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目覚めたらピンク頭の屑ヒロインだった件~罰は醜怪騎士団長との婚約だそうです  作者: 灰銀猫


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異母兄の独白~2

 異母妹とその母親である義母とは殆ど関りがなかった。いや、俺が彼女たちに近づかなかったからだ。

 俺を産んだ母は、俺が七歳の時に亡くなった。元よりあまり丈夫ではなかったらしいが、流行り病を得てあっという間に儚くなってしまった。俺はうつってはいけないからと、母の死に目にも、葬儀にも立ち会う事は許されなかった。俺が…唯一の子供で、跡取りだったからだ。

 母の死後、俺は乳母や侍女たちに育てられた。父は仕事が忙しくて滅多に家に帰ってこなかったが、母が亡くなって二年目のある日、父は女性を一人連れてきて、自分に紹介した。彼女を後妻に迎えると言って。


「そんな!お母様の代わりなんて!」

「すまん、ライナス。この結婚はレイトン侯爵からの命令なんだよ。自分にも彼女にも拒否は出来ないんだ」

「そんな…」

「侯爵様は跡取りがお前一人では心配だと仰るのだ。ハットン子爵家を途絶えさせるわけにはいかないと仰ってな」


 それは命令だった。子供心にも、主家の命令が絶対で拒否出来ない事はわかっていた。

 でも…


「きっとあの女が無理やり妻になろうとしたのですわ」

「そうですよ。跡取りなら坊ちゃまがいらっしゃいますのに」

「ええ、旦那様は侯爵様の覚えもめでたいお方。きっとその地位を狙っているのです」

「自分が男児を産んで、坊ちゃまを追い出すつもりなのでしょう」


 乳母や侍女たちにそう言われた私は、それを信じた。というよりも信じたかった、が近いかもしれない。そうでなければ、母が可哀想だと思ったのだ。両親は仲がいい様に見えたから、きっとあの女が無理やり結婚を迫ったのだ…そう思った。


 だから俺は、新しい母親を、そしてその女が産んだ娘を、徹底的に避けた。幸いあの女は娘一人しか生む事はなく、俺も乳母も侍女たちもホッとしたが、そこに意外な事が起きた。


 あの異母妹が、ローウェル侯爵と婚約したのだ。

 それを聞いたのは辺境での討伐を終えて王都に戻る途中だった。男達に色目を使っていると悪評が広がっていた異母妹が、英雄とも言われる侯爵と婚約するなど、最初は信じられなかった。

 だが、王都に戻ればそれは本当の事だと認めざるを得なくて…俺は実家に帰って父と共に挨拶に行かざるを得なかった。ルシアの事もあるから、侯爵の機嫌を損ねる事だけは何としても避けたかった。


 だが、そんな俺の想いに反して、周りはそれを許してはくれなかった。

 

 実家に戻るにも休暇をとる必要があるのだが…先に休暇を取らせて欲しいという者が続いたのだ。親の急病や身内の死など、どれも後にするには難しいものばかりだった。俺は実家へルシアを連れて挨拶に行くため一日だけ休暇を取れたが…その後、ルシアが男達に襲われたりして、その機会を悉く失していた。

 ルシアがローウェル侯爵家に引き取られた後に行こうとしたが、その度に邪魔が入るか、父上との予定が合わなかった。父もレイトン侯爵と視察に行くなどして王都にいなかったのだ。

 俺一人でも…と思うのだが、それは父に止められた。それでは失礼になるからというもので、それに既に異母妹はローウェル侯爵家で侯爵夫人の教育をしていると言われれば…勝手に訪問するのも憚られた。




 結局、それらの非礼やルシアの妊娠は、侯爵の怒りを買った。俺が積極的に動かなかったのもあるし、ルシアにかかりきりで初動が遅れたのも大きかっただろう。

 俺とルシアは異母妹とローウェル侯爵によってその非礼を追及され、俺は何一つ言い返す事が出来なかった。あの事だけは決して悟られてはいけないし、ルシアに思い出させるわけにもいかない。そう思った俺は…甘んるしかなかった。


 俺たちに下された罰は、騎士団を辞めてハットン子爵領で叔父上から領主教育を受ける事だった。聞く限りは温情だが、叔父上の厳しさは半端ない。それは子どもの頃からの経験で身に染みていたし、騎士団でも伝説の鬼教官と有名だった。


 だが、拒否する選択肢などなかった。騎士団を辞めたくはなかったが、もともと結婚するまでとの条件付きだったのだ。父も叔父も健在だったから出来た事だ。引継ぎどころか挨拶も出来ずに除隊するなどあり得ないが…これも侯爵からの罰なのだろう…侯爵は俺たちが結婚出来るように手をまわして下さったのに…それを仇で返したのだ。俺たちを簡単に許すおつもりはないように見えた。


 そう思っていた俺だったが、侯爵は…ルシアのあの事をご存じだった。どこで知ったのか…空恐ろしいが、国の英雄でもあり随一の騎士でもある侯爵だ、影などを使っていてもおかしくはないだろう。俺たちの事は完全に筒抜けだった。

 その上で侯爵は俺の覚悟を問うてきたけれど…俺が選べる選択肢は一つしかなかった。ルシアを守る、それだけだ。お腹の子だって、俺の子供かもしれないのだ。時期的にも、どちらの子かなんて分る筈もない。そしてルシアは俺の子だと信じているのだから、それ以外の事実など存在しない。

 そんな俺の気持ちは、侯爵に伝わったのだろうか。侯爵はもう何も言うまいと仰った。侯爵は胸に秘めてくれるのか…不安もあったが、彼は異母妹の夫になる人だ。異母妹のためにもこの事は、胸に収めて下さるおつもりなのだろう。

 そうでなければ俺を廃嫡した筈だ。侯爵にはその力があるし、ハットン家の跡取りだって、叔父の子や異母妹の子を養子にする事だって出来るのだから。


 その後、実家に帰った俺は父上にこっぴどく叱られた。義母の事も含めて、だ。乳母たちに聞くと、彼女たちは真相を知っていて、その上で俺に嘘を教えていたと白状し、自ら職を辞して出て行った。俺は義母に土下座してこれまでの非礼を詫びたが、義母は乳母たちの所業を知っていて、仕方ないと、怒っていないと笑った。


 俺は色々な事を間違えていた。これからは周りから厳しい目で見られるだろう。二人の侯爵の不興を買い、信頼を失い、マイナスからのスタートになった。

 だが、逃げる事は許されない。ルシアのためにも、お腹の子供のためにも。俺が逃げなければ、侯爵は温情を与えて下さるおつもりだから。


 ハットン子爵領に出立する日の朝は、鉛色の空だった。護衛という名の騎士が二人、同行して下さるという。きっと侯爵の監視役なのだろう。これも全ては…侯爵の異母妹への想い故なのか…

 だが不思議と、心の中は軽かった。ルシアの安全は保証されている。それが俺の心には一番の慰めになった。



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