第5話 政府の誘いと、雨の日の傘魔法
翌朝、アパートの部屋は相変わらず散らかり放題だった。
テーブルの上には昨日使った大型シャドウ討伐の戦利品(?)として、黒く焦げたシャドウの核の欠片が小さく転がっている。
これを握ると微量の魔力が還元されるみたいで、なんとなく体が軽くなった気がする。
「佐藤零……天野みうか」
スマホに登録されたばかりの連絡先を眺める。
昨夜、戦闘後に佐藤からメッセージが来ていた。
【今日の夕方、話だけでもいい。梅田の某カフェで待ってる。】
俺はため息をついた。
まだフリーターでいたいのに、政府に目をつけられたのは確実だ。
でも、完全に無視するのも危ない気がする。
「とりあえず……今日は雨らしいし、新触媒の実験でもするか」
外は朝からどんよりとした雨。
俺はドン・キホーテで買った折りたたみ傘を手に、魔力を流してみた。
シュゥゥゥン……
傘が自動で開き、風を溜め込む。
雨粒が傘の周囲で渦を巻き、まるで小さな竜巻シールドのようになった。
さらにドライヤーの温風を組み合わせると――
ブオオオ……ザァァァァ!!
雨を蒸発させる熱風バリア完成。
これなら雨の日の戦闘でも視界が確保できる。
「いいね、これ」
午後、バイトを早めに切り上げて梅田に向かった。
指定されたカフェに入ると、佐藤零と天野みうがすでに待っていた。
佐藤はスーツ、みうは私服で可愛らしいワンピース姿だ。
「来てくれたんだ。ありがとう」
佐藤が真剣な顔で切り出した。
「率直に言う。お前の能力は特異だ。
触媒依存型の中でも『生活魔力共鳴』という新分類らしい。
WARO(国際組織)からも注目されてる。
登録してくれれば、報酬は月50万から。専用車両も出す」
みうが目をキラキラさせて身を乗り出す。
「悠真くんの家電魔法、動画で何度も見たよ!
特に手鏡の光の竜巻、超綺麗! 私も一緒に戦いたい!」
俺はコーヒーを啜りながら答えた。
「正直……まだ一人でやりたいんだ。
政府に入ったら、自由に100均巡りできなくなるだろ?」
佐藤が苦笑いした。
「わかった。強制はしない。
ただ、困った時は連絡してくれ。俺たちはお前を敵に回す気はない」
その時、カフェの外で大きな地響きがした。
「またか……」
窓の外、大通りで中型シャドウが三体出現していた。
雨の中、黒い影が車をなぎ倒していく。
佐藤が立ち上がる。
「急ぐぞ」
外に出ると、雨が強くなっていた。
俺は折りたたみ傘を構えた。
「雨の日仕様、試運転だ!」
シュゥゥゥン!! ブオオオオオッ!!
傘が風を溜め、ドライヤーで熱風を吹き込む。
雨が蒸発し、周囲に熱い霧が発生。シャドウの視界を乱す。
みうが光を放ち、佐藤が魔力の剣を具現化して突撃。
俺はリモコンで扇風機を遠隔操作し、雨を巻き込んだ巨大な水竜巻を作り出した。
ゴオオオオオオッ!!
水+風の複合魔法が中型一体を飲み込み、手鏡で光の熱波を叩き込む。
佐藤の剣が核を貫き、みうの癒しの光で俺たちの傷を瞬時に回復。
三体をあっという間に片付けた。
雨の中で、みうが俺の手を握ってきた。
「やっぱり悠真くん、すごい! 私の光と組み合わせたら、もっと強くなれそう!」
佐藤が濡れた髪を払いながら言った。
「これが家電魔法……面白いな。
お前が自由に戦うのも認める。だが、情報を共有してくれ。
シャドウの出現パターンが、最近大阪に集中してる」
俺は頷いた。
「わかった。最低限の協力はするよ」
その夜、アパートに戻ってから俺はベランダで傘を回していた。
雨は止み、夜空に月が出ている。
ふと、ポケットのスマホが震えた。
未知の番号からメッセージ。
【面白い力だな。家電魔法使い。
影はもっと深く、お前を待っている。――黒崎剣】
「……また新しい奴かよ」
俺は小さく笑った。
政府、国際組織、そして謎の能力者。
シャドウの正体も、まだ何もわからない。
でも、ドライヤーが熱を持ち、扇風機が回り、手鏡が光を反射する限り、
俺はこの戦いを楽しむつもりだった。
「明日も100均行ってみるか」
そう呟きながら、俺は新しい触媒を探すリストを作り始めた。
折りたたみ傘は予想以上に強かった。
次は掃除機か、電子レンジか……。
大阪の夜風が、部屋に吹き込んでくる。
それは、ただの風じゃなかった。
俺の風だった。
第5話 終わり




