第12話 会社の子にもすごく評判なんだよ
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「こんばんわ、甲斐くん。今日も、ごちそうさま」
「こんばんわ、詩乃さん。はい、お粗末様です」
……夜七時をちょっと過ぎた頃。部屋のインターホンが鳴る。
その時間を待ち遠しく思っている自分がいる。けれど、喜びを全面に出しては引かれてしまうかもしれない……あくまで、普段通り。
玄関の扉を開けると、やはり詩乃さんの姿。
お互いに挨拶を交わして、彼女を部屋に上げて……弁当箱を受け取る。それが、先ほどのやり取り。
「今日も完食してくれたんですね。ありがとうございます」
「当然だよ。お弁当すごくおいしいし。
というか、お礼を言うのは私の方だよ?」
毎回のように、中が空になっている。その事実に、嬉しさを覚える。
自分が作ったものを、残さず食べてもらえるのは、すっげえ嬉しい。
作り甲斐があるというものだ。"かい"だけに……
「ふふ」
「甲斐くん?」
「! な、なんでもないです。
それより、今晩は野菜炒めです。肉が安かったので、それも加えて」
調理準備はすでに行っている。フライパンには肉と野菜が入れられ、ジュージューと音を立てている。
肉を先に炒め、様々な野菜を加えて強火でさっと炒める。
そこにごま油、塩コショウを投入。
うん、香ばしいいいにおいだ。
「詩乃さん、テレビでも見ていていいですよ?」
「そ? なら、お言葉に甘えて」
……キッチンにて横から覗き込んでいた詩乃さんを、さりげなく遠ざける。
正直、隣に居られるだけでもドキドキしてしまうからな。しかも、この部屋に来るときは風呂上がりの姿なのだ。
ラフなティシャツと短パンという格好に、なんかいいにおいのする髪。
意識するなという方が無理だ。煩悩退散!
「そうだ、バイトの面接受かったんだよね! おめでとう」
詩乃さんはテレビのチャンネルを変えつつ、先ほど送ったメッセージの内容を話題に挙げる。
面接から三日が過ぎた今日、合否連絡が来たのだ。
その結果を、先ほど連絡しておいた。
「えぇ、ありがとうございます」
火の調節をしながら野菜炒めを完成させ、皿に移していく。
さらに、インスタントではあるが味噌汁も用意。あとは白飯を……と。
うん、出来上がり。
「今週末から入ることになりました。とりあえずは午前から午後にかけてなので、晩ご飯は今まで通り食べられますよ」
いつ、どの時間にバイトに行くのかの説明をしながら、テーブルに料理を並べていく。
同時に詩乃さんは、冷蔵庫から俺の分のお茶と、自分のビールを取り出した。
もう慣れたもんだ、この動きも。
「そっかぁ、やった!
でも……実は夜に入りたいのに、私のことを気にしてるんだったら……」
「いえ、いきなり夜はキツイですから。それに、今は夜は人数が足りてるらしいので」
食事の準備を終え……席に着く。
手を合わせ、「いただきます」と挨拶をして、食事を開始する。
「ん〜、やっぱり甲斐くんの作る料理最高〜」
「ありがとうございます」
やっぱり、嬉しい。
声と表情で……いや、全身で美味しいと表現してくれているようだ。
「火加減もちょうどいいし、お肉も柔らか〜い。お野菜も、不思議と箸が止まらない」
「肉も焼き加減が大事ですから。焼きすぎると良い肉であっても台無しになりますけど、そこは任せてください」
「これも弁当に入るんだと思うと、楽しみで仕方ないよ。甲斐くんのお弁当、会社の子にもすごく評判なんだよ?」
詩乃さんは、お昼一緒に食べる同僚が居るらしいのだが……
そうか、俺の弁当は評判がいいのか。
「うん。みんなそれぞれお弁当を用意してるんだけど……こう言っちゃなんだけど、私のお弁当が一番おいしい!
……あ、甲斐くんの作ってくれたお弁当がね!」
ちょっと鼻を高くしてドヤ顔している詩乃さん……新鮮な姿でかわええ。
まるで自分のことのように感じてくれているのか。俺としても誇らしい。
「ただ……お弁当は、私が作ったものってウソついちゃってるのが、ちょっと引っかかっててねぇ」
「詩乃さんがウソをつくのが嫌なら、無理にとはいいませんよ」
詩乃さんの評判に関わると思って、彼女自身が作ったことにしておいてとお願いしたが……これも、俺が勝手に言ったことだ。
無理を強いてまで、ウソをつかせるつもりもない。
嫌だと言うのなら……
「嫌というか……甲斐くんの手柄を取ることになっちゃうから……」
……詩乃さんは、自分よりも俺のことを考えてくれているのか。
優しい人だな。
「気にしなくていいですよ。詩乃さんがおいしそうに食べてくれるなら、それで構いません」
「甲斐くん……
……へへ、なんだか恥ずかしいね」
くすりと笑ってから、詩乃さんは野菜炒めをつまみ、食べる。微笑を浮かべたまま食事する姿は、もういっそ一枚の絵画にしてしまいたい。絵心ないけど。
せめて写真を撮りたいが、そんなことを言ったら引かれてしまう。
あぁ、こうして俺の料理を幸せそうに食べてくれる顔……好きだな。
「そういえば、今日同僚の子も言われたんだよね。私がお弁当を食べてる時の顔は、まるでかっ……」
咀嚼し、飲み込み……今日の出来事を思い出し、詩乃さんは言葉を続ける。
と、思われたが……突然、言葉が止まってしまった。
まるで、電池が切れたみたいに。
「えっと……なんです?」
「かっ、かっ……な、なんでもないっ」
そして、ぶんぶんと首を振り……今のやり取りをごまかすように、ご飯を口の中へとかきこみ……続けてビールを飲み込んでいく。
勢いよく飲み、「っぷは!」と缶ビールをテーブルに叩きつけるように置いた。
「自分から話し出したのに、気になりますよ?」
「それについてはごめん!」
どうやら、話す気はないらしい。まあ無理に聞き出すつもりもないけど。
若干顔が赤いのは……あんなに急に、ビールを飲んだからだろう。
また悪酔いしてしまわないといいけど。




