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破滅した世界にて~銃とゾンビと邪神 ~  作者: ルルエル=テン
第二章
16/21

スキルと炎上と生存者

 農村部の平原を爆走していく1台の車。

 剥き出しの骨格が何とも猛々しいその車の後部には、セントリーガンが備わっており寄ってくるヘルガーやクロウといった雑兵を蹴散らしていた。


 四輪駆動軽汎用車C998。

 自律兵器スキルを高レベルまで上げることで使用可能になるこの車の助手席にはぐったりとした様子のレイがいた。

 そんなレイの隣には年相応にキャッキャとはしゃぐマリーがおり、後部座席には楽しそうにセントリーガンを打っ放すアリシアがいる。



 あれからレイ達は無事ソーラを脱出することが出来ていた。

 

 しかし、農村部に出ても、臭気瓶に誘われてソーラに向かっていたヘルガーやクロウに鉢合わせることが多発し、思うように進むことが出来なかった。

 先を急がねばならないレイ達は、このような所で足止めを喰らっている場合ではない。

 そこでレイがC998を出現させ、ヘルガー達をセントリーガンで薙ぎ倒しながら進んでいるのだが・・・


「う~。気持ち悪い・・・」

「レイがまさか乗り物に弱いなんて。こんなに気持ちいいですのに」

「そうでありますよ! 全身で風を感じるこの感覚! やはりいつ乗ってもこれは良い物であります! 不滅王ともあろうお方が情けないであります!」


 レイは見事に酔っていた。

 元の世界でも常備薬として酔い止めを持つほどに乗り物酔いが激しかったレイ。

 BK250の時に酔わなかったことから、この世界では酔わなくて済むのではと、淡い期待を抱いていたのだが、発進してものの数分でダウンしていた。


「っていうか。さっきからその不滅王って何なの? それって王の名を冠するプレイヤーの1人でしょ?」


 阿修羅との戦いを終えてからというもの、やたらとアリシアが自分のことを不滅王と呼ぶようになった。その理由がわからず、レイは酔って更に血色の悪くなった顔わ怪訝そうに顰める。


「それについてはまず不滅王についてレイに知ってもらう必要がありますね」


 そう言ってマリーは、不滅王の逸話についてレイに話し出す。

 不死鳥と呼ばれるようになったきっかけの出来事や、カジュラス、エピチュアに単身で挑み生還した話等、全ての話を終えた頃、レイの顔色に変化が現れる。


「やはり、思い当たる節があるようですね? ちなみにですがエピチュアは未だに入り方が立証されていない未攻略地帯であり、カジュラスはPKレギオン『邪道』の拠点です。レイなら私が何を言いたいのかわかりますよね?」


 幻想都市エピチュアは森に囲まれた都市である。その周囲の森には不思議な結界が張られており、その森に入った者達はどのようなルートを辿っても、5分後には何故か元の入口の場所に戻ってきてしまう特性を持っていた。

 森の内部にはゾンビは見えず、安全だということもあり、多数のプレイヤーがエピチュアを目指して森へと侵入していったが、有益な情報を得られることなく、全員入口に放り出されることに。

 そして5年経った今でも、まだエピチュアへの侵入方法はわかっておらず、一部のプレイヤー達は躍起になってその方法を模索していた。


 孤島都市カジュラスはPKレギオンの中で最大規模を誇る「邪道」の拠点であることから、PKプレイヤーの巣窟と化している場所である。

 そこでは毎日のように格付けと呼ばれる、PKプレイヤー同士での殺し合いが行われており、一般的なプレイヤーはまず近付こうとしない。


 つまり、先の話を実行出来る者など本来は存在するはずも無く、そんな行為をする者がもし居たとしたら、その者は間違いなく不滅王ということ。


 マリーの言いたいことが伝わったのだろう。レイは参ったなと額に手を乗せると、軽いため息を着いた。


「なんでかなぁ~。聞いた話の全部に覚えがあるよ・・・エピチュアも攻略したし、カジュラスにも欲しいアイテムがあったから1人で入った。不死鳥の話は何度も死にそうになったから良く覚えてる」

