序章
よろしくお願い致します。
ガリステア王国。
その国は最大の島国にて、豊かな土地、高い魔法技術力を持ち、更には他国を圧倒する軍事力にて、他国が羨む栄華を誇っていた。
そう200年前までは・・・
「この国もつまらなくなったなぁ」
ガリステア王国の東にある、一際高くそびえ立つ塔の最上階から、銀髪の少女が欠伸をしながら、大陸を見渡していた。
彼女の名前はリビム。
ガリステア王国では邪神と恐れられ、元はこの世界を見守る神の一柱、そして200年前にガリステア王国を滅ぼした張本人。
プラチナのような光沢のある、ゆるふわカーブの前髪を、左から右へと流すようしており、右目が隠れている。
リビムは中性的であり、見方によっては男にも女にも見える顔を顰めながら、テラスにある椅子へと腰かけた。
「あぁ~500年前は楽しかったなぁ」
そう一人でごちりながら、500年前の思い出にふける。
元々ガリステア管理者であったリビム。
しかし、その当時ガリステア王国は、ガリステア王国という一つの国家ではなく、土地を廻って数多の小国が争いを続けている戦争地帯であった。
戦時の度に土地は荒廃し、美しかったガリステアは、瞬く間に戦火と死臭の漂う世界へと変わった。
リビムは人々に巣食う醜い心からくる争いを目にし続けるあまり、人間に愛想がつき、他の神からの制止を聞かず、当時、神の言葉を聞ける唯一の存在である聖女を言葉巧みに騙し、その身体に憑依する形で地上に顕現した。
そしてリビムは醜い心に見合った姿にしてやると、人々をゾンビへと変貌させていった。
そんなリビムの行動は、皮肉なことに人々は一致団結させるきっかけとなり、召喚魔法によって召喚された、勇者と呼ばれる異世界人によって、東にそびえる封印の塔にリビムは封印されてしまった。
リビムを何とか封印出来た人類であったが、その被害は尋常ではなく、半分以上の人々が犠牲になった。
犠牲になった中には王族も含まれており、ほとんどの国は国として再起を図る事が不可能になっていた。
そういった国々は、勇者召喚を行い、唯一被害を最小限に抑えていた当時のガリステアに庇護を求め、自治権のある属国となった。
これがガリステア王国の始まりとなり、その後ガリステア王国は神をも討てる勇者を抱える国として、大きく繁栄していくこととなる。
しかしそんな繁栄も、天変地異の大地震という天災により終わってしまう。
地震により塔に施していた封印の結界に亀裂が入り、リビムは完全ではないものの、再びガリステアに顕現した。
封印から300年経ち。長い間、戦争もなく平和を享受していた人々は、リビムの進攻に対応出来ず、震災で混乱中の王都は、わずか1日で陥落。ゾンビが蔓延る有り様となった。
そして現在。
ガリステアは至るところにゾンビや化け物がはびこっていた。
王都陥落直後こそ、微々たる抵抗をしてくれた人間もいたが、今では領地ごとに、植民地化され、リビムの玩具と化していた。
リビムは自身が封印された時のことを思い出す。
英雄、勇者と呼ばれ、人間の身でありながら、数多の策、数多の技、数多の魔法により、自身を封印した者達。
特に異世界から呼ばれた勇者が使っていた、銃という金属の弾丸を飛ばす道具には特に驚かされた。
500年前にその銃弾が元で封印されたリビア。
しかし、あの闘いは、ただ空から人間を眺めることしか出来なかったリビアにとって、新鮮であり、刺激的であり、何より享楽的であった。
封印から解かれたリビアが最初に思ったこと。
それはまたあの身を焦がすような戦いがしたいということ。
しかし、当時の英雄や勇者は既に此の世を去っていた。
その子孫に期待したが、何百年もの間、邪神が復活することもなく、島国という立地ゆえに他国からの侵略も少ないガリステア王国は、王から民に至るまで、全員が平和ボケしており、手応えを感じる間もなく、全てが終わってしまった。
争いを止めない人々に愛想を尽かして、この世界に顕現したにも関わらず、その本人が争いを求めるなど本末転倒でしかないのだが。そんなことに気付かないほど、リビムは身を焦がすような闘いを求めていた。
