第24話 これ、一緒に食べよう
差し出されたりんご飴を、受け取る。
「ん-、甘くておいしー!」
笑いながらりんご飴を食べている詩乃さんは、俺とカップルに見られることは嫌ではない……
それがわかっただけで、夏祭りに来てよかったと思ってしまうほど、我ながらちょろい。
ふと、視線を感じた。
「……本当だ、甘い」
「でしょー?」
促されるように一口かじると、詩乃さんは自分のことのように笑った。
……記憶の片隅にある思い出。小さい頃、一緒に夏祭りに行った時。
同じようにりんご飴を奢ってもらったな……懐かしい。けれど、あの時は姉ちゃんがいた。
でも今は……二人きりだ。
「どれもおいしそうだねぇ」
りんご飴片手に、並んで歩く。
食べ歩きなど行儀が悪いが、お祭りの醍醐味の一つだし、今日ばかりは無礼講だ。
いろんな香りが漂ってくるが、気を取られて人にぶつかったりしないように……
「わっ」
気を張ったのと、ほぼ同時だ。隣から小さな声が漏れた。
反射的に、隣を……詩乃さんを見た。……いや、実はチラチラ詩乃さんを見ていた。だからこそいち早く気付くことが出来た……と言い訳したい。
バランスを崩し、前方に揺らいだ詩乃さんは、そのまま倒れていくのだ。
「あっ……!」
俺は……咄嗟に手を伸ばしていた。
考えるより先に身体が動いた……とは、このことだろう。
……彼女の手を、しっかりと握り締める。
「っ、ぁ……か、甲斐くん……」
「っと。大丈夫ですか……?」
手を掴み踏ん張ったことで、倒れるのを阻止する。
そのまま体勢を引き起こす。
「あ、ありがとう。誰かにぶつかっちゃったみたいで」
「そうでしたか……気を付けないと」
詩乃さんに怪我がないことに安堵しつつ、振り返る。ぶつかってそのまま行ってしまった人を捜そうとしたが……
だめだ、この人混みじゃ見つけられない。
……仕方ない。今は無事を喜ぶか。
「あっ」
冷静になったことで、手を握ったままだったことに気付く。
わぁ、柔らかい……それに、手ぇ小さい。昔は俺より大きかったのに、今は小さいんだ……
多分、詩乃さんの手が小さくなったんじゃなく、俺が大きくなったから……
じゃなくて!
「す、すみません! 今離します……」
咄嗟のこととはいえ、手を握ってしまうとは。もちろん、嫌ではないが……
問題は、詩乃さんにどう思われるかだ。もし嫌だと思われていたら、耐えられない。
急いで手を離そうとしたが……ぎゅ、と握られた。
それは、詩乃さんからのもので。
「え……」
「……また、転びそうになったら大変だから……手、握ってよ?」
間違いなく、詩乃さんの意思がそこにあった。
……俺とデートと思われても、手を繋いでいても、嫌ではない。そう思ってくれているのか。
彼女の顔が、恥ずかしそうに見えるのは……気のせいだろうか。
「そ、そうですね! はぐれちゃうかも、しれませんし……」
「……うん」
うわぁ、どうしよう! めちゃくちゃ意識しちゃってるよ俺!
だって、仕方ないじゃん! めっちゃ柔らかいんだもん! このまま、にぎにぎしてしまいたい!
それはさすがにキモいか!
「でも本当にありがとうね。おかげでほら、無事だよ!」
手を繋いでいるのとは逆の手に握り締めたりんご飴を、自慢げに見せつける。
驚いた拍子にあるいは、と思っていたが、よかった。
ただ……
「……あれ? 甲斐くんの……落としちゃってる?」
「あー……」
詩乃さんは、俺の手が空であることに気付き……視線を地面へと移動させた。
その先には、落ちてしまったりんご飴があった。
それを見て、ショックを受けた様子だ。
気づいたのだろう……詩乃さんを助けるため手を伸ばした際、りんご飴を落としたのだと。
「ごめん、私のせいで……」
「そ、そんなわけないです!」
どうしよう……詩乃さんに責任なんてないのに。
りんご飴にそこまで未練はないが、奢ってくれた詩乃さんに対してこちらが申し訳ないくらいだ。
どうしたもんかと悩んでいると、目の前にかじりかけのりんご飴が差し出される。
「……これ、一緒に食べよう」
……なんですって?
好きな人の……食べかけ!?
いいのか、これ! 許されるのか、これ!
「……ぁ。ごめんね! な、なにやってんだろ私……食べかけなんて、気持ち悪いよね!」
しかし、押し黙ってしまった俺が考えていることと、詩乃さんは別のことを考えてしまったらしい。
慌てるその姿に、俺もまた慌てて首を振る。
「そ、そんなんじゃないです! 違いますって!」
憧れの女性の、食べかけ。思春期真っ盛りの男子高校生にとっては、とんでもない価値がある。
……傍目からは気持ち悪いと思われるかもしれない。でも、仕方ないじゃん。
「単に、驚いただけです。嫌とかじゃ、ないですし」
「そ、そっか」
俺はもちろん構わないし、食べるか聞いてきたってことは……詩乃さん的にも、問題ないと思っているってことだよな?
好ましくなっていない相手に、食べかけを差し出さないはずだ。多分。
「じゃあ……い、いただきます」
「は、はい」
ともかく、このままではまた変な誤解をさせてしまう。
なので一言告げて、りんご飴に顔を近づけていく。
丸々としたりんご飴、その中に明らかにかじったあとがある。
そこに口をつければ、詩乃さんと間接キスをする……ということになるのだろうか。
「……あー、ん……」
だけど、そこまでする勇気はなくて。
結局、詩乃さんがかじったところとは別の箇所を、かじった。
くぅう、俺のへたれ!
「ど、どうかな」
「……甘い、です」
正直、よくわからない。さっき自分で食べていたものは甘かったし、それと変わらないはずだ。
しかし、状況的には『あーん』されていると言ってもいい。味を噛み締める余裕なんてなかった。
それでも、なんとか言葉を絞り出した。




