表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第二章 甘い生活と、揺らぐ想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/17

第14話 私の宝物を、守ってくれた人



 ―――浪side



 新人のアルバイトが入ると伝えられたのは、前日だった。しかも「その子の教育係をお願い」と言われた。

 正直、冗談じゃないと思った。だってそうだろう、私はバイトを始めて、まだ三ヶ月。


 任せてくれるってことは、それだけ期待してくれてるってことなんだろうけど……私には荷が重い。

 店長には悪いけど、辞退しようと思った。でも……


(なみ)ちゃんと同い年だし、うまくいくと思うのよねぇ。

 ええと、白鳥 甲斐くんって言うんだけど」


「やります」


 その名前を聞いて、私は即決していた。

 白鳥の教育係になるってことは、学校以外でも一緒に居る時間が増えるということ。最高か?


 そして、ついにその時が来たんだけど……


「よろしく、築野さん」


「え、えぇ、よろしく白鳥」


 本人を前に、私の心臓はうるさく跳ねていた。

 ちゃんと、話せているだろうか。不自然じゃないよね?


 ううん、せっかくのチャンスを生かさないと!

 そんで、頼りになる先輩として、いいとこ見せてやるんだから!



 ――――――



 バイト終わり。お母さんからメッセージをもらい、お使いに来ていた。携帯を開き、材料を確認する。

 まったく、人使いが荒いんだから。


 ま、今日の私は機嫌がいい。なんせ、白鳥と連絡先を交換できたのだから。一歩前進だよ!


