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破滅した世界にて~銃とゾンビと邪神 ~  作者: ルルエル=テン
第二章
10/21

到着と裏切と逃走

 レイはザグが蟻地獄に埋もれたことを確認することなく、BK250を出現させる。

 

 (人を殺したというのに・・・)


 そして感情の揺らぎを全く感じていない自分に恐怖にも似た感情を抱いていた。


 マリー救出の時は狙撃やBK250の爆破により敵を退けはしたが、手足の一部を欠損するだけで、人は死んでいなかった。

 つまりレイはこの世界で初めて人を殺したことになる。それも自分の意思で。

 転移前はこんな争いとは無縁の世界にいた。人を殺す行為そのものが酷く嫌悪され、大半の人間がそんな事とは無関係でいられる世界。

 生かしておくことでアヤメやキータへの危険因子になることを踏まえても、殺すことに躊躇してしまうのではないか。

 ザグが来るのを茂みで待っていた時のレイはそう思っていた。


 (案外呆気なく殺れてしまったな。しかも何も感じていない自分がいる。いやはや、やっぱり流入したのは記憶だけじゃないね。入って来た記憶だけで根本的な価値観が変わる訳ないし)


 BK250に跨がりながら転移時の事を思い出す。

 何故、わざわざゲームキャラの記憶を流入させる必要があったのか。

 仮に記憶以外の何かを流入させたのだとしたら、それは何か。


 まだまだ理解出来ていないことが多すぎる。


 顎に手を当て考えるレイであったが、マリーの救出を急がねばと頭を切り替え、BK250を走らせる。


 森をようやく抜け、ソーラまでの道程の3分の1まで来た時、レイはある異変に気付く。


「何で人型のゾンビがこんなに農村部にいるんだ?」


 森を出た先に広がる荒野には、群れと化した大量の人型ゾンビが徘徊するように移動していた。

 移動している方角には貿易都市ソーラがある。


「これはまずいな。BK250を使えば、音でゾンビを引きつけてしまう。かといって歩きじゃ・・・」


 ソーラに着く前にマリー達と合流するつもりだったレイにとって、ゾンビの群れと遭遇することは想定外のことであった。


「ソーラに着く前に合流するのは諦めた方が良いか。マリーさんも『慈悲王』と呼ばれてる訳だし、アリシアさんも見た限りカンストプレイヤー。そう簡単にやられはしないはず。俺に出来ることは出来るだけ早くソーラに着くことだな。それにしても・・・」


 レイはゾンビの群れに強い違和感を覚えると、BK250をその場に放置し、茂みに隠れてゾンビ達の様子を窺う。


 ZWでは農村部に出現するのは獣型ゾンビがほとんどであり、人型ゾンビは滅多にいなかったはず。実際に3日間、コロン村を目指して移動していた時も、一度も人型ゾンビは見かけなかった。

 人型ゾンビが多量にいるというだけでもおかしいのだが、もう1つ違和感を感じる特徴がゾンビに見られた。

 ゾンビ全員の身なりが農村部に似つかわしくないのだ。農村部にいるゾンビであれば、簡素な服装や農夫の格好をしているはず。しかし、今いるゾンビ達は全員が上等な物を身に付けていた。金細工のあしらわれた首飾りをしている者もいれば、大きな宝石のついた指輪をしている者もいる。

 まるで王宮や貴族街から連れてこられたかのようなゾンビ達。


 それが全員揃ってソーラに向かっているとなれば、どうしても作為的なものだと思ってしまう。


 (しかしこれが作為的なものだとしてどうやってこれだけのゾンビを?)


