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破滅した世界にて~銃とゾンビと邪神 ~  作者: ルルエル=テン
第二章
14/21

迎撃と恨みと誤算

 ガリレウはただ呆然と見つめることしか出来なかった。

 

 最後方にてマリー達を追っていたガリレウ。

 煙幕のせいで、人影程度しか見えないマリー達の姿が少しずつ明確になってきた時、それは起きた。


 まず最初に狙撃兵である仲間がやられた。

 まさかマリー達以外のプレイヤーがソーラにいるとは思っておらず、ガリレウ達はこの狙撃で浮き足だった。

 次にやられたのも別の狙撃兵の仲間。

 まるで遠距離攻撃出来る者を率先して狙っているような動きに、ガリレウがまず疑ったのはフード姿の男だった。


 そして3人目がやられた頃、ようやくシールドを展開させる仲間達。

 しかし、弾丸は易々とシールドを貫通し4人目、5人目と頭を爆散させていく。

 ここまでくると、いくら肉欲に溺れ正常な判断が出来ない者達であっても気付いてしまう。この場に居れば間違いなく死んでしまうと。

 踵を返したところで撃たれたのが6人目、そして背中を向けてこちらに走ってくるところで心臓を撃ち抜かれたのが7人目。

 そして最後、ガリレウの側近であり、一番前で地面に蹲っていたチョイスの頭が弾けた。


 次は自分かと身構えるガリレウであったが、何故か弾丸は飛んでこない。

 これ幸いと逃げ出そうとするガリレウであったが、煙幕の中からハンドガンを構えたマリーとガトリングを構えるアリシアが出てきた。


 マリー達は即座にガリレウ目掛けて銃弾を放ってくる。シールドを前面に展開して、それを防ぐガリレウであったが、アリシアのガトリングの威力は高く、ガリガリとシールドが削られていく。

 凄いスピードで削られるシールドを見て、舌打ちを鳴らしたガリレウは、インベントリからある小瓶を手に取ると、勢いよく飲み干した。


「うぐ!」


 小瓶を飲み干したガリレウはくぐもった声を出すと、胸の辺りを押さえる。その間もマリー達の攻撃は続き、段々とひび割れが出来ていくシールド。

 シールドに細かいひびが多数でき、いざ割れようとした瞬間、ガリレウがもの凄い速さで銃弾を避け始める。建物の壁を蹴り上げ、更には空中ステップまで踏み出すガリレウ。

 

「あれは何でありますか!」

「まさかシルフィの涙ですか」


 シルフィの涙とは、とある場所に生息する妖精型ゾンビのボスであるシルフィを倒すことで、手に入るシルフィの眼球を、他のアイテムと調合することで作れる強化アイテム。

 その効果は一時的な機動力大幅強化に加え、持っている属性値に関係無く、レベル6の風属性の恩恵を得れるという物。

 シルフィの眼球のドロップ率はとても低く、シルフィの涙はレアアイテムの1つとして数えられる強力なアイテムである反面、使えば効果が切れると共に死んでしまう欠点も持つ曰く付きのアイテムでもある。


 シルフィの涙を使ったガリレウは、体が紫色に変色し、口元から涎を垂らしている。パッと見は完全なゾンビである。

 

「動きが速すぎます! 当たりません!」

「アリシアは無理に当てようとせず、相手の動きを誘導して下さい! 私が当てます!」


 俊敏な動きに標準を合わせることが出来ないアリシアが焦った声を出すが、マリーは冷静にガリレウの動きを見定めながらアリシアに指示を出す。

 マリーの指示に従い、ガリレウの動きを導くようにガトリングを放つアリシア。ガリレウはアリシアのガトリングを避け、建物の外壁を蹴り上げ跳躍する。

 アリシアはすかさず空中にいるガリレウに標準を合わせ引き金を引くが、ガリレウは空中ステップを踏み、それを回避。

 引き金を引きながらガリレウの後を追っていくが、再度空中ステップを踏まれて、避けられてしまう。


 しかし、避けられたアリシアは、悔しい顔一つ見せず、自分の使命を果たしたかのようなやりきった顔を見せていた。


「さすがアリシアです」


 次の瞬間、ガリレウの右肘が撃ち抜かれる。

 撃ち抜いたのはマリー。火力の低いハンドガンであるため、腕が弾け飛ぶまではいかなかったものの、レイ直伝の関節を狙う正確無比な射撃は、確実にガリレウの肘関節を破壊した。

