第4話 大型が来て、初めての「同業者」に出会った
朝の大阪は、相変わらず蒸し暑かった。
俺――高橋悠真は、アパートのベランダで新しい獲物を広げていた。
昨日ドン・キホーテで買ったばかりの折りたたみ傘とBluetoothスピーカー、それに100均のサングラス。
「家電メインで行くつもりだけど……雑貨も試さない手はないよな」
まず折りたたみ傘を開いて魔力を流す。
パッ!
傘が一瞬で風を溜め込み、ビュンと勢いよく回転しながら浮き上がった。
風魔法の補助具として使える。ドライヤーと組み合わせれば、方向制御が楽になりそうだ。
次にBluetoothスピーカー。
「音……どうなる?」
音楽を流しながら魔力を注ぐと、スピーカーから低く響く音波が広がり、部屋の空気が震えた。
シャドウにぶつけたら、動きを乱す「音波攻撃」になりそう。なかなか悪くない。
サングラスは予想通り、光魔法の補助。手鏡と合わせれば、光の反射効率が跳ね上がる。
「よし、今日も実験日だ」
そんなことを考えながらコンビニバイトを終え、梅田の公園近くを歩いていると――
地面が、ドンッと大きく揺れた。
「またか……」
周囲の人が悲鳴を上げて逃げ出す中、黒い霧が噴き上がった。
今まで見た中で一番デカい。車くらいのサイズはある大型シャドウ。
体表がうねうねと動き、影の触手が地面を這い回っている。
「これは……第3話の比じゃねえ」
俺はリュックから一式を取り出した。
ドライヤー、扇風機、リモコン、手鏡、水差し、保冷スプレー、鉢植え……そして新入り傘とスピーカー。
「いくぞ!」
まずドライヤーをフルパワー。
ブオオオオオオッ!!
強風が大型シャドウの体を削るが、再生が早い。
すぐに扇風機をリモコンで遠隔操作。首振り機能をオンにしながら竜巻を発生させる。
ゴオオオオオオッ!!
風の渦が大型を包み込む。
ここで手鏡を太陽光に合わせて反射。
キィィィィン!!
光の旋風が完成。シャドウの表面がジュウジュウと焼け、黒い粒子が舞う。
しかし、まだ倒れない。触手が伸びて俺に迫ってくる。
「ちっ、でかいだけじゃなくてタフかよ!」
水差しで高圧水流を叩き込み、保冷スプレーで表面を凍らせる。
さらに傘を開いて風を溜め、スピーカーで低周波を浴びせた。
ズドオオオオオン!!
ようやく動きが鈍った。
ここでトドメに――
「リモコン、魔力ハック!」
学習型リモコンを構え、ボタンを連打する。
シャドウの核に魔力が干渉し、一瞬だけ動きが止まった。
「今だ!」
鉢植えを地面に叩きつけ、土の槍を突き上げて核を貫く。
大型シャドウは巨大な咆哮を上げながら、黒い粒子となって霧散した。
「ふう……勝った」
息を切らして地面に座り込んだ瞬間。
「――おい、待て」
背後から声がした。
振り返ると、そこに立っていたのはスーツ姿の男。
短髪で鋭い目つき。手に具現化した魔力の剣を構えている。
「高橋悠真……だな?」
「えっ、俺の名前知ってるんですか?」
男はため息をつきながら剣を消した。
「佐藤零だ。内閣府特殊能力対策課、影討班リーダー。
お前が『家電魔法使い』だって噂は聞いてた。
……見事だった。大型を一人で倒すとは」
俺は思わず後ずさった。
「政府の人……?」
佐藤はスマホを取り出し、俺の戦闘映像を再生した。
どうやら遠くから撮影していたらしい。
「我々は民間能力者の協力を求めている。
登録すれば報酬も出るし、専用装備も支給可能だ。
どうだ、一緒に――」
その時、佐藤の後ろから明るい声が飛んできた。
「わー! 家電で戦ってる人、初めて見た! 超カッコいい!」
ピンクの髪をポニーテールにした小柄な女の子が、佐藤の横から顔を出した。
天野みう。癒しの光の能力者だと後で知ることになる。
「悠真くん、だよね? 私、みう! 悠真くんの風魔法、すっごく綺麗だったよ!」
俺は完全に面食らった。
「え、ちょ、待って。なんでみんな俺のこと知ってるの?」
佐藤が苦笑いした。
「ネットに少しだけ流れてる。お前の戦闘動画が。
『ドライヤーで風魔法』ってタグ付きでな」
「マジかよ……」
俺は頭を抱えた。
まだ名乗り出る気なんてなかったのに、すでにバレてるなんて。
その時、遠くからまた地面が揺れた。
どうやらこの大型は先遣隊だったらしい。
中型が五体、新たに出現した。
佐藤が剣を具現化し直す。
「みう、援護を。悠真、協力できるか?」
俺は少し迷ったが、ニヤリと笑った。
「……まあ、せっかくだし」
ドライヤーを構え直す。
ブオオオオオッ!!
佐藤の剣撃と俺の風魔法が同時に炸裂した。
みうの光が傷を癒し、俺のコンボが加速する。
中型シャドウをあっという間に片付けた。
戦闘が終わると、佐藤が真剣な目で俺を見た。
「どうだ。少しでも興味あるなら、連絡をくれ。
お前の力は……本物だ」
俺は道具を片付けながら答えた。
「今は……まだ、フリーターでいたいんで。
でも、困った時は助け合うくらいは、いいかもな」
みうが笑顔で手を振った。
「またね、悠真くん! 今度一緒に戦おうね!」
二人が去った後、俺は一人で公園のベンチに座った。
ポケットのドライヤーが、まだ少し熱を持っている。
「政府……国際組織……古代の遺跡……」
シャドウの正体も、自分の能力の意味も、まだ何もわからない。
でも一つだけ確かなことがある。
俺の日常は、もう普通じゃなくなった。
それでも、
ドライヤーで風を起こし、
手鏡で光を放ち、
リモコンで敵を操り、
家電と雑貨で戦うこの日々が、
なんだかんだで、悪くないと思っていた。
遠くで、また緊急速報のサイレンが鳴り始めた。
俺は立ち上がり、リュックを背負った。
「次はもっとデカいのが来るんだろうな」
小さく笑って、
大阪の夜の街に溶け込んでいった。
第4話 終わり




