第27話 どうやらデート中に見えてるみたいだよ?
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「驚いたよ。まさか会えるなんて」
「……そう、ね」
俺たちは、屋台で金魚をすくっている築野さんを見つけた。
彼女の金魚すくいさばきは素晴らしいもので、すでにたくさんの金魚をすくっていた。
あのままでは、すべて金魚をすくえる……そう思えるほどだ。
……けど、そうはならなかった。
「お兄ちゃんだ! 海で会ったお姉ちゃんもいる!」
「どうもー、詩乃お姉ちゃんだよー」
「お、おしさしぶり、ですっ……」
嬉しそうにしている宇宙くんと楓ちゃん。
一緒に来ていたのか。
「久しぶり。でも楓ちゃん、おしさしぶりじゃなくて、おひさしぶり、だよ」
「お……しさ……?」
膝を折り、目線を合わせる。
少し難しい言葉だったのか、困惑している。なにこの生き物かわいい。持って帰りたい。
「浴衣似合ってるね、かわいいよ」
「ふぁ、あ、ありがと、ございまふ……」
「お兄ちゃん、俺はー!?」
「かっこいいよ」
楓ちゃんは白い浴衣を、宇宙くんは黒い浴衣を着ていた。まるでお人形さんみたいだ。
ただ、築野さんは……浴衣は、着ていない。
「ごめんねー、家族水入らずを邪魔しちゃって」
「いえ、とんでもないです」
邪魔したのは、それだけではない。
俺が声をかけたせいで、築野さんの気が散って金魚すくいは失敗した。申し訳ない。
「ごめん、俺のせいで金魚を……」
「ううん、勝手に驚いたのは私だから、気にしないで! それに、少し貰って後は返すつもりだったし」
彼女の持つ水の入った袋の中には、三匹の金魚が泳いでいる。
あれ全部持って帰るのは大変だろうしな、どちらにとっても。
実際に返してもらった時の、屋台のおじさんのほっとした表情は、結構面白かった。
「ねーねー、お兄ちゃん」
ズボンを軽く引っ張る宇宙くんが、俺を呼んだ。なんの用だろう。
目線を合わせるように屈む。
「どうかした?」
「お兄ちゃんと、しのお姉ちゃんは、二人で夏祭り回ってるの?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、デートしてんだ!」
「……」
思いもよらないが、純粋な子供の言葉だ。変な意図なんてあるはずもない。
つまり……宇宙くんには純粋に、デートに見えたわけだ。
「そ、宇宙! なんてこと聞いてるの!
ご、ごめんね変なこと。あは、あははは」
驚いた築野さんが謝罪してくるが、気にすることないのに。
俺的には……嬉しいわけだし?
だが……詩乃さんは、どう思ってる?
「デート、か。
……そう見えるんだ」
少し考え込む詩乃さんは、にやりと笑っていた。
それは、最近見る機会の増えた笑顔……いたずらを考えついた、子供のような。
その表情は、言葉は……どういう意味なのだろうか。
「ふふっ、どうやらデート中に見えてるみたいだよ? ね、甲斐くんはどう思う?」
どこか嬉しそうに、語りかけてくる。しかも俺に。
少し照れてはいるが……嫌そうには見えない。
詩乃さんも、デートだって思ってくれてるのかな。
嬉しいと思ってくれてるって、思っていいのかな。
「俺は……」
「っ……お、お姉さんは居ないの?」
自分でも、なにを言おうとしたのか。それより先に、築野さんの言葉が割って入る。
……そういえば、だ。
「本当はそのはずだったんだけど……ドタキャンされちゃって」
「そうなんだ……」
彼女の誘いを、姉ちゃんたちと約束してるからと断った。
でもこの場に姉ちゃんはいないわけで。嘘をついたと思われても、おかしくはない。
