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破滅した世界にて~銃とゾンビと邪神 ~  作者: ルルエル=テン
第二章
11/21

過去と再会と変化

 ドゴーン! ガラガラガラ!


 領主館の地下広間に鼓膜を劈くような音が響く。


「はぁはぁ。間一髪かな・・・」


 砂煙が舞う中、出てきた人物はレイ。

 レイは呼吸を乱しながらその場に座り込み、背後の階段を確認する。

 背後にあった地下通路の階段は隙間なく瓦礫によって埋もれており、脱出時には微かに吹いていた風すら感じない。


「やっぱり徹夜で走っても1日は掛かったか。無事だと良いんだけど・・・」


 ザグとの一戦を終えた後、ゾンビの群れを発見したレイはゾンビの群れの迂回するようにしてソーラに向かった。

 小休止を挟みながらも、スタミナの限り走ったレイは僅か1日でソーラに到着したのだが、既にソーラの門には多量のゾンビが集まっており、押し詰め状態になっていた。

 ひたすらに門へと向かうゾンビの群れは、押し広げられるように門の周囲を包囲。

 そしてそのまま押し出されたゾンビ達は、門から少し離れた林の中にある、領主館への地下通路の出入口前に蔓延っている。


 不幸中の幸いであったのは、まだ林の中にいるゾンビ達の数が少ないこと。もちろん門の前にいるゾンビ達の数に比べればといったところではあるのだが。

 しかし、まだ門の前まで来ていないゾンビ達まで到着してしまえば、地下通路の出入口も押し詰め状態になる。


 そう考えたレイはまだ少ないうちに地下通路へと入ろうと強硬突破を図った。

 無理矢理押し通ったことで多少シールドを削られたが、なんとか地下通路に入ったレイは、扉を開けたことで侵入して来たゾンビ達を防ぐ為、地雷に手榴弾にC4と爆破兵器をこれでもかと使用し、内壁を爆破させた。


 こうして現在、地上へ出る為の階段は、猫の子一匹通れない程に崩落し、なんとかゾンビの侵入を防ぐことが出来ていたのであった。


「脱出手段はまた考えるとして、まずはマリーさん達を探しますか」


 数分間呼吸を整えた後、シールド残留が回復していることを確認したレイは、地下広間を抜け領主館へと入る。

 領主館の内部は数日経っていることもあり、グチャグチャになった遺体に蛆が沸き、臭いもかなりきつくなっていた。

 さすがのレイも強い腐臭の漂う室内は堪えたようで、すぐさま領主館を後にする。


「銃撃音は聞こえないか。もしかして既に・・・」


 港まで着いたレイが最悪の結果を想像した時、近くの建物から男の怒声が聞こえてきた。


「お前ら本当に出入口を見てたのか!? これだけ探しても見つからないなら外に出たとしか考えられないだろ!」


 レイは建物の影に隠れながら様子を窺う。

 がたいの良い男が、ライフルを持つ2人の男に怒鳴っている。その背後には6人の男が苛立った顔でその2人を睨んでいた。


「俺達はちゃんと見てました! けど誰も出てきていない! 嘘じゃないです」

「じゃあ室内を探していた俺達が間抜けでまだ隠れてるって言いたいのか!?」


 男は額に青筋を浮かべながら、顔を赤くしながら2人を攻め立てていた。


 (誰かを探しているのか・・・つまりマリーさん達はまだ殺されていないと。ん? この建物・・・もしかしてマリーさんも知ってたのか!?)


 建物の看板を見たレイは瞬時に隠し金庫のある建物だと気付くと、そのまま踵を返し、裏道へと入っていく。

 裏道へと入ったレイは3階建ての建物を見上げた後、跳躍。空中ステップを使い、2階の高さまで跳び上がる。次に建物の壁を蹴り上げ、更に空中ステップ。3階の高さに到達。再度同じ事を繰り返したレイは、あっという間に屋上へと着地した。


 (空中ステップは最高で2回までしか使えないけど、壁を蹴ることでリセットされるんだよな。どんな仕組みになってるんだろうな・・・さて。3階にあの人達の仲間がいないことを祈りながら進みますかね)