 たまらず、ガリレウは右手に持っていたマシンガンを地面に落とす。



「イデェイデェ! ギザマラァ!」


 シルフィの涙の副作用か、人の言葉すら上手く話せなくなってしまったガリレウは、濁った瞳をマリーに向ける。


「リロード完了したであります!」

「先程と同じ作戦でいきます。確かに速いですが動きが単調です。これでは足の速いヘルガーを相手にしているのと同じ。私とアリシアなら倒せます」


 油断無く銃を構えるマリー達であったが、ガリレウはマリーに右肘を撃たれたのを警戒しているのか、一歩引いた位置から様子を窺うようにして動かない。

 数瞬の間、互いに睨み合う時間が続くが、ガリレウは何を思ったのか、踵を返して門の方へと逃げ出した。


「逃がすわけには!」


 マリーはハンドガンを放ちながら後を追うが、シルフィの涙で強化されたガリレウに距離を離されていく。


「マリー様! それ以上深追いは危ないであります! 銃声を聞き付けてもうじきゾンビが集まってきます。早くレイ殿と合流しましょう!」


 これ以上は危険だとアリシアが声をかけたことで、追う足を止めるマリー。


「シルフィの涙を使ったのなら、遅かれ早かれ死ぬことになりましょう。襲撃者を全員倒す目的は達成であります」


 アリシアが達成感に満ち溢れた満足そうな顔をする一方、マリーは両手を強く握り締めながら、唇を強く結んでいた。


 (これがレイであれば、まず相手の機動力を奪おうと膝を狙ってたはず。私は相手からの攻撃を恐れるあまり、攻撃手段である銃を持つ腕を狙ってしまった。アリシアが居れば多少の攻撃は大丈夫だというのに。あそこで膝を撃ち抜いていれば、逃げられることはなかった)


 自分の選択ミスにより逃げられたと、強い後悔に苛まれながら、マリーはレイとの集合場所へと向かった。






ーーーーーーーーーー



「アイヅラ! ゴロジデヤル!」


 右肘を押さえながら中央通りを走るガリレウ。このままでは負けると思い、苦肉の策でシルフィの涙を使ったはいいが、結果は惨敗。



 まさか援護兵であるマリーにあんな射撃テクニックがあるとは考えてもいなかった。さすがは王の名を冠するプレイヤーである。 

 などということはガリレウの頭にはなかった。

 ガリレウの頭にあるのはただマリーとアリシアを辱しめて、殺してやりたいという願望。

 しかし、シルフィの涙を使って、正しく命懸けの強化を施しても2人には勝てなかった。特にマリーに感じた圧倒的プレイスキルの差は、ガリレウを逃走させるに至るほどのものがあった。


 何としても、舐めた口を聞いてきたあの2人だけは道連れにしてやりたいが、真っ正直から挑めば、間違いなく敗れるのは自分。それに残された時間も多くない。

 身体は徐々に腐ったように変色していき、思考も段々とぼやけてきている。

 このままでは、何をすることなく道端で路傍の石と化してしまうだろう。


 焦る気持ちを燃料に走り続けていたガリレウはいつの間にか門の前まで来ていた。こんな所まで来てしまってはもうマリー達を探すような時間は無い。

 このまま野垂れ死ぬしかないのかと、自身の運命を呪っていた時、ふと目に入ったのは門番の詰所。

 

