マリアと信奉と会議
「ーーここまでが私の知ってる内容です。あれからアヤメさんやキータ君がどうなったかまではわかりません」
ヒノは自分を逃がす為にアヤメやキータが犠牲になったかもしれないと申し訳なさそうに話す。
レイは最後まで神妙な顔付きで話を聞いていたが、話を終えた時にはヒノを慰めるように頭を撫でていた。
「どうしますかレイ? あれならその襲撃があった場所に向かうことも可能ですが?」
「いや大丈夫だよ。銃声も爆発音も聞こえない。どちらにせよ戦闘自体は終わってると見た方がいい。無事であることを祈ろう」
「・・・レイがそう言うのであれば」
大丈夫だと言いながら、苦虫を噛み潰したような顔を晒すレイに、マリーは心配そうに顔を俯かせる。
ヒノの話を聞く限り、あれから既に少なくとも4時間は掛かっていると思われる。
襲撃者がアロスとなれば、まず間違いなくアヤメ達は捕まっているだろう。しかし敵の正体がわからない以上、何処に連れて行かれたのか見当もつかない。
もちろん血が飛び散っていた場所にいたキータのことも気掛かりだが、生存しているとしても、どの方角に向かったのかすらわからない状態では探しようがない。
つまり、今のレイにはアヤメ達やキータを助けようにも打てる手がないのだ。
レイは何も出来ない悔しさから、両手に拳を作り、強く握り混む。額にはうっすら青筋が浮かび、唇を軽く血が出るほど強く噛んでいた。
車内は一気に暗い雰囲気が漂い、無言のまま遂には林を抜けた。
「レイ。すみません。私が至らないばかりにアロスの裏切りを見抜くことが出来ませんでした。私が気付いてさえいれば、新人の皆さんはーー」
「マリ駄目だよ。悪いのは裏切ったアロスだ。マリは何も悪くない。さすがにマリでもこれ以上言うつもりなら怒るよ」
「・・・わかりました」
車内に漂う空気感に耐えられずマリーが謝ろうとするがレイがそれを途中で遮る。
悪いのはマリーではない、裏切ったアロスであり、謎の狙撃兵だ。多分マリーを狙っていたあの狙撃兵だと思われる。
「俺の方こそごめんね。雰囲気を悪くしてしまった」
「そんなこと! レイはもう少し我が儘になるべきです! 辛い時にまで周りに気を使わないで下さい!」
今度はレイが空気を悪くしたことを謝るが、マリーは口を尖らせながら、周囲にばかり気を使うレイを叱った。
「あははは。まさかマリに叱られるようになるとはね」
「あまりにレイが自身を蔑ろにしようとするからです」
「そりゃ面目ない」
「アヤメさんとキータさんでしたか。あの子達も短い時間とはいえレイの指導を受けたのでしょう? なら大丈夫ですよ。レイは自分の指導力に自信を持つべきです。あなたの教え子は共に王と呼ばれるプレイヤーになっているのですから」
「あはは。ありがとうねマリ」
マリーからの叱咤激励を受けて少し持ち直したレイは、マリーの優しさに感謝にしながら、今後の方針について考える。
アヤメ達とキータの居場所を知るためにはどうするべきか。ソロプレイの弊害のせいでレイは他のレギオンやプレイヤーについて知識が無さすぎる。
マリアに着いたら、この世界についての情報と並行してレギオンや有名なプレイヤーについても調べる必要が出てきた。
まずはマリアに異常がないかを調べ、次に攻めてくるようなレギオンはいないか周囲の確認を行う。
マリアの安全性を確認出来たら、次に王都でこの世界についての情報と、マリー達や他のプレイヤーからレギオンやプレイヤーについての情報を集める。
そしてその情報からアヤメ達の場所やキータが逃げたであろう場所を特定する。
とりあえずはそこら辺りから始めてみようとレイが気持ちを切り替えたところで、アリシアがムクッと起き上がった。
「あれ? 1人増えてるであります!」
起きて早々ヒノに驚くアリシア。レイがアリシアが寝ていた間に起きたことを説明すると、ムッとした表情へと変化する。
「何故起こしてくれなかったでありますか!?」
「いや仮眠の時間は削らない方が良いとマリーと話し合って決めたんだ」
「それでも生存者が居たのであれば、起こして教えて欲しかったであります! 私だって新人さんや現地の方を心配していたのでありますから!」
「そっそれはすまなかった」
