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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第二章 甘い生活と、揺らぐ想い

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第11話 彼氏に作ってもらってる?



 ―――詩乃side



「〜♪」


 仕事から解放されるお昼休憩。この時間、私は大好きだ。

 お腹の音が鳴らないように最新の注意を払いながら、私はお弁当箱に手を伸ばした。


「わぁ……!」


 二段重ねのお弁当箱。蓋を開けると、一つにはご飯が敷き詰められていて、一つにはおかずが並んでいる。

 卵焼き、ウインナー、ミニ春巻き等々……春巻きは、昨夜の残りをお弁当箱用に細かく切ったものだ。


 その光景に、食欲がそそられる。


「今日も美味しそうですね、花野咲先輩」


「詩乃ったら毎日毎日すごいわー」


 この時間、私のデスク周りに集まってくる二人の同僚が、それぞれ声をかけてくる。


 後輩の三田 夏菜子(みた かなこ)ちゃん。きれいな黒髪をセミロングにしていて、赤縁(あかぶち)のメガネをかけているおとなしめの女の子。

 同期の今咲 奈津(いまさき なつ)ちゃん。短髪を金色は染めているのではなく、実は地毛だ。活発な性格は羨ましくもある。


 性格のまったく違う私たちだけど、お昼を一緒に食べるくらい仲が良い。


「へへー、すごいでしょー」


「おっと、自画自賛か?

 でも、見た目から美味しそうだなって伝わってくんのよね、あんたの弁当」


 それを聞いて、ちょっと誇らしい気持ちになる。私が作ったわけじゃないのにね。

 そう言うなっちゃんのお弁当も、美味しそうだけどな。


「私は妹に作ってもらっているので、尊敬します」


「そこは妹に作るくらいの気概を見せんかい」


 かなちゃんは、どうやら高校生の妹さんに作ってもらっているようだ。

 少し恥ずかしそうな、嬉しそうな。そんな表情。


「わ、私料理苦手で……妹からも、教わったりはしてるんですが」


「いい妹さんじゃないの。自分のために、年下の子が一生懸命作ってくれたのが萌えるわー。

 そう思わない、詩乃」


「え、あ、あぁ、そうね」


 なっちゃんの言葉が突き刺さる。なぜなら私のこのお弁当は、私が作っていることになっているからだ。

 誤解しないように言っておくが、これは作った本人からの要望だ。



『俺が作ったのは……内緒にしてもらえませんか? 幼なじみとはいえ、年下の男が弁当作ってるって知れたら、詩乃さんの立場が……』



 ……以前こう言われたのだ。他ならぬ甲斐くんの頼みなので、私に悪意はない。

 どうやら私の世間体を気にしてくれているみたいなんだけど……甲斐くんの手柄を取ったみたいで、もやもやする。


 ただ、私にウソをつかせるのを良しとしていない……というのは、彼の表情でわかった。

 私のためにウソをつくように頼んで、でもウソはついてほしくない。ひどい矛盾だ。

 甲斐くんらしいけどね。


「あ、またその顔」


「? なにが?」


「あんた、弁当食べてるとすごく幸せそうな顔するわよね。無自覚?」


 なっちゃんの指摘に、私は顔を触る。そんなに顔に出ていたかな?


 お弁当が美味しいから、顔も緩むのは自然だ。昨夜の残り物でも、充分に美味しい。

 ううん、残り物だと甲斐くんは言うけど、わざわざお弁当用に詰め合わせてくれるのだ。その手間を思うと、ありがたくて仕方ない。


 今回なんか、春巻き切ってくれてるし。


「もしかして詩乃、そのお弁当……彼氏に作ってもらってる?」


「!?」


「だって、そのお弁当を食べると愛しの彼氏の顔を思い出しちゃう……ってね。それなら納得がいくわ!」


 くっくっく、と笑うなっちゃんの言葉が、愉快そうに指を立てた。

 私、そんな顔をしてるの!?


 実際に、甲斐くんの料理はおいしい。

 おいしいものを食べれば、幸せな顔になるのは当然のこと。


「……彼氏、かぁ」


 彼氏という単語。私にとっては、複雑な意味のある言葉。

 あまりいい思い出がない。昔の話ではあるんだけどね。


「花野咲先輩、彼氏いるんですか?」


「い、いないよ」


「はぁー、ちょっと憧れるよねー。彼氏に弁当作ってもらうってさ」


 まだ続けるのか、彼氏の話。

 それにしても、憧れるっていうのは?


「大好きな彼氏が、自分のために早起きして弁当を作ってくれるわけじゃん? すごく良いわ……」


「そんなもんですかね……でも、女たるもの男の人に作ってあげるべきでは?」


「妹に作ってもらってる子が言うことじゃないわね。それに、古いねぇ夏菜子は。そんな考え方に縛られてちゃダメよ。

 ちなみに私は、私のために彼氏が弁当作ってくれる工程にすげー萌えるタイプ」


「知りませんよ、今咲先輩の趣味じゃないですか」


 二人の会話を聞きながら、私は水筒に注いでいたお茶を飲む。


 ……甲斐くんは彼氏じゃないけど。お弁当は本当に感謝している。

 もちろん、自分の分のついでっていうのはわかってるんだけど……



『はい、詩乃さん。お仕事頑張ってください』



 昨夜の残りを詰めたお弁当箱をもらうそのときに、いつも声をかけてくれる。その瞬間が、私は好きだ。

 お弁当を食べる瞬間も、もちろん好きだけど……


 私のために、その笑顔を向けてくれる。それを思うと、ドキドキする。


「彼氏とかじゃないし、そもそもこれは私が作ったものだから」


 ただ、甲斐くんが私のことを考えてくれる以上、お弁当は私が作ったってことにしておかないと。


「ふぅん。じゃあ、以前は食堂や購買で済ませてた詩乃が、こんなお弁当を作れるようになるなんてどんな心境の変化?」


「ま、まあ、自炊した方が、安上がりだしぃ?」


 つい、楓ちゃんが言っていたことを言い訳に話す。楓ちゃんも料理は得意だし、自慢げに話してたっけ。


 ふと、なっちゃんが手を叩く。


「そうだ。そんなに上達したならさ、今度私にも料理教えてよ! 私のはまだまだだしさー」


「私も教わりたいです」


「え、まあいいけ、ど……え? ん?」


 なんだ、今流れでとんでもない話にならなかったか?

 そして私、流れで『うん』と答えなかったか?


「いや、今のは……」


「あ、そろそろ休憩終わっちゃいますよ」


「やっべ、急げ!」


「ちょっとぉ!?」


 楽しくも慌ただしい、お昼の時間。甲斐くんにお弁当を作ってもらってから、私の世界が変わった気がした。

 おいしいものを食べて、それをおいしそうだと言ってもらえて……すごく、充実しているのだ。


 迷惑をかけてばかりなのに、私に良くしてくれる……素敵な男の子。彼の顔を思い浮かべて、私は小さく呟いた。


「ありがとね、甲斐くん」

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