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破滅した世界にて~銃とゾンビと邪神 ~  作者: ルルエル=テン
第一章
2/21

転移

 日曜日の深夜3時。

 真っ暗な部屋の中、明かりをつけることなく、ソファへと倒れこむ男が一人。

 

 坂口勇気。29歳。

 システム管理の仕事に付いて、早11年。

 役職は主任であり、部下にも依存とも呼べるほどに信頼されている。

 生まれつきのお人好しであり、今日も上司からめんどくさいクライアントを回されていた。

 ついたあだ名は善人の三太郎。

 

 そんな勇気は本来であれば今日も会社に寝泊まりコースであったが、この一週間、たった1日の休みを確保するために死物狂いで働き、どうにか帰宅することが出来ていた。


 その原動力となったのはとある一つのゲーム。


 VRFPS「ゾンビワールド」通称ZW。

 

 五年前にリリースされたこのゲームは、腕に自信のある名だたるFPSプレイヤーをドン底へと突き落とすことから悪魔の鬼畜ゲームと言われ、現在ではこのゲームがFPSゲームとしての最終到達地だとも称される程に難易度の高いものだった。

 

 舞台は魔法の存在する世界ガリステア。

 邪神の呪いにより発生したゾンビ達に支配された大陸を、魔法により具現化したマジックガンと呼ばれる銃や、結界魔法であるシールドを使いながら攻略していく。

 邪神を討伐するのがメインの遊び方ではあるが、それ以外にも自由度の高い遊び方が出来ると、一部のハイスキルプレイヤーに人気の高いゲームである。

 リリース直後からこのゲームをプレイしていた勇気は、どうしても今日休み取らねばならない理由があった。

 それはこのゾンビワールドのアップデートが今日の6時に完了するからだ。


 3時間後、もはやアイデンティティーと成り果てた黒々と残るクマをさすりながらソファから起きた勇気は、冷蔵庫からお茶を一息に飲み干して呟く。


「親父も同じ気持ちだったのかなぁ」


 父親の事をふと思い出す勇気。

 勇気の父親も近所じゃ有名なお人好しであった。

 仕事、私生活問わず、頼まれた事は何でも笑顔で応え、なまじ出来る男だった故に仕事では毎日のように残業で、当時父親が帰宅したところを見たことがなかった。

 目の下にはいつもクマが出来ており、それでも笑顔を絶やさなかった父親。


 たまに出来た休みでは必ず遊びに連れていってくれていた。

 特に父親はサバゲーが趣味で、エアガンでの的当てや、フラッグゲーム等、少ない休みを活用して遊んでいた記憶がぼんやりとだがあった。

 自分がFPSをやりこんでいるのも、もしかしたらその時の記憶からかもしれない。

 

 しかし、勇気が五歳の頃、そんな父親が急に姿を眩ました。

 警察総出となり捜索活動が行われたが、結局父親は見つかることなかった。

 仕事の書類が入った鞄が投げ捨てられていたことや、付近に怪しい人物が見当たらなかったこと等から、本人が自ら行方を眩ましたのではないかという結論に至り、捜索は打ち切りに。

 その当時は、毎晩泣く母親を見て、父親の事を恨んだりもしたが、今では父親の気持ちが少し理解出来てしまう。

 

「今更考えても仕方ないな」


 少しセンチメンタルな気分になった勇気はふと我に帰り、ゲームを起動する。

 

 今日はリリース後、初めて運営が大型のアップデートをするということで、勇気のみならずZWユーザーは、掲示板でかなり熱くアップデートについて予想を立てていた。

 もちろん勇気もアップデートを楽しみにしていた一人であり、胸の高鳴りを感じながら帰宅していた。


 ヘッドギアを着けて、ベッドへと横たわる。


 (確か最後にセーブしたのは、ラスボス前だったけ。あの後仕事が詰まって全く出来てなかったんだよな)


 前回のセーブ地点を思い浮かべる勇気。

 首が痛くなるぐらい見上げる必要があった巨大な塔。

 邪神と呼ばれるZWのメインボスがいる場所。

 

 (アップデートの内容を確認したら、先に邪神攻略と行きますかね)