「ゴレダ! ジネジネジネェ!」


 朽ちゆく顔を盛大に歪ませながら、ガリレウはゆっくりと詰所へと向かった。





ーーーーーーーーーー



 マリー達はレイの待つ衛兵の詰所の屋上へと着いていた。


「お疲れ様マリ。それにアリシアも」

「私は何もしてないです。むしろ逃がしてしまいました」

「マリー様は銃弾を命中させていましたが、私は一発も当てることが出来ませんでした。何もしてないと言うならばそれは私であります!」


 マリーがガリレウに弾丸を命中させたのは、アリシアの協力あってのことなのだが、アリシアは敢えて自分の方が駄目だったことを強調することで、落ち込んだ様子のマリーを慰めようとする。


「俺は正直マリの腕に驚いてるよ。相手はシルフィの涙を使用していたんだろ? 何回かあれを使った連中とやり合ったことあるけど、あれ相手にハンドガンで肘破壊するとか並大抵の腕じゃ無理だよ。それにアリシアに相手の動きを誘導させるのも良い作戦だ。それに引き換え俺は狙撃のタイミングを早まって、射程外に1人残してしまったからね。誰がミスをしたのか問われれば間違いなく俺だよ」


 お世話抜きにレイはマリの射撃スキルの高さを称え、そして内心驚いていた。


 あれから4年は経ったとはいえ、レイの記憶にあるマリーは、オドオドしていて、いつも自信のない素振りを見せる女の子だった。

 それが今では、援護兵という戦闘に向いてない職種でありながら、シルフィの涙という強力なアイテムを使ったプレイヤーに勝てるほどの高スキルプレイヤーになっているのだから。

 気付けばレイは、いつもの癖でマリーの頭を撫でていた。マリーは顔を赤くしながらプルプルと小刻みに震えている。


 (それでも逃がしてしまったのが、余程悔しいんだろうな)


 それを見ながら、マリーの震えが悔しさからくるものだと、マリーの向上心の高さに感心するレイ。

 もちろん、マリーの中に悔しさがあるのは間違いない。しかし、顔を赤らめて小動物のように震えているのは別の理由であるのだが、レイは気付いていない。








「じゃあ襲撃者も倒したし、後は脱出の算段だけなんだけど・・・ってどうしたのアリシア?」

「いや別に何でもないであります」


 マリーの顔の赤みと震えも引き、ようやく話を始めたレイであったが、少し前からアリシアのジト目に晒され、居心地の悪さを感じていた。


「ならいいんだけど」


 アリシアが視線を反らしたことで、妙な圧迫感から解放されたレイは、早速互いの位置取り等について話していく。


「多分なんだけど臭気瓶は門の近くに撒いてるんだと思う。マリ達を閉じ込めるという目的を考えればまず間違いない。だからまずはソーラの中でも一番奥に位置する港に、あるだけの臭気瓶を全て撒いて、俺が一回門を開ける。阿修羅が出てきたら俺が囮になって逃げるから、マリ達は再度門を開けて欲しい。門を開けた後は見張り台でも近くの建物でも良いから、高い位置に逃げて、階段なりを爆破してゾンビが入れないようにしておく。2人は爆破系の兵器は得意じゃないみたいだから、門を開ける前に俺が出した手榴弾とかC4を渡しておくよ」


 レイの説明に深く頷く2人。そんな2人の様子を見て、頷き返したレイの「よし」という言葉を合図に建物から出ようと動き始める3人。


 建物の扉を開け、いざ港に向かおとした時、遠くから金属が噛み合うような音が聞こえた。


 まさかと思いながら中央通りの方へと視線を向けると・・・


「なんで・・・」

「そんなまさか・・・!」

「ありえないであります・・・」


 そこにはゆっくりと開いていく門が見えた。


 そして、門が開き出してすぐに遠目から見てわかる程の巨躯を持つ阿修羅が現れる。

 しかし阿修羅は何故か門を閉めることなく、門の前で静観する構えを取り出した。


「まずい! このままじゃゾンビがソーラに雪崩れ込んでくる!」

「もしかしてガリレウが!? 死ぬ間際に門を開けたのですか!?」

「そんな!? 何故わざわざそんなことをするでありますか!」

「道連れかな。どうせ死ぬなら巻き添えにしてやれってやつ。本当に根っからのPKプレイヤーだね。阿修羅は生きてる人間を外に出さない為に門を閉める。しかし今は仲間であるゾンビが門の前に集まってるんだ。そりゃ閉めはしないだろうね」

