第2話 リモコンと扇風機で、俺の魔法は広がった
前日の戦闘から一夜明け、俺はアパートの部屋で床に座り込んでいた。
テーブルの上には昨夜使ったドライヤー、ライター、水差し、保冷スプレー、小さな鉢植えが並んでいる。
そして新しく加わったのは……コンビニで買ったばかりの小型USB扇風機と、学習機能付きの万能リモコンだ。
「試すしかねえよな……」
ニュースはさらに深刻になっていた。
影の怪物(ネット民は勝手に「シャドウ」と呼んでいた)の出現数が急増。
自衛隊が出動しているらしいが、通常兵器が効きにくいらしい。
俺みたいな「家電で魔法が使える」奴が他にいるのかはわからない。少なくともネットにそんな情報は出ていない。
まずは小型扇風機から試した。
手のひらサイズの黒いUSB扇風機。充電はフルだ。
スイッチを入れる。
ブゥゥゥゥン……
普通なら弱い風が出るだけ。
でも俺が魔力を流すと――
ゴオオオオオオッ!!
部屋の中に小さな竜巻が発生した。
ドライヤーのような直線的な風じゃなく、回転する渦。
カーテンが激しく舞い、床の埃がきれいに吸い上げられる。
首振り機能をオンにすると、竜巻がゆっくり部屋を回り始めた。
「これ……扇風機本来の“風を広範囲に送る”が強化されてる!」
ドライヤーは「熱風で素早く乾かす」→高出力の突風。
扇風機は「快適な風を届ける」→持続的な旋風や竜巻制御。
相性抜群だ。
次に万能リモコン。
テレビ、エアコン、照明などに対応する学習型だ。
俺はエアコンリモコン部分を意識しながら、ボタンを押してみた。
「冷房……最大!」
ピッ。
部屋の温度が急激に下がった。
同時に、リモコンの先から白い冷気が噴き出し、床に霜が張る。
保冷スプレーより範囲が広い。
さらに「タイマー」ボタンを押すと、冷気が一定時間持続した。
「リモコンで……遠隔操作?」
試しに扇風機に向かってリモコンを構え、学習させたつもりで「電源オン」を押す。
すると、扇風機が勝手に動き出し、俺が手を触れなくても竜巻を発生させた。
「マジかよ……これ、操れる!」
興奮してリモコンを振り回す。
扇風機の竜巻が俺の意志で方向を変え、部屋の隅を掃除するように動く。
まるで魔法の杖みたいだ。
「これで戦闘が楽になる……かも」
その日の午後、俺は勇気を出して外に出た。
ポケットにはいつもの道具に加え、小型扇風機とリモコンを忍ばせている。
梅田の地下街近くの路地で、またシャドウが出現した。
今度は四体。少し大きめだ。
「来たな……」
最初は定番のドライヤーで風をぶつける。
ブオオオオッ!
一体を吹き飛ばす。
残り三体が同時に迫ってくる。
ここで新兵器投入。
左手で小型扇風機を構え、右手でリモコンを向ける。
「扇風機、フルパワー! リモコンで……追尾!」
ゴオオオオオオオッ!!
扇風機から太い旋風が噴き出し、リモコンの操作でその風が曲がりながら二体を絡め取った。
竜巻が怪物たちを回転させ、地面に叩きつける。
黒い粒子が飛び散る。
最後の一体は地面を這うタイプ。
俺は水差しを抜いて高圧水流を撃ち、動きを止めると、リモコンでエアコン冷房モードを連打。
「凍れ!」
冷気が水流に重なり、怪物全体が一瞬で氷の塊になった。
最後に鉢植えを地面に押しつけ、土の波で完全に埋葬。
戦闘終了。
息は上がっていない。
扇風機とリモコンのおかげで、動き回る必要が減った。
「これ……イケるな」
その夜、アパートに戻ってさらに試行錯誤した。
リモコンで複数の道具を同時に操作できないか?
扇風機の竜巻にドライヤーの熱風を混ぜて「熱風竜巻」にすると、炎属性の風魔法になった。
ライターの火球を扇風機の風で飛ばせば、誘導火球に。
「組み合わせ次第で無限に広がる……」
俺はスマホで家電の画像を検索しながらニヤニヤした。
明日、100均とホームセンターを回ろう。
電動のもの、充電式のもの、面白い機能付きのものを探す。
ニュースでは、政府が「未知の能力者」に協力を呼びかける動きが出始めていた。
俺はまだ名乗り出る気はない。
ただ、シャドウを倒しながら、少しずつ自分の「家電魔法」を磨いていくつもりだ。
だって、普通のフリーターだった俺が、
ドライヤーで風を、ライターで火を、
リモコンで家電を操り、小型扇風機で竜巻を起こすなんて……
面白すぎるだろ。
「次はどんな家電で何ができるんだろうな」
そう呟きながら、俺は新しいUSB扇風機の充電器をコンセントに挿した。
第2話 終わり