 古参プレイヤーであるレイですらわからない方法を用いて、これだけのゾンビを連れてこれる者。

 真っ先に浮かんだのは邪神リビムであったが、即座に候補から外す。

 ソーラに向かっていることを見ればマリー絡みなのは間違いない。そうなると、このゾンビ達は今回の襲撃を企てた者の差し金ということになる。

 転移して4日目にマリーを襲撃していることを考えれば、遅くとも3日目までにはマリー襲撃の作戦を立案し準備を整えていたのだろう。

 そしてゾンビを何かしらの方法で移動させる術も持っている。

 襲撃を企てた者は敵として見れば、もの凄く優秀で厄介な者であることは間違いない。


「はぁ。もしかして俺は物凄い厄介な事に首を突っ込んでしまったのでは」


 レイは今更ながら事の大きさを把握してため息を吐くのであった。

 




ーーーーーーーーーー



 翌日の朝。

 領主館に繋がる地下通路の入り口前にマリー達はいた。

 心配していた襲撃は今のところ起きていない。構成は援護兵のマリー、守備兵のアリシア、偵察兵のアロスに、機械兵の2人、の5人である。


 守備兵のアリシア以外は全員が直接戦闘が得意ではない偏ったパーティーになってしまっているが、これは仕方がない。

 先の襲撃により、前線を張るメンバー全員が罠によって戦闘の継続が難しくなってしまったのだから。

 機械兵には2つのマーカーをコロン村付近に設置してもらっている。これで運べる人数は40人。マリー達を抜いても35人は運べる。

 インベントリ内にあるアイテムを確認した後、アリシアやアロスが深く頷いたのを見たマリーは、アロスの妹を含めた新人プレイヤー達の救出に向かう。


 先頭はアロス、真ん中にマリーとアリシアが入り、後方を機械兵の2人で固め、階段を降りていく。


「マリー様。大丈夫でありますか?」


 マリーのすぐ後ろに付いているアリシアが不安気な声色でマリーの体調を気にする。


「ええ。ソーラに近づくに連れて体調は戻ってきましたから」


 (嘘でありますね。顔色も悪い。夜眠れていないのでしょうか)


 いつもは神々しく感じる笑みも、今では痛々しい笑顔に見えてしまう。

 アリシアはもし何かあれば新人を見捨てでも、マリーを守って見せると密かに意気込む。


「マリー様。これを」


 階段を降り、地下広間の前まで来た時、古びた日記帳を見つけたアロスがそれをパラパラとめくった後、最後のページを見せながらマリーに手渡してくる。


「・・・!? これはソーラの領主の手記ですか。どうやらゲームとは勝手が違うようです。心して掛かりましょう」


 手記を読み終えたマリー達は緊張した面持ちのまま、地下広間を進んでいく。


「これは!?」


 先頭を歩いていたアロスが発見したのはレイが倒した阿修羅の残骸であった。

 既に灰と化している阿修羅は、3mはある真っ黒な人型を地面に残していた。


「大きさから見て阿修羅かと・・・」


 全員が驚愕した顔で阿修羅の跡を見つめる中、ぼそりとアリシアが呟いた。


「これはレイ殿がやったということでありますか? ソーラから来ていたとレイ殿は言ってたでありますよ」

「馬鹿な。阿修羅はそれこそ高レベルプレイヤー達がパーティーを組んで倒すゾンビだ。あれと一緒にいた奴らは紛れもなく新人だった。あれ1人で倒せるはずもないだろうから、大方拠点を持たない高レベルプレイヤーのパーティーが倒したのだろう」