 レイは臨戦態勢のまま、階段を慎重に降りていく。

 通路の角から様子を窺いながら進むが、どうやら3階には誰もいないようだ。


 レイはそのまま目的地である執務室に入ると、執務席の裏にある本棚の前に立った。そして本棚にある本を並び替える。

 最後の本を本棚にしまった時、回転扉の要領で本棚が回転する。

 レイはその回転扉に巻き込まれるように奥の空間に姿を消した。




ーーーーーーーーーー



 マリーがまだZWを始めたばかりの頃。


 


 元々、ゲームが好きでRPGやシミュレーションゲームをよくしていたマリー。

 そんなマリーが別ジャンルのFPSに挑戦したいと思い、始めたのがZWであった。


 しかしZWは難易度の高いゲームとして有名であり、リリースされて3ヶ月経つにも関わらず、未だにファーストステージである貿易都市ソーラですらクリアした者が現れていない。

 初心者であるマリーはそんなことは知らず、ただ面白そうだからと始めたのだが・・・






「またゲームオーバーです・・・」


 港にリスポーンしたマリーは深くため息をつく。


 あれから3ヶ月。

 マリーはソロプレイに徹していた。

 FPS初心者ということでサポート役になろうと選んだ援護兵。この援護兵というのが実は中々に扱いの難しい兵種であると知ったのは、ゲームを始めて1ヶ月プレイしてからであった。

 まず火力が低く、中々ゾンビが倒せない。単体での戦力の低さは機械兵に次ぐ援護兵。

 ソロプレイは無理だと即座に判断し、パーティーを組むことを選んだマリー。援護兵は元々サポートに特化した兵種である為、その判断は正しい。

 唯一の失敗はプレイしているゲームがZWであったことだろう。FPSの猛者達が挑んでも、未だにファーストステージがクリア出来ていないZW。ゲームの難易度が高いのに比例して求められるプレイスキルというのは高くなる。

 最初は珍しい女性プレイヤーということで、パーティーに入れたマリーであったが、初心者であるマリーのプレイを見せた途端、すぐにパーティーを追い出されていた。時には「初心者がZWに来るな」「下手くそはお呼びじゃない」と酷いことを言ってきたプレイヤーもいた。

 それを何度か経験するうちに、パーティーに入るのが嫌になったマリーは、そんなプレイヤー達を見返してやると頑なにソロプレイをするようになった。

 

 しかし、初心者であるマリーが1人でクリア出来る訳も無く、飢餓でゲームオーバー、ゾンビに喰われてゲームオーバー、ゾンビになってゲームオーバーと、ただひたすらリスポーンを繰り返していた。


 (はぁ。意固地になって続けたけど楽しくないです。もうそろそろ辞めようかな)