 そんな事を考えている間にゲームが起動。

 勇気の意識はゲーム内へと流れていった。

 

 











「ん? ここはどこだ? もしかしてバグか?」


 ゲーム内に意識が流れ、目を開けると、周囲に黒い靄が発生している見知らぬ場所であった。

 バグ報告をしようと、ステータス画面を開こうとするが、開けない。

 顔の確認は出来ないが、髪の毛はくすんだ銀髪であり、初期の頃から好んで使っているフード着きの黒い軍服に、スラックスといった、ZWのゲームキャラであるレイの格好であった。

 アップデートによる不具合ではないかと勇気が疑い出したのと同時に、何かが頭の中に入り、強い頭痛に襲われる。


「うぐがああああぁぁ!!」


 あまりの痛みにうめき声を漏らす勇気。

 頭痛は程なくして止んだが、ある違和感を覚える。


「これはレイの記憶?」


 違和感の正体は記憶。それもゲームキャラであるレイの記憶であった。

 それもゲームとして行っていた、レイ視点の勇気の記憶ではなく、まるでこの世界を生き抜いてきたかのような、実在するレイという人格の記憶。


 そしてもう1つの違和感。それは自身の名前の忘却。

 これまでの記憶はある。しかし名前の部分だけ、まるでノイズが入ったように思い出せなくなっていた。


 (いやいや。自分の名前がわからなくなるなんて、ありえないだろう。一体何が起きてる? ゲームキャラの名前は記憶してるな。とりあえずはレイの名前を借りれば良いが・・・)


 ゲームキャラの記憶の流入、そして自身の名前のに戸惑いながらも、冷静に努めようとする勇気改めレイ。

 すると急にメールの通知を知らせるメニューが開かれる。

 頭を抑えながら、そのメニュー画面を開いたレイは、その内容に愕然とする。



『勇者の皆さんこんにちわ。

 僕の名前は邪神リビム。

 ここはゾンビや化け物に支配された超絶楽しい場所だよ。皆さんを呼んだのは僕を楽しませて欲しいから。

 つまり、ゾンビや化け物を退け、僕を倒さない限り、元の世界には帰れないよぉ。

 もし僕を倒すことが出来た者には神の力をあげちゃう。

 そしたらこの世界を自由に出来るよぉ。僕ってば太っ腹でしょ。

 でもこれを読んでいるということは、僕は多分まだ目覚めてないと思うんだよねぇ。

 だからひとまずは自由にドンパチやっちゃっていいよ。その時がくれば僕からまた会いに行くから。

 その時を楽しみにしてるから、みんなも僕の期待に応えてね。

 それではその時までばいちゃ』



「なんだこれ・・・」


 単なるアップデートの演出かとも考えたが、新しく植え付けられた記憶がそれを否定する。

 紛れもなく今起きていることは、ゲームではなく現実。

 それを裏付ける根拠もないが、レイはこれがゲームの演出ではないことを理解していた。


 自身を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。

 その時、足元に淡い光が発生する。

 

 (今度は何だよ!)


 淡い光は徐々に強くなり、遂には目も開けられないぐらいの光量となる。

 思わず目をつむり、次に目を開けた時、レイの視界には既に見慣れた世界が広がっていた。



「どういうことだよ!」

「さっきのは何なの!」

「嘘だよな。これは・・・あれだろ単なる演出だろ・・・?」



 周囲を見渡すとレイと同じ黒い軍服を着たプレイヤー達が狼狽した様子を見せていた。


 (ひとまずは状況を整理だ。ここは確かゲームのスタート地点の・・・確か元貿易都市ソーラだったかな。ならまずはここからの脱出か)


