狙いと作戦と殲滅
マリーの状態も落ち着き、ようやく脱出についての算段が立てれるようになったレイ達は、レイのインベントリから出した食事と飲み物を摂った後、さっそく脱出について話を始めた。
「じゃあマリの症状も改善したことだし、早速ソーラの脱出について話をしよう」
「でもどうやってソーラから脱出するのですか? 地下通路は塞いであり、門の前にはたくさんのゾンビであります。逃げ道がないように思えるのですが・・・」
「さっきも言ったけど、一応脱出方法は2つ考えてる。1つは時間はかかるけど確実に逃げれる方法。もう1つは早くに脱出出来るけど、不確定要素があるから確実ではないし危険もある方法。どっちが良い?」
首を傾げながら異なる2つの脱出方法を提示するレイ。それを聞いたマリーは互いの方法のメリット、デメリットについて深く考えるように俯く。
マリーはアリシアはどう考えているのだろうかと目線を移すが、アリシアはどんな判断でもマリーに付いていくと目で語っていた。
「レイ。時間が掛かると言いましたが、それはどの程度の時間を要しますか?」
「断言は出来ないけどゾンビの足を考えれば、3日から4日かな。もちろんそれ以上かかる可能性もある」
「あぁ~焦れったいであります! レイ殿はとっとと方法を話すであります!」
少しずつ情報を開示していくレイに、まどろっこしさ感じたアリシアが詰め寄っていく。
「アリシア。これはレイの癖みたいなものです。すぐに答えを提示しては、自ら思考する力が培われませんから。でも今回に限ってはアリシアに賛成です。このような時まで人を試すようなことをするのは感心しません」
マリーにまでジト目を向けられたレイは両手を上げて降参のポーズをとる。
「ごめんごめん。確かに特訓でもないし、回りくどいのは無しにするよ」
そう言って一度2人の顔を見渡したレイは、表情を引き締めてから説明を始めた。
「まず時間が掛かる方法だけど、これは特に何もしない。ただ安全な場所で脱出出来るようになるまで待つだけ」
「そんなことで本当に脱出出来るのでありますか?」
「もちろん。そもそもゾンビがソーラに集まるなんて普通じゃありえない。どうやって人型ゾンビが農村部に現れたかはわからないけど、そのゾンビ達がソーラに集まってきた原因はわかる」
レイはそう言い切ると、インベントリから紫色の液体が入った小ビンを取り出した。
「それは臭気瓶ですか?」
小瓶を見て「なるほど」と納得するように頷いたのはマリー。
レイが見せた臭気瓶とは、中に入った液体をばら撒くことで、その液体の臭いによってゾンビを集めるアイテムである。
レベルを上げる目的で使われるものであったが、あまりに効果が強すぎて、対応出来る範囲外のゾンビが押し寄せてくることから、 ZWでは死蔵品になっていた。
「そういうことですか。ゾンビがソーラに集まってきたのはソーラに臭気瓶を撒いたから。相手が臭気瓶を使っているなら量にもよりますが、効果は持って半日。効果が切れればゾンビが門の前に集まる理由も無く霧散していくと。いや、人型ゾンビが生前の記憶に則した動きをすると考えれば元々居た場所に戻ろうとする。動きは遅いが休む必要の無いゾンビであれば、3日もあればコロン村を越えているでしょうね。なるほど、だからレイは3日から4日と行ってたのですね」
臭気瓶の効果は瓶の中身を全て使えば半日は持つ。1度に何本使ったところでより多くのゾンビが集まるだけで効果時間自体は変わらない。
もしまだその相手がソーラに残っていれば、定期的に臭気瓶を撒くことで時間の延長は可能だが、その可能性は低いだろう。
多量のゾンビを招く行為はそのまま自身へのリスクになる。一歩間違えばお陀仏である。
マリー達がソーラに入るタイミングに合わせてゾンビ達が押し寄せてくるように臭気瓶を撒き、ゾンビ達が押し寄せてくる頃に脱出するのが、最もリスクが少ない。
自らマリーを殺すわけではなく、わざわざ襲撃者を雇うような真似をするような黒幕だ。既に主犯格である人物はこの場にいないだろう。
そう考えたレイは、時間が立てば実質脱出が可能であると思っていた。そして同時にある懸念も。
「だから待ってればソーラを脱出出来るんだよ」
脱出出来るという言葉とは裏腹に浮かない顔を浮かべるレイ。
「どうしたでありますか? 確実に脱出出来るなら良いことでありましょう。なのにどうしてそんな顔を」
「いやなんか引っ掛かるんだよね。あんなに綿密な計画を立ててまでマリを殺そうとしているのに、最後の最後にゾンビ任せってのは。それに待てば助かるのは俺じゃなくても、ゾンビの動きを冷静に見れる奴ならいずれは気付ける。マリを殺すのが目的なら、このゾンビを使う方法は、なんかちぐはぐな印象を受けるんだよね」
レイは自分でも知らない方法でゾンビの群れを呼び出した者を高く評価していた。
もしこれがゲームであったなら、手放しでその者の智略を褒めていただろう。
そんな相手が最後の詰めをゾンビに任せるような真似をするだろうか。ゾンビの動きを誘導出来ても、完全にコントロールすることなど到底無理だ。
そう考えると相手はあえて、何か狙いがあって最後の詰みをゾンビに任せたことになる。
(相手の狙いは何だ?)
