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『ドライヤーで風魔法が使える俺は最強です! ~現代家電が魔法道具になりました~』  作者: 新米オッさん兵士


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第1話 ドライヤーの風が、俺の人生を変えた

高橋悠真、二十四歳。

大阪の安いアパートに住む、典型的なフリーターだ。

今日も深夜のコンビニバイトを終えて、梅田の路地を歩いていた。

肩にはいつもの黒いリュック。ポケットには今朝使ったままの黄色いドライヤーが入っている。

「風が強いな……」なんて呟きながら、スマホで動画を見ながら歩く。

普通の夜だったはずだ。

突然、地面が揺れた。

「うわっ!?」

足元から黒い霧のようなものが噴き出し、路地の奥から異様な気配が迫ってきた。

影のようなシルエット。赤く光る目。牙を剥いた獣のような怪物が三体、ゆっくりと姿を現す。

「は……? 何これ? VR? ドッキリ?」

心臓がバクバク鳴る。

スマホの画面は真っ暗。圏外。

逃げようとした瞬間、一番大きい影の怪物が跳びかかってきた。

「ぎゃあああっ!」

咄嗟にリュックを振り回した。

中から転がり落ちたのは――朝、髪を乾かしたまま放り込んでいた安物のドライヤー。

コードが絡まったまま、コンセント部分が地面に当たる。

俺はパニックでスイッチを入れた。

ブオオオオオオッ!!

普通なら温風が吹くだけのはずだった。

なのに、ドライヤーのノズルから噴き出したのは、本物の暴風だった。

竜巻のような風の渦が怪物に直撃し、黒い影を吹き飛ばす。

怪物は路地の壁に激突し、黒い粒子になって霧散した。

「……え?」

風は止まない。

俺がドライヤーを握ったまま固まっていると、残りの二体が左右から襲ってきた。

咄嗟にノズルを振り回す。

「待て待て待て! 止まれ!」

ブオオオオオッ!! ガァァァァァン!!

風圧が怪物たちを地面に叩きつけ、まるで台風の直撃を受けたように吹き飛ばした。

二体とも黒い霧となって消滅する。

路地に静寂が戻った。

俺はまだドライヤーのスイッチを握ったまま、息を荒げて立っていた。

黄色いプラスチックのボディが、街灯の光に鈍く光っている。

温風の熱が、まだ手に残っていた。

「…………何これ?」

夢じゃない。

怪物は確かにいた。

そして、俺のドライヤーが……風魔法を発動させた。

震える手でドライヤーを確認する。

スイッチは「強」の位置。

コードはまだ絡まったまま。でも、明らかに普通のドライヤーじゃない。

魔力みたいなものが、俺の体からドライヤーへと流れている感覚があった。

「マジかよ……」

その時、スマホが震えた。

圏外が回復したのか、通知が一気に来る。

ニュースアプリのプッシュ通知。

【緊急速報 大阪市内各地で「影の怪物」目撃相次ぐ 警察・自衛隊出動】

「全国で……?」

俺は路地を後にし、足早にアパートへ戻った。

部屋に入るなり、ドライヤーをテーブルの上に置く。

まだ熱を持っている。

座って深呼吸する。

頭が混乱していた。

異世界転生? チート能力? そんなベタな展開が、現実の大阪で起きているなんて。

試しに、もう一度ドライヤーのスイッチを入れた。

ブオオオ……

今度は意識的に「弱」にしたつもりだったが、風は穏やかな渦を部屋の中に作った。

カーテンがふわりと舞い、埃がきれいに吸い込まれる。

まるで掃除機と扇風機を合わせたような、便利な風魔法。

「これ……使えるんじゃね?」

興奮と恐怖が混じった感情が胸に広がる。

俺は次に、ポケットから取り出したのは百円ショップで買った赤いライターだった。

タバコは吸わないけど、キャンプ用品として持っていたやつ。

「火……どうなる?」

カチッ。

シュッ! ボゥゥゥゥゥ!!

小さな炎が、ライターの先から飛び出した。

いや、飛び出したんじゃない。

火球だ。

部屋の中央に、拳大の炎の塊が浮かび、ゆらゆらと揺れている。

慌ててライターを閉じると、火球は消えた。

焦げ臭い匂いはしない。

完全に制御できている。

「すげぇ……」

次はキッチンへ。

シンクの横に置いてあった青いプラスチックの水差しを手に取る。

「水……?」

水道の水を少し入れて、意識を集中させる。

「出ろ!」と心の中で念じながら、水差しの注ぎ口を向けた。

シャァァァァァ!!