「ではやはりレイ殿が伝説の不滅王だったのでありますな!」

「いや俺自身はそんなつもりは全く無かったんだけどね・・・」



 自分の預かり知らぬ所で、そんな大層な名前で呼ばれていると知ったレイは、恥ずかしさからか顔を俯かせる。

 

「まぁレイならば当たり前とも言えますがね。私やシグレが王の名を冠するプレイヤーになっているのに、師であるレイがそうでないのはおかしいことですから」

「えっ? シグレってもしかしてあのシグレかい?」

「そうですよ。私とパーティーを組み、私と同じようにレイからプレイスキルを学んだ、あのシグレです。今では冒険王なんて大層な名前で呼ばれていますが」

「そうかあのシグレがか・・・」


 恥ずかしげに顔を俯かせていたレイも懐かしい名前に顔を綻ばせる。


 シグレは言動が特殊すぎて、コミュニケーションがちゃんと取れているのか毎回心配になっていた子。それがZWでも有数のプレイヤーになっていると聞き、教えていた身としてはどうしても嬉しくなってしまう。


「マリアに居ればおのずとあちらから顔を出しに来るでしょう。それよりレイが不滅王であるとわかったところで聞きたいことがあるのですが?」

「うん? 何かな?」


 マリーはハンドル操作を巧みにこなしながら、ソーラ脱出前に話していた、互いの秘密について話を切り出す。


「私の予想ではレイも私と同じスキル持ちだと思っています」

「ということはマリーもってことかな?」

「そうですね。私はシークレットスキル『サークルエリア』を持っています。これは本来単体にしか出来ないバフや回復に範囲を持たせるスキルです。私が自身にバフを行えたのもこのスキルのお陰です」


 シークレットスキルとは、何かしらの条件を満たした者のみが手に入れることが出来る特殊能力である。

 しかし、その何かしらの条件がわかっておらず、現在シークレットスキルを持つ者は数えられる程度しかいない。


 マリーのシークレットスキル「サークルエリア」はバフや回復の範囲化。

 本来直接撃ち込むことで効果を発揮するバフ弾や回復弾であるが、マリーの場合は最高で半径5mの範囲にいる仲間全員に、一発の弾丸でその効果をもたらすことが出来る。

 一発で複数人にバフと回復効果を与えられるということは、MP消費も大幅に減少させ、時間の節約にもなる。もちろん状況に応じてスキルのオンオフは切り替えられる為、対人戦で敵味方が入り乱れてる時は単体効果のみ、仲間が集まっている場所は範囲化でバフ又は回復と、使い分けも可能である。

  ただでさえダメージ管理が難しいZWにおいて、いっぺんにバフや回復が出来るだけでもかなりの反則技ではあるのだが、「サークルエリア」の真骨頂はそこではない。


 援護兵は本来、自身にバフや回復を行うことが出来ない。その為、対人戦においては真っ先に狙われるのが援護兵である。援護兵は戦闘を得意としている兵種ではないため、他の兵種から狙われると基本的には勝てない。


 しかし「サークルエリア」を持っているマリーだけは、ある条件下でのみ、バフや回復が可能になる。


 その条件とは、味方にバフや回復を範囲化でかけた時、その範囲内に自分がいること。直接はさすがにマリーでもバフや回復をかけることが出来ないが、間接的にであればそれは可能になる。

 これにより、自身にもバフと回復がかけられるマリーは持ち前の高いプレイスキルもあり、他の兵種に引けをとらない戦いが行える。

 相手側からしたら援護兵を倒したくても倒せず、ダメージは与えた傍から回復されるのだから堪ったものではない。


 この「サークルエリア」を使えるようになったマリーのレギオン「慈悲の心」は「不死の軍団」として他のレギオンに恐れられるようになり、後に最大規模を誇るレギオンへと成長することになった。


 マリーの説明を聞き、レイはこれまでマリーの使っていたバフの特異性について、ようやく理解出来たと納得顔で頷く。

 