計画のちぐはぐさの理由がわからずに難しい顔をしながら考え込むレイ。
そんな時、同じように思考モードに入っていたマリーがハッと顔を上げた。
「もしかして敵の狙いはマリアでは?」
「そうか・・・そういうことか! でもそれはかなり不味いことになったんじゃないかな」
「どういうことでありますか!?」
マリーの言葉に納得するレイにひきかえ、アリシアは話が全く見えないとばかりに、詳しい説明を求める。
「相手はマリのいない間にマリアを落とすつもりなんだよ。アリシアも今のマリアの状況は知っているだろ? マリに縋るしか出来ていない連中が、もしマリが死んだと聞けばどうなると思う?」
「それは・・・恐らくは混乱して収拾がつかなくなるであります」
「そんな状況で、もしレギオン戦を仕掛けられたら?」
「そんなの勝てる訳ありません! そもそも『慈悲の心』がこれまでマリアを死守出来ていたのは、マリー様の類稀なるバフと回復という支援があればこそ! マリー様のいない『慈悲の心』では他の有数レギオンが攻めてくればたちどころに崩壊します!」
「つまりそういうことなんだよ。相手の中には相当頭が回るプレイヤーがいるらしい」
マリーとレイが気付いた相手の狙い。
それはマリーのいない間にマリアを落とすというものだった。
マリアが狙いなら、マリーを無理して殺害する必要はない。もちろんマリーの殺害が出来ればと相手も考えていただろうが、本命がマリアなら、マリーをソーラに閉じ込めて時間を稼ぐだけでもその目的は達成出来る。
アリシアが言ったレギオン戦とはレギオン同士の集団戦である。
ZWでは拠点やソウルを懸けて行われることが多く、宣戦布告された側が参加人数、場所の設定を行える。
指定された範囲でチームデスマッチを行い、相手を全滅させるか、制限時間が経過した後、残っているメンバーの多い方が勝ちとなり、勝利レギオンは相手レギオンの持っているソウルの半分を手に入れることが出来る。レギオン戦の間に死んだとしてもデスペナを受ける事はない為、大なり小なりのレギオンが連携の確認や、腕試しに良く行っていた。
拠点をかけたレギオン戦の場合のみ、防衛戦という形になり、場所は拠点近郊に設定され、攻撃側は制限時間内にクリスタルの場所を特定し触れること、防衛側は制限時間内でのクリスタルの守護が勝利条件になる。
ゲームではレギオン戦の開催日時、場所を設定し、互いに承知の上で行われる。だがここは既にゲームではない。いちいち拠点を攻めることを相手側に伝える必要は無い。
事前の有力プレイヤーの暗殺から、いきなり拠点を攻める奇襲に至るまで、あらゆる方法をとることが出来る。
「もしレイの言う通り、アロスが裏切っているとすれば状況はかなり良くないですね。私達はソーラで別れてからアロスを見ていません。もしアロスがコロン村に戻り、ジーク達に私達が死んだと伝えていれば『慈悲の心』ひいてはマリアは間違いなく混乱します。そんなところを攻められたら苦戦は必至です」
「となると、この案は却下だね。相手の狙いがマリアである以上出来る限り早く戻る必要がある。じゃあもう1つの方法になるわけだけど・・・これはあまり気乗りしないんだよね・・・」
「そっそれはどのような方法でありましょうか?」
明らかに乗り気ではないレイの様子を見て、アリシアが恐る恐るその方法について聞く。
「う~ん。かなり危険があることだけは理解して聞いてね。まず俺の持っている臭気瓶をソーラの港に撒く。そして1度門を開けてゾンビをソーラ内に入れる。門の前にゾンビが居なくなった所で脱出する。目には目を、歯には歯を、臭気瓶には臭気瓶をってな具合な作戦なんだけど・・・」
「問題は阿修羅ですか」
「そうだね。1度は必ず阿修羅が出てきて門を閉めることになる。だから囮役がまず門を開けて、阿修羅を引き付けている間に、もう1人が門を開ける。門を開けた1人はその場から即座に退避。この場合は出来るだけ門に近い方が良いから、退避先は見張り台とかかな。足場を崩せばゾンビは入ってこれないと思うし」
