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暗部所属の新人工作員です。初任務として皇帝陛下の偽妃を演じていたら溺愛されてしまいました。……これっておかしくないですか?  作者: たけのこ


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52.大道芸人

シリル視点


シル→陛下のこと

シリル→レイシーの幼馴染のこと


わざと似た名前にしたんだけど、ただややこしいだけで名付けにちょっと失敗したかなって思ってる()

 どうしてこうなった――


「よっ! はっ! 逆立ち短剣ジャグリング!」


「うおおおおぉぉ!!!!」


「いいぞー! もっとやれー!」


 俺は、逆立ちしながら足で器用に短剣をジャグリングするレイシーを見ながら呆然としていた。

 俺達は半分引退したエマ姐さんの穴埋めに少しでもなればと、昔からお世話になっている店の手伝いに来た筈だ。

 それがどういう事か、何故レイシーが大道芸を披露しておひねりを貰う事態になっているんだ?

 思い出せ、何故こうなったのかを……最初はそう、レイシーと面識の無い新人がレイシーを他の店からの応援だと勘違いした事にある――






「すまんね、あん子はよく早とちりしたまま突っ走るんよ」


「レイシーは何処へ?」


「多分着替えさせられとるよ、ありゃ完全に他の店からの応援だと思っとるね。……にしてもあの子はやっぱりレイシーちゃんかい? 少し見ないうちにえらい別嬪さんになったなぁ……リーリャが誤解するのも頷けるよ」


 店主の名前はゴトー、リーリャはまだ一度もレイシーと顔を合わせた事のない新人だ。


「応援と勘違い、って……まさか!?」


「安心なさい、レイシーちゃんを裏の接客に出すような事はせんから」


「……なら、良いけど」


 しかし今さら追い掛けても着替えている最中に突撃する事になるだろうと、二人が戻って来るのを待つ事にしたのが間違いだった。


「見てよ店長! この子逸材ですよ!」


 暫くして、その声に振り返った先にはリーリャに肩を押されるレイシーが居て――


「――」


 そのあまりの魅力に思わず言葉を失ってしまった。

 薄く化粧を施され、赤いアイシャドウと口紅がレイシーの顔の輪郭をハッキリとさせて彼女を大人っぽく見せている。

 結われ、編み込まれた髪にたった一本の簪、ただそれだけでレイシーの幼い雰囲気が完全に消え失せていた。

 肩と胸元をさらけ出し、深いスリットが入って太ももまで見える衣装は扇情的で目のやり場に困る。

 だというのにレイシーが身動ぎする度に胸元のネックレスが、羽衣が、ドレスの裾が揺らめいて自然と視線が惹き寄せられてしまう。

 普段の幼く、男友達のようなレイシーのイメージからはかけ離れ過ぎていて……改めてレイシーが女だった事に気付いた。


「ねぇ、昼間もこんな格好で接客するようになったの? ……シリル?」


「っ、あ? ……あ、いや、誤解だ」


「なにが?」


「レイシーの事を他の店からの応援だと思ったらしい」


 ハッと我に返り、あのレイシーに見蕩れていた事実など無かったかのように振る舞う。

 誤魔化すように指で指し示した先には、店長から叱られているリーリャが居た。


「な〜るほど、でもなんで私がそうだと勘違いを? ベルナール様からもチンチクリンって言われるくらいなのに」


「いや、……知らん」


 お前はチンチクリンじゃない――そう言いかけて、何だか気恥ずかしくなって否定はしなかった。

 ていうか、ベルナール様って誰だ? 上司だったか? シルっていう、俺と名前が似ている奴とは別か? レイシーとどんな関係なんだ?

 急に胸に湧いたモヤモヤを持て余していると、レイシーが俺の背中を叩いてきた。


「とりあえず開店準備しようぜ」


「着替えないのか?」


 何となく、この姿のレイシーを他の奴に見せるのは嫌だと思った。


「もう時間も無いし、面倒だし、特に支障も無いしこのままでいいや」


 いや支障はあるだろと言いかけた矢先に店の扉が開き客が入って来た。


「新入りか姉ちゃん! とりあえず酒と肉くれや!」


「かしこまりー」


 その客を皮切りに、ぞろぞろと現れた忙しい夜に備えて周辺の同業者を中心に席が埋まり始める。

 配膳や片付け、掃除に料理にと俺も忙しくなってレイシーに苦言を呈するタイミングを失ってしまった。

 しかしやはりと言うべきか、貧民街なんて治安の悪い場所で寝起きしている奴らが一箇所に集まった揉め事が起きない筈もなく……厨房で作業していた間にテーブル席で喧嘩が起きていた。


「あぁん? やんのかコラ!」


「そっちこそやんのかコラ!」


 最初は誰が誰の足を踏んだだの、くだらない内容だった喧嘩がヒートアップしていき、俺が気付いた時には既に当事者たちが武器を抜く事態となった。

 これは流石に止めに入らねば他の客にも怪我人が出ると足を踏み出した時、それは起こった――


「刃物はいかんよ〜」


 そう言ったレイシーが、近くのテーブルへと料理の配膳をしながら片足を上げて喧嘩してた者たちの武器を蹴り上げたのだ。

 何をしている、危ないだろ、そんな言葉を叫びそうになったが、それは杞憂に終わった。

 レイシーは片足立ちのまま、蹴り上げた方の足の指で挟むように二本の短剣を軽々とキャッチしたのだ。


「おぉ〜!」


「嬢ちゃんすげぇなぁ!」


「えへへ、そう?」


 周囲の客からの歓声に調子を良くしたレイシーが皿回しをしたり、クルクル踊りながら配膳したり、喧嘩していた奴らの仲間から襲われても全員から武器を奪って店から追い出したり……レイシーが調子に乗るほど歓声が上がり、歓声が上がる度にレイシーが調子に乗る流れが生まれた。

