第3話 手鏡で光を操ったら、熱波がヤバかった
小型扇風機とリモコンを試した翌日。
俺はいつものようにアパートで朝を迎えた。
テーブルの上はもう家電だらけだ。
ドライヤー、ライター、水差し、小型扇風機、リモコン、保冷スプレー、鉢植え……そして今日新しく加わったのは、百円ショップで買ったシンプルな手鏡。
「家電だけじゃもったいないよな……」
昨夜、ふと思ったんだ。
ドライヤーや扇風機は「電気製品」だけど、俺の周りにはもっと身近な「普通のモノ」がたくさんある。
鏡とか、傘とか、財布とか。
もしそれらも魔法になるなら?
試しに手鏡を手に取った。
丸いプラスチック製の安物。直径10センチくらい。
裏側に小さなスタンドがついている。
「光……反射するよな」
ベランダに出て、朝の太陽に向かって手鏡を傾けた。
普通なら光が反射してまぶしいだけ。
でも俺が魔力を流すと――
キィィィィン!!
鏡面が一瞬、眩い光を増幅させた。
集まった太陽光が、細い光線になってベランダの植木鉢に直撃。
植木の葉が一瞬で焦げ、熱波のような空気が広がった。
「うおっ!? 熱い!」
慌てて鏡の角度を変えると、光線が消えた。
代わりに鏡の周囲に淡い光の粒子が舞う。
「これ……光魔法? それとも熱波?」
もう一度試す。今度は意識的に「熱を込める」イメージで。
ズゥゥゥン……
鏡が太陽光を吸い込み、鏡面がオレンジ色に輝いた。
次の瞬間、扇状の熱波が前方に広がり、ベランダの床を軽く焦がした。
火傷しそうな熱さだけど、俺自身にはダメージがない。
「すげえ……手鏡でレーザーみたいなことできるじゃん」
室内に戻り、暗い部屋で試してみる。
スマホのライトを鏡に当てて反射させる。
ビィィィン!!
光線が壁に当たり、くっきりとした穴が開いたような跡が残った。
威力は太陽光ほどじゃないが、夜間でも使える。
「これで光属性が追加だな。
ドライヤーの風と組み合わせたら……?」
興奮しながら実験を続けた。
小型扇風機で風を起こし、手鏡で光を反射させて「光の旋風」にしてみる。
風が光の粒子を巻き上げ、部屋の中がキラキラと輝く美しい竜巻になった。
攻撃に使えば、敵の目をくらませながら切り裂く感じだ。
リモコンで扇風機を遠隔操作しながら、手鏡を構える。
「これ、コンボが無限に広がる……」
午後、俺は意気揚々と外に出た。
今日は心斎橋方面を歩きながら、シャドウが出たら試すつもりだった。
ポケットには手鏡も忍ばせてある。
案の定、戎橋近くの路地でシャドウが三体現れた。
今度は人間サイズに近い大型のやつ。動きも素早い。
「よし、試運転だ」
最初はいつものドライヤーで風をぶつける。
ブオオオオッ!
一体を壁に叩きつけるが、残り二体は素早く距離を詰めてくる。
ここで新兵器。
左手で手鏡を構え、右手で小型扇風機。
「光よ、集まれ! 風よ、巻け!」
キィィィン!! ゴオオオオオッ!!
手鏡が太陽光(と街灯の光)を集め、眩い光線を放つ。
同時に扇風機の竜巻がその光を巻き込み、光の旋風となって二体のシャドウを包み込んだ。
怪物たちは目を焼かれながら回転し、黒い体が光に溶けるように削れていく。
「まだだ!」
さらにリモコンを構え、扇風機の出力を最大に。
光の竜巻が太くなり、シャドウを完全に霧散させた。
残った一体は地面を這って逃げようとする。
俺は水差しを抜いて高圧水流で足止めし、保冷スプレーで凍らせる。
最後に手鏡で熱波を浴びせて、氷ごと蒸発させるように焼き払った。
戦闘終了、約30秒。
前より明らかに楽だ。
「手鏡、強すぎる……」
息を整えながら、手鏡の表面を撫でる。
まだ少し熱を持っていた。
太陽光を反射して熱波に変えるなんて、完全に魔法の鏡だ。
その夜、アパートに戻ってさらに試した。
手鏡をライターの火球に当てて反射させると、火の光線になった。
水差しの水流に光を当てて「光の水の槍」にすると、貫通力が上がった。
「これ……家電だけじゃなく、雑貨も全部使えるんだな」
俺は机の引き出しを開けた。
そこにはまだ試していないものがたくさんある。
折りたたみ傘、財布の中の小銭入れ、100均のサングラス……。
「明日から本気で漁るか。
100均、ホームセンター、ドン・キホーテ……」
ニュースでは、影の怪物がますます増え、政府が「特殊能力を持つ者」を探しているという。
まだ俺は名乗り出る気はない。
自分のペースで、いろんなモノを試して、魔法を磨いていく。
だって、ただのフリーターだった俺が、
ドライヤーで風を、ライターで火を、手鏡で光と熱波を操れるなんて……
こんなに楽しいこと、他にないだろ。
手鏡をポケットにしまいながら、俺は小さく笑った。
「次は何を試そうかな」
――その瞬間、スマホの緊急速報が鳴った。
【大阪城公園周辺に大型シャドウ出現 一般市民は避難を】
俺は立ち上がった。
手鏡を握りしめ、ドライヤーと扇風機をリュックに詰め込む。
「大型か……ちょうどいい試し撃ちだな」
第3話 終わり