「あれ? 白鳥と……お姉さん?」


 スーパーの入口を潜り、店内へ。

 目的のコーナーへ向かっていると……離れたところに、見知った顔を見つけた。

 さっき別れた白鳥と、ファミレスで会った時にお姉さんと言っていた、きれいな女の人。


 楽しそうに話しているなぁ。……胸の奥が、きゅっと締め付けられる気がした。


「って、お姉さんに嫉妬してるの私? 気持ち悪いって」


 ぶんぶんと首を振り、頬を軽く叩いた。

 なに考えてるんだ私は。姉弟なら、仲が良いのは当然じゃないか。


「……行こ」


 別れたばかりで、すぐに会うのは少し気まずいし……見てばかりなのも気持ち悪いよね。

 目的は逆方向だ。私は足を進める。


 でも頭の中には、白鳥の顔が浮かんで離れない。

 ……思えば、初めて会った時から……


「……白鳥……」


 白鳥と初めて会ったのは、高校に入学してから……ではない。


 そこで私は、心に刻むことになるのだ。

 絶対に忘れてはいけない過ちと……芽生えた恋心を。



 ―――二年前



 当時、私と弟妹はお母さんに連れられ、キャンプ場に遊びに来ていた。

 そこで、電話をしているお母さんの目を盗んで……近くの川に遊びに行ったのだ。


 中学生なんだから、弟妹の面倒くらい見れる……なんて考えていた。

 川ではしゃぐ弟妹を見るのが、嬉しかった。


 でも……


「おねえちゃーん!」


 少し目を離した隙に、妹が流されてしまったのだ。

 川は、小学生低学年の妹でも足がつくくらいの浅瀬だ。でも、足を滑らせ、運悪く流れに巻き込まれてしまった。


 必死に追いかけたけど、流れは速くなる。泣きじゃくる妹の声が、川の音と自分の心臓の音にかき消されていく。

 パニック状態とはこのことだ……身体も頭も、思ったように動かない。絶望の底に叩き落されたようだった。


 溢れる涙に視界が滲んで、妹の姿が小さくなっていく。

 伸ばした手は、届くはずもなくて……


 ……そして、バシャン、と大きな音がした。


「え……」


 誰かが、川に飛び込んだのだ。

 すでに、浅瀬とは言えないほど深くなっていた。だから飛び込んでも問題ない……いや、多分そんな計算はしていなかった。

 ただなんの躊躇もなく、"彼"は飛び込んだのだ。


 流されていく妹を追いかけて泳ぎ……その小さな手を取った。

 そのまま"彼"は妹を抱き寄せ、流されないように岩場を掴んだ。


「ほら、もう大丈夫だ。頑張ったな」


 陸地に引き上げられ、胸の中で泣いている妹の頭を、"彼"は優しく撫でていた。

 情けなくも力が抜けてしまった私を追い抜き、弟が"彼"に駆け寄った。


「お兄ちゃん、ありがとう!」


 まっすぐなお礼を前に、私は恥ずかしくなった。

 なにをやっているのだ私は。真っ先にお礼を言うべきは、私なのに。力を込めて、駆け寄る。


 そして"彼"の前に立ち、遅れて頭を下げた。


「妹を助けていただいて、ありがとうございました!」


「え? いや当然のことをしたまでですよ」


「あなたは、妹の命の恩人です! 本当にありがとうございます!」


「そんな。大げさですよ」


 ……"当然のこと"、か。


 なんで、見ず知らずの他人のために、ここまで必死になれるのだろう。一歩間違えれば、自分も流されていたかもしれないのに。

 この人は、私と同じ年くらいの男の子だ……でも、すごい勇気と、そして優しさを持っていると、そう感じた。


 私は、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「……っ」


 なんだろう、この気持ちは。なんだろう、この温かさは。

 妹は、私にとって宝物だ。私の宝物を、守ってくれた人。感謝しても、しきれない。


「あの、なにかお礼を……」


「いえ、気になさらず。それより、もう目を離しちゃだめですよ?」


「ぐすっ……お兄ちゃん、ありあと……」


「うん、どういたしまして。

 お礼って言うなら、この子のお礼だけで充分ですよ」


 妹の頭を撫でる"彼"の手は、優しい。


 あんまりしつこいと、逆に迷惑だ。

 でも、"彼"は恩人だ。このままなにもしないなんて……


「あの……」


「甲斐ー、なにしてんのー」


 せめて、名前を……その言葉は、聞こえてきた別の声にかき消された。


「あ、姉ちゃんだ。行かないと。

 じゃあね」


「あっ……」


「ぐすっ。ばいばいー、ありがとーお兄ちゃん!」


 遠ざかる背中に、手を伸ばす。……"かい"。それが、"彼"の名前だろうか。

 偶然にも名前は知れたけど……結局、お礼は……


 ……その後、事態を知ったお母さんに怒られた。でも泣きながら抱きしめられた。

 私は何度も、お母さんの腕の中で謝って……


「……かい、か」


 ―――それから、恩人の名前を心に刻んで……お礼をしようと決意した。

 でも、手がかりはなにもない。名前と、私と同い年くらいってこと、お姉さんがいること。


 出会ったのがキャンプ場だったから、近所に住んでいるのか、遠出して来ていたのかもわからない。

 このまま、"彼"を見つけることもできないのか……そう思っていた……


「おぉい浪、入学早々、友達確保したぜー」


 ……それは、突然の出来事だった。運命の時は、高校に入学した後。


「あんたねぇ……まーた強引に。それに友達を確保とは言わないわよ。相手も迷惑してるって」


「んなことねーよ。なー、甲斐」


「うん、俺は歓迎だよ」


「え……」


 空光が、またバカなことやってる……そう思った。

 幼なじみで、小中ずっと同じクラスで、高校も同じ……しかもまた同じクラスだ。早速億劫な気持ちが芽生えていた。

 

 でも、そんな気持ちは……目の前に現れた友達の存在にかき消えた。"かい"……その名前に、胸の奥が熱くなる。


「どうも、白鳥 甲斐です。って、改めて自己紹介となると恥ずいな」


「まーいいじゃねえか。ほら浪も……

 おい浪?」


 ……もしかして?

 私の心臓は、ドクンと跳ねた。そして、本能が告げた……"この人"だって。


 奇跡というものがあるなら、これがまさしく奇跡なんだろうと思う。

 妹を助けてくれた恩人が……私の宝物を守ってくれた人が……そこにいる。


 白鳥は多分、私のことなんて覚えていない。でも、良いんだ……私は覚えている。

 あの時の、出来事を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