緊急対策会議
「どうしてお兄さまが…」
「まさか殿下がライナス殿と…」
「…何でこうなっちゃったのかなぁ…」
翌日、私はセラフィーナに連れられてクローディアがいる王宮を訪ねていた。話が聞きたいとクローディアが言うも、当日は王子としての公務が詰まっていて身動きが取れなかったからだ。今は王宮の王子の住まう部屋の側にある庭の四阿にいた。ここは滅多に人が近づかず、今は侍女や護衛も遠ざけてあるから人に聞かれる心配もないと言う。
クローディアの時間があまりないと言われたため、私はまず昨日の経緯を簡潔に説明した。私もまだ気持ちの整理が付いていなかったけれど、一晩寝たらそれなりに落ち着く事が出来た。それでも昨夜はあまり眠れなかったけど…
私の話を聞いた二人は案の定、直ぐには理解出来なかったらしく、暫く黙り込んでしまった。頭が固まった私だけかと思ったけど、二人もフリーズしているのにちょっと安心している自分がいた。いや、不謹慎だとは思うんだけど、やっぱり二人といると年の差を感じていたからね…
「まだ聖那の中にいるのが殿下とはわからないんだね?」
「うん、二人きりで話が出来なかったから…ごめんね」
「いや、その状況なら仕方ないよ。それに…記憶が本当にないのなら…問い詰めたところで何もわからないだろうし…」
「だよねぇ…」
そうなのだ。仮に私に発言権があったとしても…あの場で王子と確認するのは難しかっただろう。王子も私がそんな事を言い出したらしらばっくれる可能性が高い。しかも仲の悪い異母兄が一緒となれば…異母兄に邪魔される可能性は限りなく高かった。
「聖那から見た感じ、あれは殿下だと思う?いや、聖那は殿下を知らないから何とも言えないだろうけど…その、全くの他人と言う感じは…」
「う~ん、正直言うと、記憶がない王子じゃない誰か、が一番しっくりくるかなぁ」
そう、私が思うに、あれが王子と言う可能性は低いように感じた。
「もし記憶があれば真っ先に自分の名を名乗ると思うんだよね。目覚めた直後なら、自分の姿が変わっている事もわからない訳だし。そうしなかったって事は、記憶がないか、事情を知っていて記憶のないふりをしている王子の可能性が高い」
「そうだね」
「でも、王子なら異母兄と恋仲になる事は限りなく低いんじゃない?となると、記憶のない女性の可能性が高いと思うの。それとも…王子には女性願望があったとか、実は男が好きだった、とかの可能性は?」
「男が好き…って…まさか…」
さすがに上位貴族の令嬢だったクローディアには刺激が強かったかもしれないけど、そうでも思わなきゃこの状況がしっくりこないんだから仕方ない。
「王子探しも…振出しに戻るよね。異母兄の事もあるし…どうしたものか…」
「ああ、こうなると…他の人間も巻き込まれている可能性があるって事だし…」
さすがのクローディアもこの状況にどう対処していいのか、直ぐには答えが出ないようだ。でも、それもそうだろう…
「こうなると、強制的に元に戻るしかないかな…」
クローディアが出した答えは、最終手段だった。王子の部屋に残されていた古文書から、強制的に元に戻す方法は見つかっていたのだ。でも、出来れば王子が納得した上で…と思っていたからやらなかっただけで。
「う~ん…私の身体も戻ったし、それが手っ取り早いよね」
「そうですわね。元の身体に戻れば…聖那は元の世界に戻りますから。そうなれば兄の事も…」
「ライナス殿には申し訳ないが…元々現状が偽りだからね」
こうなると異母兄が気の毒ではあるが…私も異母兄と、は考えられなかった。アイザック様が好きなんだから仕方ないじゃないか。
それに、こうしている間にも私の身体が異母兄に…と思うと落ち着かない。真面目そうだから結婚前に手を出すようには思えないけど、セラフィーナの話じゃ、潔癖で真面目な分、一度のめり込むと周りが見えないタイプらしい。子供でも作られていたら洒落にならない。となれば…早々に元に戻った方がいいのかもしれない…
「そう、だね。じゃ、アイザック様にも話をしなきゃ…」
そう、元の身体に戻るならアイザック様に話をしなければいけないのだ。真実を話し婚約解消をお願いするのは私の仕事だ。男性恐怖症のセラフィーナにはアイザック様との結婚は無理だろうから、それを解消するまでは元の世界に帰る事は出来ない。これは私の責任なのだ。
「じゃ、早速アイザック様にお会い出来るように連絡しなきゃね」
「その時は…私も同席するから日時が決まったら教えてね。何を置いても付き合うから」
「ありがと、クローディア」
「それなら、私も同席してもいいでしょうか?」
「ええ?セラフィーナも?」
「ええ、私も当事者ですし…その身体の中の私がいた方が、より説得力と言いますか、真実味が増すと思いますし…」
セラフィーナの申し出は嬉しいけれど、大丈夫だろうか…だって…
「いいの、セラフィーナ?アイザック様の事、怖かったんじゃ…」
「それは、怖いですけど…でも、私もいた方が分かって頂けるんじゃないかと思いますし…それに、私、聖那の力になりたいんです。私…ずっと友達が出来なくて…だから…」
言い難そうにしているセラフィーナだったが、言いたい事は伝わってきた。彼女はずっとその外見から他の令嬢のやっかみを受けて、変な噂を流されてきた。そのせいで友達が出来なかったのだ。きっと彼女は、気軽に話しかける私を友達と思ってくれているのだろう。
「ありがと、セラフィーナ。やっぱり持つべきものは友達だね」
「え…あ、あの…」
笑顔を浮かべてそう言うと、セラフィーナは顔を真っ赤にしてしまった。
(やだ、可愛い…)
屑ヒロインだと思ってたけど、実際のセラフィーナはこんな一言でも真っ赤になっちゃうくらいに初心ないい子だった。出来る事ならいい嫁ぎ先を探して、幸せになるのを見届けたいくらいだ。
この子達は本当にいい子達だ。クローディアだって冷静沈着で冷たいって言われているけど、実際は年相応の世話焼きで真面目で一生懸命な女の子だ。最近は男子度が上がっているけど…
二人のお陰で、気の重かったアイザック様との話合いも何とかなりそうな気がした。この子たちの為にも、年長者である私がしっかりしないとね。
でも、この話を誰かに聞かれているなど、この時の私は思いもしなかったのだ。