 他人が酷く狼狽する様子を見て、冷静さを取り戻したレイは、すぐさま周囲を見渡し、自身のいる場所を把握する。


 レイ達がいる場所はZWのスタート地点である貿易都市ソーラの港。

 舞台となるガリステア王国は、九州地方を左に90度回転させた様な形になっており、この貿易都市ソーラは九州でいう長崎の出島辺りに存在している。

 元々は他国との貿易の要になっており、人が常に溢れるような、賑やか大都市だったのだろう。

 所々に大都市として繁栄していた形跡が見られる。しかし今は人ならざる者達のうめき声が飛び交う、狂気の場所と化していた。

 空は暗雲が多い、日中であるにもかかわらず、日没前並みに暗い。


 港付近には幸いにゾンビの姿は見えなかった。

 レイはひとまず自身のステータスを表示を再度試みる。すると目の前にステータス画面が現れた。

 他の一部のプレイヤーもレイと同じ事を考えたのだろう、若干下を向きながら、何やら操作をしていた。


「ステータスはゲームの時と全く同じか。後はインベントリも変わり無し。よし。これなら油断さえしなけりゃなんとかなるか」


 レイのステータスがゲーム時代と変わりないことを確認し、再度周囲を見ると、先程まで狼狽していた一部のプレイヤーの姿が見えなくなっていた。

 レイはいなくなったプレイヤーが気になり、たまたま近くにいた髭面のプレイヤーに声をかける。


「ちょっといいか? プレイヤーの数が減ってる気がしたんだが、彼らは何処に行ったんだ?」


すると髭面のプレイヤーはレイの姿をじっくり見極めるように眺めた後、ニタァと底意地の悪い笑みを浮かべる。


「あんたはアバターこそ初期だが、新人って感じではないな」

「一応はそれなりのベテランプレイヤーだとは思ってるよ。それで質問なんだが・・・」

「あぁいなくなった奴らだろ? あいつらなら大通りの門に向かったぜ」


 大通りと聞いた途端、レイは怒気のこもった声をあげた。


「出口!? 何で止めてやらなかったんだ!」

「はぁ? 何言ってんだ。これは最早ゲームじゃねんだぞ。命が掛かってるのにいちいち他人に構ってられるか。それにあいつらが派手に動いてくれればこっちも動きやすいだろうが。ちっ・・・経験者なら連れていってやろうと思ったが、てめぇみてーな偽善者なんかいてもお荷物だ。お前らいくぞ!」


 悪びれた様子も見せずに、髭面の男は後ろに控えていたプレイヤー達とソーラの裏道に繋がる方へと向かっていった。


「助けたければお前一人で何とかしてみろ」


吐き捨てるように言葉を残して。








「くそが! あいつら本当に経験者か? 街中であれが暴れれば攻略どころじゃなくなるだろうが!」


 レイは恨み言を吐きながら、猛スピードで大通りへと向かう。

 おそらく大通りに向かったのは新人プレイヤー。

 大方経験者プレイヤーに騙されて大通りに出口があると聞かされたのだろう。

 これでも一応ベテランプレイヤー。レベルはカンストしており、ステータスは速度重視にしている。

 どれ程前に大通りに向かったのかはわからないが、相手が新人プレイヤーなら間に合うはず。


右手にマジックガン(タイプサブマシンガン)、左手に手榴弾を出現させ、いつでもゾンビを迎撃出来るように備える。


 (周囲にゾンビがいない。これはやばいな。急がないと)


 焦ったように体力無視の全速力でかけるレイ。

 

 レイがこれほどまでに焦るのには訳があった。

 ゲームでいえばファーストステージにあたるソーラ。

 このソーラのクリア条件は都市からの脱出である。

 しかし都市の門は全て固く閉まっており、門を開かねばならない。

 普通であれば脱出の為に門を開こうとするだろう。

 ゲームが始まって最初のステージ。

 出てくるのは動きがのろいゾンビのみ。

 あぁなるほど。これはチュートリアルステージだ。


 最初にみんなそう考え、門の近くに設置されたレバーを引き、門を開けようとする。

 しかしそれは最大の悪手である。

 新人プレイヤーは知らない。初見殺しとも呼べる仕掛けがそこにあることを。




 ようやく門を捉えることが出来る場所まで来た時、10人の新人プレイヤーが門を背にした状態でゾンビに囲まれていた。


「うわぁ! 早く門を開けろ! これ以上は無理だぁ!」

「わかってるわよ! けどレバーが錆びて動かないのよ!」

「シールドが、シールドがもう持たない!」


 一番前で、身体を張ってゾンビを迎撃していたプレイヤーのリロードの合間を狙って、2体のゾンビが襲い掛かる。


 レイも背後から助けようと、サブマシンガンを放つが、ゾンビの肉の壁に遮られる。

 

