第8話 影剣士と、遺跡の深層で交わした言葉
俺のアパートは完全に「魔導工房」と化していた。
床の半分を占領するのは新調したロボット掃除機(強化版)、小型電子レンジ、Bluetoothスピーカー(大音量モデル)、そしてホームセンターで買った高圧洗浄機だ。
朝から実験に没頭した。
電子レンジに魔力を流すと、内部が異常に加熱され、指向性爆発魔法に変化。
試しに空のペットボトルを入れてチン!すると、ボトルが一瞬で蒸発して衝撃波を放った。
「これ、敵の中に投げ込んだらヤバいな……」
高圧洗浄機は水差しの強化版。
水流がレーザーのように細くなり、貫通力が段違い。
ロボット掃除機はリモコンで完全遠隔操作可能になり、自動で土属性の地雷を撒き散らすサポート役として完成した。
「これで第3層にも行けるかも……」
昼過ぎ、佐藤零から緊急の連絡が入った。
【中之島周辺で大型シャドウ反応。遺跡入口付近だ。お前も来るか?】
俺はリュックを背負いながら返信した。
【行く。自分のペースで】
現場に着くと、すでに戦闘が始まっていた。
佐藤零が魔力の剣を振り回し、霧島凛が雷を落としている。
天野みうは後方から癒しの光を飛ばしていたが、敵は強かった。
車サイズの大型シャドウが二体、しかも特殊型の群れ型だ。
俺はすぐに参戦した。
「掃除機、全力吸引!」
ゴオオオオオオオッ!!
一台の大型を吸い込み、内部で圧縮。電子レンジを投げ込んで内部爆破。
もう一体には高圧洗浄機の水流を叩き込み、手鏡で光の熱波を追撃。
ロボット掃除機が自動で土の棘を撒き、動きを封じた。
佐藤が感嘆の声を上げた。
「成長が早すぎる……お前、本当に民間人か?」
戦闘が終わった直後——
「ふん……玩具の寄せ集めか」
低い、嘲るような声が響いた。
路地の暗がりから、一人の男が現れた。
黒いコートを羽織り、右手には黒い影でできた長剣を構えている。
黒崎剣——影剣士。
「家電魔法使い……高橋悠真、だったな。
お前のような小物が、俺の獲物を横取りするとはな」
佐藤が剣を構え直す。
「黒崎……お前はまた勝手に動いてるのか」
黒崎は薄く笑った。
「政府の犬どもと遊んでる暇はない。
俺はただ、強いシャドウを狩るだけだ。
……それより、そこの家電野郎。少し遊ぼうか」
突然、黒崎の影が地面から飛び出し、俺に向かって襲いかかってきた。
「来い!」
俺は即座に全道具を展開。
ドライヤー+扇風機で光の旋風(手鏡併用)、掃除機で吸引、ラップで防御、高圧洗浄機で水の槍、ロボット掃除機で自動援護。
激しい攻防が始まった。
黒崎の影剣は素早い。
影を伸ばして多方向から攻撃してくる。
俺は傘を広げてバリアを張り、スピーカーで低周波を浴びせて動きを乱した。
「面白い……!」
黒崎が本気になり、影の剣を巨大化させて斬りかかってきた。
俺はリモコンで扇風機を最大出力にし、掃除機で影を吸い込みながら、電子レンジを投げて爆発を誘発。
ドゴオオオオオン!!
爆風で黒崎が一瞬後退した。
「へえ……ただの家電じゃねえな」
その瞬間、俺の頭の中に再び玄蔵の声が響いた。
「道具は道具に過ぎぬ。しかし、人の意志が宿れば、それは魔法となる」
(蘭方 鉄之助の名言)
俺は全ての道具を同時に起動させた。
風・光・水・土・音・熱・吸引——全ての属性を組み合わせた最大コンボ。
黒崎の影剣が一瞬、揺らいだ。
「ちっ……」
黒崎は舌打ちをして影に溶け込み、撤退した。
「また会おう、家電魔法使い。
お前は……俺の玩具として悪くない」
声だけを残して姿を消す。
戦闘後、佐藤が俺の肩を叩いた。
「危なかったな。あいつは危険だ。シャドウの力を取り込みすぎて、いつ暴走するかわからない」
みうが心配そうに俺の手を握った。
「悠真くん、大丈夫? 怪我してない?」
俺は笑って答えた。
「平気だ。むしろ、楽しかった」
その夜、俺は再び遺跡へ足を運んだ。
第2層を越え、第3層・記録庫に到達した。
そこには無数の魔導日誌と、石碑が並んでいた。
中央の大きな石碑に、玄蔵の言葉が刻まれていた。
「我が過ちを正してくれ。
生活魔力を、日常を守る力にせよ」
俺は日誌を一冊手に取り、ページをめくった。
そこには、現代の家電に酷似した古代道具の設計図が描かれていた。
「俺の力は……本当に、影ノ宮が目指したものだったんだ」
突然、記録庫の奥から強い魔力の反応。
新たな大型シャドウ——思念体が現れた。
それは玄蔵の残留思念を模した、強大な影だった。
俺は全力を尽くして戦った。
新触媒を総動員し、古代道具の力を借りながら、ついに核を破壊した。
戦闘後、玄蔵の幻影が再び現れた。
「よくやった……後継者よ。
汝は我が夢を、確かに継いでいる」
俺は静かに頷いた。
「まだ……俺は自由に生きたい。
でも、この力の意味は、ちゃんと知るよ」
地上に戻った時、夜空に巨大な黒い雲が広がっていた。
シャドウの大規模出現の予兆だ。
スマホに、未知の番号からメッセージが届いた。
【次は本気で相手をしてやる。
――黒崎剣】
俺はリュックを背負い直した。
「いつでも来いよ。
俺の家電は、まだまだ改良の余地があるからな」
大阪の夜風が、俺の頰を撫でた。
それは、ただの風じゃなかった。
俺が作り出す、未来への風だった。
第8話 終わり