 マリーが下を向いたまま、次ゲームオーバーになれば辞めようと心に決めていると、マリーの隣に少女がリスポーンされてきた。


「ククク。我は遂に手に入れたぞ! ダークネスレコード。これさえあれば我が闇は更に深くなる。さぁ終焉の始まりだ! ハッハッハッハ!」


 独り言とは思えない大きな声で声高に語る少女。

 マリーと同じ初期アバターである黒い軍服を来ており、漆黒のように黒い髪をポニーテールにしている。歳はマリーが17歳であるのに対して1つか2つか下に見える。


 マリーがジト目で見ていると、それに気付いた少女がニヒルな笑みを浮かべた後、バッと効果音が付きそうな動きでポーズを決めてきた。


「そこのお主。もしや我が眷属になりたいのか。よかろう。ダークネスレコードを手に入れた我にもはや敵はない。お主にこの世界の終焉を見せてやろう!」


 右手で顔を隠し、中指と薬指の間から左目を覗かせる少女。僅かに身体を反らしながら、残った左手をまっすぐにマリーに向けてきた。


「えっ・・いや・・・すみません。お断りします」


 ヤバい奴だと瞬時に思ったマリーは足早にその場から逃げようとするが、それを少女が止める。


「待つのだ! 魔王シグレである我に対してそのような不遜な態度。益々気に入った! ならば眷属とは言うまい。我が僕となれ!」


 眷属と僕と何が違うのだろうか? なんてことを考えながら、返事することなくスタスタと歩いていくマリー。


「なっなら! 幹部でどうだ! ダークネスレコードがあればこの暗黒都市ソーラも想いのままだぞ!」


 ダークネスレコードって何だろう? なんてことを考えながら進むマリー。


 そして段々と小さくなるマリーの背中を見た魔王は。


「うぅ~」


 涙目になりながら悲しい唸り声をあげてしまう。


「はぁ~。さすがにほっとくのは可哀想ですね」


 マリーは軽いため息を着いた後、踵を返してシグレの元へと戻る。

 正直何を言ってるのか理解は出来なかったマリーだが、シグレがパーティーに誘ってくれているのだけはわかった。


「シグレさんでしたか? パーティーに誘ってくれたのはありがたいのですが、私はFPSは初心者ですので、一緒にいても迷惑をかけることになりますから」


 初心者であることを理由にパーティー申請を断ろうとしたマリーだったが、シグレはそれを聞いて何故か目をキラキラさせた。


「我もっ我もそうなのだ! この世界に生まれ落ちて間もなく、更には力のほとんどが封印されてるのだ! 本来の力を使えれば、都市程度簡単に手中に収めれるものを」


 やはり何を言っているのかわからないマリー。ただ何となく自分と一緒の境遇なんだろうと理解してしまう。

 お世話にもプレイスキルがあるようには見えないし、何よりたった1人でリスポーンしてきたことが彼女の境遇を物語っていた。

 奇妙な喋り方に、珍妙な動き。パーティーを組むと色んな意味で苦労しそうだなと思いながらも。


「私はマリー。兵種は援護兵だから火力には期待しないでね」


 シグレのパーティー申請を受けることにした。


「お・・・おぉ! そうか! マリか! マリは特別に眷属では無く魔王シグレの右腕にしてやろう!」

「マリじゃなくて・・・はぁ。まぁいっか。魔王シグレ様。よろしくお願いしますね」


 一瞬固まるシグレだったが、マリーがパーティーを組んでくれることがわかった途端、ポーズをスタっと決めると、ニヒルな笑みを浮かべる。

 名前を間違っているのを指摘しようと思ったマリーだったが、歓喜するシグレを見てそれを止めた。

 自分の様な初心者と組むことをこれだけ喜んでくれるのだ、名前を少し間違えたぐらい、あだ名をつけてもらったと思えばいい。

 マリーは呆れた顔を見せながらも、シグレの差し出す手をとった。









「では右腕になったマリには、ダークネスレコードについて教えた方が良いな。今後暗黒都市ソーラを手中に収める為に必要なことだ。マリよ、心して聞くが良い」

「へぇ~。あれは設定じゃなかったのですね」

「ぐぬぬ・・・。中々不遜な態度だな。しかし我は魔王。広い心を持ってダークネスレコードについて教えてやろう」


 シグレがマリーに設定と言われ、少し不機嫌になりながらも語ったダークネスレコードとは、とあるSNSにあげられたZWの攻略情報だった。


『ソーラ脱出には領主館の地下通路を通る必要がある。領主館の結界は、一般的な火力を持つ輸送兵レベル40のプレイヤーがMP切れになるまで攻撃を加えるぐらいのダメージ量で破壊可能』


 ユーザーネームD.Sが載せたZWの攻略情報にはそう書かれていた。

 その攻略情報はすぐに削除されたが、その時たまたま攻略情報を探していたシグレはその情報を見ることが出来ていた。


 (レベルを上げるだけで良いなんて本当なのでしょうか?)