 マリーの恩人でもあるレイをあれ呼ばわりするアロスに、アリシアは目を細めながら避難しようとするが、後ろから微かに漏れた声がそれを止めた。


「レ・・イ・・?」


 アリシアを見つめる目が大きく見開かれ、胸の辺りを両手で強く握りしめる。


「マリー様・・・? どうしたで・・ありますか?」


 酷く動揺した姿を見せるマリーにアリシアは気遣うように声をかける。


「今。レイと言いましたか?」


 マリーは真っ直ぐアリシアを見つめながら足早に詰め寄る。目と鼻の先まで近付く両者の顔。


「はっはい! レイ殿が阿修羅を倒したのではないかと言いました!」

「何故あの方がレイだと知った時に教えてくれなかったのですか!?」

「落ち着いて下さい! 何の話か私にはわからないでありますよ!」

「何故! 何故! 知っていれば・・・こんな・・」


 今まで見たことがないほど取り乱すマリーに、アリシアをはじめ周囲は困惑したまま、声をかけることも出来ない。

 そのまま膝を着き、蹲ったまま動かなくなるマリーであったが、そんなマリーに痺れを切らしたアロスが近寄っていく。


「マリー様。そのレイとやらがマリー様にとってどの様な人なのかは知りませんが。今やるべきことは私の妹ひいては新人プレイヤーを助けることではないでしょうか?」


 アロスにやるべきことは新人プレイヤーを助けることだと言われたマリーは、一瞬ビクッと身体を震わした後、取り乱していたとは思えない毅然とした態度で「そうですね行きましょう」と立ち上がる。


「それでこそ私達のリーダー。さぁ急ぎましょう」


 そう言ってアロスは感銘を受けた様子を見せた後、地下広間を進み始める。


「マリー様。レイ殿とは一体ーー」

「アリシア。その話は後でも大丈夫です。今はアロスの妹と新人の方達を救出するのが先ですよ」

「・・・わかりました」

 

 (大丈夫と言われるなら。何故そんなに辛そうな顔をするのでありますか・・・)


 毅然とした態度を取りながらも口元をきつく結ぶマリーを見て、アリシアは一体マリーの身に何が起きてるのかと、言葉に出来ない不安感に襲われるのであった。


 その後、地下にある長い地下通路を抜け、領主館のホールへと辿り着くマリー達。

 領主館に広がる悍ましい光景を見て、一時に茫然とするが、領主館内を調べ、プレイヤーが誰1人いないことを確認した後、都市へと向かう。


「やはり都市内にはゾンビがいますね」

「そうですね。ひとまずは私が偵察に行きましょう。FCRを使えばある程度の周辺状況はわかるでしょう。建物内からFCRを起動したいので見張り役を1人連れていっても良いですか?」

「わかりました。では私達はあそこの建物の屋上から周辺を探りますので、偵察が終わり次第来て下さい」


 マリーは背後にある建物を指すと、アリシアと機械兵の1人を連れて、中に入っていく。

 マリーの指した建物は港に近い場所にあり、元々商会の本店か支店だったもの。屋上といえばゾンビが来た時に逃げ道がないように思えるが、高レベルプレイヤーにとって屋上から屋上へと飛び移るのはさほど難しいことではない。むしろゾンビが屋上から屋上へと飛び移れないことを考えれば、大通り等よりよっぽど安全な場所である。

 特に建物が密集しているソーラでは、飛び移れる場所に事欠かない。

 周辺を見渡せ、尚且つ安全な場所。マリーの判断は概ね正しい。ただアロスの妹と新人を救うだけならば。


 



ーーーーーーーーーー



 マリーと別れたアロスは都市の中心部にある建物に入り、偵察用兵器FCRを起動する。

 FCRはラジコンカーにカメラと爆薬が内臓されている操縦型の兵器である。タブレットを使い操縦することができ、階段程度の高さなら跳んで昇ることが出来る。内臓されている爆薬は人型のゾンビ一体なら一撃で仕留める程度の破壊力を持つ。

 特殊なゾンビでなければ捕捉されない特徴を持つので、使い勝手の良い兵器ではあるが、操縦中はタブレット画面に集中する必要がある為、基本的には仲間に周囲を見張ってもらえる環境で使われる。


 起動したFCRは建物から外に出て、ゾンビが徘徊する中央通り内を走っていく。


「どうだ? 誰かいたか?」


 自律兵器であるセントリーガンを廊下に設置し終えた見張り役の機械兵のプレイヤーは、タブレットの画面をいじるアロスに状況を聞く。


「いや今のところは・・・」


 しばらくして、アロスはタブレットの画面を見ながら窓際まで移動すると、興味深げに窓の外を見る。

 

「おっ! 誰か見つけたのか!?」

「ああ。見つかった」

「そうか! 生存は絶望的だと思ったが。これなら妹も生きているかもしれんぞ!」


 アロスから生存者を発見したと聞き、周囲を警戒していた機械兵のプレイヤーは嬉しげに笑みを見せながら近付いてくる。

 窓際にいたアロスは軽く笑みを返すと、タブレットの画面を見せる。


「おっ見せてくれるのか? 一体何処に隠れてたんだ。・・・・おい何もうつーー」


 ダン! バキ! ドチャ!