「あぁ楽しくない! 楽しくない! 楽しくない!」
これ以上は耐えられないとばかりに地団駄を踏むリビム。そしてひとしきり地面を踏みつけた後、大きくため息を吐いた。
「はぁ~こんな退屈なら、消えてしまった方がマシだよぉ!」
今でも邪神とは言え神であるリビムにとっては死は怖いものではない。
一度現世に降臨した神は邪神となり、天上の世界には二度と戻れない。
そればかりか、もし現在、憑依している依代を失い、魂の存在になれば、神による裁きによって、消滅してしまうだろう。
今、他の神がリビムに手を出せない理由は、人の身体に憑依しているからである。
人の身である限り、神は手を出すことが出来ない。もし神がリビムに手を出そうものなら、それこそリビムと同じ邪神に落ちてしまうのだ。
本来であれば、神から裁きを受ける身であるリビムも人に憑依していることで、それを回避していた。
今の依代も肉体的に朽ちはじめ、動きも緩慢になっている。
新しい依代に代えても良いが、人間なら誰でも良い訳ではない。
神が憑依しても、耐えられる程度の魂の強度が必要なのである。
リビムがガリステアを植民地化し、管理しているのは、適性のある依代を手に入れるためという側面もあった。
現在、適性がある強靭な魂を持つ依代は一人しかおらず、まだ幼い子ども。
そろそろ依代を変えなければならないのだが、リビムにとってはそんなことはどうでも良かった。
仮に強靭な依代を手に入れたところで、自身の求める物は何も手に入らない。
いっそのことこのまま朽ちてしまっても良いのではないかと、何度も考えたが、それでは面白くない。
せっかく楽しいと感じるものを知れたのだ、死は怖くないが、せめてもう一度ぐらい楽しんでから死にたかった。
しかし、今のガリステア王国の人間にそれを期待することは出来ない。
かといって他国は荒廃した土地を手に入れに来ることもなく、リビムは封印が一部機能しているばかりに、ガリステア王国から出ることが出来ない。
正に八方塞がりの状態であった。
そうこれまでは。
「ふぅ~。退屈なフリはおしまい。これからは楽しい楽しい遊戯の時間だよぉ!」
リビムはテラスで一人歓喜の声をあげる。
リビムが思い付いたのは至極簡単なものだった。
邪神討伐の為に行われた、特別な魔法陣を用いた召喚魔法。リビムはそれを使い、新たに勇者を呼び出そうとしていた。
しかも一人ではなく、多数の勇者を。
本来、召喚魔法は特別な魔方陣に、特別な力を持った者が中心となり、何十人もの魔法士が命懸けで魔力を注ぎこむことで可能となる魔法。
もちろんリビムにはそのような特別な力もなく、召喚魔法を発動させることは出来ない。
しかしリビムは落胆することなく、長い時間をかけ、植民地化した人間を家畜の如く増やし、遂に召喚魔法を行使出来る人間を育てあげた。
リビムは語る。
自分と戦える人間がいないのであれば、戦える人間を呼べば良い。
召喚魔法が使えないなら、使える人間を作れば良い。
何十人もの人間が命懸けで魔力を注ぎ、一人呼び出すのがやっとなら、何百人、いや何千、何万という人間の命そのものを贄に出せば良いと。
狂気的なまでの執着で、何百年という月日をかけ、リビムは遂に召喚魔法を使える人物を作り、高い魔力を誇る多数の贄を用意した。
そしてリビムは召喚魔法に細工を施す。
1つ、いきなり召喚するのではなく、一定期間の育成時間とも呼べる期間を設けること。
2つは全員が勇者と同じ銃を使える状態で、召喚されること。
そして最後に自身を封印した勇者の同郷から呼び出すこと。
遠く離れた元王都から出現した一筋の大きな光を眺めながら、リビムは高笑いを響かせる。
ようやく長い退屈から解放される。
血湧き肉躍る闘いが始まる。
リビムは一筋の大きな光が空へと消えていった後、顔を愉悦で大きく歪ませながら塔の中へと消えていった。
僕もしっかりと準備をしないとね。
そんな事を呟きながら。