そんなつもりはなくても、結果的に嘘をつく形になってしまった。
「ご、ごめんねっ、邪魔しちゃってさ」
俺が謝るより先に、口早に言葉が駆けた。
築野さんは、表情は見せず背を向けて……弟妹の手を取る。
「じゃあ私たち、行くから……」
「築野さ……」
きゅ。
「ん?」
歩き出そうとする築野さん。だけど、その足はすぐに止まった。
同時に、俺のズボンが引っ張られる感覚があり……
「楓ちゃん?」
その手は、先ほどと同じく宇宙くん……ではなかった。離そうとしない彼女は、じっとしていて。
「楓?」
「……わたし、まだ……おにいちゃんと、いっしょにいたい……」
……たどたどしくも、しっかりと口にしたその言葉は。
周囲が騒がしくても、俺の耳にはちゃんと届いた。おそらく、築野さんにも。
「私は大歓迎だよ?」
そして、詩乃さんにも。手を伸ばし、その小さな頭を撫でた。
俺も、断る理由なんてない。
「せっかく会えたんだし、一緒に回らない? 元々誘ってくれたのは嬉しかったんだから」
「あ……わた、しは……」
「回るー!」
どうやら、宇宙くんも賛成しているようだな。
築野さんは、少しバツが悪そうに視線を外していた。
だけど、チラチラとこちらを見て……
「……私も、回りたい……」
「じゃ、決まりだね」
全員一致で決定した。
詩乃さんと二人きりでなくなったのは、正直残念ではあるけど……お祭りだし、大勢のほうが楽しいに決まってる。
「あ、あの……て、手……」
「んー? はい、どうぞ」
楓ちゃんは、ぐっと手を伸ばしてくる。瞳は、少し揺れているように見えた。
彼女が求めているものがわかり、小さくて柔らかい手を握った。
「えへへへ」
「じゃ、行こう。お姉さんがなんでもおごっちゃうぞー」
「わーい!」
「そ、そんなっ。自分たちのはちゃんと払いますから」
気前のいい詩乃さんは、さっきから上機嫌だ。どうにも、子供が好きなのだ。
海の時も、二人とよく遊んでいたし。はしゃぐ姿は、とても新鮮だった。
「あ、りんご飴!」
宇宙くんが元気に叫ぶ。
詩乃さんと手を繋いでいる彼は屋台を指して、はしゃいでいる。
……つい先ほどの出来事を思い出してしまうな。
詩乃さんにあーんしてもらい、間接キスまでやった光景を。
「よし、買ってあげよう!」
「やったー!」
「ちょっと宇宙!」
「いいのー。二人もお食べよ」
俺たちがりんご飴を買ったのとは別の屋台。
はしゃぐ小さな男の子の姿を、詩乃さんは楽しそうに見つめている。その頭には、買ったお面がつけられている。
あれよあれよと、屋台へと……そして三人分を買う。
「わぁい、りんご飴ー!」
「こら宇宙、ちゃんとお礼言いなさい!」
「ありがとー、しのお姉ちゃん!」
「ありがとー」
「あ、ありがとうございます私まで……」
「いいって。せっかくのお祭り、楽しまないと」
小さな二人はお礼もそこそこに、りんご飴に夢中だ。
築野さんも、りんご飴を舐め始める。甘くておいしいからか、頬を緩ませていた。
「ねー、ふたりは食べないの?」
「さっき食べちゃったんだ。ねー?」
「え……は、はい」
……なぜ詩乃さんは、意味深な視線を向ける? やっぱり俺のこと、からかってないか?
意識しすぎなのか? その微笑が、いやに妖艶に見える。
「ねえ、甲斐くん」
と……詩乃さんが、耳元で語りかける。
顔が近い、いいにおいがする、吐息がくすぐったい……そんな気持ちを知ってか知らずか……
「……本当は、二人きりの方がよかったりした?」
「へ……」
彼女の言葉は……いちいち俺を、動揺させる。
髪を耳にかき上げながら笑う姿に、もう頭はパンク寸前だった。




