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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第四章 夏祭りと、秘めたる想い

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第28話 私、白鳥のこと……



 五人での夏祭り巡りは、賑やかなものになった。同時に、大変でもあるのだが。

 その大きな理由が、宇宙くんと楓ちゃんにある。目に映るものすべてに意識を奪われている。


 手を繋いでいるので、はぐれることはないのだが……あちこち見て回れば、それだけ引っ張られる。


「す、すみません……二人が」


 しばらく振り回された後、人混みから離れてベンチでひと休憩。

 とはいえ、座っているのは宇宙くんと楓ちゃんだけだ。その手に持つ焼きそばを、夢中で食べている。


 俺と詩乃さんは、その間に築野さんに謝られている状況だった。


「ううん、気にしないで。楽しかったから問題ないよ」


「あぁ、嫌なら一緒に行動してないし」


 確かに大変だったが、それ以上に楽しかった。

 小さい子はパワフルだが、その分こっちもパワーを貰える気がする。まあ疲れるからプラマイゼロな気もするけど。


 焼きそばにかき氷にキャラ物のお面、射的にヨーヨーすくいと、存分に祭りを満喫していた。


 ……それにしても。


「築野さんはすごいよな」


「え?」


 この二人を相手にするのは、並の覚悟じゃ務まらない。それはこのほんの数十分でよくわかった。

 彼女はこれを、一人でこなしているのだ。尊敬する。


 今日だって、本来なら一人で面倒を見ていたってことだ。

 はぐれないように、人とぶつかったりしないように注意する。

 一人に目を向けすぎると、もう一人がどっか行ってしまう可能性がある。二人から目を離すことはできない。


「……白鳥や詩乃さんがいてくれて、助かったよ。私だけじゃ、自分まで楽しむことに気が回らなかっただろうし」


「……そうよね、忙しいと自分のこと、後回しにしちゃいがちだもんね」


 築野さんと詩乃さんは、しみじみ話していた。


 ……それにしても、おいしそうに焼きそばを食べている姿を見ていると、お腹減ってきたな。

 りんご飴を食べたとはいえ……あれじゃあ腹は膨れない。そもそも、一個全部を食べたわけじゃないし。


 どうせなら、一緒に焼きそばを買っておくんだった。


「俺たちも、なにか買ってきます?」


「そうね。それじゃあ甲斐くんと浪ちゃんで、行ってきてよ」


「え」


 二人が焼きそばに夢中な以上、全員では動けない。そして二人を残してもおけない。

 一人はここに居なければいけないから、買い出しは二人だ。


 メンバーを決める詩乃さんの様子に、築野さんは困惑している。

 そんな彼女の目の前に出されるのは、財布だ。


「これ……」


「好きなの買ってきなよ。いつも頑張っている浪ちゃんへの、ささやかなプレゼントってとこかな」


 ……そうか、いつも頑張っている築野さんに、息抜きをさせるつもりで。


 あのままだときっと、自分で弟妹を見ておくから……と築野さんはここに残ると言い出しただろう。

 だから、先手を打ったのだ。


「ほらほら」


 おろおろしていた築野さんは、やがて詩乃さんの圧に負け、財布を受け取った。


「あ、ありがとうございます」


「よし。じゃあ甲斐くん、エスコート頼んだよ?」


「もちろんです。じゃ、行こうか」


 詩乃さんたちに見送られ、俺たちは人混みの中へ戻る。


「ご、ごめんね白鳥。着いてきてもらっちゃって」


「はは、築野さん謝ってばっかだね」


「あ、う……」


 並んで歩く。騒がしかった子供二人がいない分、静かに感じてしまう。周囲は相変わらず騒がしいのに、不思議だ。


 ……そういえば、ちゃんとした二人きりって実は初めてじゃないか?

 クラスじゃ空光(からみつ)も一緒だし、バイト先じゃ同僚もいるしな。


 しかし……築野さんって俺と話すときは、ちょっとよそよそしい気がする。

 他の人と話すときは、そうでもないんだが。


「なに食べたい?」


 ともかく、今はこの時間を楽しもう。

 元々築野さんの好きなものを優先するつもりだ。彼女の意見を聞こう。


「えっ。あっ……た、たこ焼き!」


 周囲を見回して、指さした先にあるのは、たこ焼き屋だ。

 そういえば、たこ焼きはまだ食べてなかったな。


「オッケー」


 俺はこれといって食べたいものはないし、詩乃さんもたこ焼きが嫌とは言わないだろう。


 屋台へ向かい、おっちゃんに人数分の注文をする。

 ソースの香りが鼻をくすぐる。ここに限らずだが、屋台周りはおいしそうな匂いであふれてるんだよなぁ。


「はいお待ち。おっ、お嬢ちゃんたちカップルかい? 初々しいねぇ」


「えっ、いや私たちは……」


「お祭り楽しんでいきなよ。これおまけね」


「え、ありがとうございます」


 ……たこ焼きを受け取る際にちょっとしたやり取りがあり、結果的にプラスひとケースをもらってしまった。

 なんて太っ腹だろう。


 袋に入れてもらったそれを、持つ。

 あとは飲み物を買って……


「あ、あはは。あのおじさん、私たちをか……カップルなんて……ねぇ?」


「祭りに男女二人で来てる……となれば、そう見えちゃうのかもね」


「……そ、だね」


 俺だって、詩乃さんと二人で夏祭りを回っている状況はデートじゃん! と思ったし。

 恋人同士に見えてないかな!? とも思ったし。


 宇宙くんにはそう見られていたみたいで、嬉しかった。


「……」


「さて、飲み物は……」


「白鳥!」


 ……服を掴まれ、足を止める。


 振り返ると、築野さんは……明かりのせいか、顔をこれでもかと赤くしていた。


「ごめん、歩くの速かったかな」


 もしかしたら、知らず知らずペースを速めていたのかもしれない。そうなら反省だ。

 しかし築野さんは、首を振る。


 そのまま言葉を待っていたのだが、しばしの沈黙。うつむき、なんだか息が荒い。


「? あの……」


 もしかして体調でも悪いのか。そう思い声をかけようとしたところで、彼女は顔を上げた。

 その瞳は、しっかりと俺を捉えていて。


 向かい合うままに軽く息を吸い、そして……


「私、白鳥のこと……す…………」


 ……ドンッ……と。

 なにかを言おうとした彼女の言葉は、その瞬間打ち上がった花火の大きな音に、かき消されていった。

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