「嫌だ! 嫌だ! 嫌だぁ!」


 大きなひびが入り、割れるシールド。

 その途端、何体ものゾンビがそのプレイヤーの身体に群がる。


「痛い痛い痛い! 誰かたすげでぇぐれぇ!」


 6体ものゾンビに両手足、首、腹部を貪られながら、必死救いを求める声をあげるプレイヤー。

 しかしその願いは叶わず、すぐに声をあげなくなった。


「おい! 早くしてくれ!」

「嫌だぁ! 死にたくないぃ!」

「動いて・・・動いてよぉ!」


 目の前で貪られている仲間を見て、パニックに陥るプレイヤー達。


「くそ! このままだと」


 レイはすかさずマジックガンの形態をショットガンへと変化。

 ゾンビの群れの中に手榴弾を投げ入れ、爆発と同時に突進。周囲を蹴散らすように、近距離にてショットガンを連射する。


「互いの背中を守るように半円の形になれ! 後今門を開けようとしている奴はそれを止めろ!」


 ゾンビの群れを突き抜け、新人プレイヤーの前までやってきたレイは、すかさず指示を飛ばす。

 しかし門を開けるなと言われたプレイヤー達は困惑や怪訝な顔を浮かべる。

 動こうとしない新人プレイヤー達にレイが苛立ち始めた時、金髪の新人プレイヤーが前に出てきた。

 

「あんた何言ってんだ! 門を早く開けないとゾンビに喰われちまうだろ!」

「俺はこのステージの攻略について知っている! 門を開けるのは正しい方法じゃない!」

「嘘つけ! 他の経験者はみんな門を開けるのが唯一の脱出方法だって言ってたんだ! 開けてしまえばゾンビが街中から多量に発生するから残ったプレイヤーは大変になるらしいけど。あの人達は何とかするから大丈夫だって。新人プレイヤーは助けてやるもんだって言ってくれたんだ! なのに門を開けるななんてどういうつもりだ! 俺達を殺す気か!」

「違う! それが嘘だっていうんた! お前達はそいつらに騙されてるんだ!」

「うるせぇ! 早く門を開けろ!」


 (あいつらそんなことを吹き込んだのか・・・しかしどうする。このままじゃ新人プレイヤーは持たないぞ。あぁ~なんで危険な目にあってまで助けに来てやったのにこんなこと言われないといけないんだ!)


 周囲を見渡すと、どうやら全員が同じように考えているらしい。

 顔をしかめ、怪しい物でも見るかのような視線をレイに浴びせてきていた。


 (これだけゾンビに群がられたら普通はおかしいって思うだろうに。思考を放棄して、自分達の都合が良い情報が正しいって盲目的に信じてる状態か。いやこんな状態じゃ信じたいってのが正しいんだろうが)


 レイは大きくため息を吐くと、イライラを発散させるように、ショットガンを連射。前方いたゾンビの頭が吹っ飛び、倒れていく。

 その背後にいたゾンビもショットガンのノックバック効果により、仰け反ったことでドミノ式に倒れていった。

 

「わかった。じゃあ俺一人で周囲のゾンビを退ける。そうすれば俺の話を信用してくれるか?」

「一人で? それ初期アバターだろ? あんたも新人みたいなもんじゃねぇの?」

「新人じゃないんだが・・・まぁいい。それでどうなんだ?」


 (こいつ馬鹿か? それとも無駄に腕に自信のあるアホか、ZWを知らないアホか。まぁいいや。こいつが時間稼ぎしてくれるならその間に門を開ければ良いか)