「そんなことよりどうするであります!? まだ港に臭気瓶を撒いてないであります!」

「港に臭気瓶を撒くことは必須かな。じゃないと門からゾンビが消えてくれない。ひとまずは港に臭気瓶を撒きに行く」


 中央通りに溢れてくるゾンビ達を見ながら、険しい顔をする3人であったが、どの道打てる手は1つしかない。

 今回のことを企てた主犯格の目的を阻止するには、出来る限り早くソーラを脱出しなければならないのだから。


 レイ達は急いで港へと駆けていった。


 


 




 港まで辿り着いたレイは、隠し金庫のあった建物の屋上まで昇ると、インベントリから多量の臭気瓶を取り出す。


「レイのインベントリはどうなってるのですか? それだけ大量の臭気瓶なんて普通は持ち歩かないはずなのですが」

「こんなに臭気瓶を持っているなんて、実はレイ殿がPKプレイヤーとかいうオチではありませんよね?」

「それは心外だな。昔ゲームで大量のPKプレイヤー達に襲われた時があってね。その時に何かしら使うかなと思って作っておいたんだよ」


 単純に臭気瓶の量の多さに驚くマリーと違い、アリシアはレイに怪訝そうな顔を向ける。


 アリシアが何故レイにそんな顔を見せたのか、それは臭気瓶を作成するのに必要な素材に関係がある。


 臭気瓶は臭いによってゾンビを集めるアイテムである。ではゾンビを集めるその臭いとは何なのか?


 それは人間の臭いである。個体差はあるもののゾンビは視力や聴力だけでなく、嗅覚でも人間を感じとることが出来る。

 臭気瓶はその人間の臭いを濃縮したものであり、その濃縮した臭いがゾンビの嗅覚に訴えかけることで、ゾンビを集めることが出来るのだ。

 となれば人間の臭いを濃縮して出来るこのアイテムの素材が何であるかはおのずとわかってくるだろう。

 

 それはもちろん人間である。


 ZWでは死んだプレイヤーは12時間の間リスポーンされずそのまま遺体が残る。プレイヤー達はこれをデスペナルティと呼び、死んだプレイヤーは12時間はゲームを再開出来なかった。

 そして、その残ったプレイヤーの遺体はZWでは素材扱いになるのだ。

 プレイヤーの遺体は3つの種類に別れており、1つはゾンビに喰われ、食い残しのような形、2つ目はゾンビに噛まれる等して、そのままゾンビになった形、3つ目はプレイヤーにキルされた形。

 2つ目のゾンビになった者は死後6時間以内の者であれば血清の素材に、3つ目のプレイヤーにキルされた者は臭気瓶の素材になる。


 アリシアは、プレイヤーキルによる遺体を素材とすることで手に入る臭気瓶を、レイが多量に持っていたことで、レイが実はPKプレイヤーではないのかと疑ってしまった。


 アリシアにとって、そもそもレイの存在自体まだ定まっていない。

 見たことも無い発想でマリー達を助けだし、狙撃兵でも無いのに一発必中の技を見せ、そして本来1人で持ち得る量ではない臭気瓶を持っている。

 先ほどの発言も、大量のPKプレイヤーに襲われたと言っていた。話しぶりからしてその全てを撃退したのだろう。でなければこれだけ多量の臭気瓶を持っている説明になっていない。