「私のシークレットスキルについての説明は以上です。次はレイですよ? 後ろのアリシアもそわそわしてますから早く説明してあげてください」


 一通り「サークルエリア」についての説明を終えたマリーは乾いた喉を水で潤すと、今度はレイに秘密について教えるよう促す。

 後ろでは、アリシアがレイの後頭部を穴が空くのではと思うほどに強く見つめていた。


「そうだね。俺の持っているシークレットスキルは2つ。1つは『無限インベントリ』っていう名前通りの効果を持つスキル。そして2つ目は『ポイントムーブ』っていう、スキルポイントと属性値のポイントを好きな時に好きな場所に動かせるスキルだよ」


 レイが持つシークレットスキルは「無限インベントリ」と「ポイントムーブ」の2つ。

 「無限インベントリ」はその名の通りインベントリの上限が無くなるスキルであり、臭気瓶を多量に持っていたのも、コロン村に行く道中アヤメ達の食料や水分を賄えていたのも、全てはこのスキルのお陰だ。

 そして2つ目「ポイントムーブ」はガンスキルやフィジカルスキルに振り分けているスキルポイントを好きなタイミングで自由に行き来させることが出来るスキルである。

 このスキルによってレイは状況に応じてスキルポイントを移動させることで、ステータスを変化させ、マシンガン、ショットガン、ライフルとマジックガンの銃形態を変化させていた。

 ザグとの戦闘でも、罠を避ける際には風属性を上げて空中ステップを使い、ザグにワイヤートラップを仕掛けられた時には雷属性にポイントを移動させ、ジャミング兵器を使っていた。


 3年前、突如として発現したシークレットスキルに当初は戸惑ったレイであったが、このスキルのお陰で滞っていた攻略を進めることが出来るようになり、エピチュア攻略から、遂には封印の塔まで辿り着くことが出来ていた。


「不滅王は存在していた! これはビックニュースでありますよ! 王の名を冠するプレイヤーは全員がスキル持ちです! レイ殿も間違いなく王を語る資格のあるプレイヤーということ! マリアのみんなも驚くでありますよ!」


 レイのスキル持ち発言に最も興奮したのはアリシア。アリシアはそのまま迸るパトスを放つが如くセントリーガンを乱射乱撃していく。


「スキル持ちだとは思っていましたが、まさか2つも持っているとは。さすがレイですね」

「でも正直このスキルよくわかんないんだよね。ZW始めて3年ぐらい経った頃、急に手に入ったものだから」

「そうですか。私を含め他の王と呼ばれるプレイヤー達もレイと同じ頃にスキルを授かったみたいで、理由も要因もわかってないのです」

「邪神が絡んでるのかもね」

「そうかもしれません」


 王と呼ばれるプレイヤー達が全員同じタイミングでスキルを授かったとなれば、何かしらの狙いがあってのことだと容易に推測出来る。

 となれば、それを仕掛けたのは邪神なのだろう。


 またまだこの世界についての情報が足りない。


 レイはマリアに着き、諸々の事が落ちつけば、ひとまずこの世界の情報を集めるべく王都に向かおうと決意する。王都には馬鹿でかい図書館があった。そこでなら何かしらの情報を得ることが出来るだろう。

 アヤメ達もマリーやアリシアになら任せられる。少なくともソーラやコロン村にいるよりかは安全だ。

 ヒノも1人寂れた村で暮らすよりアヤメ達といた方が良い。


 