「ではその囮役は誰が・・・?」
パーティーで挑むような強さを持つ阿修羅の囮役である。さすがにカンストプレイヤーであるアリシアでも声が上擦る。
「囮役は言い出しっぺの俺がするよ。マリは援護兵だし、アリシアは機動力が低い守備兵だからね。兵種から見ても輸送兵である俺が一番適任だよ」
阿修羅の囮役をやるというのに、緊張感の欠片も感じさせないレイ。
今から命懸けの作戦に挑む者とは思えないほど自然体でいるレイを見て、アリシアの中に1つ疑問が生まれた。
(王の名を冠するプレイヤーであるマリー様にプレイスキルを教え、阿修羅と一対一で対峙するにも関わらず平然としてられるほどの方。何故これ程のプレイヤーが有名になっていないんでありましょうか。少なくとも王の名を冠するプレイヤーになっていてもおかしくないでしょうに)
観察するようにレイをジッと見つめるアリシアであったが、レイの説明はまだ終わっておらず、ひとまずはその説明を聞こうと、レイの正体については頭の片隅に追いやった。
「もう1つの問題は襲撃者かな。俺が来た時はまだ建物の入り口にいたけど、話の内容を聞く限り、建物外にマリ達逃げたと思っているようだったから、今頃マリ達を探しに外に出て、ゾンビに囲まれていることに気付くんじゃないかな」
「でも気付いたのであれば、自分達も罠に嵌められたと知り、私達を狙うことはやめるのではありませんか? デルを殺した奴らと共闘するのは嫌ですが、命の懸かっている状況であるなら共闘も止む終えません」
襲撃者の人数は9人。確かにこれ程の人数と共闘ということになれば心強いことは間違いない。しかし、そんなアリシアの提案を即座に却下したのはマリーだった。
「アリシアそれは難しいと思います」
「マリー様。それは何故でしょうか?」
自分では良い提案が出来たと思っていたアリシアは珍しくマリーに対して顔を顰める。そんなアリシアを一瞥したマリーは浅いため息を吐くと、その理由について語る。
「言動から彼らがPKプレイヤーであることは間違いありません。となれば彼らと組むことがどれだけ危険か、今のアリシアならわかるでしょ?」
「あっ・・・! 人工的に作られた人格でありますか」
「そうです。PKとはプレイヤーキラーの略。すなわちプレイヤーを狩ることを生業としたプレイヤー。それ相応の人格が流入していると考えるべきです。それに誰かに頼まれて嬉々として人殺しを受け入れる人達です。信用に値しません」
「確かに。私が浅はかでした。すみませんマリー様」
自身の考えがあまりに稚拙だったことに気付かされたアリシアはシュンとなりながら頭を下げる。
「いえ。1人では見えないこともあります。今回は私がアリシアの間違いを指摘しましたが、次は私が間違っている事を言うかもしれません。そうなった時、今度はアリシアが私を止めて下さい。私はアリシアを信頼してますから。ですので今回の事で萎縮することなく、今後もアリシアが気になったこと、気付いたことは何でも言ってもらえると助かります」
「はっはい! 誠心誠意努めさせて頂くであります!」
マリーの神々しい笑みに、感謝感激雨あられといったアリシア。
「あぁ~話を進めていいかな?」
1人で有頂天に達しているアリシアをなんとか宥めた後、その襲撃者への対応について話すレイであったが、レイが提案した内容は中々に苛烈なものだった。
レイが提案した内容、それは至極単純であり、尚且つ簡単な方法。
「襲撃者は残念だけど、前もって全員殺すべきだと思う」
「レイ!?」
「レイ殿! それは・・・」
冷めた目で襲撃者を殺すと告げるレイに唖然とするマリーとアリシア。
襲撃者を殺す。確かに門を開ける段階で襲撃者が邪魔に入る可能性もある。門を開けた後もしかりだ。