 マリーがレイを慕っていることから悪い人でないのはわかる。危険を顧みずに自分達を助けに来てくれたのだ。敵ではないことは間違いない。

 しかし、レイの事を知れば知るほど、アリシアの中ではレイに対して恐怖にも似た、形容し難い感情が沸き上がってくる。

 アリシアはレイが敵でなく、味方で居てくれて心底良かったと人知れず安堵するのであった。





「さて、正直かなり想定外の事が起きてるけど、やることはそんなに変わらない。まず屋上からこの臭気瓶を全て撒く。これだけの量だ、間違いなくゾンビ達はこの港に集まってくる。そして俺達は屋上を伝って門を目指す。門の近くの建物、又は見張り台まで辿り着いたら、足場を崩してゾンビが昇ってくるのを防ぎながら、門の前のゾンビがいなくなるのを待つ。そしてゾンビが居なくなったら素早く脱出だ。覚悟は出来たかい?」

「私はいつでも大丈夫です。臭気瓶を投げるタイミングでバフをかけますから、出来る限り1ヶ所に集まっておいて下さい」

「わっわっ私も、だっ大丈夫であります!」

「もし阿修羅が来れば俺が対処するから、2人は別のルートに入ってくれ」


 真剣な表情で頷く2人を見たレイは、屋上から多量の臭気瓶をばら撒いた。パリーンっとガラスが割れるような音が響き、港のど真ん中に紫色の液体が広がっていく。

 途端に聞こえてきたのは、地響きのような足音。門の周辺に集まっていたゾンビ達が我先にと港まで駆けてくる音がソーラ中に響いた。


「バフいきます!」


 レイが臭気瓶を投げたタイミングでバフをかけるマリー。

 かけたバフは機動力強化、スタミナ強化、シールド消費減少、MP消費減少、ヘイト減少、空中ステップ+1の6種類。

 

「そういやマリのかけるバフは特殊だよね。無事に脱出出来たらそのカラクリを教えて欲しいところだね」

「あら。そういうレイこそ多量にアイテムを保持しているとこや、1人では到底扱えるはずのない幅で兵器を使える秘密を教えてもらえるのかしら」


 本来では無理な芸当とされることを悠然としてこなす2人。互いにそれに気付いてはいたものの、聞ける状況ではなかった。


 もし生きて脱出出来れば、そのことについて話をするのも良いかもしれない。ZWについて互いに知らない話もあるだろう。

 生と死の境目にありながら、そんな緊張感もくそもないことを考えるレイ。


「よし。じゃあ行きますかっと!」


 足音が段々と大きくなってくる中、レイ達は建物から建物へと跳び渡りながら、門へと一直線に進んでいった。




 ほどなくして、下の大通りを駆けながら進んでいくゾンビの群れが視界に入る。人型ゾンビに紛れ、ヘルガーやクロウ等の獣型ゾンビの姿も見える。


「クロウが向かってきます! その数10!」

「飛行しているから俺達を捕捉しやすいんだろうな」

「呑気に推測なんてしなくていいであります!」


 通路を飛んでいたクロウの一部がレイ達に気付き方向転換。一気に上昇してくると、錐揉み回転しながら鋭い嘴をこちらに向けてくる。

 咄嗟にアリシアが前に出てガトリングを放つ。10羽のうち7羽は撃ち落とされるが、残りの3羽は、さながら電動ドリルのように身体を回転させながら迫ってくる。

 

「すみません! 残り3羽撃ち漏らしたであります!」

「あいよっと!」


 すかさずレイがアリシアと立ち位置を入れ替えるような形で前に出ると、ショットガンを構える。そしてクロウの嘴が差し迫ろうとするタイミングで弾丸を発射。

 至近距離で散弾を食らったクロウ達の身体が弾け、レイの足元が真っ赤に染め上がる。


「あれ? レイ殿のマジックガンはライフルでは無かったのではないですか?」

「後でマリ共々教えてあげるから、今は周囲を警戒してっと!」


 レイの持つ銃の形態がライフルではないことに首を傾げるアリシア。そんなアリシアの後方から新たなクロウが向かってくるのを確認したレイは、即座に銃形態をマシンガンに変更して連射。

 さっきと同じ10羽がアリシアの背中に目掛けて向かってくるが、その全てを撃ち落とす。


 (私がガトリングで7羽しか撃ち落とせなかったのに、連射、威力の劣るサブマシンガンで全てを撃ち落としたであります!? ん? サブマシンガン・・・?)