 機械兵のプレイヤーがアロスに視線を向けようとした時。1つの銃声が発生した。

 途端にタブレットに穴が開き、部屋に鮮血が飛び散る。数秒経った後、頭部の無くなった死体がドシャリと音を立てて仰向けに倒れた。


「ふん。馬鹿が。誰も生存者を見つけたとは言ってないだろうがよ! 『慈悲の心』ってのは平和ボケした奴ばっかだな」


 アロスは悪態をつくと、仲間だった死体に軽く蹴りを入れる。


「本当なら俺が直々に『慈悲王』を仕留めたいところではあるが、出来る限り正体は隠すように言われてるからな。後はあいつらに任せるか」


 アロスは死体を見つめながらつまらなさそうに呟いた後、対面する建物の窓にいた人物に合図を出した。





ーーーーーーーーーー



「アロス遅いであります」


 周囲を警戒しながら、アロスの到着を待っていたマリー達。

 しかし既に一時間は経っているにも関わらず、音沙汰が無かった。


「さすがにおかしいですね。アロスなら短時間で情報を持ってこれるはず。これ程時間が掛かるとは、もしや何かしらの妨害にあっている?」

 

 マリーの頭に浮かんだのは先の襲撃、そしてあの狙撃兵。

 ハッと顔を上げたマリーが周囲の建物の窓を確認すると、僅かに人影が見えた。


「アリシア! デル! シールドを最大強度で展開しなさい!!」

「はっ!」

「えっ!」


 マリーが叫び声を上げながらシールドを前方に展開させる。マリーの背後にいたアリシアもマリーが叫んだのと同時にシールドを展開。

 しかしデルと呼ばれた機械兵の少年は階段から上がってくるゾンビを警戒していたこともあり、反応が遅れる。


 ダン! ダン! ダン! ダン!

 ダダダダ! ダダダタ!


