罠と力
いつもより少し短いです。
キータのポータルで森の前まで転送したレイはひとまず森の中へと入る。そして森の中でBK250を出現させると、ソーラに向かって走り出す。
「やっぱり走りにくいなぁ。事故らないように気を付けないと」
所々に木の根が剥き出しになっているのが見える。これではあまり速度を出してしまってはタイヤをとられかねない。
焦る気持ちを抑え、前方を注視しながらBK250を走らせるレイ。
移動兵器を使えばソーラまでは約1日。あくまでも予想ではあるがマリー達は何処かで一夜を過ごすはず。
その後、日が出るのを待ちソーラにて救助活動を行い、救助人数が少なければポータルでコロン村まで帰ると思われる。
その何処かで襲撃が行われるはずだが、ソーラまでのルートは数種類あり兵種によって得意なルートが別れる。
もちろんパーティーの編成によって、ある程度使用するルートは予測出来るが、ゾンビの群れと遭遇する等の不測の事態によりルートを変更する場合もある。
襲撃者も待ち構えるなら出来るだけ確実性を求めるだろう。そうなれば・・・
「ソーラに入る時かもしくは地下通路でソーラ内に入って来たところかな」
目的地がソーラであり、ソーラへの入り口が1つしかないのならその前後で襲撃するのが定石だろう。
それにソーラは貿易都市だけあって建物が密集している。狙撃には向いていないが、隠れる場所も多く奇襲もしやすい。
「そうなると、必ずしもソーラに入る前後じゃなくても、入った後ならいつでも奇襲は出来るのか。どっちにしろ急いでソーラに入る前に合流が一番理想的なんだけど・・・」
そう言いながらもレイはブレーキをかけて速度を急激に緩める。目を細めながら前方を見るレイ。良く見ると光に反射して細長い一本の糸が木々の合間に見える。
まるでレイの進行を妨げるように脛辺りの高さに張られた糸。
「やっぱりそう上手くはいかないか」
それを見て即座にBK250から降りるレイ。
サブマシンガンを左手に持ちながら周囲に転がっていた大きめの枝を右手に持つと、その糸目掛けて投擲。
枝が糸に触れた瞬間、木々が爆散し糸の張られた場所に倒れる。
「ワイヤートラップね・・・工作兵か。コロン村の森で罠とかトラウマしかないんだけどなぁ」
昔、コロン村を懸けて他のレギオンと争っていた頃。備蓄の無くなったポーションの材料を探しに森の中に入った時、そこは罠が多量に設置されている場所だった。
シールドを破壊され、左手を欠損はしながらもなんとかそのトラップ地帯を逃げ延びた当時の記憶を思い出し、苦い顔をするレイ。
あの時はまだゲームだった。死んでもリスポーンするのを待つだけで済み、悔しい思いをするだけ。
しかし今はそうはいかない。死んでもリスポーンする等という都合の良いことは起きないのだ。
「でもこれで確定だな。間違いなく襲撃者はまたマリーさんを襲うつもりで、それには俺が邪魔になるからこうやって足止めをしてるってとこかな」
ワイヤートラップは工作兵が良く使う基本トラップの一つ。
ワイヤーの両端に爆薬が付いており、ワイヤーに掛かる圧力や、振動を感知すると、その爆薬が爆破する。
相手を倒すことにも使えるが、建物内やこういった森林等では進路や出口を塞ぐのにも使える。しかしワイヤーがそれなりに太いこともあり、相手側にバレやすい弱点を持っている。
上級プレイヤーは見えやすいワイヤートラップをあえてブラフで使い、本命のトラップへの誘導として使ったりもする。
今回の場合はあえてワイヤートラップを見せることで、警戒心を抱かせ、容易に森の中を進行させないつもりなのだと推測出来る。
敵の思惑通りに動くのは面白くないが、罠があるとわかった以上、BK250に乗って進むことは出来ない。
