異母兄の訪問と意外な展開
三人で話し合ってから、私はアイザック様にお会いしたいと侯爵家に使いを出した。出来るだけ早くにお会いしたいと伝えたのだけど…残念な事にアイザック様はお忙しいらしく、会えるのは早くても十日くらい先になる、また連絡すると言われてしまった。
なんて事だ…いつもなら直ぐに会いに来て下さったのに…こうしている間にも自分の身体が異母兄に…と思うと気が気じゃなかったのだけど、さすがに仕事と言われればどうしようもなかった。
クローディアやセラフィーナも落胆していた。とくにクローディアは王子の行方が分からないから気が気じゃないだろう。まだ王子の無事は確認出来ていないのだから…
でも、さすがに余裕のない中で話す事ではないし、今直ぐどうにかなる話でもなかった。
それに…帰ると決まると、もうすこしこの世界にいたいとの思いが一層強くなって胸が痛かった。それは勿論、アイザック様故だ。元の世界に戻ったらもう姿を見る事も、噂を聞く事も出来ないのだ。そう思うと…耐えがたい寂しさが増すばかりだった。私にもちゃんと恋愛脳が残っていたらしい…
実際、人目も気にせずに恋してたと思う。日本では乙女らしい事をするとお前らしくないって言われるから、出来なかったんだよね。元彼は友達の延長と言うか、一緒に戦う戦友みたいな関係に近かったかもしれない。
でもこっちでは十七歳の美少女で、相手は三十歳の懐の広い出来るアイザック様だったから、甘え放題だった。何をしても許されたから、私の中の乙女の感情が酷く満たされて、幸せだったのだ。
(日本に戻っても…アイザック様以上に好きになれる相手は…出来ないんだろうなぁ…)
そう思うと、寂しい虚しさが広がったが、一方でそこまで好きになれる相手に出会えた事を嬉しく思う自分もいた。悪い事ばかりじゃないと思えるのは、年の功だろうか…
その四日後、手紙が私宛に届いた。差出人不明だったが、さすがに手紙を受け取り拒否するわけにはいかない。でも、自分で開封するのは危険だからお止め下さい!とエレンたちに止められたので、開封して読んでもらう事にした。んだけど…
『最愛なるセラフィーナ嬢へ
度重なる贈り物を受け取ってくれて感謝する。
私は以前からあなたに恋い焦がれ、恋の奴隷となった者だ。
貴女がローウェル侯爵の婚約者でも、この想いを止める事は出来ない。
どうか私の想いがあなたと同じでありますように。
リック 』
「……」
「……」
(痛メール、キタ―――!!!)
いや、手紙だから不幸の手紙か?何これ、一人悦に入っていて怖いんだけど…しかも私の意志は無視?それどころか同じでって…
(そんな訳あるか―――!!!)
リックという名前に心当たりもないし、気持ちが悪い。これ…もしかしてこの前花束贈ってきた人?だったらまだ諦めていなかったって事?その執着心、こ、怖すぎるんだけど…
このリックとやらをストーカー認定した私は、直ぐにクリフォードさん達に報告した。ストーカーは本人だけでなく周りの人も敵認定して襲ってくる可能性があるから怖いのだ。全く、今はアイザック様や王子の事で頭が痛いってのに…このタイミングの悪さからも、絶対にこいつとは合わないと思った。
クローディア達と話をして十日後、異母兄が再び我が家を訪れた。聖那との仲を認めて貰えるまでは何度でも許しを請いに来ます、と言っていたけれど、本気だったらしい。今回も泊りではなく挨拶だけで…と言うところからも、異母兄が聖那を連れてくるのはわかった。
案の定、異母兄は今日も聖那を連れてきた。前回は驚きが先にきて聖那の様子を観察できなかったけれど…異母兄に手を取られてやって来た聖那は、どう見ても異母兄を慕っているようにしか見えなかった。脅されているとか、異母兄の一方的な思いに押されている…という可能性もかんがえたけれど、そんな感じはしない。と言う事は…やっぱり王子じゃない…のだろう。
「父上、お話があります」
「…ライナス、その後婦人の事なら…レイトン侯爵にも話をしたが…」
再び応接室に会した私達に話を切り出したのは異母兄だったが、それをクリフォードさんが制した。聞けばクリフォードさんはレイトン侯爵に仮定の話とした上でどう判断されるかを聞いたのだという。答えは案の定、「否」だった。貴族社会では聞くまでもない事だったが。
「それについては、ご心配には及びません」
「何だと?」
「ルシアの身元に関しては、問題ありません」
(は?…どういう、事?)
異母兄の言葉の真意が直ぐにはわからなかった。この世界の者じゃない「聖那」の身元が分かる筈がないのに。それとも…元の人格の記憶が戻って身元が分かったとか?
「どういうことだ?記憶が戻られたか、身元が判明したのか?」
「いえ、記憶も戻っていませんし、身元も判明していません」
「では…どうして…」
「実は…ある御方が、ルシアを養女として迎えてもいいと仰って下さったのです」
「何だと?」
(はぁあ?どういう…事?)
私も驚いたけれど、クリフォードさんも固まっていた。それもそうだろう…身元不明の人物を養女になんて、そんな酔狂な人がそう簡単に見つかるとは思えない。それくらい貴族と平民の間にある壁は厚く高いのがこの世界なのだ。しかも、それほど日は経っていないのに…
「い、一体どなたが…」
「リット子爵マイルズ殿です。同じ赤晶騎士団の先輩に当たる方です」
「どうしてその方が…」
「赤晶騎士団の騎士はルシアに好意的ですが、マイルズ殿は亡くなった妹君が生きていたらルシアが同じ年だったそうで、特に気にかけて下さったのです」
「しかし…」
ええ?いくら何でもちょっと話がうますぎない?そりゃあ、同じ騎士なら一緒にいた時間もそれなりにあっただろうし、亡くなった妹さんと同じ年で…って思う気持ちもわからなくはないけど…でも、それだけで簡単に養女に出来るものだろうか…
「これがその戸籍です」
そう言って異母兄が広げたのは、ルシアを養女にする旨が記されている貴族の戸籍証書だった。既に国王陛下の印もあり、それが偽物ではない事を如実に語っていた。




