第28話 私、白鳥のこと……
五人での夏祭り巡りは、賑やかなものになった。同時に、大変でもあるのだが。
その大きな理由が、宇宙くんと楓ちゃんにある。目に映るものすべてに意識を奪われている。
手を繋いでいるので、はぐれることはないのだが……あちこち見て回れば、それだけ引っ張られる。
「す、すみません……二人が」
しばらく振り回された後、人混みから離れてベンチでひと休憩。
とはいえ、座っているのは宇宙くんと楓ちゃんだけだ。その手に持つ焼きそばを、夢中で食べている。
俺と詩乃さんは、その間に築野さんに謝られている状況だった。
「ううん、気にしないで。楽しかったから問題ないよ」
「あぁ、嫌なら一緒に行動してないし」
確かに大変だったが、それ以上に楽しかった。
小さい子はパワフルだが、その分こっちもパワーを貰える気がする。まあ疲れるからプラマイゼロな気もするけど。
焼きそばにかき氷にキャラ物のお面、射的にヨーヨーすくいと、存分に祭りを満喫していた。
……それにしても。
「築野さんはすごいよな」
「え?」
この二人を相手にするのは、並の覚悟じゃ務まらない。それはこのほんの数十分でよくわかった。
彼女はこれを、一人でこなしているのだ。尊敬する。
今日だって、本来なら一人で面倒を見ていたってことだ。
はぐれないように、人とぶつかったりしないように注意する。
一人に目を向けすぎると、もう一人がどっか行ってしまう可能性がある。二人から目を離すことはできない。
「……白鳥や詩乃さんがいてくれて、助かったよ。私だけじゃ、自分まで楽しむことに気が回らなかっただろうし」
「……そうよね、忙しいと自分のこと、後回しにしちゃいがちだもんね」
築野さんと詩乃さんは、しみじみ話していた。
……それにしても、おいしそうに焼きそばを食べている姿を見ていると、お腹減ってきたな。
りんご飴を食べたとはいえ……あれじゃあ腹は膨れない。そもそも、一個全部を食べたわけじゃないし。
どうせなら、一緒に焼きそばを買っておくんだった。
「俺たちも、なにか買ってきます?」
「そうね。それじゃあ甲斐くんと浪ちゃんで、行ってきてよ」
「え」
二人が焼きそばに夢中な以上、全員では動けない。そして二人を残してもおけない。
一人はここに居なければいけないから、買い出しは二人だ。
メンバーを決める詩乃さんの様子に、築野さんは困惑している。
そんな彼女の目の前に出されるのは、財布だ。
「これ……」
「好きなの買ってきなよ。いつも頑張っている浪ちゃんへの、ささやかなプレゼントってとこかな」
……そうか、いつも頑張っている築野さんに、息抜きをさせるつもりで。
あのままだときっと、自分で弟妹を見ておくから……と築野さんはここに残ると言い出しただろう。
だから、先手を打ったのだ。
「ほらほら」
おろおろしていた築野さんは、やがて詩乃さんの圧に負け、財布を受け取った。
「あ、ありがとうございます」
「よし。じゃあ甲斐くん、エスコート頼んだよ?」
「もちろんです。じゃ、行こうか」
詩乃さんたちに見送られ、俺たちは人混みの中へ戻る。
「ご、ごめんね白鳥。着いてきてもらっちゃって」
「はは、築野さん謝ってばっかだね」
「あ、う……」
並んで歩く。騒がしかった子供二人がいない分、静かに感じてしまう。周囲は相変わらず騒がしいのに、不思議だ。
……そういえば、ちゃんとした二人きりって実は初めてじゃないか?
クラスじゃ空光も一緒だし、バイト先じゃ同僚もいるしな。
しかし……築野さんって俺と話すときは、ちょっとよそよそしい気がする。
他の人と話すときは、そうでもないんだが。
「なに食べたい?」
ともかく、今はこの時間を楽しもう。
元々築野さんの好きなものを優先するつもりだ。彼女の意見を聞こう。
「えっ。あっ……た、たこ焼き!」
周囲を見回して、指さした先にあるのは、たこ焼き屋だ。
そういえば、たこ焼きはまだ食べてなかったな。
「オッケー」
俺はこれといって食べたいものはないし、詩乃さんもたこ焼きが嫌とは言わないだろう。
屋台へ向かい、おっちゃんに人数分の注文をする。
ソースの香りが鼻をくすぐる。ここに限らずだが、屋台周りはおいしそうな匂いであふれてるんだよなぁ。
「はいお待ち。おっ、お嬢ちゃんたちカップルかい? 初々しいねぇ」
「えっ、いや私たちは……」
「お祭り楽しんでいきなよ。これおまけね」
「え、ありがとうございます」
……たこ焼きを受け取る際にちょっとしたやり取りがあり、結果的にプラスひとケースをもらってしまった。
なんて太っ腹だろう。
袋に入れてもらったそれを、持つ。
あとは飲み物を買って……
「あ、あはは。あのおじさん、私たちをか……カップルなんて……ねぇ?」
「祭りに男女二人で来てる……となれば、そう見えちゃうのかもね」
「……そ、だね」
俺だって、詩乃さんと二人で夏祭りを回っている状況はデートじゃん! と思ったし。
恋人同士に見えてないかな!? とも思ったし。
宇宙くんにはそう見られていたみたいで、嬉しかった。
「……」
「さて、飲み物は……」
「白鳥!」
……服を掴まれ、足を止める。
振り返ると、築野さんは……明かりのせいか、顔をこれでもかと赤くしていた。
「ごめん、歩くの速かったかな」
もしかしたら、知らず知らずペースを速めていたのかもしれない。そうなら反省だ。
しかし築野さんは、首を振る。
そのまま言葉を待っていたのだが、しばしの沈黙。うつむき、なんだか息が荒い。
「? あの……」
もしかして体調でも悪いのか。そう思い声をかけようとしたところで、彼女は顔を上げた。
その瞳は、しっかりと俺を捉えていて。
向かい合うままに軽く息を吸い、そして……
「私、白鳥のこと……す…………」
……ドンッ……と。
なにかを言おうとした彼女の言葉は、その瞬間打ち上がった花火の大きな音に、かき消されていった。