 数日程度しか空いてないのに、やけに懐かしく感じるアヤメやキータの顔を思い出しながら農村部を進んでいった。









 半日かけて辺りが真っ暗になった頃、ようやくコロン村が見えてきたのだが。


「なんでコロン村が燃えている!?」


 ほのぼのとしていた風景が漂っていたはずのコロン村は火炎に飲まれていた。


「まさか村を燃やすとは・・・」

「なっなっなんでコロン村が・・・」


 3人とも信じられないといった表情のまま、火に包まれているコロン村を見る。村全体に火が回っているようで、近くの林にまで火が燃え移っていた。


 それを見たマリーはハンドルを強く握りこむと、アクセル全開のままで村へと急ぐ。

 よく見れば、到着時には見えていたコロン村を包む透明な結界が消えている。あれではゾンビの侵入を許すことになる。

 レイは助手席の扉を開け、BK250を出現させると、アクセルをふかしながらそれに飛び乗る。

 先行するような形でBK250爆走させるレイは、両手にマシンガンと手榴弾を持ちながら、村の中へとそのまま入る。

 乗り捨てるようにBK250から飛び降りたレイは、大声でアヤメ達の名前を呼ぶ。


「アヤメちゃん! キータ君! ヒノさん! 無事なら返事をしてくれ!」


 燃え盛る村の中を歩きながら大声で名前を呼び続けるが、返事が返ってくることはない。


 アヤメ達が借りていた家やヒノの家を探そうとするが、2つとも既に破壊されており、アヤメ達の姿もない。不幸中の幸いか、まだアヤメ達の死体らしきものも無かった。

 

 その後、心当たりのある場所を全て探すが、アヤメ達の姿を発見することは出来ず。


 そうこうしている間にマリー達がコロン村に到着した。


「レイ。村にいた人達は!?」

「まだ見つかっていない。後探してないのはあそこだけだ」


 C998から勢いよく飛び出して来たマリーとアリシアに、レイは目線でまだ探していない場所を示す。

 目線の先にはマリー達が使っていた村で一番大きな家。

 燃え盛る火炎に包まれながらも、唯一火が通っていないその家はまるで、レイ達を招き入れているような雰囲気を醸し出している。


「私が先頭で入ります」


 守備兵であるアリシアが先頭をかって出ると、ゆっくりとドアノブに手をかける。


「行きます」


 アリシアが勢い良く扉を蹴飛ばし中へと入っていく。レイとマリーもすぐ後ろについていき、家の中へと入っていくが、家の中は身の毛もよだつ様相が広がっていた。


 倒れている人間の数は5人。既にこと切れているのかピクリとも動かない。

 塔のように積み重なるようにして積み上げられた5人は下にいる4人に四肢欠損が見られた。そこからジークを含めた「慈悲の心」のメンバー達なのだと予想出来る。

 仲間が動かず積み重なっているのを目の当たりにしたマリーとアリシアは、恐る恐る仲間の顔を確認しようと近づいていく。


「これはっ!」

「なんと酷いことを・・・」


 一番上に被さっている遺体の顔を覗きこんだマリーとアリシアは、思わず後退りをする。

 遺体の顔は、皮が全て剥がされており、赤い表情筋が剥き出しになっていた。


 (ん? どういうことだ?)


 後ろで見ていたレイが何か違和感のようなものに気付く。そしてーー


「アリシア! すぐにシールドを前面に展開して!」


 焦ったようなレイの声にマリーを守るようにシールドを展開するアリシア。

 アリシアがシールドを展開して数瞬後、積み重なった遺体の塔が爆発を起こした。遺体を貫通して小さい金属の玉がマリー達を襲うが、アリシアのシールドがそれを全て防ぐ。


 爆破された遺体は肉塊となって部屋中に飛び散り、室内が一気に赤色に染まった。


「なんてことを・・・」

「まさか遺体を囮にしてマリー様を殺そうとしたのでありますか」

「相手は相当狡猾みたいだね。あれだけのことをしておいて、まだマリが生きて戻ってきた時に備えてるなんて」


 感心したような口調で話すレイだが、内心はかなり憤っていた。死んだ人間を罠として使うなど、どう考えても正気の沙汰ではない。

 少し前まで平和な世界で暮らしていたプレイヤーとは思えない残虐非道な行いに、レイは気付けば奥歯を強く噛み締めていた。


「マリ、アリシア。ここは危険だ。いつ炎が回ってくるかわからないし、他にも罠があるかもしれない」


 レイが家から出ようと声をかけるが、仲間が目の前で爆発するという、常人なら精神に異常をきたしてもおかしくない場面に遭遇したマリーとアリシアは、ショックのあまり固まってしまい、声が届かない。

