも……頭がおかしくなるくらいに、考えさせてやる。




