第18話 水着選んでる時ね、こんなこと思ったんだ
その後、椎名さんとは別れた。
一緒に遊ばないか、と築野さんは誘ったが、断られた。向こうには向こうの用事があるのだ。
大学のサークル仲間と一緒に来ているらしい。
一人だけならともかく、知らない大学生複数と混ざって海を楽しむ勇気は、俺にはない。
「じゃあねーお姉ちゃん!」
「うん、ばいばい」
わりと人懐っこい宇宙くんが、ぶんぶんと手を振る。
手を振り返しながら去っていく椎名さんを見て、俺は思った。彼女のスクール水着姿、他の人はどう思ってるんだろうな……と。
「さっきの子、お知り合い?」
「築野さんに関しては、そうですね。俺に関しては、これから知り合うことになってた相手ですね」
「?」
ずっと楓ちゃんの相手をしていた詩乃さんは、椎名さんと話すことはなかった。
その手はしっかりと楓ちゃんと繋がれている。微笑ましい姿だが……
……羨ましい。
「甲斐くん?」
「な、なんでもないです! それより、遊びましょう!」
「うん!」
それから、みんなで遊ぶことに。詩乃さんと二人でないのは残念だったが……これはこれで、楽しいな。
それに二人きりだと、うまく遊べたかどうかわからない。主に俺が緊張して。
だって好きな相手の水着姿に平常心を保つとか、無理だものー!
「えい!」
「ぶふっ」
……めちゃくちゃ水をかけられた。
「ふふっ、あはははっ。ぼーっとしてちゃダメだよ!」
「やりましたね……」
油断してた……けど、もう容赦はしない!
どうせ遊ぶなら、全力で遊んでやる!
――――――
「ふぅ、あ、遊んだー……」
「なによ甲斐、もうへばったの? 情けないわねー」
海から上がり、荷物置き場に戻ったが……寝転がれるタイプのビーチチェアにて肌を焼いていた姉ちゃんが、ケラケラと笑う。
サングラスまでして、本格的だな……
「う、うるさいな。小さい子の体力すごいんだって」
「あんたまだ高校生でしょうが、しっかりなさいよ」
他人事だと思って……!
俺だってはじめは、あの二人が疲れた後に詩乃さんと思い切り遊ぼうと思ってたけど……
正直、舐めてた……
「築野ちゃんは、まだ元気みたいだけどー?」
「ぬぐぐ……」
さすがは小さい子たちのお姉ちゃん。全然疲れた様子を見せていない。
いつも遊んでいるから、体力もついているということかな。
俺より築野さんの方が体力があるのかもしれないのは、素直に悔しい。
「そういえば今更だけど、築野ちゃんたちはあの三人だけで来たの?」
「いや、両親は近くで仕事があるから、その合間に遊んでるんだって」
「へぇー。なら、アタシらと合流できてよかったじゃない」
確かに、築野さん一人で弟妹とずっと遊ぶのは大変だ。
いくら慣れていても、海で遊ぶのは余計疲れるだろう。
「さて、アタシも行こうかしらねー」
「もう焼かなくていいのか?
……てか、日焼け止めしたのになんで焼いてるんだよ」
「バカねー、ほどよく焼けるためには、むしろ日焼け止め塗っといたほうがいいのよ」
サングラスを俺に投げ渡し、そのまま海に走っていってしまった。
そして入れ替わるように、詩乃さんが戻ってきて……パラソルの下、ブルーシートに寝転がった。
「はあ、小さい子の体力すごいねー。もう疲れちゃったよ、情けないな」
どうやら、小さな元気塊たちに振り回されて体力を持っていかれたのは、俺だけではないらしい。
人一人分の距離を開けて、隣に座る。
……仰向けの詩乃さん、なんか直視したらまずい気がする。
「甲斐くんも疲れちゃった?」
「不覚ながら」
慣れない子供の相手、慣れない場所での遊び……それが、一気に体力を削っていったようだ。
少し落ち着いたのか、詩乃さんは起き上がり……膝を抱え、海を眺めていた。
その視線の先に居るのは、築野さんたち。それに混ざっている、姉ちゃんだろうか。
「ん、どうかした?」
「! い、いえなんでも」
じっと見つめすぎてしまった。
詩乃さんの横顔は、いつまでも見ていられる……なんて言ったら、引かれてしまう。
俺の気持ちなど知るよしもなく、膝に頬を乗せて、こてんと首を傾げた。
やめてくれその仕草! 萌え死んでしまう!
「ふふ、まさか築野ちゃんたちと会うなんてね。びっくり」
驚きと、そして楽しさが混じった笑み。くすくすと笑っている。
やっぱり、その笑顔が好きだ。そんな彼女に、まだ伝えていないことがある。
勇気を出せ、俺!
「その……水着……似合ってます」
「……へ!?」
きょとんとした顔は、俺からそんなことを言われるとは思っていなかったからだろうか。
次第に理解が追いついたのか、顔が赤くなっていくのがわかった。
「あ、ありがとう……」
照れたように、しっかりとお礼を返してくれる。かわいらしくてたまらない。
「水着選んでる時ね、こんなこと思ったんだ。……甲斐くんは、喜んでくれるかなって」
「へぇ、そうなん……!?」
……え? 今、なんて?
俺のことを思いながら……俺が喜ぶと考えながら、水着を選んでくれたって!?
動揺が止まらない。どういうつもりで、そんなこと言ったんだ……?
顔を正面に向け、膝を抱えつつ口元を埋め……耳まで赤くなっている。自分でも恥ずかしいことを言ったと、わかっているのだ。
「それは、その……ありがとう、ございます?」
この状況でお礼を言うのが正解なのか、わからないけども。
「……褒めてくれたってことは、喜んでくれた、と受け取っていいんだよね?」
「んぅ……」
なんか今日の詩乃さん、大胆じゃない? 海だからか?
そりゃ、少しは開放的になってほしいとは、思っていたけども!
ただ、ここでなにも言わないのは、逆に失礼だ。
「は、はい」
あぁ、声裏返ってないだろうか。ちゃんと返事できただろうか。
その疑念は、こっちを見て微笑む詩乃さんの表情が、物語っていた。
ドクンと、心臓が高鳴る。
「詩乃さ……」
「お兄ちゃん!」
「おわぁ!」
自分でも、なにを言おうとしたのか。それすらもわからないまま、割り込んできた声があった。
反射的に首を向けると、さっきまで遊んでいた宇宙くんがいた。
続いて、姉ちゃんたちも戻ってくる。
「そろそろお腹減ってきたみたいだしさ。昼食にしない?」
「おなかへったー」
時間を確認すると、お昼過ぎ……それもあれだけ遊んでいれば、腹も減るだろう。
体力あるとはいえ、小さい子ならなら特に。
立ち上がる詩乃さんも話し合いに混ざるが、俺はと言うと……胸のドキドキが、止まらない。
あのまま横入がなければ、俺は……?
「甲斐、どうかしたのあんた」
「! な、なんでもない!」
とにかく、今はお昼ご飯だ! うん、さっきのは一旦忘れよう!