そうなれば要らぬ危険を呼び込むことになってしまう。マリーとアリシアを守る為に、2人のリスクを出来る限り減らす為に、他人である襲撃者を殺すことを決めたレイ。
それはお人好しと呼ばれるレイらしからぬ考えであることに本人は気付いていない。
「レイ。もしかしてあなたも人格の影響を受けて・・・」
非常事態であり、襲撃者はPKプレイヤー。殺すしか方法がないと考えるのも理解出来る。それでもマリーはレイならば襲撃者をやり過ごすか、見つかったとしても、最初は対話から入るのではと思っていた。
しかし、レイは迷うことなくきっぱりと襲撃者を殺すことを決めた。
やはりレイの身にも何か人格による影響が出ているのではと心配するマリー。それでも他に良い代案を持たないマリーは、一抹の不安を抱えながらも、レイの提示する作戦に頷くしかなかった。
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「こりゃ一体何が起きてやがる」
驚いた様子でそう呟いたのはガリレウ。
マリー達が何かしらの方法で建物から脱出したと考えていたガリレウ達は、マリー達を探してソーラ内を駆け回っていた。
一番に向かった領主館の地下が爆破によって塞がれていたのには驚いたが、爆破された瓦礫量から見てもあの2人の仕業ではないことはわかった。
あれだけ火力のある爆破は2人には無理だ。援護兵であるマリーは言わずもがな、守備兵であるアリシアにも不可能だ。
守備兵はシールド強度が高いのはもちろん、火力もある兵種。機動力が低いのが欠点ではあるが、それを加味したとしても全体的なステータスは高い。
しかしタンクとしての役割故か、手榴弾等の投擲兵器や地雷等の罠兵器とは相性が悪く、使えても威力はそこまで高くない。
ましてや地下広間に散らばる瓦礫量から見て、地下を塞いだのは一発二発の爆破兵器ではない。
ガリレウは第三者、もしくは自分達に話を持ち掛けた者の仕業だと判断して、マリー達の捜索を続けていた。
そんな矢先、門にほど近い建物の屋上からマリー達の姿を探していたガリレウ達は、門の前に群がるゾンビの集団を発見していた。
「どうするんですか! 地下通路は通れない、門の前には多量のゾンビ、俺達閉じ込められていますよ!」
「うるせぇ! みっともなくわめき散らすな!」
側近であるチョイスは、門の前に群がるゾンビを見て恐慌状態になっていた。他の者達も度合いに違いはあれ、全員が絶望した表情を晒している。
周囲を見渡すガリレウであったが、ソーラの外壁全域にまでゾンビは広がっており、抜け道は無さそうだ。
「はなから俺達は捨て駒だったって訳か」
それを見てガリレウは全てを察した。黒いフードを被った男に騙されたのだと。
「ちくしょうが。どの世界にいっても、俺は使い捨てかよ!!」
青筋を額に浮かべながら、顔を大きく歪ませるガリレウ。そして、元の世界での生活と、今の現状を照らし合わせるかのような言葉を吐き捨てるように叫んだ。
フードの男に食糧やその他の援助を受けながらソーラまで来たガリレウ達。マリー殺害後もフードの男達からポータルを借りて拠点へ戻る予定だった。
現在ガリレウ達は食糧や水分はほとんど持っていない。フードの男が持ってきたそばから食べていたからだ。
このままではどうせ飢えるか、ゾンビに喰われるかで死ぬ。どうせ死ぬなら・・・
「どうせ死ぬならヤることやってから死にたいもんだな」
ポツリと溢したガリレウの言葉に振り向いたのはチョイス達。
目の前の状況を打破する方法は思い付かない。それが意味することは、確実な死という存在が自分達を手ぐすねを引いて待っているということ。
もしこの時、冷静に状況を判断し、ゾンビが臭気瓶によって集められたものであると気付けていれば、あるいは生き長らえることも出来たかもしれない。