 金髪の男は、レイの申し出に、一瞬怪訝な顔を見せたが、ゾンビ達をレイに押し付けることが出来ると考え、口元を三日月型に歪めると、快諾する。


「・・・わかったよ。あんたが一人でどうにか出来りゃ考えても良い」

「よし。じゃあ皆は半円の状態を維持したまま下がって欲しい。後一応シールドは張った状態にしといてくれ」



 レイはそんな金髪の男の様子を気にすることなく新人プレイヤーを下がらせると、リロードを完了させた後にマジックガンをサブマシンガンに変化させる。


「量が多い奴らは無理に倒す必要はないんだよっと」


 レイはサブマシンガンの標準をゾンビ達の膝関節に合わせる。そして180度回転しながら連射。

 膝を撃ち抜かれたゾンビは崩れ落ち、その場から動けなくなる。

 背後にいたゾンビも、地に倒れ、動けなくなるゾンビに足をとられこけていく。

 悠々とリロード時間を確保したレイは、起き上がろうとするゾンビの膝を撃ち抜く。

 

「後はこれを繰り返すだけっと」


 そしてまたゾンビが足を取られた合間にLEADを完了させ、起き上がる前にまた撃つ。

 これを繰り返すこと五回。膝を撃ち抜かれたゾンビが積み重なり、あっという間に即席のバリケードが出来上がった。


「サブマシンガンで全弾外さず膝撃ち抜くなんて、テクどうなってんだ。新人アバターなのに」

「いや姿は関係ないでしょ。あんなの新人プレイヤーの動きじゃないわよ。何者なんだろ」


 後ろで戦々恐々となっていた新人プレイヤー達も、ゾンビのバリケードが出来た頃には、レイの正体について話をする程度には落ち着きを取り戻していた。


「これで、とりあえずはゾンビが入ってくることはないかな。よし。じゃあ俺の話を聞いてくれるかい?」


 ゾンビが入ってこないことを確認したレイは背後にいた新人プレイヤー達に声をかける。


「あっはい。でもなんで門を開けたら駄目なんですか?」

「それなんだけど。実は門を開けるとーーー」



 ガチャン・・・カタカタカタ。



 レイが門開けることの危険性について話をしようとした時。

 レバーを下げる音が響き、鉄門が大きな音を立てながらゆっくりと上がり始める。

 視線を門の左にある詰所に向けると、そこには腕に溜まった乳酸を散らすように、両腕を軽く振るう金髪の男がいた。

 

「時間稼ぎありがとよ! おかげで無事脱出出来そうだわ!」


 金髪の男はニヤケ面を隠そうともせず、門へと駆け出す。


「待て! そこにはあーーー」


 最悪の展開になったと歯噛みしながらも、金髪の男を静止しようとするレイ。

 しかしそんなレイを嘲笑うかのように、遂に恐れていた仕掛けが動き出した。


 ゆっくりと上がる門がようやく人が通れる程の高さまで上がってきた時。

 門の真下から人間の三倍もの大きさの腕が六本這い出てきた。

 そしてその六本の腕を支えに這い出てきたのは異形の形をした者。 

 


 門開けることがスイッチとなり出現し、ゲームリリース時、数多のプレイヤーがその毒牙にかかったことから呼ばれるようになった通称は「初見殺しの悪魔」。

 体長は3メートル。また頭が3つ、腕が6本ある姿から、プレイヤー達から阿修羅と呼ばれ、その強さはボスキャラにも匹敵するゾンビ。


「なんだよあんなのが出てくるなんて聞いてないぞ!」


 金髪の男は、門の手前で立ち止まり、全身から冷や汗をかきながら叫ぶ。


「だから開けるなって言っただろうが! 早く逃げろ! 出てきたばかりの阿修羅は視力と聴力がまだ弱い。それ以上近付かず、出来るだけ音を立てないように下がるんだ!」

「へぇ~視力と聴力がねぇ・・・」


 レイの忠告を聞いた金髪の男は、何故か狼狽した様子から一転。人を小馬鹿にした顔をすると、忠告通りには動かず、ゆっくりと壁沿いに門へと向かっていく。


 レイは金髪の男が忠告を聞くことなく、門に向かっていくのを見ると、小さくため息を吐き、背を向ける。


「あの馬鹿野郎が・・・おい君たち。死にたくなければ、俺が合図したら来た道を全力で戻るんだ。そして3つ目の角を左に曲がれば、突き当たりに大きな用水路に出る。用水路への階段を降りて右に行けば下水道に着く。そこまでいけば阿修羅も追ってはこれないはずだ」

「えっ・・・? あの人はどうするんですか?」

「すまないが、もう間に合わない。阿修羅は元は門番だった兵士が呪いによって変異したゾンビだ。そんなゾンビが地表に出てきてまずする行動はーーー」


ガシャン!