勢いのいい水の奔流が噴き出した。

普通の水差しじゃ絶対に出ない圧力。

まるで消防ホースのような水圧で、壁に当たって跳ね返る。

「水魔法も……!?」

さらに、ベランダの鉢植え――母が置いていったままの小さな観葉植物を手に持つ。

「土……?」

鉢を床に置いて、両手で包み込むように持つ。

イメージは「地面を操る」。

すると、床の板がわずかに盛り上がり、小さな土の壁ができた。

観葉植物の根元から緑の蔓が伸び、土壁を補強するように絡みつく。

「マジで……全部、身近なものに反応してる」

俺は興奮で震えながら、冷蔵庫から保冷スプレーを取り出した。

夏の熱中症対策で買ったやつ。

「これで……氷!?」

シュッとスプレーする。

白い霧とともに、部屋の空気が急激に冷え、床に薄い氷の膜が張った。

さらに念を強くすると、指先から氷の結晶が飛び、小さな氷の矢が壁に突き刺さった。

「全部……俺の持ってるもので魔法が使えるんだ」

その夜、俺は眠れなかった。

ニュースを見ると、大阪だけじゃなく、東京、名古屋、福岡でも同じような「影の怪物」が出現しているらしい。

警察は「未知の生物」と発表しているが、明らかにファンタジーの魔物だ。

朝になった。

俺はいつものようにバイトへ向かう準備をする。

でも、ポケットにはドライヤー、ライター、水差し(小さく折りたたみ式のやつを入れた)、保冷スプレー、そして小さな鉢植え(ポケットサイズの多肉植物)を忍ばせた。

「今日も……来るのか?」

コンビニのバイト中も、頭の中は魔法のことでいっぱいだった。

レジを打っている最中、店の外でまた黒い影が見えた気がした。

休憩時間。

裏口で一服……じゃなくて、ライターを試す。

カチッ。

小さな火球を掌に浮かべてみる。

熱くない。俺の意志でコントロールできる。

「これが……俺のチートか」

夕方、バイトが終わって帰宅途中の公園。

今度ははっきり現れた。

昨日より大きい影の怪物が、二体。

周囲に人はいない。幸運か、不運か。

怪物が咆哮を上げて突進してくる。

俺は迷わずドライヤーを抜いた。

「風よ……吹け!」

ブオオオオオオオオッ!!

全力でスイッチオン。

強風の竜巻が怪物の一体を巻き上げ、木の幹に叩きつける。

もう一体は横から来る。

今度はライターを構える。

「燃えろ!」

ボゥゥゥゥゥ!!

火球が怪物に直撃し、黒い体を炎で包む。

怪物は悲鳴を上げながら霧散した。

残った一体が、地面を這うように近づいてくる。

俺は水差しを手に取った。

水を入れておいたやつだ。

「水の槍!」

シャァァァァァァ!!

高圧の水流が怪物に突き刺さり、体を貫通する。

さらに保冷スプレーを追加。

「凍れ!」

シュッ!

水流が一瞬で凍りつき、怪物全体を氷の彫像に変えた。

最後に鉢植えを地面に叩きつけるように置く。

「土よ、飲み込め!」

地面が隆起し、土の波が氷像を完全に埋め尽くした。

黒い粒子が土の中から漏れ出し、消滅する。

公園は静かになった。

俺は息を切らしながら、使った道具たちを見下ろした。

ドライヤー、ライター、水差し、保冷スプレー、鉢植え。

全部、ただの日常のもの。

なのに、俺の手にあるだけで最強の魔法道具になる。

「これ……どういうことだ?」

その時、スマホにまた通知が来た。

【影の怪物 出現数が急増 政府が緊急事態宣言を検討】

俺は空を見上げた。

大阪の夜空に、どこか不穏な黒い雲がかかっている気がした。

「まあいい。

俺はただのフリーターだけど……

今日から、現代の家電魔法使いだ」

ポケットにドライヤーをしまいながら、俺は小さく笑った。

「次はもっとデカいのが来たら、どうすんだろうな」

――そう呟いた瞬間、遠くのビル街から、巨大な影の咆哮が響いてきた。

第1話 終わり

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