 マリーが叫び声を上げて数瞬後、ライフルとマシンガンの銃声が鳴り響く。


「あが! アアアア!」

「デル!」


 シールドの発動が遅れたデルがライフルとマシンガンにより蜂の巣になる。

 小刻みに「ああああ」と声を上げるデルの姿を見て、思わず悲痛な声でその名を呼ぶマリー。

 デルが全身を真っ赤に染め上げ地面に突っ伏したと同時に、下に繋がる階段から男が現れた。


「ようよう。やっぱり近くで見たらベッピンさんじゃねえか」

「まぁ通称聖女ですからね。これでブスなら詐欺も良いところですよ」


 下卑た笑みを浮かべるのは先頭を歩く2人の男、その背後には更に2人の男がマシンガンの銃口をこちらに向けていた。

 アリシアは瞬時にマリーを背中に背負い、消費量無視でシールド強度を全開まで引き上げる。


「フゥ~! さすが守備兵だな。聖女の騎士ってか」

「くっ殺プレイとか出来るかもしれませんよ」


 アリシアが殺気を撒き散らしながら男達に鋭い眼光を向けるが、男達は下卑た笑みを抑えようとはせず、むしろ一層笑みを深める。


「あなた達は? それに目的は何ですか?」


 アリシアに庇われた状態のマリーがアリシアの肩越しに男達に問う。


「俺の名前はガリレウ。こっちはチョイスだ。目的は話さなくてもわかるだろ?」

「私達を殺すのが目的ですか。どうして? と聞いても意味無さそうですね・・・」

「あぁ!? 馬鹿にしてんのか? まぁ実際俺らは話を持ちかけられた側だからな。あんたらを狙う理由はわからん」

「つまり、あなた達に私を殺すように持ち掛けた人物がいるということですね」

「あぁそうだな。黒いフードを被ってたから誰かは知らんが、あんたらの情報は全てそいつからもらっていた」


 口が軽いのかそれとも今から死ぬ奴に話しても問題無いと思っているのかわからないが、ペラペラと聞いたことに答えるガリレウ。


「アリシア。先の銃撃の中に例の狙撃兵はいましたか?」


 得意気にガリレウが話している間に、マリーはアリシアに小声で話しかける。

 アリシアも極力口を動かさないように返答する。


「いえ、いませんでした。狙撃兵は2人、残りはマシンガン持ちの突撃兵か偵察兵辺りが3人です。他にも隠れている者もいるかもしれませんが。可能性は低いかと」

「アリシアいけますか?」

「あの狙撃兵で無いのであれば逃げるだけなら自信はあります。ここは長距離の射線は通りにくいですし」

「ではバフを合図に行きますよ」

「了解であります」

「おい! 聞いてんのか!?」


 マリーの意識がこちらに向いてないと思ったガリレウが苛立ちを顕にする。


「あぁすみません。あまり興味が無かったもので」


 相手を煽る発言をしながらも、上品な仕草で口元を隠すマリー。その姿は誰が見ても聖女と呼ぶにふさわしい絶世の美女であった。

 侮られたガリレウですら、怒りを向けるでもなく惚ける。


「気の強い女は嫌いじゃないぜ。征服欲が掻き立てられる」

「じゃあ俺はくっ殺騎士でとりあえず我慢しますわ」


 既に勝っているつもりなのだろう。ガリレウ達は下世話な話をしながら二人の身体をいやらしい目で舐め回すように視線をさまよわせる。

 マリーはジリジリと距離を詰めてくるガリレウ達を見ながら、タイミングを図る。


 (後10歩・・・5、4、3、2、1。今!)


 マリーはアリシアに直接ではなく、真下に向けて引き金を引く。途端に様々な色の魔方陣が2人を包んだ。

 マリーが撃ったバフは火力強化、シールド強化、敏捷性強化、スタミナ強化、MP消費減少、シールド消費減少の6種類。マリーが一度に発動可能な最大数である6発分のバフである。

 アリシアはバフのタイミングに合わせて、マリーから渡されていたフラッシュボムを投げる。


「ぐわ! くそアマが!」

「目が!」


 強烈な光に襲われたガリレウ達は目を覆いながらも、前方に向けて銃弾を放つ。

 マリー達を足止めさせようと足元辺りに放たれた弾丸。

 しかしアリシアはあえてそれを全てシールドで受けながらも前進する。

 マリーはすかさずリロード後にアリシアにシールド回復弾を発射。瞬時にシールドを最大まで回復する。

 周囲の建物に隠れていた者達も、シールド耐久性が低いマリーを狙って銃撃音を響かせるが、アリシアがシールドを広く全方位に展開し全ての銃弾を受け止める。さすがにダメージ量が多かったのかアリシアのシールドから軋む音が聞こえた。

 

 アリシアの奮闘もあり、どうにか下に降りる階段まで辿り着いたマリー達は血溜まりの中に沈んでいるデルを見て、奥歯を噛み締める。


「デルごめんなさい」

「私が必ず仇をとってやるであります」


 背後ではフラッシュバンによる影響が薄れてきたガリレウ達が銃口をこちらに向けていた。

 