しかし、死への恐怖からまともに判断を下せなくなった彼らは、最も愚かで馬鹿な選択をしてしまった。それはどうせ死ぬなら良い思いをしてから死にたいという醜悪な願望。つまり、マリーやアリシアの身体を貪ってから死にたいということ。
願望に塗れ、醜悪な面構えになったガリレウ達は、ゾンビには目も暮れずマリー達を探しだす。全ては己の醜い欲望を満たす為に。
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ソーラにそびえる一際高い建物。門から真っ直ぐ続く中央通りの突き当たり正面にあるこの建物は、元は衛兵の詰所だった場所。所々に朽ちた剣や盾、鎧等が置かれており、過去に衛兵達の溜まり場だったことがわかる。
そんな建物の屋上にはライフルを構えたレイがいた。
「なんでこんな事になったかな・・・」
ライフルのスコープを覗きながら少し不満そうに呟くレイ。
あれから襲撃者に対する対策について話し合いを行ったレイ達であったのだが、ここでレイとマリーが衝突してしまった。
レイは最初、1人で襲撃者達の相手をすると言った。だから安全を確認出来るまで隠し金庫に隠れていて欲しいと。しかし、これに待ったをかけたのはマリーだった。
レイの申し出は、レイの隣に立って戦いたいと思っているマリーにとって許容出来るものではない。断固とした態度で自らも表に出て戦うと言い放った。
両者は互いに譲らず、決定権はアリシアに委ねられた。
これに大層困ったのはアリシア。マリーを危険な目に合わせたくない。かといってマリーの意思に反することは極力言いたくない。相反する自分の気持ちに板挟みになりながらアリシアが出した答えはーーー
「レイ殿がそこまでマリー様を心配するなら、レイ殿がマリー様を何があっても守れば良いのであります」
という、マリーの意見に添ったものだった。さすがのアリシアもいくら危険だからといってマリーの意思を無視することは出来なかったらしい。
渋々レイはマリーと共に戦うことを了承するが、今度は戦い方をどうするかで両者が再激突。
レイは自身が前に出て、マリーはサポートとして背後にいるように提案するが、マリーはレイの存在が知られていない利点を活かすべきだと、自身が囮となることで敵の目を惹き付け、レイが奇襲を仕掛ける作戦を提示した。
ここでも両者は頑なに自身の意見を曲げようとしなかった。そうなるとおのずと決定権はアリシアに移ることになり・・・
「マリー様が囮をやるというなら、レイ殿が素早くあやつらを倒して、その囮であるマリー様を守れば良いのであります!」
ここでもアリシアが肩を持ったのはやはりマリーの方。
こうしてマリーの意見が通り、マリー達を囮にしてレイが奇襲をかける作戦に決まったのだが・・・
「やっぱり何か納得いかないな。そもそもアリシアは必ずマリの言うことを聞くに決まってる。あんなの出来レースじゃないか」
レイは未だに先の決定に納得していなかった。
不服そうな顔でライフルを覗くレイ。ライフルのスコープから見えたのは、中央通りのど真ん中を歩くマリーとアリシアの姿であった。
「本当にこんな作戦で良かったのでありますか? もっと堅実で着実な方法もあったように思えるのですが・・・」
周囲を警戒しながら歩くアリシアは、背後にいるマリーに向かって心配な気持ちを吐露する。
「いや、こうでもしないとレイは私を一人前と見てくれませんから。レイにとって私はまだあの時のまま。庇護する対象になってるのです。だからここで私も戦えるのだとレイに示しておかねばなりません。それに・・・」
「それに、何でありますか?」
最初は気合いの入った強い口調であったが、何故か最後は何か気掛かりでもあるように口ごもるマリー。
アリシアは口ごもったマリーの顔を覗きながら続きを促す。
「レイは私達を助ける為にプレイヤーを殺すと言っているのです。ならば私達も腹を括るべきでしょう」
マリーは、覗きこんできたアリシアから視線を逃がすようにレイがいた建物へと視線を移すと、決意に満ちた顔をする。
