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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第四章 夏祭りと、秘めたる想い

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第23話 カップルだって、言われちゃった



 それは、数日後のある日のこと。いきなり姉ちゃんがこう提案した。

 ……『夏祭りに行こう』と。


 その提案を断る理由はない。俺と姉ちゃんだけ、という意味だったなら迷っただろうが、その場に詩乃さんも加わるのだ。即決だ。


「楽しみすぎて、早く来すぎたな」


 結果、夏祭り当日である今日……そわそわして仕方なかった。バイトが終わり、急いで待ち合わせ場所までやって来た。

 と言っても、一度部屋に戻りシャワーを浴びるなどの身支度はきちんとしたが。


 ちなみに、一緒に行くのではなく待ち合わせにしたのは、姉ちゃんの提案だ。



『せっかくのお祭りなんだし、待ち合わせしよーぜ』



 とのことだ。

 待ち合わせという事実が、なんだかデート感を出している。詩乃さんとの夏祭りデート、ドキドキする。


 あ、姉ちゃんは関係ないです。


「賑やかだ」


 柔らかな喧騒が、周囲を明るくしていた。あちこちに屋台が並び、みんな楽しんでいる。


 そして……


「お待たせ、甲斐くん。早いねぇ」


 手を振りながら、目の前までやって来るのは詩乃さんだ。

 軽く息を漏らし、耳にかかった髪をかきあげた。その仕草に、思わず目が行く。


 いや、目が行くのは仕草だけではない。


「詩乃さんだって時間より早いですよ」


「待たせちゃいけないと思ったんだけど、待たせちゃった」


 乱れた髪を直す詩乃さんは、浴衣を着用している。「一緒に浴衣を着よう」と姉ちゃんが話していたが……有言実行してくれている。

 そわそわしていた理由の一つが、これだ。楽しみすぎて。


 黒を基調とし、所々水玉がちりばめられている。純白の水着だった海とは、真逆の色だ。

 腰には白い帯を巻き、浴衣をいっそう際立たせているように感じた。

 靴ではなく、下駄を履いている。雰囲気に合っているし、新鮮だ。


 それに、普段は肩まで伸ばして結んでいる茶髪を、アップにしている。か、かわいい……


「甲斐くん?」


「……し、詩乃さん!

 ……ゆ、浴衣、とても、似合ってますしゅ!」


 い、言えたぁあ……! でも大切なところで噛んだぁあああ!

 いつもと違った姿に見惚れていたせいか、テンパってる。


 呆れられてないだろうか?


「ふふ、ありがとう」


 ……前髪を指先で弄りながら、照れたように俺の言葉を受け止めてくれていた。

 胸が、高鳴る。


「……あれ? そういえば、姉ちゃんは?」


 この場にもう一人、いるはずの人間がいない。

 こんな状況、我先にからかってくるはずなのに。


 詩乃さんの浴衣は、元々姉ちゃんが持っていたもの。一緒に着付けていたはずだ。


「あ……それなんだけどね」


 すると、なぜか困ったような表情を浮かべていた。

 ……まさかという気持ちが、湧いてくる。


「なんか彼氏と、一緒に行くことになったみたいで……」


 姉ちゃんのやつ……三人でと誘っておいて、ドタキャンしやがった!?

 やってくれたな……! まさか、気を利かせたつもりか!?


 全然利かせてないよ!


「こ、困っちゃったねぇ、あははは……」


 確かに、『浴衣姿の詩乃さんと二人きりの夏祭りデート』は密かに望んでいて、実現したわけだが。


「「……」」


 き、気まずい!

 最初から二人だと思っているのと、三人のつもりが二人になりました、では覚悟がまったく違う!


「と、とりあえず、行こっか?」


「は、はいっ、そうですね」


 ともあれ、こんなことで時間をつぶすわけにはいかない。……どうやら同じことを考えていたらしいが。

 しかし、俺から言い出すべきだった。年上の詩乃さんを、リードしたい。そんな気持ちがあるのだから。


「やっぱり人多いねぇ」


 会場に足を踏み入れると、いっそうの人で賑わっている。

 友達同士で、親子で、夫婦で……あるいは、カップルで。


 それぞれ夏祭りを満喫している。


「こんなに人がいるとは……」


「同じ会場なら、楓ちゃんとも会えるかもと思ってたけど……難しいかな」


「デートしてるんなら、邪魔しない方がいいですよ」


 そもそも俺がこんなにやきもきしているのは、ドタキャンした姉ちゃんのせいだ。

 しかも、事前に連絡を入れてくれればいいものを……わざわざ詩乃さんにだけ伝えるなんて。


 姉ちゃんへの愚痴も、仕方ないと言える。


「そ、そうだね。……で、デート、だもんね」


 だが、詩乃さんはどうやら『デート』という単語に反応してしまったらしい。

 そう、今の俺たちの状況に当てはまることを……意識させてしまった。


 ……俺と二人きりの夏祭りを、どう思っているんだろう。

 デートみたいだとか、思ってくれてたり……?


「あ、あれ見て甲斐くん!」


 しかし、俺の気持ちを知ってか知らずか、詩乃さんは駆け出してしまう。

 こんな人混みで、その恰好で動き回るのは危ない。急いで、追いかける。


 屋台には、りんご飴が売ってある。それを、物欲しそうな目で見ているのだ。


「まるで、子供みたいだ」


「甲斐くん?」


 あ、ヤバい声に出てたのか。

 詩乃さんは不服そうな表情を浮かべつつ、軽くため息を漏らした。


「まったく。

 おじさん、りんご飴二つ」


「あいよ!」


「え、俺のも?」


「ここは私が奢ったげる。それとも、りんご飴嫌いだった?」


「そうではないですけど」


 ……ここは俺が奢る、と言えればかっこいいのだろうが、その間もなくあれよあれよと奢られてしまった。

 そりゃあ、俺たちの間には使える金額の差がありすぎるとはいえ……情けない。


 せめて次こそは、俺が奢るぞ!


「お、姉ちゃんたちカップルかい? いいねぇ、若いってのは」


 声の主は、屋台のおっちゃんだ。

 ……他の人から見たら、そう見えているのだろうか。男女二人で、夏祭りだもんな。


 ……姉弟に見られないのは、俺が大人びているように見えるのか詩乃さんが子供っぽく見られているのか。詩乃さんの名誉のため、前者だと思っておこう。


「あ、私たちは……」


「ほい、りんご飴二つね」


 詩乃さんがなにやら言うよりも先に、りんご飴を手渡される。

 ……否定しようとしたのかな。


 りんご飴をそれぞれ手に、戻ってきた詩乃さんは……気のせいか、頬が赤かった。

 屋台の明かりでそう見えるのか? それとも……


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


 持っていたりんご飴を、渡してくれる。俺は受け取ろうと、手を伸ばして……


「え、へへ……カップルだって、言われちゃった。そう見えてるのかな」


 詩乃さんは照れたように、そう言うのだ。


「!」


 俺の手は一瞬止まってしまう。……平静を装いすぐに、手を動かす。


 それは、カップルだと言われて嫌だと思っている……そんな風には、見えない。

 その言葉に、はにかむような笑顔に、心臓はドクンと高鳴った。

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