どうやら相手側にもそれなりに知恵の回るやつはいるみたいだ。
『俺っちの声が聞こえるか?』
レイが周囲を警戒していると、少しノイズの入ったような声が森に響く。
『おっと。声から俺っちの場所を特定しようとしても意味はないぜ。森の至るところにダミーボイスを設置しているからな』
ダミーボイスとはデコイとして使われる罠である。送信機を通して話すことで、受信機からその声が発信される仕組みで、敵の動きの誘導に使われる物だ。
また今回のように多数受信機を設置することで、自身の位置を悟らせないようにも出来る。
声の主はレイが周囲を見渡す動作を止めるのと同時に続きを話し始める。
『取り敢えず用件を伝えるぜ。今回の件について勘づいてるようだが、手を引いてくれ。そうしてくれるなら俺っち達もあんたらに何もしない。新人達のお守りでもしてるんだろ? これ以上関わるようなら新人達がどうなっても知らないぞ?』
声の主は下品な笑みを浮かべているのがわかるような口調で一方的に用件を伝えてくる。
「うーん。痛いところをついてくるねぇ。確かにその脅しは効果的だよ。でもねここで引いたら俺がアヤメちゃん達に怒られるんだよっと!」
レイは視界を煙で塞ぐスモークボムを地面に叩きつける。
レイの周囲が瞬く間に煙に包まれ、その姿が視認出来なくなる。
『かぁ~。やっぱり脅してみても駄目かぁ! まぁこっちの展開の方が俺っち好みなんだけどな。簡単に死ぬとかは勘弁してくれよ。精々もがいて俺っちを楽しませてくれ!』
レイが徹底抗戦を選んだことを喜ぶ声の主。
(さて。多分周囲は罠だらけなんだろうな。相手の姿を探すのはこの森の中じゃ難しいし)
レイはひとまず煙に紛れて左手の森林へと突入。林の影へと隠れる。
周囲の確認をすると迷路のようにワイヤートラップが張り巡らされていた。
(上手く周囲を取り囲んではいるけど狙いが見え見えだねぇ。まるで出口まで綺麗に誘導してくれる迷路のようだ)
多分ワイヤートラップを避けた先に本命の罠があるのだろう。本来脛辺りの高さに設置するはずのワイヤートラップが胸辺りの高さと腰元辺りの高さに二重に設置されていた。
丁寧に木々の上部にもワイヤートラップが敷かれており、どれか1つでもワイヤートラップが作動すれば、ここら一帯の木々が連鎖爆破により薙ぎ倒される仕様になっている。
これではあからさま過ぎて、避けて下さいと言ってるようなものだ。
(ワイヤートラップを無力化すれば簡単に逃げられるけど、後ろから追われる可能性を考えれば、ここで終わらしといた方が良いかな)
レイはあえて相手の思惑に乗ろうとワイヤートラップが誘導するままに進んでいく。
罠地帯を駆けていると、センサーに反応し跳ね上がってきたアイアンスピンが金属球を撒き散らす。
レイはそれをしゃがんで回避すると、低姿勢のまま加速。他のアイアンスピンが跳ね上がる中、金属球を撒き散らす前にその地帯を通り抜ける。
背後で金属球のぶつかりあう金属音が響いたのと同時に、今度は跳躍。するとレイの足元が崩落し、大きな穴が形成される。ドロップダウンという名の罠。いわゆる落とし穴である。
空中ステップを使い、落とし穴を越えて着地したレイ。
そんなレイに足場から鎌のような刃物が突き出るレッグリープと呼ばれる罠が作動する。
名前の通り足を刈るような鎌の動きをバックステップで躱し、落とし穴に落ちるところを再度空中ステップを使って、レッグリープの裏へと着地する。
「罠の配置が素直すぎるよっと!」
絶え間なく襲いかかる罠をなんなく避けていくレイに、焦りを見せ始めたのは声の主だった。
襲撃を目論んでいたパーティーの1人であり、リーダー格からレイの足止めを命じられた男ザグ。
ザグは受信機から聞こえる音にレイの悲鳴や嗚咽が聞こえてこないことに呆れた様子を見せる。