 マリーはシグレが話した攻略内容が本当に正しいのか疑問を抱いたが、他に有力な情報も無く、とりあえず試してみることに。

 この時、2人のレベルは20前後。マリーとシグレはこの後2ヶ月かけてレベルを40まで上げていった。

 食糧が無く飢餓で死んだり、シグレが変な必殺技を叫びながら阿修羅に挑んで返り討ちにあったり、シグレが変なポーズを考えている間に後ろからゾンビに襲われたりと、何度もリスポーンしながら2ヶ月と少し経った頃、ようやくソーラの脱出を果たしたマリーとシグレ。


 しかしそんな感動も束の間、新たなステージである農村部はマリーとシグレに現実を突きつける。

 農村部に出てくる獣型のゾンビは、マリー達をいとも簡単に喰らっていった。獣型ゾンビの動きに対応出来ないと知ったマリー達は、農村部でもパーティーを組もうとするが、結果はソーラの時と同じ。

 最初は良くても、すぐにパーティーから追放された。



「やっぱり私達FPS向いてないのでは」

「我が真の力を解放出来れば、犬っころ程度片手で握り潰してやるのに」


 ソーラ脱出により、ついた自信を木端微塵にされたマリー達が、せめてソーラ以外の町や村がないかとゾンビに怯えながら森を歩いていた時、少し先で銃撃音が聞こえた。

 マリー達が音のする方へと向かうと、そこには十数匹の犬型ゾンビヘルガーと戦っている青年が1人。


 十数匹のヘルガーを1人で相手している青年を見て、加勢に入ろうとしたマリーであったが、青年とヘルガーの戦いを見て、その足を止めた。

 圧倒的なプレイスキルによる、動物虐待のような一方的な戦い。


 的確に脳天を撃ち抜く精密射撃、ヘルガー達に包囲されないように考えられた立ち回り、そして何より凄かったのが、シールド操作であった。


 シールド操作は最も重要なプレイスキルの一つである。

 ZWは血清を持たない状態でゾンビに1度でも噛まれれば死亡が確定する。対人戦においても頭と心臓に1発、心臓以外の胴体に3発で死亡。また銃撃や爆破を1度でも受けるとそれだけで身体能力が低下する。

 つまり戦闘においても物凄く死にやすいゲームなのである。

 死にゲーであるZWでは、シールド操作の上手さがそのままプレイヤーの強さに繋がり、シールド操作を見ればそのプレイヤーの格がわかるとまでされていた。


 シールドはダメージを受けるだけでなく発動しているだけでも消耗していく。

 また発動範囲が広ければ広いほど、消費量も高く、攻撃を受けた時に受けるダメージ量が多くなる。

 理想的なのは、攻撃が来た時だけ局所的にシールドを発動し、それを防ぐという使い方であるが、タイミングを間違えばそのまま攻撃を食らうことになり、範囲を狭め過ぎると、同じように範囲外の攻撃を食らってしまう。

 博打に近いプレイを求められる為、そのような真似をするプレイヤーはおらず、一般的には自身の前面を守るようにシールドを展開し、奇襲や予期せぬ攻撃には全方位のシールドで防ぐ、というのが基本的な使い方であった。


 目の前の青年は半径30センチ程度の小さなシールドを発動させ、それを動かすことでヘルガーの牙を防いでいた。

 正に理想的なシールド操作。それを平然とこなす青年の姿を見たマリーの心に去来したのは尊敬、感動、そして憧憬。


 (あんなこと出来たらZWもすごい楽しいのでしょうね)


