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目覚めたらピンク頭の屑ヒロインだった件~罰は醜怪騎士団長との婚約だそうです  作者: 灰銀猫


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王子in私との面談

 それからアイザック様の行動は早かった。翌々日にはアイザック様は、私の身体―つまりは王子―をローウェル侯爵邸に連れてきた。私もびっくりしたけれど、王子もびっくりしていた。


「ア、アイザック様、これは…」

「ああ、貴女が自身の身体を心配していたのでな。我が家で保護する事にしたのだ」

「保護…」

「ここにいれば、勝手な事をされる心配は減るだろう?」


 なるほど、確かにあのまま赤晶騎士団の寮に置いておくのは心配だ。異母兄の性格はよく知らないけれど、あそこではやりたい様に出来てしまうだろう。そういう意味ではここなら侍女や護衛もいるし、異母兄も勝手な事は出来そうもない。それに…今やルシアはローウェル侯爵家の分家筋の娘だ。主家のアイザック様が望めばこの屋敷に引き取る事も問題ない。


「どういうことですか、ローウェル侯爵?」

「どう、とは?」

「こ、こんな無理やり連れてきて…」

「しかし、その身体はセイナのものですよ、殿下。彼女が心配しているからには、保護するのは当然でしょう?その身体は貴方様のものではないのですから」

「…っ」


 王子が噛みついてきたけど、アイザック様が言っている事が理に適っているだけに、何も言い返せなかった。それにまぁ、小心な王子は元よりアイザック様に怯えているように見えるから、それ以上は何も言えなかっただろう。

 そのせいか私に非難の目を向けてきたけれど、私はそれを正面から受け止めて、かわりにじっと目を見つめ返すと、暫くして王子は気まずそうに眼をそらした。


(ったく、はた迷惑な事したくせに勝手な事言うんじゃないわよ)


 姿が自分なので変な感じだったけど、これ以上王子に勝手をさせるわけにはいかない。それは『私』の身体なのだ。

 そんな訳で、私の身体の中にいる王子は、ローウェル侯爵邸で暮らす事になった。実質は監視と逃走防止、そして貞操を守るためだ。王子にはローウェル侯爵家の影までつけるという念の入れように、アイザック様の想いを感じた。

 何をするにも迅速かつ的確に動けるのは、アイザック様がそれだけ優秀な証拠なのだろう。益々惚れ直したのは言うまでもない。


「ありがとうございます、アイザック様」

「気にするな。貴女の憂いは小さな事でも取り除きたいのだ」


 そんな風にきっぱりはっきり言い切るアイザック様がかっこよすぎる…これ以上惚れさせてどうする気ですか…こんな事ならもっと早くに相談しておけばよかった、そう思わずにはいられなかった。





 王子がローウェル侯爵邸にやって来た翌日、私は王子と二人でお茶をしていた。色々聞きたい事があったからだ。この前はクローディア達もいたし、婚約者でもある彼女を第一にと思っていたから私達は発言を控えていたため、思うほど話が出来なかったのだ。


「それで殿下、これからどうするおつもりなんですか?」

「あの…私の事はルシアと…」

「お断りします。私は今のところ、その身体を殿下に明け渡すつもりはありませんので」

「…っ」


 どうやらよっぽどルシアの立場が気に入ったらしいけれど、それを認めてあげる程私は優しくもないし、納得もしていなかった。そりゃあ、王子に戻るくらいなら死にたいという気持ちはわからなくもないが、こっちだって事情があるのだ。そう易々と「はい、わかりました」なんて言えるわけもない。実際、セラフィーナは戻りたがっているのだ。


「三人も巻き込んでおいて、何言っているんですか?私達の中には家族と離れ離れになって苦しんでいる者もいるんですよ?家族と無理やり引き離しておいて、自分だけ楽に逃げる気ですか?」

「そ、そんなつもりは…」

「つもりはなくても、実際そうなっているでしょう?私だってそうです。こことは違う世界ですが、私なりに仕事をしてそれなりの物を築いてきました。それを全部捨てろと?」

「……」


 都合が悪くなるとだんまりになるのはこの王子の癖らしい。巻き込まれた者の事を何も考えていなかったのか…そう思うと、残念過ぎて乾いた笑いが込み上げてきそうだった。同じ年代の他の二人と比べても幼いと言うか…これで見た目がアラサーって、異母兄はこんなののどこがよかったのだろうか…異母兄の趣味が理解出来そうになかった。


「それで?異母兄はこの事をご存じなのですか?」

「…いや、ラス…いや、ライナス殿は何も…」


 今ラスって愛称で呼んだわね?そこまで仲が良かったのか…じゃ、恋仲なのは本当なのだろうか…


「殿下は男性ですよね?どうして男性と恋仲に?抵抗はなかったんですか?」


 そう、これは私だけでなく、アイザック様やクローディア達も不思議に思っていた事だ。いくら今は女性の中にいるとしても、元は男性なのだ。心理的な抵抗はないのだろうか…それとも…元より王子はそっちの人だった?


「…ライナス殿は…私に初めて手を差し伸べてくれた人だったんだ…」


 それから王子は、自身の境遇を話し始めた。王太子である長男のスペアにもなれない三男の殿下は、歓迎された子供ではなかった。むしろ女児の方が歓迎されたかもしれない。政略結婚の駒として使い道があったからだ。

しかも上の二人の王子は優秀だったが、彼は身体も小さく、何をしても兄達には敵わなかった。小心で身体も小さく弱かったのも影響していただろう。

 そんな彼は成人後、王族を抜けて臣下になるのは生まれる前から決まっていた。だが、公爵家を興してもそれを維持する力を危ぶまれた彼は、跡取りの男子がいないマクニール侯爵家に婿入りした方がいいだろうと判断され、クローディアの婚約者となった。優秀な彼女なら、王子を立ててやっていけるだろうと思われたからだ。

 しかし、それは彼の劣等感を一層育てる結果にしかならなかった。優しくされても素直に受け容れられない。終いには自分は価値がないと思い込み、死にたくなった…


「でも、ライナス殿は…そんな自分でもいいと言ってくれたんだ…」


 森で発見された王子を、異母兄は親身になって世話をしたという。自分が何者かもわからないのに優しくされた事は王子にとって衝撃的だった。理由を聞けば、親切にするのに理由なんかないだろうと言われ、益々混乱した。王宮では優しくされるのにはちゃんとした理由があったからだ。


「…気づいたら…ライナス殿がいない人生なんて考えられないと思うようになっていたんだ…」


 失敗した。聞かなきゃよかった、と思う自分がいた。



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