第19話 人のために、一生懸命になれて……
海の家で、お昼ご飯を食べることに。
海の家と言えば、焼きそば! ……そんなイメージを持っていたのは、どうやら俺だけではないらしい。
お店で食べるのもいいが、一人は荷物を見てないといけないのだ。なら商品を持ち帰り、みんなで食べた方がいい。
そう思って、メンバーをじゃんけんで決める。
その結果……
「まさか一発で決まるとは……」
「私たちじゃんけん弱いのかな」
「かもしれませんね」
俺と詩乃さん、そして築野さんが買い出しに行くことに。
しかも、六人でじゃんけんをしたというのに……一発で決まってしまった。
きれいに三対三で。
「でも、お姉さんに二人のお世話任せちゃって大丈夫かな」
「姉ちゃんはあれで面倒見がいいから、問題ないよ」
築野さんが不安であるなら、築野さん姉弟はお留守番……ということも考えたが。
信頼してくれているのか、心配している様子はない。
逆に俺が二人の相手をできるかは不安なので、お留守番でなくてよかったが。
「不安と言えば、あの純粋な二人が姉ちゃんに悪影響を受けないかどうか」
「はは。でも、楽しそうなお姉さんじゃない。私は弟妹はいるけど、お兄ちゃんやお姉ちゃんはいないから、ちょっと憧れるな」
本当にいい子だな、この人。あんな姉でも、楽しそうだと言ってくれるとは。
まあ詩乃さんに会わせてくれたって点では、姉ちゃんに感謝してるけど。
……初恋を現在まで拗らせてるって、我ながら女々しい気がするけどな。
告白しようにも、弟としてしか見られていないのはわかってるから、踏み切れない。この関係を壊したくはない。
「それにしても、みんな焼きそばとは」
「せっかくだから、海を味わいたいのかもね」
このままだと沼にハマりそうなので、話題を変える。
今回、みんな焼きそばを頼んだのだ。
ちなみに、詩乃さんと姉ちゃんは、焼きそばの他にビールも頼むつもりだ。
海ビールを楽しみにしていた二人にしてみれば、それは当然の選択なのだろうが。
「お酒飲んで、大丈夫なんですか?」
「ちょっとだから大丈夫だよ。それに、飲んだ後は泳がないようにするから」
不安げな築野さんに応える詩乃さんの言葉が、こんなに信用できないとは。
まあ家とは違い、ストックがあるわけじゃない。買った分しか飲まないのだから、飲みすぎることもない。
……しかし、この二人に挟まれる形で歩くことになるとは。
詩乃さんは言うまでもないが、築野さんもかわいいもんな……これが両手に花ってやつか。
「ねえねえ築野ちゃん、甲斐くんって学校ではどんな感じ?」
「浪でいいですよ。学校での白鳥ですか……」
俺が居るのに、俺の話を始めた。しかも俺を挟んで。
普段から学校での話はしているが、俺以外からの話を聞きたいってことか。
築野さんは変なことを言わないだろうか。
「自分から目立つタイプではないですね。けど、存在感がないわけでもないです」
「それはやかましい空光が絡んでくるから、自動的に俺も注目を浴びてしまうだけなのでは?」
俺は平和に過ごしたいのだが、ちょくちょくうるさい奴が絡んでくる。そのせいで、変に目立ってしまうことはある。
まあ、それが悪いこととは言わないけど。
空光のおかげでほどほどに騒がしい学生生活を送れているが、楽しい面もあるもんな。
「他には?」
「うーん……頭は平均、運動神経も飛び抜けているわけではないし……顔もそこそこ……」
めちゃくちゃ正直に話すじゃん……いや、それは正論なんだけどさ。
ただ、詩乃さんに話すにはかっこ悪い内容だよな……
「あとは……」
「あの、もうそれくらいに……」
これ以上、恥を晒せない。そう思い、もうやめるように進言しようとしたが……
それよりも、築野さんが口を開くほうが早い。
「人のために、一生懸命になれて……すっごく優しい。そんな男の子です」
……そう話す築野さんの頬は、少し赤らんでいて。
どこか楽しそうに話す姿が、なんだかとても印象的で。
そんな俺の視線に気づいたのか、彼女ははっとして。
「あっ、その……だから、これといっていいところはないけど、褒めるところはありますよ、ということで……」
「辛辣……」
どんな人間にも褒めるところはある、と言いたいのか。
考えてみれば、一生懸命な人や優しい人なんて、いくらでもいるもんな。ちょっとドキッとしちゃった。
慌てる築野さんとは対称的に、詩乃さんはさっきから静かだ。
「……それは私も、知ってる」
なにやら、複雑そうな顔をして、なにかを呟いていた。
この距離にいても聞こえないほどに、小さな声で。
ただ、なにを言ったのか聞くのは、野暮な気がした。
「あ、もう着きますよ」
結局、築野さんも詩乃さんも変な感じになってしまっている。
え、これもしかして俺のせい? んなまさか。
タイミングよく海の家に着くので、二人に声をかける。
「! あ、ホントだ」
今気づいたかのように、築野さんが声を漏らす。詩乃さんも同様だ。
二人がなにを考えていたのかはわからないが……とりあえず、ここに来た目的を果たすとしよう。
人数分の焼きそばと、飲み物。それらを注文して、俺たちは来た道を戻る。
帰り道は、来るときと違ってどこか気まずい雰囲気が流れていた。