 「あの圧倒的な立ち振舞い、もしや魔王と対を為す存在。勇者なのでは・・・」


 青年の戦いを見届けた後、マリーはぶつぶつと話すシグレに目も暮れず、思わず青年の前に立っていた。そして・・・


「私に戦い方を教えてください」


 深々と頭を下げて、青年に教えを乞うていた。




ーーーーーーーーーー



「マリー様。いったいどうしたら」


 アリシアは隠し金庫の一室で1人ごちる。

 マリーが意識を失って既に2時間が経っている。

 あれから意識を失ったマリーを近くにあったソファーへと寝かせたアリシア。マリーの状況は変わらず、時折苦しそうに唸り声をあげていた。


 アリシアはその度に甲斐甲斐しく声をかけたり、滲んだ脂汗を拭いたりしていたのだが、一向に改善の余地が見えない。

 どうするのが正解なのかわからず頭を悩ましていた。


「私は本当に駄目であります。肝心な時にお役にたてない」


 アリシアが無力感に苛まれそうになった時、背後の本棚が回転し出す。

 遂にガリレウに見つかったかとガトリングを構えるアリシアであったが、出てきた人物を見て目を丸くする。


「レっレイ殿!?」

「良かった無事みたいだね」


 驚くアリシアであったが、いるはずのない人物が現れたと警戒心を完全には解かない。

 ガトリングを構えたまま、射貫くような鋭い瞳をレイに向けた。


「何故ここに?」

「う~ん。信じてもらえるかはわからないけど・・・」


 自身が警戒されていることを理解しているレイはここまで来た理由と、ソーラに向かう経緯で起こったことを、包み隠さず全てアリシアに話した。

 もちろんアリシアにとっては仲間であるアロスを疑っている事とその理由も含めて。


「まさかアロスが・・・それよりもソーラがゾンビに囲まれているとは本当でありますか?」


 ひとまずは信用してくれたのだろう。ガトリングを下げたアリシアは苦い顔しながら、レイの話に耳を傾けていた。


「本当だよ。とりあえず地下通路を防ぐことで、領主館からのゾンビの流入は防いでるけど、このままじゃ集まったゾンビ達がゾンビを足場にして外壁を越えて入ってくるかもね」

「レイ殿はそのゾンビも襲撃者が連れてきたものであると考えているのでありますね?」

「そうだね。正しくはその襲撃者をよこして来た黒幕がだけど。農村部に人型ゾンビがいて、それが全員ソーラを目指して動いているとなると、さすがに偶然とは考えにくいよ」

「・・・それなら。あいつらからーーー」

「う~ん。それは意味ないと思うよ。あれは十中八九捨て駒だから。ゾンビがソーラを囲むと知っていればポータルが使える機械兵を連れてくるはずなのに、彼らの中にはいなかったからね。彼らは今もゾンビに囲まれていることに気付いてないんじゃないかな」

「ではどうすれば良いのでありますか!! このままでは全員ソーラから出られないであります!!」

 

 レイにとってもソーラがゾンビ達に囲まれてしまうのは想定外だった。それをソーラにいるアリシアが聞けば、動揺するのは無理もないことだった。

 

 そんな時、ソファーからか細い声が聞こえてくる。


「ア・リシ・・ア。どうしたの・・ですか」


 見るからに青い顔を上げて、ソファーに座りこむマリー。そして視線アリシアに向けるべく視線を前方に向けると、レイと目が合った。


「どうしてあなたが・・・?」


 目をこれでもかと丸くしたマリーは、そのまま固まってしまう。


「実はーーー」



ーーーーーーーーーー



「そうですか。わざわざ助けに来てくれてありがとうございます」


 レイから話をきいたマリーは複雑そうな顔でレイに感謝を告げる。仲間が裏切っていたと聞かされればリーダーとして色々思うこともあるのか、それから少しの間考えこむように黙った。


「・・・1つだけわからないことがあります。襲撃者に襲われ、ゾンビの群れを越えてまで、何故他人である私達を助けに来てくれたのですか?」


 何かを見極めるような鋭い瞳でレイのことをジッと見続けるマリー。

 レイはまだ何かを疑われているのだろうと思い、そう思われるのも仕方ないとばかりに肩を竦めた。


「信じてもらえるかはわからないけど。俺は昔から困ってる人を放っておけない性分でね。そんな性分から元の世界でも不名誉なあだ名をもらってたんだよ。そのあだ名はーー」


「「善人の三太郎」」

「えっ!!」


 レイとマリーの言葉が被る。


 先程までアリシアとマリーの目を丸くさせていたレイだったが、今度はレイ自身が目を丸くさせることになる。


 そんなレイの姿がおかしかったのか。まだ青い顔を綻ばせ、口元に手を当てるマリー。


「ふふふ。お久しぶりです。レイ。確かにあなたであれば助けに来るでしょうね」

「え~と。俺には修道服を身に纏った聖女と知り合いになった覚えはないんだか」


 (誰だ誰だ誰だ!)