グイグイと顔を近付けながら詰め寄ってくるアリシアをレイが必死に抑えこんでいると、運転席からわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「随分と仲がよろしくなったのですね。アリシア」
その瞬間、レイは何故か背筋が凍る感覚を覚える。
あれだけ詰め寄っていたアリシアもマリーの一声で借りてきた猫のようになった。
うわ言のように「違うんです」と連呼するアリシアを尻目に、マリーはレイに先に仮眠をするように促す。
レイはマリーが先に休んだ方が良いと思ったが、先の件で気遣われたのだと気付くと、マリーの気遣いに感謝しながら仮眠を取ることにした。
(必ず助けに行くから。だから無事でいてくれ)
レイはアヤメ達の無事を祈りながら束の間の休息に入った。
「レイ起きて下さい。もうじき着きますよ」
マリーがレイの肩を揺らしながら声をかける。
「ん~ん・・・ってあれ!? もう朝!?」
「おはようございますレイ。少しは疲れが・・・あら。取れてないみたいですね」
「いや何処見て言ってるのかな? しっかり寝ようとそこは変わらないからね」
目のクマを見て、わざとらしく口元を抑えるマリーにレイがすかさずツッコミを入れる。
気付けば既に朝日が昇ってきており、運転席にはアリシアが座っていた。隣を見るとヒノが座っており、何やら仲良さげに話をしている。
「何気にアリシアって誰とでもすぐに仲良くなれるよね」
「素直な子ですからね。時折素直過ぎて困りますが」
「確かにそれは言えてるかもね。ところであれが・・・?」
「そうです。あれが都市マリア。『慈悲の心』の拠点です」
C998の進路方向にそびえるように建っていたのは、高い外壁に囲まれた大きな都市であった。外壁に囲まれているせいで、内部は良くわからないが、外壁の周囲を包むようにして透明な結界が張られていた。
マリアにもどうやらガードクリスタルが設置されているようだ。
「気を使わせてしまったかな?」
「いえ。レイは私を助けようと一睡もせずにソーラに向かってくれたのでしょ? さすがに仮眠だけでは身体を壊してしまうと思ったのです」
「言われてみれば確かにそうだったな。お陰様で随分と身体が軽くなったよ」
「少しでも休めたなら良かったです」
その後、レイは段々と近づいてくる外壁を見ながら、マリーに寝ていた間に起きたことを聞いていく。
マリーの話ではヘルガーやクロウの襲撃が何回かあったものの、特に問題なく迎撃出来たとのこと。
大きな問題なく、ここまで来れた事を聞いて安堵するレイを見て「相変わらずですね」とマリーは微笑みながら小さく呟く。
見えている外壁が段々と大きくなり、結界内へと入ったところで、都市マリアの門が開く。
中から出てきたのはレイ達が乗っているものと同じC998が4台。
余程焦っているのか、急加速した4台のC998は物凄い速度を出しながら、こちらに向かってきた。
「マリーよ!」
「マリーちゃん!」
「マリー殿!」
「マリー!」
目の前で止まった4台のc998の助手席から4人のプレイヤーが降りてくると、心配そうに声を張り上げながらマリーの乗るc998に走り寄ってくる。
「マリー! よくぞ無事でいてくれた。マリーがソーラに向かったと聞いた時は心臓を掴まれたような感覚を覚えたぞ!」
ツルツルの頭皮が眩しい筋骨隆々の大柄な男は目頭に涙を貯めながらマリーの無事を喜んでいた。
重騎士のような白銀の鎧の着ており、どっからどう見ても大剣を武器に使いそうな姿をしている。年は多分30後半くらいだろうか。
慈愛に満ちた目でマリーを見ていることから、その男にとってマリーの存在がいかに大きいかが良くわかる。
「マリーちゃん! 2日で戻ってくる予定と聞いていたのに、3日経っても戻って来なかった時は何があったのかと心配したわ。でも無事戻って来てくれて良かったわ」
アスタロスの後ろで安堵した表情を見せる女性は赤茶の短い髪を持つ、20代中盤ぐらいのボーイッシュな女性。
赤いビキニアーマーのような鎧に大きなマントを羽織ったような格好をしており、日焼けした肌と相まって、アマゾネスの女王のような印象を受ける。正直、目のやりどころに困ってしまう。
「マリー殿! ご無事なようで拙者は安心しましたぞ。それよりジーク殿やアロス殿の姿が見えない。人数もだいぶ少なくなっているようですが、一体何が?」