ザグは罠が仕掛けている範囲にあるワイヤートラップに、ダミーボイスの送信機を忍ばせていた。そこから聞こえてくる罠の作動音を頼りにレイが今何処にいるのかを把握しながら、レイが罠に掛かるのを楽しみにしていたのだが。罠に引っ掛からないどころか、物凄い速さで罠地帯を抜けていた。
ザグは受信機から聞こえる罠の作動音を聞きながら、お手上げといった様子で両手を頭の後ろで組む。
「あんだけの罠をジャミング無しで抜けてるとかホンマもんの化け物だな! あはは! こりゃ駄目だ仕留めれる自信ないわ。俺っちは勝てる戦いしかしない主義なんでね。さっさと退散しますか」
ザグがレイを仕留めるのを諦め、退散しようとしていた時。受信機から聞こえる音が途端に止む。
「ん? どうした? もしかして仕留めたか!? ヤッホー! あんだけのプレイヤーだ、絶対に名のあるプレイヤーに違いねぇ! こりゃ頭に報告したら幹部に昇進出来るかもな!」
少しの間、受信機に耳を傾けてみるもやはり音は聞こえず、新たな罠の作動音も聞こえない。
レイの声が聞こえないのが気になったが、送信機自体、用途の関係上そこまで細かい音を拾える訳ではない。
身動きが出来ない状態になったのではと考えたザグは軽い足取りで音が消えた地点へと向かった。
「ここだな。さぁてどんな顔をしているか見物だなぁ。出来ればまだ生きててくれよ。じゃないと楽しみが減っちまう」
愛用のハンドガンをクルクルと回しながら上機嫌で音が消えた場所まで辿り着く。
ザグが来た場所はレッグリープの罠を越えた先にある、ザグが最も好きなトラップ地帯。
その名もアントヘル。どのような場所でも蟻地獄を発生させることが出来るもので、範囲も広く罠の中央に立って初めて作動することもあり、回避が難しいとされる罠である。
荒れた砂地と成り果てた場所を見ながらレイの姿を探すザグ。
この罠は砂で相手の下半身を絡めとり動きを止めるもので、本来そこまで殺傷能力の高いものではない。稀に砂から出ようともがいてそのまま砂に溺れるプレイヤーもいるが、大半は下半身から上半身が砂に埋もれて動けなくなるだけである。
ザグがこの罠を気に入ってるのは使い勝手の良さだけでは無く、アントヘルによって身動き出来ない相手を甚振れるという点だった。
アイアンスピンやレッグリープも殺傷という点ではそこまで強くない罠ではあるものの、プレイヤーの動きや作動するタイミングによって殺傷出来てしまう。
しかしアントヘルの場合、罠に掛かったのがよっぽどの馬鹿でもない限り、身動きが出来ない状態に陥るだけだ。
戦えない相手をじわじわとじっくり虐め抜きながら殺すのが好きなザグにとって、アントヘルは正に理想の罠であった。
そんなZWで他人を虐めるのがライフワークともなっているザグは、にへら顔をちらつかせながら蟻地獄と化した場所を覗きこむ。
「やっぱり。来ると思っていたよ」
ザグが蟻地獄を覗き込んだ時、ザグの後ろから声が聞こえたと同時に銃撃音が響く。
「っが! いでぇぇぇ!」
ザグは振り替える間も無く、両手足に風穴を開け、悲鳴をあげながら蟻地獄の中へと落ちていく。
痛みによりのたうちまわるザグはそのままズブズブと蟻地獄に沈んでしまう。
両足と左腕が埋もれ、身動きが取れなくなったザグは、痛みから脂汗をかきながらも、蟻地獄の上に立っているレイに視線を向ける。
「あんた・・・風属性持ちか。空中でステップを踏めるなら、アントヘルも避けられる。はぁとんだ貧乏くじを引いたもんだ」
「ご名答。避けるのは難しくなかったよ」
ザグは自嘲気味に軽く笑うと、銃口を向けてくるレイに疑問に感じたことを問う。
「なんで俺っちが来るとわかったんだ?」