「マリー様、何処に向かう予定でありますか?」

「実は秘密の場所があるんです。この建物を選んだのも、もしもの場合でも逃げれるようにと考えてのことですから」

「さすがマリー様であります! ではこの不肖アリシア。マリー様の道を開いて見せましょう!」


 ガリレウ達が引き金を引く前に、アリシアはスモークボムを地面に転がし、階段を降りる。

 煙により標準を合わせれなくなったガリレウが青筋を浮かべながら叫ぶ。


「おいお前らすぐに追いかけろ! 狙撃兵はその場で待機して建物の出入口を見張れ! その他のやつは一階から侵入して挟み撃ちにするぞ!」


 ガリレウの怒声を聞き、周囲の建物に潜んでいた者達が、マリー達のいる商店の出入口に集まる。

 ガリレウ達も急いで階段を降りて見逃しのないよう全ての部屋を探す。


「ちっ3階にはいねぇか」


 三階にある全ての部屋を確認するが、マリー達の姿はない。

 苛立ちを顕にしながら2階に降りて部屋を探すが、2人はいない。

 一階まで降りたのかと、階段を降りようとした時、下の階から2人を探していた仲間が登ってくるのが見えた。


「おいお前ら本当にちゃんと探したんだろうな」

「もちろん全ての部屋をくまなく探しましたよ! 一階には間違いなくいません!」

「ちっ! 上にもいなかったんだよ。クローゼットでもベッドの下でも人が入れそうな場所は全部探せ!」


 心外なとでも言いたげな仲間の顔に苛立ちながらも、もう一度建物内を探すように指示を出す。

 

 (わざわざソーラまで来たんだ。あんだけの上玉、絶対に逃がさないぜ)


 下卑た笑みを見せながらガリレウは階段を昇っていった。











「まさかこんな所に隠し金庫があるとは。さすがマリー様であります」


 薄暗い部屋の中で、息を潜めながらもマリーを称賛するアリシア。

 マリー達が現在いるのは三階の執務室裏にある隠し金庫の部屋だ。

 余程裕福な商会だったのだろう、隠し金庫と言いながらもリビング程度の大きさはありそうな広い部屋で、二人は呼吸を整えていた。


「これも人から教えてもらったのです」


 マリーは懐かしそうに頬を緩ませながらも、謙遜するように首を横に振る。

 

「つかぬことをお聞きしますが、それを教えてくれたのってレイ殿ではないですか?」

「どっどうしてそれを!?」


 先程までは毅然としていたマリーが狼狽した様子を見せる。


「さすがに頭の悪い私でもわかります。地下広間での取り乱し方を見ていれば」

「そっそうですね・・・」


 地下広間での事を思い出したのだろう、途端に顔を真っ赤にさせるマリー。


「レイ殿は一体何者なんですか?」

「アリシアには昔、話しませんでしたか? 私にZWのイロハを教えてくれた人がいると」

「それがあのレイ殿だと?」

「正直あの人なのかは、わかりません。コロン村で別れて4年以上は経っていますし。確かに髪は銀髪で当時は初期アバターの黒い軍服を着ていましたが。初心者の証である黒い軍服をわざわざ好んで着続ける人はいないでしょう? 当時からプレイスキルは凄い人でしたから、あの人ならいくらでもレアアバターを手に入れられると思います。それに仕事がかなり忙しい人だったみたいで、今もやってるかどうかわかりません。だから同姓同名の別人という可能性もあります」


 (けど、BK250に手榴弾を引っ掛けて爆発させるやり口や、あんな突飛なトーチボムの使い方が思い付くのもあの人ぐらいしか考えられません)

 

 あの人がいまだ初期アバターであるはずがない。

 あんな突飛な発想が出来るのはあの人しかいない。


 相反する意見が頭の中でぶつかり合う。


『そんな所で隠れてないで早く新人の人達を助けないと』


 そんな時、また頭の中にもう1人の声が響いた。


「うっ・・! こんな時にっ!」


 マリーはその声に抗うように、地面に蹲ったまま動けなくなる。


「マリー様!」


 急に蹲るマリーの肩を持ち、何度も声をかけるが、マリーは頭を抱えたまま苦しそうにしている。


『さぁ早く助けに』

「駄目・・・」

『助けに』

「今は駄目・・・」


 マリーはもう1人の声に必死に抗いながら意識を失った。




ーーーーーーーーーー



「アァアァ」

「アァ~アァ~」


 深い森に響くゾンビ達のうめき声。

 大量のゾンビ達はソーラを目指して休むことなく移動をしていた。そして・・・


 先頭の集団が森を抜ける。目の前にはソーラの城壁。



 ソーラはゾンビに包囲された。

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