アマゾネスの隣にいたのは、これまた武士のような特徴的な格好をしている青年。歳は20ぐらいだろうか。流石に髪型はチョンマゲではなかったが、ボサボサの髪に無精髭を生やしたその姿からは、幕末後の廃れた武士のような印象を受ける。
「マリー。君が無事で本当に良かった。ところで隣にいる新人アバターの奴は誰だ?」
マリーにキザな笑みを向ける一方、あからさまにレイに向けて敵意のこもった視線を浴びせてくるのは、マリーと同じぐらいの歳の金髪の青年。
動きやすそうな純白の軽装を身に纏い、くどくない程度に身に付けている貴金属類が光を反射してキラキラと光っている。
4人の後ろにも彼らの仲間が続々と押し寄せ、マリーの無事な姿を見て心底安堵した様子を見せていた。
(これは相当マリに依存しているな。面倒なことにならなければいいが)
前にいる4人はまだ良い。少なくともマリーの事を1人の人間として心配しているのだから。
しかしその背後にいた面々は違う。まるで神を見る目でマリーを見ているのだ。
これではもはや依存と言うよりかは信奉である。
レイが目を細めながらそれらを見ていると、先ほどから剣呑な雰囲気を出していた青年がレイに声をかけてきた。
「おいあんた。もしかしてマリーに助けられた新人プレイヤーか?」
「アベル違いますよ。彼は私やアリシアにとって命の恩人になる方。わかったならそのような目でレイを見るのを今すぐやめてもらえますか」
「えっ!? あっ。それはすまなかった」
何処か棘を感じる口調で問い掛ける青年に言葉を返したのはマリー。
聖女らしからぬ怒気を含んだマリーの物言いにたじろいだアベルは、不服そうにしながらもレイに頭を下げた。
マリーは頭を下げたアベルを見て、満足そうに頷くと、全体を見渡しながら口を開く。
「心配をかけて申し訳ありません。私はこの通り無事ですので安心して下さい。詳しい話は戻ってからにしましょう。ひとまずはマリアに向かいます」
「ならマリーは俺の車にーー」
「大丈夫です。このままマリアに向かいますから」
アベルがすかさずマリーを自分の乗るC998に誘うが、すげなく拒否される。
アベルは少し肩を落としながら戻っていくが、一瞬鋭い瞳をレイに向けてきていた。
(はぁ~。厄介事の匂いしかしないぞ)
アベルがこちらを睨んでいたことに気付いたレイは人知れず大きなため息を吐く。
そんな中、頭から見事な光を放つ男が、ガチャガチャと鎧の音を鳴らしながら、レイの近寄ってくる。
「ワシの名前はアスタロス。マリーを助けてくれたこと大いに感謝するぞ! 貴殿は見た目こそ新人だが相当強いのだろ? ワシにはわかるぞ! 貴殿さえ良ければ今度ワシとデュエル戦でもしてくれ! ガハハハ!」
後部座席に座るレイの肩を叩きながら、豪快に笑うアスタロス。
レイが返事をする前に言いたいことは言ったとばかりに、すぐさま踵を返したアスタロスはそのまま、自分の乗っていたC998に戻っていった。
「なんというか。剛毅な人だね」
「アスタロスは実力のある者が好きなのです。ちなみにですが彼も王の名を冠するプレイヤーの1人ですよ」
「えっ!? そうなの? 確かに強者特有のオーラみたいなのは感じたけど」
「アスタロスは『守護王』と呼ばれていて、レギオン戦無敗を誇るレギオン『聖なる盾』のリーダーです。『慈悲の心』とは同盟のような関係で、マリアの隣の都市サイデルを拠点にしています。アスタロスは私が『慈悲の心』を発足した時からの付き合いで、ゲームの時から親切にしてもらってるんです」
「どうりで俺を見る目が違った訳か・・・」
レイは先程のアベルが自分に向けてきた目を思い出す。アベルほどではないが、アスタロスを除く全ての者がレイに対してお世話にも友好的とは言えない視線を送っていた。
自分だけならまだ良いものを、ヒノへも同じような視線を向けていた「慈悲の心」の者達。
アヤメの言っていた通り、随分と排他的なレギオンのようだと、レイはマリアの門を潜ると同時に気を引き締めた。
門を潜り抜け、都市内部に入ったレイを待ち受けたのは大量のプレイヤー達だった。所々に現地の人だと思われる人もいる。
全員がマリーの帰還を喜び、両手を上げて歓迎している様は、まるで魔王を倒した勇者の帰還を喜ぶ民のよう。
この歓迎ムードを見る限り、アロス達はマリアをまだ攻めてはいないように思える。
(どうやらまだマリアは攻められていないみたいだな。さすがにこれだけ早くマリーが戻ってくるとは思ってなかったかな)