 レイは仕方ないと少々強引にマリーとアリシアの手を引き外に出る。


 外に出ると後ろのログハウスの2階部分に火が移っていた。早くこの場から逃げなければ、火に囲まれてしまう。


 レイはいまだに目の焦点が合わないマリーを正気に戻すべく、少し強めにマリーの頬を両手で挟んだ。


「マリ! ショックなのはわかる。けど今は早くこの場を去り、マリアに向かわないと! コロン村があんな状態になっているんだ。マリアも危ないかもしれない」

「あっひゃい!」



 鼻と鼻がくっつきそうな距離でマリーの目を見つめるレイに、マリーは大きく目を見開くと慌てたように飛び退く。


「アリシアもだ! マリーを守る君までマリーと同じように固まっては護衛の意味がないぞ」

「確かに動揺してしまいました。レイ殿がいなければマリー様も危なかった・・・以後このような事がないようにします」


 自分の失態を恥じるように顔を顰めたアリシアは、胸の動悸を治めるように深呼吸を繰り返すと、2度と同じ過ちは繰り返さないと真剣な顔で頷く。


「じゃあひとまずはマリアに向かうよいいね?」

「承知したであります」

「・・・わかりました」


 アリシアはレイの合図で素早くC998の後部座席に乗り込む。レイとマリーもそれぞれ運転席と助手席に移る。

 するとマリーがハンドルを握りながら小声でレイに感謝と謝罪を口にした。


「レイだって新人の子達が見つからず苦しいはずなのに私達だけ取り乱してごめんなさい。いつもレイには助けられてばかりです。ありがとう」

「悪いのはマリじゃない。これを引き起こした人達だよ」


 レイがなんてことはないとマリーの頭を数回ポンポンと叩くと、マリーの顔が綻ぶ。

 少し元気を取り戻したマリーはアクセルを強く踏み、炎で燃えるコロン村を抜けていった。



「コロン村からマリアまではどれくらい掛かる?」

「このまま休みなく突き進めば夜明けぐらいには」

「そうか。じゃあ車内で仮眠を交代で回しながら進んで行こう。何があるかわからないし、多少は休んでおいた方が良い」

「わかりました。アリシア、まずはあなたから休んで下さい。索敵と排除はレイがやってくれますから」


 コロン村を抜け、林の中へと入ったレイ達がマリアを目指し進んでいると、C998のライトに一瞬人影のようなものが映った。

 

「ゾンビか」

「わかりません。しかしもし生存者であれば」


 ゾンビの可能性の方が高いが、もしアヤメやキータ達だったらと思うと、確認せずにはいられない。

 マリー達をC998に残し、人影が映った林の先を覗くレイ。


「俺の名前はレイ! もしコロン村の生存者なら声を上げてくれ!」


 レイは林に向かって大声で叫ぶ。敵の可能性もあるため、臨戦態勢のまま何度か叫んでいると、ガサガサと草木が揺れる音が聞こえた。

 念のため、マシンガンを構えながら草木の揺れる方向へと銃口を向ける。段々と草木の音が大きくなっていき、レイの緊張感がマックスまで高まった時。


「レイ様!」


 全身を泥だらけにした女性が茂みから飛び出し、レイに強く抱き付いてきた。


「ヒノさんなのかい?」

「はい。ヒノでございます」

 

 その女性は泥で汚れてはいたが、確かにヒノだった。

 よほど焦って逃げてきたのか、全身に草木で切ったような細かい切り傷が出来ている。


「ヒノさん。アヤメちゃん達は」

「すみません。私はアヤメさん達に言われて先に逃げて身を隠していまして、あまり詳しいことは・・・」

「わかった。とにかく今はこの林から出よう」


 レイはそう言うと、ヒノの身体をひょいと持ち上げる。

 コロン村ではあまり良い物を食べれていなかったのか、ヒノの体重は非常に軽かった。

 慌てるヒノをそのままに、お姫様抱っこの要領でC998の後部座席まで運び、マリーにお願いして出発する


 幸いにもヒノは草木による切り傷のみで大きな怪我はしていなかった。

 

「ヒノさん。わかる範囲で良いから何があったか教えて欲しい」

「はい。わかりました」


 後部座席で並んで座ったレイは、コロン村がいつ、何故ああなったのかをヒノに聞く。


 ヒノは一回強く目を瞑った後、コロン村が炎に包まれた時の話を始めた。


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