「プレイヤーという怪しい人物を外に出さないように開いた門を閉めることだ」







「え・・・なんで門が」


 残り10mで閉められた門を見て、嗚咽のような声をあげる金髪の男。

 そして門が閉まる。それすなわち・・・



 金髪の男の隣から、段々大きくなる地響きのような足音。

 それは金髪の男にとっての死へのカウントダウン。

 足音が鳴りやんだと同時に、影が差したのを見た金髪の男は、全身の穴という穴から体液を垂らす。

 ゆっくりと影が差す方へと向くと、生気を感じない6つの目がこちら側を覗きこんでいた。



「あ゛あ゛ぁぁ! 嫌だぁ! 離せぇ!」

「くそ・・・今だ! 全力で駆けろ!」


 男の悲鳴を合図にレイが指示を出す。

 

 最初はレイを怪しんでいた新人プレイヤー達も、今ではレイの言葉が正しかったと、無条件で指示に従っていた。

 全員が走り出したタイミングでレイは手榴弾を投下。

 バリケードごと一部のゾンビ達を吹き飛ばす。

 バリケードが破壊され、一部のゾンビが溢れ出ようとするが、更に地面から手榴弾の数倍の爆破が起きる。

 

「これってもしかして地雷!?」

「今のうちにシールドを全開にして抜けろ! 多少のダメージは覚悟しろ! とにかく全力で走れ!」


 爆破によりゾンビの群れに大きな穴ができ、それに向かって死物狂いで走る新人プレイヤー達。

 レイは最後尾にて、新人プレイヤー達に群がろうとするゾンビをショットガンで駆逐していく。


 レイのサポートもあり、全員無事にゾンビの群れから脱出。そのまま全速力で三番目の角へと向かう。


「はぁ~死ぬかと思った。あんたのお陰で助かったよ」


 三番目の角へと入ろうとした時。  

 一人の男が気の抜けた様子で、走る速度を緩め、レイへと並走してくる。

 レイがまだ危険が去ったわけではないと、注意しようとした時。


「ぺぎょ!」


 並走していた男が変な声をあげながら吹き飛ばされた。

 男はそのまま全身を打ち付けながら地面を転がっていき、そのまま動かなくなる。

 男の腹部にはもぎ取られた人間の腕が深々と刺さっていた。

 

 (人間の体を投擲に使っただと? そんな攻撃ゲームの時には無かったぞ) 


 レイが角を曲がるのと同時に、今度は人間の足が投擲される。

 間一髪先に角を曲がったことで直撃は避けるも、弾丸のごとく放たれた足がシールドを霞める。


「霞めただけでシールド10パーも削るとか、どんな威力なんだよっと」


 足音で追って来ているのに気付いたレイは曲がり角に地雷を設置する。

 

「うーん。かなり不味いな。みんな速度が落ちてきてる。ギリギリ間に合うかどうかってとこか」


 新人プレイヤー達は既に肩で息をしており、あまりにしんどいのか顔を青くしている者もいる。

 地雷程度の足止めでは、追いつかれる可能性もある。

 

(やっぱり囮か? 出来れば避けたい案だが、それしかないような)

 

 頭を捻りながら用水路まで、辿り着いた頃、阿修羅が地雷を踏んだことで、背後で大きな爆破が起きる。

 

「きゃあ!」


 すると少し前を走り、丁度階段を降りていた少女が爆破に驚き、足を滑らせて階段を転げ落ちた。


「いたっ・・・」


 少女はすぐさま立ち上がろうとするが、足を捻ってしまったのか、顔を歪めて蹲る。


「おい! 足をやったのか! 」

「うちは大丈夫なので、先に行ってください!」


 レイは背後から声をかけながら近付き手を差し出すが、少女は泣きそうな顔をしながら、その手を払いのけた。


「このままだと、あなたもあのでかいのに捕まっちゃう! だから早くいって!」


 目尻に涙を貯める少女。自身の死を悟ったような顔で、出来の悪い作り笑顔を見せていた。

 無言で差し出した手を引っ込めたレイは一言「ごめんな」と溢す。

 心の隅っこで、もしかしたら助けてくれるかもと、淡い期待を描いて少女は目を瞑りながら「仕方ないです」と返した。

 