マリアに襲撃された様子が無いことに、レイが安堵しながらマリーを見る。するとこのような歓迎は予想していなかったのだろう、マリーは口を半開きにしながら、目を泳がせていた。
レイ達は異様とも呼べる歓迎を受けながら、市街をC998で進んでいく。
マリアの都市は一言で言えば綺麗な都市であった。戦渦の跡は何処にも見られず、いたって普通の大都市。都市内で食料を育てている為、一部が大きな田畑になっている部分に違和感は感じるものの、それ以外は立派な建物が並んでおり、ソーラとは比較にもならない。
この都市だけ見れば、この世界が邪神に滅ぼされたなどと信じる者はいないだろう。
そう思えるほど、人々の生活する音が聞こえてくるような都市であった。
しばらく街道を走っていると、一際大きい別荘のような建物に着いた。
そこでC998から降りたレイはマリーに案内されながら、その別荘の様な建物の中に入る。アベル達も前にいるレイに怪訝そうな顔を向けながら、後を付いてきた。
建物のホールに入ると、こちらに駆けよってくる壮年の男性の姿が見えた。
「勇者様方! よくぞご無事で帰って来て下さいました!」
「マイネルさん。ご心配をお掛けしたようで、無事ソーラから帰ってくることが出来ました」
マイネルと呼ばれた男はマリーの姿を見て、安堵したように大きく息を吐き出す。
「無事であったなら良いのです。ところでそちらの方は?」
「この人はレイ。私達の命の恩人です。レイがいなければ今頃私達はこの場にいません。そして後ろにいるのがヒノさんです。ヒノさんはコロン村に住んでいた方です。とある事情がありまして、マリアに連れてくることになりました」
「そうですかコロン村にも生き残りが居たのですか。それと・・・もしやそこにいるレイ殿も勇者様でありますか?」
「はいそうです! レイ様は勇者の生まれ変わりなのです!」
マリーとマイネルの会話に割って入ったのはまさかのヒノだった。
勇者の事となると冷静さを失うヒノは勢い余ったようにレイが勇者の生まれ変わりだと発言すると、嬉しそうに頬を緩ませる。
途端にアベル達からの視線が更に怪訝なものへと変化していくのを感じたレイは、未だ興奮気味のヒノを自分の後ろに下がらせる。
「そっそうですか。それは何とも・・・」
「マイネルさん。ヒノさんの言葉は気にしないで下さい」
(アヤメちゃん。今回ばかりは君を呪いたい気分だよ)
何とも言えない苦笑いを晒すマイネルと、これまた何とも言えない引き攣り笑いを見せるレイとの間に、気不味い雰囲気が流れていくが、マリーがそれを救ってくれる。
「マイネルさん。すみませんが至急会議をする必要があるのです。前に借りた場所をまた借りても良いかしら」
「それはお安い御用でございます。すぐにでも使えるようにしてますので、いつでも自由に使って下さい」
マイネルはマリーに軽く頭を下げると、そのまま階段を上がっていった。
「では行きましょう」
マリーの後ろを付いていき、着いた先はいわゆる会議室だった。
マリーに進められるまま席へと着くレイ。マリーの右隣に座らされたレイが周囲を窺うと、殺意と呼んでも良いレベルの敵意を持った目がこちらを捉えていた。
マリーの左隣にはアスタロスが座り、アリシアはマリーの背後に立つ。ヒノもマリーから席を勧められたが、アベル達の視線が気になったのか、レイの後ろに小さくなって隠れるようにして立っていた。
アベル他、全員が座ったことを確認したマリーは、今回のソーラ遠征で起きたことを語りだす。
コロン村近くの林で襲撃にあったこと。
アロスの妹の話は嘘であり、マリーをソーラに呼び寄せ、殺害を画策していたこと。
アロス達の策により多量のゾンビがソーラに押し寄せてきたこと。
そして、その全てにおいて、レイがマリー達を助けてくれたこと。
レイがソーラに来た場面のみ、何故か感動の再会のような劇的な感じに脚色されてはいたものの、詳細に起きたことについて説明するマリー。
アロスが裏切っていたと聞いたアベル達は一様に驚いた様子を見せていたが、レイが阿修羅をたった1人で倒した話になると、今度は途端に胡散臭い目をレイに向ける。
はなから歓迎されていないことを知っているレイは特に気にする様子なく、むしろ相手にしてないとばかりに後ろに立つヒノを気にかけていた。
