第17話 スクール水着だって立派な水着だぞ
築野さんとその妹楓ちゃんに引っ張られ、海へ。足が水に浸かり、冷たさを感じる。
すでに海に潜り遊んでいた詩乃さんと宇宙くんは、実に楽しそうだ。こうなりゃ、俺たちもうんと楽しむか!
泳いだり、水をかけあったり、のんびりと浮かんでみたり……思いつく限りの遊びをしていく。
「それにしても、楓ちゃんはわりと泳げるんだね」
驚いたのが、楓ちゃんだ。浮き輪必須の兄に対し、まだ小さいのに結構泳げているのだ。
もちろん、楓ちゃんの年にしては、だけど……それにしたってすごい。ビート板や浮き輪なしなのだから。
宇宙くんは少し不服そうだった。兄の威厳……ってやつかな。
だが、ムキになっても仕方ない。こればかりは慣れだからな。
「お姉ちゃん、泳ぎ方教えて!」
「ふふ、いいよー」
宇宙くんはすっかり詩乃さんに懐いたみたいだな。
俺も泳ぎ方を教えてもらいたいよ……教えてもらわなきゃいけないほど、下手なわけでもないけど。
詩乃さんとの、きゃっきゃうふふをイメージしていたが……
「はい、足をバタバタして。力は入れなくていいからね」
……小さい子に指導している詩乃さん。これはこれで良き……!
俺も手を引っ張ってもらって、バタ足指導を受けながら……いや、絵面的にさすがに恥ずかしずぎるわ。
とはいえ、海はまだ始まったばかり。今は小さい子たちの相手でいっぱいだが、後でしっかり詩乃さんとも遊ぼう。
「おや、もしかして築野ちゃんじゃない?」
「え?」
俺たちは俺たちで遊んでいたところ、築野さんを呼ぶ声があった。
首を動かすと、そこにはおかっぱ頭の女の子が立っていた。当然水着を着用している、それはいい。
……のだが……
「え、椎名ちゃん?」
「やっぱりー。偶然だね」
……築野さんは驚いていたが、すぐに笑顔になった。やはり知り合いか。
二人はお互い近寄り、そのままハイタッチをする。
お友達……だろうか。見たことはないが、築野さんは交友関係広いからな。
見た感じ、同い年かな?
「んー? ほほぉ……築野ちゃん、やるねぇ」
「な、なにが……!?」
なんだろう、俺に対する視線を感じる。初対面のはずだが。
それも、やたらと楽しそうに。そんなにジロジロ見られると恥ずかしい。
それから楓ちゃんにも目をやり、笑みを深めた。
「夫婦ごっこ?」
「違います!」
……なんかとんでもない言葉が聞こえた気がするんだけど。
「いやでも、そう見えるって。子連れの夫婦ってね」
「え、そ、そんな……夫婦なんて……」
「いや、俺たちまだそんな老けてないと思いますよ?」
俺はともかく、築野さんに失礼だろう。もちろん、本気で言っているわけではないだろうが。
ここはやんわりとフォローしておこう。
……なぜだ、二人からの視線が冷たくなったように感じた。俺変なこと言ったか?
「ところで築野さん、この人はどちら様?」
「! そっか、白鳥はまだ会ったことなかったんだね
」
はっとしたように、手を叩く。
会ったことがない、とは?
「こちら、バイト先の先輩……椎名 太郎さんだよ」
「どもー」
そのまま手で示し、紹介してくれる。なるほど、バイト先の人か……確かに、会ったことはない。
同じバイト先なら、いずれは会うことになるだろうが……
それよりも……太郎?
「キミが例の新人くんか、よろ。
名前のこと弄ったら沈める」
なにも言ってないのに、睨まれた。怖いっ!
「ええと、白鳥 甲斐です。
……お友達? 学校じゃ見たことないけど」
「それはそうだよ、学校が違うから」
なるほどね、クラスではなく学校が違うから、見たこともない……と。
てことは、バイト先で仲良くなったんだろう。
「海に来たら、まさか築野ちゃんが男連れて遊んでるなんて。驚いたわ」
「言い方! 私としては、海にスクール水着で来てることが驚きだけど!?」
珍しい築野さんの姿……だが、無理もない。
なぜなら椎名さんが着ているのは、スクール水着なのだ。
いや、海にスクール水着はダメって決まりはないけど……さすがに他に、同じ人は居ない。ある意味目立つ。
「なんだ後輩、体型が幼いとでも言いたいのか」
椎名さんは、じろりと俺を見る。またなにも言ってないのに……考えていたことが、バレてしまったのか?
そこまで考えていたわけではないが……高校生で海にスクール水着というのは、予想していなかったというか……
「そうは言わないけど、大学生なんだからもう少しちゃんとした水着をさぁ。ねぇ白鳥?」
「そうそう、大学生なんですか……ら?」
ありがたく築野さんのフォローに乗っかろうとしたが、無視できない言葉が聞こえた。
今……大学生って言った?
「だい、がく……?」
「そうなの。椎名ちゃん、こう見えても大学生なんだよね」
「こう見えてもは余計」
……驚きすぎて言葉も出ない、とはこのことだ。そして、開いた口が塞がらない、とも。
そんな俺を、築野さんは苦笑いして見ていた。
「言ったでしょ、学校が違うって」
「それそういう意味!?」
単に、通っている高校が違うって意味じゃなく……
高校と大学と区分が違うってことだったのかよ。
それにしたって、彼女が大学生に見えないのは、体型の理由だけじゃなく……
「遠慮なしに話していたから、てっきり……」
築野さん、年上は敬うタイプだし。同じ高校生……それも一年生かと。
あれは同級生に話すような態度だったから。
「私が許してるんだ。築野ちゃんとは気が合うし」
「そういうもんですか」
まあ、本人たちが納得しているならいいけど。
すると築野さんが、俺に耳打ちする。
「けど、名前に関しては……みんなに名字で呼ばせてるみたい。白鳥も、下の名前で呼んじゃだめだよ?」
「うん、わかった」
太郎という名前や、先ほどの反応。本人としては不本意なものなのだろう。
「それに……私だって、名前で呼ばれたことないし」
「ん?」
離れた築野さんがなにやら呟いていたが、波の音に消され聞こえなかった。
「……なるほど、そういう感じね」
「?」
そして椎名さんが、俺たちを見てなにやら意味深に頷いていた。しかもにやりと笑っている。
なんか怖い……
「なぁ後輩、スクール水着だって立派な水着だぞ。学校の授業で使われるくらいだ、利便性は申し分ない。
それに、男はスクール水着が好きなんだろう?」
「どこ情報ですかそれ!」
「だから、築野ちゃんもスクール水着を着れば、後輩もドキドキするんじゃないか?」
「え……そうなの、白鳥?」
「別の意味でドキドキはするよ」
……悪い人じゃないんだろうが、苦手だこの人……