アリシアにもマリーの意図は伝わったらしく、緊張に顔を引き締めた。
その時、門の近くにある建物の扉からガリレウ達が現れた。ガリレウ達は先程会った時より、目の色は濁り、欲に塗れた醜悪な笑みを浮かべていた。
「いやぁこんな所にいたのか。楽しい鬼ごっこは終わりだ。俺達と一緒に楽しんでから死のうや!」
「あいにく、私はまだ死ぬ予定はありません。死ぬなら皆さんで勝手に死んでください」
マリーはあえてガリレウ達を挑発するように、嘲笑うかのような笑みをガリレウ達に向ける。
「てめえ今の状況がわかってんのか? 周囲はゾンビに囲まれてんだぞ? 何したって助かるわけねぇ。飢えて死ぬのがオチだろうが! だったら最後くらい肉欲に溺れて何が悪いってんだ! てめえら大人しく捕まるなら優しくしてやる。けどまだ反抗するようならわかってるな?」
ガリレウはマリー達がまだソーラの状況を知らないのだと勘違いしていた。そしてその現状を伝えれば、絶望して俺達と同じでどうでもよくなると。
死ぬのは嫌だか、最後にこんな上玉を抱けるなら悪くないと下卑た顔を晒すガリレウであったが、マリー達から返って来たのは絶望でも失望でも無かった。
「さっきも言いましたが私達はここで死ぬつもりはありません。皆さんだけで楽しく死んでください」
そう言ってのけたマリーの顔には、むしろ決意や希望が見てとれるほどの凛凛しさが映っていた。
「ガキのくせに調子に乗るなぁ! 今すぐてめえらをヒイヒイ言わしてやらぁ!」
脳の血管がちぎれるのではないかというぐらい、太い青筋を額に浮かべたガリレウが、チョイス達に指示を出す。
マリー達はそのタイミングでスモークボムを地面に叩きつけると踵を返して逃げていく。
「こんな広い通りで逃げられると思ってんのか!」
「捉えた奴が最初にくっ殺プレイってことで!」
「俺は女が抱ければそれで良い!」
醜悪な面を晒しながら後を追いかけてくるチョイス達。
マリー達は定期的にスモークボムを地面に転がし煙幕を張ることで、射線が通りにく状態にしながらひたすら中央通りを駆けていく。
「くそが、援護兵と守備兵なのに、なんであいつらあんなに足が速いんだ!」
「バフだろうよ。機動力強化のバフをかけてるんだ!」
「いやいやならおかしいだろ! 援護兵は自らにバフや回復は出来ないはずだろ!」
一向に距離が縮まらないことに苛立ち始めるチョイス達。
マリー達は変わらず一定距離毎にスモークボムを転がしながら逃げていく。
常に煙幕が張られているせいで、正確に標準を絞ることが出来ず、銃弾を撃つことも出来ない。何故なら彼らは彼女達を生きて捕まえる必要があるのだ。闇雲に撃って、もし死なせてしまえば、仲間達からリンチに遭うのは自分である。
もちろんマリー達もガリレウ達の狙いが自分達の身体であることを知っており、殺せないことがわかった上でスモークボムを使っているのだが、チョイス達はそれに気付いていない。
煙幕の中、微かに見える人影を追いながら走ること数分。中央通りの中頃まで辿り着いた時、段々と煙幕が薄くなっていく。
もしやMP消費を気にしてスモークボムを使えなくなったのでは。
チョイス達の頭の中にそんな想像が広がった時。一発の銃声が中央通りに響いた。
「あがっ!」
チョイスの隣に居たはずの仲間の頭部が弾け飛ぶ。生暖かい何かがチョイスの頬に張り付き、恐る恐るそれを手に取るチョイス。
「うわぁ! うわああああ!」
それは仲間だった者の肉片。肉片の中にはこちらを覗く眼球が1つ見えた。
恐怖のあまりその場で座り込むチョイス。チョイスの股から黄色い染みが地面に広がっていく。
その間にも一定感覚で響いてくる銃声と一瞬遅れて聞こえる断末魔。
「あぁ! あああああ!」
遂には自身の身体を包むように地面に蹲り、シールドを全開にするチョイスであったが、8発目の銃声が聞こえてすぐ、チョイスの意識は闇に消えた。