 教えてもないあだ名を当てられ、動揺するレイ。それにひきかえマリーはアリシアですら見たことない小悪魔のような顔をすると、途端に寂しそうに顔を両手で隠す仕草をする。


「私なんか覚える必要もないと仰るのですね。短い期間ではありましたが、一緒にZWをやってきた仲だと言うのに・・・」

「ちょっちょっと待ってね! 今から思い出すから!」


 眉間を強くつまみながら必死に思い出そうとするレイを泣き真似しながらも指の隙間から眺めるマリー。


 (お元気そうで本当に良かった)


 もし両手に隠されたマリーの顔をアリシアが見ていれば卒倒していたであろう。それくらい今のマリーは愛に満ち溢れた魅力的な顔をしていた。


 ひとしきり動揺するレイを眺めたマリーは1つ咳払いをした後、ステータス画面を開くと、何やら画面を弄り出した。

 するとマリーの体が光に包まれ、服装の形が変わっていく。

 

「あの時とは顔も違いますし、服装も変わっています。気付かなくても不思議じゃないです。私の場合は逆に変わってなくて気付けなかったのですが。でもこれで気付かなかったらさすがに怒りますからね」


 そう言ってわざとらしく口を尖らせたマリーは、服装を初期アバターである黒い軍服へと変化させる。そして肩まで伸びた金髪を三編みのサイドテールに結んだ。


 姿の変わったマリーをまじまじ見た後、ハッとした顔をするレイ。


「もしかしてマリかい!?」

「覚えてくれてたのですね!」


 内心では本当に覚えてくれているのか心配だったマリーは、レイに愛称で呼ばれて満面の笑みを浮かべる。


「まさか『慈悲王』であるマリーが、あのマリだったなんて。でも言われてみれば確かに面影はあったかな。気付かなくてごめんね」

「私は森の一件でもしかしたらとは思ってましたけど、服装が初期ですし、それに、その、あまりに目のクマが凄かったので危ない薬でもやってる人なのかもと、その後声を掛けれませんでした」

「あぁ~目のクマと肌の色だけは触れないでほしいかなぁ。何気に気にしてるんだよ」

「うふふ。そうなんですね。レイにも弱点があるなんて、それは良いことを聞きました」

「妙にSっ気があるとこは変わらないなマリは」


「ちょっと! 私を置いてかないで下さい! さっきから私いないみたいな空気が漂っているであります!」


 今まで誰にも見せたことがないようなマリーの豊かな表情を見て、一時見惚れていたアリシアであったが、2人して仲良さそうに話す姿を見て我に返ると、即座に2人の間に割って入る。


「レイ殿がマリー様にZWのイロハを教えた恩人なのは今のやり取りでわかりました! そんな方との再会は大変良いことであるのは疑いようがありません! しかし今は襲撃者とゾンビをどうにかして、ソーラから脱出する方法を探すのが先決なのであります!」


 改めて自分達を取り巻く状況が危機的であると、アリシアは力説するが、2人の間には危機感のようなものは生まれない。


「アリシア。レイならどうせなんとかしてくれますから」

「それは過大評価だよ」

「それでも何か考えがあるのでしょ?」

「まぁ一応、2通りは考えてみたけど」


 レイは過剰とも呼べるマリーからの信頼を受けて苦笑いしていたが、マリーの言う通りソーラからの脱出方法を思い付いていた。


「おお! 流石マリー様の師匠でありますな」

「だから持ち上げないでくれ。ZWでの知識を使うだけなんだから」

「それで、その方法とは何ですか?」

「その前に。マリの今の状態を教えてもらっていいかな?」


 唐突なレイの質問にスッと目線を逸らすマリー。しかしレイは優しい笑みを浮かべながらも、その瞳は誤魔化すことを許さないと語っていた。

 マリーはレイに出会えたことで、多少は表情が和らいだものの、未だに顔は青く、時折苦しそうに顔を顰めていた。

 そもそもレイが来た時、マリーはソファーで横になっていた。そんな状況でレイがそれに気付かないはずもなく、ソーラ脱出を確実にする為にもマリーの体調の把握は必須であった。


「やっぱりバレてますよね。迷惑をかけたくなかったので、出来ればソーラを抜けてから相談したかったのですが」


 マリーは観念したように自身に起きた変化について語り始めた。

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