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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第四章 夏祭りと、秘めたる想い

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第25話 ごめんね、私全然、そういうつもりなくて



「あーんっ」


 俺の複雑な気持ちを知るはずもない詩乃さんは、りんご飴を一口かじった。

 しかも……俺がかじったのと同じ部分を。


「……!」


 顔が熱くなるのを感じる。だって、それは間違いなく……間接キスじゃん。

 高校生にもなって、間接キスでドキドキするなんて……と、言われるかもしれないが。


 憧れの人と、こんな不意打ちでなど、動揺するなというほうが無理だ。


「んー、あまーい」


 ……どういうつもりだ? そこは俺が食べた部分だと、わかっているはずだ。

 詩乃さんと俺と、かじった跡が二箇所あった。もしかして、間違えたのか?


 いや、それは無理があるような……


「ん? さっきからじっと見てどうしたの?」


 指摘され、動揺してしまう。見ていたのは事実だが、詩乃さんではなくりんご飴だ。

 しかし、詩乃さんが自分の唇を……りんご飴の影響で若干赤くなった桃色の唇を舐めるもんだから……意識は唇へ。


 その仕草さえ、ドキドキしてしまう。


「まだ足りなかったかな?」


「え……」


「しょうがないなぁ……なーんて。はい、あーん」


 そう言いながらも、もったいぶる様子はない。りんご飴を再び俺の口元へと差し出し、にこりと笑っている。

 ……祭りの明かりに照らされるその微笑は、妖艶に見えた。


 もしかして、俺はからかわれているのか? 間接キスに動揺している俺を、内心楽しんでいるのか?

 そういう人ではない……と思いたいが、初対面の築野さん相手に姉を自称する人だしな。


「……じゃあ、いただきます」


 ガキだと、からかわれている? 間接キスに動揺してるなんておかわいいこと……と思われている?

 ええい、やってやる! 俺はガキじゃない!


 間接キスが意図的かどうかなんて、関係ない。

 今度は、俺の番だ。


「あー……んっ」


 だから俺は、俺の意思で、詩乃さんのかじりかけ部分を……ぱくりと、食べた。


 味は変わらないはずなのに、さっきよりも甘く思えた。

 どうだ詩乃さん。俺だってこれくらい、平気なんだ……


「あ、おじさん。これください」


「!?」


 しかし当の詩乃さんは、別の屋台でお面を買っていた。どんな表情をしているか見たかったのに。

 会計を済ませ、ようやく振り向いたと思えば……


「なんで……?」


 買ったばかりの、デフォルメされたエイリアンお面を顔につけている。そのため、表情を見ることはできなかった。


 せっかくのりんご飴が食べられないのではないか。そもそも、なぜこのタイミングで?


「な、なんでもない。……行こっか」


 歩き出す詩乃さんの耳が、目に入った。その耳が、赤く染まっていることに気づいた。


 祭りの明かりがそう見せているのか? いや、違う……


「まさか……」


 間接キスを今更、意識してしまった……そうだとしたら……?

 可能性を感じるだけで、胸の奥が熱くなる。


「あ、待ってください!」


 その背中を追いかけ……手を伸ばす。が、思った以上に大胆に、彼女の手を取ってしまった。

 離れていた手は、再び繋がる。今度は、事故ではない……俺の意思で。


「!」


「……ま、また転びそうになったら、いけませんから……」


「そっ……そう、だね」


 柔らかくて、小さくて……少し熱い。これは俺の手が熱くなっているのか、それとも……?


 ちらりと、横顔を見つめる。お面のせいで、相変わらず表情は見えない。

 けれど……その耳が、先ほどよりもさらに赤くなっているような。


 あぁー、詩乃さんとのデート楽しすぎる!

 でも、詩乃さんはどう思ってるんだろう……



 〜〜〜


『え……あ、デートのつもりだったんだ。変な期待させちゃったね。ごめんね、私全然、そういうつもりなくて。というか、甲斐くんのことは弟としか思ってないから……あーでも、姉弟で出掛けるのもデートではあるし、そういう意味なんだよねきっと。私の方が勘違いしちゃったのかなあははは』


 〜〜〜



 ……こんなことを言われたら。俺は耐えられない。

 確認するのが怖い。だから……俺が勝手にデートと思う分には……許して欲しい。


 好きな人と、夏祭り巡り。これをデートとせずしてなんとする!


「あ、あそこの金魚すくい、人多いよ」


 表情が見えないのが難点だが、はしゃいでいるのは声のトーンでわかる。かわいいなぁ。


 うん、いろんな屋台を見て回ろう!


「並んでる……いや、違う」


 人が多いが、それは行列ではなく……誰かが金魚すくいに挑戦し、周りに野次馬が集まっている、ってところか。

 こんなに集まってるってことは、中心にいる人はよほどうまいのだろう。


「女の人だ」


 なかなか近づけないな。後ろからだとよく見えないが、詩乃さんが言うには女の子。

 さらに、両脇には小さな子供がはしゃいでいるのが見えた。


「お、お嬢ちゃん、やるねぇ……けどもうそろそろ、いいんじゃないかな?」


 このままでは、金魚を取り尽くされてしまう……屋台のおじさんの、そんな悲痛な声が聞こえるほど、辺りは静かだ。

 これだけ人が居るのに、それだけギャラリーは静かに集中している。


 いや、彼女の集中を切らさないよう見守っている。

 しかし……


「姉ちゃん! もっと取っちゃえ! 取っちゃえ!」


 集中なんて何知らぬ顔。傍らの弟が、おじさんにとって絶望的な言葉を叫んでいた。

 さらに……


「おねえちゃん、ふぁいとー!」


 姉を応援する声に、おじさんの顔が青くなっていく。


 弟妹の声援を受け、女の子は張り切るかのように腕まくりをした……仕草をした。ノースリーブだからだ。

 浴衣を着ている弟妹とは違い、普段着っぽい。


「よぉし、お姉ちゃんもっと取っちゃうぞー」


 そして張り切る女の子が、声援に応えるのだが……


 気のせいか、聞き覚えがある声だ。いや、よく見れば、その後ろ姿にも。

 加えて、弟妹の顔が見える。それが確信となり、つい言葉を漏らしてしまった。


「……築野さん?」


「……!」


 ギャラリーが静かとはいえ、彼女の周りは騒がしい。

 ポツリと呟く程度の声。この人混みの中、聞こえるはずがないと思っていた。けれど、彼女の肩はぴくりと震え……ゆっくりと、振り向いた。


 ……その顔は間違いなく、俺の知った人物……築野 浪さんだった。

 ってことは、あの子供は宇宙(そら)くんと楓ちゃんか。


 目が合い、しばらく沈黙。……その顔は徐々に、赤く染まっていく。


「し、しし……白鳥……!?」


 その瞬間、集中力が切れてしまい……そのせいだろう。


「あー!」


 宇宙くんが、残念そうな声を漏らした。

 金魚すくいのポイが……穴が空き、だめになってしまったのだ。


 あれ、これ俺のせい?

ここまで読んでくれて、ありがとうございます!

ぜひ応援などくださると、とても嬉しいです!

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