それが、アベル達には気にくわなかったのだろう。全ての説明を終えた頃、レイがこの会議に出席していることについて、異論が出始めた。
「話はわかりましたがその者と後ろにいる者は部外者でしょう。今後について話をする前に退席させるべきかと」
「そうだね。マリーを助けてくれたことには感謝するが君は俺達の仲間ではない。アロスが裏切っていることがわかった今、出来る限り素性の知れない者をマリーの傍に置くべきじゃない」
武士の格好をした男が、暗にレイに出ていけと話せば、アベルもそれに便乗してレイとヒノを会議室から退けようとする。
「マサムネにアベル、何を言ってるでありますか!? レイ殿はあの不滅王ですぞ! これ以上に心強い味方がありましょうか!」
アベル達のあまりに無礼な発言にたまらずアリシアが吠える。
「何を馬鹿なことを」
「おいおいアリシア。嘘に決まってるだろう。どうせこいつも『慈悲の心』に入りたくて、でまかせを言ったに決まってる」
「ふむ。不滅王か」
武士の男マサムネとアベルはアリシアに嘲笑を向けるが、アスタロスだけは顎に手を当てながら、レイに鋭い瞳を向けていた。
「嘘ではない! マリー様もレイ殿が不滅王だと言っているのであります!」
「なっ何を馬鹿な」
「マリー。一体どういう事だい? 不滅王はプレイヤーの噂が作った実在しない存在だ。マリーなら知っているだろうに」
マリーの名前が出ると嘲笑から一転、怪訝そうにマリーに視線を移す。
「別にどうという事はありません。私は私自身の目でレイの戦いを見て、そう判断したまでです」
マリーは表情を変えることなく、淡々とレイが不滅王であると言い放つ。
これに戸惑いを見せたのはアベルやマサムネ達である。不滅王とは噂が作った架空の存在というのがプレイヤー達にとっての常識である。
それをまさか、自分達の長がそれを実在すると言うとは思ってもみなかった。
どうやらマリーは確固たる確信を得ている様子。何を言っても聞く耳を持たないだろう。
となれば話を聞くべきは。
「おいレイといったか。いくら『慈悲の心』に入りたいからって嘘は良くないんじゃないか? マリーは助けてもらったことが原因でお前を信じているみたいだが、俺達は違う。今正直に話せば俺が『慈悲の心』に入れるように口添えしてやる。だから正直に嘘をついたことをマリーとアリシアに謝れ」
「そうですな。不義理を働く輩を入れる訳にはいかぬ。しかし自身の過ちを認め、今後はそのような事をしないと誓うならば拙者からも口添えしよう」
レイが嘘を付いていると信じて疑わないアベルとマサムネは、高圧的な物言いで真実を白状しろと告げる。
レイはチラリと隣にいるマリーに視線を向けると、マリーはいたずらっ子の様な顔をレイに見せた。
(はぁ~そういう事か。全く師匠使いが荒い弟子だな)
マリーの表情を見て、レイは何故マリーが会議にレイを参加させたのかを察した。
ソーラの隠し金庫でマリーが語った「慈悲の心」の依存体質。そしてレイが今身を持って感じている排他的な空気感。
マリーはそれを打破しようと、あえてレイを会議に参加させていた。それも自分の隣に座らせるという「慈悲の心」のメンバー達が羨むような特別待遇で。
マリーはレイにどうにかして「慈悲の心」変えて欲しいと思っているのだろう。
あれだけ信奉されているマリーが言えば、アベル達は言うことを聞くだろう。マリーが他のレギオンと仲良くしろと言えば仲良く、自分達で考えて動けと言えば言われた通りに動くのだろう。
しかし、それはあくまでも表面上のものでしかない。他のプレイヤーに優しくするのも、自分で考えて動くのも、理由がマリーに言われたからでは駄目なのだ。
それでは結局マリーに依存している事実は変わらない。マリー以外の誰かが目を覚まさせる必要があるのだ。
マリーはその役目をレイに託したのだった。
(まぁ確かに俺もあの人達のヒノさんを見る目とかで、多少はフラストレーション溜まってたし丁度良いのかな。それにこのままじゃマリーにとっても良くないだろうし。可愛い弟子の為に一肌脱ぐとしましょうかね)
レイは大きく深呼吸した後、黒いクマを備える眠たそうな目を見開く。
長からの許可は得た。
さぁこの礼儀知らずの馬鹿餓鬼共をどう料理してやろうか。
周囲からの鋭い視線を感じながら、レイの口元は三日月型に大きく歪んだ。