「アリシア! このままでは通りにいるクロウが全てこちらに来ます。ひとまず進路を変更して迂回しながら門に向かいます!」

「あっ! 承知したであります!」


 レイの超絶技巧の射撃に思わず唾を飲み込むアリシアであったが、マリーの一声により我に返ると、マリーの前に立ちシールドを展開する。

 向かってくるクロウ達を力付くで押し退けながら、となりの建物へと移動する。


「レイも早く! アリシアはサポートを!」


 マリーも細かい指示を出しながらハンドガンでクロウを撃ち落とすが、連射能力の低いハンドガンでは群れで襲ってくるクロウを捌ききれない。

 殿のような形で、未だにさっきまでマリー達が居た建物の屋上でクロウを打ち落としていたレイがマリー達の建物へと移ろうとした時。今一番会いたくない相手が姿を現した。


 屋上の端に掛かる6本の腕。その手のサイズは人間1人程度なら簡単に潰してしまうであろう大きさを持っていた。

 クライミングのようにして屋上まで登ってきたそいつは、まるでレイとの再会を喜ぶかのように咆哮を放つ。


「グオオオオオオ!!」

「一番会いたくない相手に一番会いたくないタイミングで出会ってしまうとはね」


 悠然と見下ろしてくる阿修羅を前にして苦笑いしか出来ないレイ。周囲のクロウを撃ち落としながら、少しずつ距離をとってはみるも、阿修羅はたった一歩でその距離を詰めてくる。


「レイ!」

「マリー様! レイ殿が心配なのはわかりますが、阿修羅が来た際はレイ殿が囮になり、互いに別ルートで門へと向かう約束であります!」

「くっ! ですが!」

「それとも、マリー様の師であるレイ殿は阿修羅とクロウごときに遅れをとるような方なのでしょうか」

「そのような訳ありません! レイがゾンビに遅れをとることなど・・・」

「では私達は私達に出来ることをするであります。クロウどもをどうにかすれば強化弾の射線も通ります。まずは周囲の敵の殲滅、次に射線が通りやすい場所の確保であります」

「そうですね。ありがとうアリシア」

「お安いご用であります!」


 レイがクロウの群れと阿修羅に囲まれたのを見たマリーは取り乱した様子を見せるが、そこはアリシアの忠言により、瞬時に冷静さを取り戻す。


 マリーはレイの身を案じながらも、こちらに向かってくるクロウの集団を撃墜していった。








「さてさて。こりゃ余裕ぶっこいてるわけにはいかないかな」


 絶え間なくクロウが攻めてくる状況の中、レイは阿修羅の拳を避けることしか出来ず、常に後手に回るしかないところまで追い詰められていた。

 辛うじてクロウへの射撃は出来ている為、クロウの数は減っている。しかし、ただでさえ狭い屋上の床が、阿修羅の度重なる拳撃により陥没してしまい、段々と行動出来る範囲が狭まっていた。


 このままでは屋上が耐えらなくなり、いずれ崩落する。そうなればレイはゾンビの群れの蔓延る大通りに投げ出されてしまうだろう。それに隣の建物にはマリー達もいる。

 レイは出来るだけ広いフィールドで、尚且つマリー達から離れた場所がないか周囲を見渡した。


 (不味いな。クロウ相手にドンパチやり過ぎた。ゾンビ達が音に誘われてこちらに流れてきてる)


 レイの視界に入ったのは、ゾンビの群れの一部が建物の中に入っているところであった。

 屋上の床が崩落しようが、ゾンビ達が昇ってこようが、どっちにしろその時点でレイは詰む。

 やはり急いで場所を移らなければと、レイはショットガンへと銃の形態を変化させると、阿修羅に向かって真っ直ぐに走っていく。

 6本の腕が次々とレイを襲うが、レイは最初の1本を前傾姿勢で回避し、次を小さいサイドステップで何とか躱す。僅かに体勢がぐらついたレイに、3本目と4本目の拳が同時に迫るが、レイはその拳をギリギリまで引きつけてショットガンを発砲。阿修羅の拳がドス黒い血を撒き散らしながら上へと跳ね上がる。