「そんなの使ってる罠の種類を見ればすぐわかるよ。設置されているのはどれも殺傷性能の低い罠、おまけにダミーボイスまで設置されてるんだから。自分の手で止めを刺す気満々じゃないか。罠ってのは虚実を織り混ぜて使わないと。あまりに素直過ぎる。あんまり工作兵向いてないんじゃないかな」
呆れた顔でザグが来ると思った理由を話すレイ。
理由を聞いたザグは笑い声をあげる。
「はっはっは! そうか俺っち工作兵向いてないのかぁ。わざわざ忠告ありがとう。・・・今後に活かせるよう頑張るわぁ!」
ザグは笑い声から一転、ドスの聞いた声を出すと、レイの周囲を取り囲むようにワイヤートラップを出現させる。
クモの巣のように複雑に絡んだワイヤートラップはレイの全方位を囲むように展開されている。
「さっきまでのは時間稼ぎという訳か」
「はっはっは! これで形成逆転だな! 俺っちが工作兵だってわかってんなら罠を準備する時間を与えちゃ駄目でしょ! それとも工作兵が自身の周囲10mなら何処でも罠を設置出来ることを忘れてたのかな!?」
勝ち誇ったような顔で唯一残った右腕にハンドガンを構えるザグ。
「くっそが。めちゃめちゃいてぇじゃねえか。こりゃしっかりお返ししないとな!」
血液が滴る右腕を持ち上げ、ゆっくりと銃口をワイヤートラップに囲まれたレイに向けるザグ。
標準は定まらないが、ワイヤートラップに少しでも掠れば、連鎖爆破でレイもろとも爆死させることが出来る。
脂汗をまみれの顔を歪めたザグが引き金を引こうとした時。レイの左手から紫電が迸る。
迸った紫電がワイヤートラップに触れると瞬く間に錆びたような色になり崩れ落ちた。
「は・は・・はぁ!? 意味がわかんねぇ! あんた空中ステップ使えるんだろ!? なら最低でも風属性はレベル4はあるはずだろうが! なのになんで雷属性レベル3以降からしか使えないジャミング兵器が使えるんだよ!」
属性値に振り分けられるのは6ポイントまでである。
空中ステップが使えるようになるのにはザグの言ったとおり、風属性を最低でもレベル4まで上げないといけない。
そしてレイが今使った、一部の罠や自律兵器を壊すジャミング兵器は、雷属性をレベル3まであげないと使えるものでは無い。
空中ステップとジャミング兵器を使えるようになるには最低でも7ポイントが必要ということになる。
つまり1人のプレイヤーが空中ステップとジャミング兵器を使用するのは不可能なのだ。
そのありえない事を成したレイは、広角泡を飛ばすザグには目もくれず。地面に何やら細工を施す。
「おい! どういうことだ! 答えろよぉ! どんなカラクリなんだぁ!」
「君には教えたくないね。てかもう必要ないでしょ」
「えっ・・・?」
細工を終えたレイは冷めた目でザグを一瞥した後、蟻地獄から離れようとする。
「おいちょっと待てくれよ! 俺っちが悪かった! だから助けてくれ!」
「俺はお人好しであっても愚かな者ではありたくない。だから君を殺すよ」
レイは振り替えることなく、蟻地獄から離れると、手元のスイッチを入れる。
すると大きな爆破音の後にザザァーと砂の流れる音が聞こえてくる。
レイが地面にした細工。それはC4爆薬の設置だった。遠隔操作も可能な爆薬であり、地面だけでなく壁にも設置出来る万能兵器。
C4爆薬の爆破により、崩れた砂がザグのいる場所を埋め尽くそうと流れていく。
「やめ・・やめろ。やめろぉー!!」
流れてくる砂を一生懸命に残った右腕でかき出そうとするザグ。しかし多量の砂の前では、ザグの健闘も焼け石に水である。
「くそがぁぁぁ!!」
そのうち、右腕も埋まり何も出来なくなるザグ。
まさか自分がアントヘルで死ぬことになろうとは誰が予想出来るだろうか。
恐怖に顔を引き攣らせたまま、遂に全身を砂に包まれたザグはそのまま暗い地面の下で生涯を閉じた。