 そうしてレイシーが大道芸人になって接客して回るのを呆然としながら眺めて今に至る。






「な、なんでアイツ大道芸人に……? 城勤めだったはずじゃ……?」


 天井を見詰めながら片手剣の刃部分を呑み込んだ――と思ったらそれを無事に取り出し、何処から取り出したのか、喧嘩していた奴らから奪った短剣でジャグリングを始め、動きが激しくなってきたと思ったらいつの間にか途中から逆立ち状態で手を使わず足で短剣ジャグリングをしていて――なんだこれ、意味わからん。


「はい!」


 最後に全ての短剣を天井スレスレまで蹴り飛ばし、くるりと一回転するように起き上がって落ちて来た短剣を全て鞘に納めるようにキャッチしてから、それらでタワーを作り上げて一礼――レイシーの芸が終わり、その日一番の大歓声が上がった。


「おうおうおう! なんや繁盛しとるようやのぉ!?」


 大きな音を立てて扉が開くと同時、そんな怒声が店内に響き渡る。

 アイツは確か、この貧民街を縄張りとする反社の用心棒――この店に圧力を掛け、店員の大半が逃げる事になって人手不足となった原因か。

 そんな彼はこの店で一番目立っていたレイシーに目を付けた。


「お? なんだ、少し早ぇがこの時間からそっちの接客もするようになったのか? かなりの上玉じゃねぇか、早速買わせて貰おうか! 俺のはデケェからすぐにぶっ壊れてまた店員が減っちまうかも知れねぇがな! ワッハッハー!」


 家族のレイシーを買うと言われた時、ぶっ壊すと言われた時、奴がなんの断りもなくレイシーの腕を掴んだ時、俺の頭が怒りで真っ白になった。

 すぐにアイツをぶちのめそう――そう思い、一歩踏み出したところで、野太い悲鳴が上がる。


「ぎゃああああ!!?? いだいいだいいだい!!!!」


「すまない、彼女は私が予約していたんだ」


 ハッとなって視線を上げた先、そこにはレイシーの上司が闖入者の腕を捻り上げていたところだった。

 あの野郎、何処から現れやがった。


「へ、へへ、へい――シル!? どうして此処に?!」


「帰りが遅いから迎えに来たんだが、何やら面白そうな事をしているな? そんなに目立ってベルナールから叱られないか? ん?」


「あっ、あっ、あっ、あっ……いや、これはその、あのぅ……」


 窓の外に視線を向ければ、そこには用心棒の仲間を締め上げているギーが居た。

 なるほど、驚く事が続いて俺の視野が狭くなっていたらしい。


「て、テメェ! 俺に手を出してタダで済むと思ってんのか?!」


「そうか、ならここで始末しておくか」


「ヒッ!」


 ほんの一瞬ゾクリとした――あまりの恐怖にギーへと移動していた視線と意識がシルというレイシーの上司に集中する。

 少しでも視線を逸らしたら、その瞬間に殺される――そう思わせるほどの本能的な恐怖。

 殺気を放っている訳でも、声を荒らげている訳でもない、ただ静かに淡々と他者の結末を決定するその有り様が恐ろしかった。


「わ、わかった! 俺が悪かった! だからこの手を離してくれ!」


「もうここには近付くな」


「わかった! 誓う! 誓うから許してくれ!」


「……行くがいい」


「ひ、ひぃ〜!」


 逃げ出す用心棒の太い腕を見て、目を丸くした。

 筋肉に覆われ、丸太のように太い大男の腕に手形がハッキリと残っていたからだ。

 いったいどれ程の握力で握り締めたら人間の腕がああなるんだと思わずには居られない。


「さて、レイシー」


「……はい」


「少し説教だ」


「……はい」


 何故かしおらしいレイシーが、上司の男に抱えられて階段を昇って店の奥へと進んでいく。


「店主、少しの間だけ部屋を借りるぞ」


「お客さん、その娘は……」


「分かっている。部下の説教に少し使わせて貰うだけだ」


「まぁ、それなら構いませんが」


 上司と店主の間で、何やら勝手に話が進んでいる。


「ま、待っ――」


「……」


 彼らを止めようと手を伸ばした俺の肩を掴んだのは、ギーだった。


「ギー離せ! このままだとレイシーが!」


「大丈夫」


「なにを根拠に!」


「あの御方なら、悪いようにはしない」


「はぁ?」


 ギーが何を言っているのか分からなかったが、俺はギーに力で敵わない。

 彼に制止されたいる状況ではレイシーを追いかける事が出来ない。

 結局俺は、二人が降りて来るまで酷く悶々としながら過ごすしかなかった。


「戻って来たら何があったの絶対に説明して貰うぞ」


 今はただ、レイシーの無事を祈るしかない。

レイシーの様子に頭を抱えていると、後ろから入って来た男に肩パンされて謝罪もなかったのでその分も含めて強く握り締めました()

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― 新着の感想 ―
ああ、これを知ったらベルナールおかんが大激怒だよ。 「お妃様」が娼館で大道芸だもんな。
レイシーちゃん!?そんなスリットの服で逆立ちしたらダメっ!しかも裸足じゃないの!?妃どころか女としての自覚無しか!
陛下のお気に入りのお妃によく似た人物が酒場ではしゃいでたと知られたら、それはもうママンに叱られるだろうなぁ
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