 その隙に体勢を整えたレイは、阿修羅が残り2本の腕を叩きつけてくるタイミングに合わせて急加速する。

 2本の拳は地面殴る結果となり、それにより屋上に大きな亀裂が入った。

 レイはそのまま最高速度を維持したまま、阿修羅の股の間をスライディングで抜けていく。置き土産とばかりに阿修羅の股へと3発ショットガンをかましたレイは、そのまま空中へと身を投げ出した。


 レイが空中へと身を投げた直後、さっきまで居た屋上の床が遂に崩落する。


「ギリギリセーフっと!」


 下に目を向ければ、そこには多量の人型ゾンビが長蛇の列を為して港に向かっているのがわかる。

 何とか屋上の崩落という最大の危機を脱したレイであったが、空中に身を投げ出したことで新たな危機が迫ってきた。

 それは大通りにいたクロウの襲来。

 人型ゾンビと共に港に向かっていたクロウ達は、真上に飛び出してきたレイに気付くと、アッパーカットのように急上昇しながら嘴を向けてくる。


 レイはすかさず銃形態をマシンガンに変化させ、空中ステップを一回踏むことでそれを回避。

 背後を取ったレイはマシンガンを連射し、クロウの背中を蜂の巣にする。しかし、クロウの数はそれだけでなく、他のクロウの群れが、マシンガンを連射中のレイの左脇腹に突撃してくる。

 レイはマシンガンを連射しながらもシールドを左胴体部分のみに展開し、キツツキのようなクロウの攻撃を防ぎつつ、空いた左手で手榴弾をクロウの群れへと投げ込んだ。


 投げ込むと同時に爆破した手榴弾は、クロウ達を爆散させるが、それにより起きた爆風が隣にいたレイを巻き込み、レイは右方向へと吹っ飛ばされる。

 それを2回目の空中ステップを踏むことで何とか踏み留まると、バフの効果である3回目の空中ステップを踏み、崩落した建物から大通りを挟んだ隣の建物に着地した。

 

 崩落した建物に目を向けると、全身を瓦礫で切っている阿修羅の姿が見える。阿修羅の6つの眼はレイのことを見据えており、瓦礫をものともせず真っ直ぐにこちらに向かって来ていた。

 片やレイも完全に無傷ではない、シールド残留はクロウの群れによる攻撃と、自身の手榴弾による自爆技で3割を切っている。

 クロウの数は大幅に減ったが、それでもまだレイの周囲には何十羽ものクロウが獲物であるレイを狙っている。

 クロウの相手をしているうちに、阿修羅はここまで辿り着いてくるだろう。であればシールドを回復する時間は無さそうだ。


 正に背水の陣で挑まねばならない大一番。ここで阿修羅を倒せば、門の場所まで行くのは容易いだろう。

 クロウ程度であれば、いくらこようと問題はないし、人型ゾンビやヘルガーは階段部分を爆破すれば昇ってこれない。

 

 つまり、ここで阿修羅を倒せるかどうかが、そのままレイにとっての生きるか死ぬかに繋がってくるのだ。

 

 そんな状況の中、レイにはある感情が芽生え始めた。


 (こんな命を懸けた状況だってのに、なんでこんなに胸が高鳴る? 俺はこの状況を楽しいと思ってるのか?)


 レイに芽生えた感情は愉快や痛快といった、命を懸けた場面において、おおよその人間に芽生えることのないもの。

 しかしレイには、命のやり取りからくる極度の緊張状態でさえ、心地よいと感じるようになっていた。

 ザグやガリレウ達相手では、感じることの無かったこの感情。

 

 果たしてそれが意味することとは。レイには見当もつかなかった。

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