 少女はそのまま目を瞑ったまま、己の不運を嘆く。

 兄貴が長年やっていたゲームが気になり、始めた途端にこんな訳のわからないことに巻きこまれてしまった。

 しかも、肝心な所で爆破音にびっくりして足を滑らし、着地時に足を捻るという合わせ技。

 昔からドジ気質が抜けず、兄貴に笑われてばかりだったが、命を掛けるような時にまで発揮しなくても。

 特段仲が良かった訳ではないが、死を前にして思ったのは、間違いなくこの世界にいるはずの兄貴が無事かどうか。

 

(兄貴ごめん。うちは生き残れそうにないよ)


 両手を強く握りながら、届けとばかりに兄貴へと念を飛ばす少女。

 その瞬間、少女は自身の体が宙に浮いたような感覚を覚える。


(もしかして。私痛みを感じる間も無く即死したのかな。だったら不幸中の幸いかも)


 急に感じた浮遊感の正体を知ろうと、恐る恐る目を開ける少女。すると、そこには先程手を差し伸べてくれたレイの顔があった。


「えっ? なんで?」


 思わずすっとんきょうな声を出す少女。


「え? やっぱり不味かったかな。いや俺だって抵抗はあったんだよ。けど命には代えられないし、一応前もって一言謝ったんだけど」

「え・・・いや何の話を・・・」

「・・・お姫様抱っこが嫌だって話じゃないのか?」


 レイの言葉を聞き、改めて自身の状況を確認する少女。

 少女はレイの言っているように、それはもうしっかりとお姫様抱っこをされていた。

 一瞬、恥ずかしさで顔が沸騰しそうになったが、背後から聞こえる唸り声で正気に戻る。

 レイの肩越しから背後を覗くと、すぐ後ろに阿修羅が迫っていた。


「なんで助けるんですか! このままじゃ本当にあなたまで巻きこまれてしまいますよ!」

「大丈夫大丈夫! こう見えて死なない事には自信があるんだよっと」


 背後から飛んでくる6つの豪腕を避けながら、下水道の入り口へと駆けるレイ。


「きゃあ!」


 絶え間なく降り注ぐ豪腕の嵐に、思わず目を瞑りながら、かわいらしい声をあげる少女であったが、レイには掠りもしない。


「凄い・・・」


 それまで萎縮していた少女も、いつの間にかレイの動きを観察する程の余裕が生まれていた。

 阿修羅の拳は速く、床に当たればクレーターができ、壁に当たれば崩壊するような威力を持っている。

 それなのにレイはシールドを張ることなく、まるで後ろに目が付いているかのように、動きだけで阿修羅の拳を躱していた。


(このままいけば本当に逃げ切れる)


 少女が助かる可能性について考え始めた時、阿修羅の動きが変わった。

 阿修羅は崩壊させた壁の破片を6本の腕でそれぞれ掴むと、レイではなく下水道の入り口に向かって投擲。

 半月状で高さが最大3メートルはあった下水道の入り口に、破片が約2メートルの高さまで積もり、塞いでしまう。


「入り口が・・・やっぱりうちを置いていって! 早く!」

「だから大丈夫だって。この程度の瓦礫ならっと」


 レイは速度を落とすことなく瓦礫で塞がれた入り口へと向かう。

 そして大きく跳躍した。

 しかし、2メートルの高さを人一人抱えて跳び越えることは出来ない。


「何考えてるんですか! 壁に激突しますよ!」


 壁に激突しそうになり、身体を硬直させる少女。

 しかしレイは壁の手前で更に空気を蹴るように跳躍。

 そして更に空気の壁を蹴るようにして、入り口上部に開いていた、残り一メートルの隙間へと横っ飛びにて入る。

 

 あまりに突飛な出来事に口を半開きのまま固まる少女。

 それを見たレイは、少女を抱えたまま、下水道の奥へと進みながら。


「だから大丈夫だっていったろ」


 と笑顔で答えた。

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