50.変化
目疲れが酷くて蒸気のアイマスクが今めっちゃ欲しい(切実)
「にしてもお前、今回は奮発したな」
「お土産のこと? まぁ、暫く帰省できなかったからね」
仕事場へと向かう道すがら、家の周囲の縄張りに変化が無いか確かめながら歩いていた。
今のところ変化は無さそうだけど、なんかちょっと嫌な雰囲気がする。知らない顔が増えた訳じゃない。知っている顔が減っている。
この曲がり角にいつも横になっていたお爺さんも、この道を通ると建物の隙間からいつも覗き見してくるおじさんも居ない。
「それよりもさ、最近ここら辺で何かあった?」
お土産の話よりも、周囲から感じる違和感の方が気になる。
「あぁ、なんか奥の方でずっと続いてた裏社会の縄張り争いが終結したっぽくてな……抗争で減った人手を補おうと、何人か連れて行かれたよ」
「……ふーん、みんなに影響は?」
「ウチにも何度か勧誘が来たが、全部おばさんが追い払ったよ」
「さすが」
にしても裏社会の抗争の終結ねぇ……二つか三つくらい組があったと思うけど、それらが全て一つに纏まったってんなら大きな勢力になる。
休戦しただけなら脅威は低いけど、流石にそこまではシリルも知らないっぽい。
まぁ、反社共の縄張りは貧民街の更に奥のスラムみたいな所にあるし、無闇に近付いて刺激しても良くないしね。
「えー、でもじゃあバイト先も危ないんじゃない?」
「あぁ、ちょっと困ってるって話だな」
私の副業先というか、シリルと一緒に働く場所はエマ姐さんが所属していた娼館だ。
昔から雑用とか料理とかの裏方の仕事をさせて貰ってた馴染みのある職場だけど、ほかの娼館とは違って公営でも無ければ、そういった反社の後ろ盾も無い珍しい所でもある。
だからこそ危うい立場にあるし、今回の裏社会のパワーバランスの変化に多大な影響を受けてる可能性がある。
「気を付けないとねぇ」
「余裕な言い方だな? お前こそ――……その、あれだ、なんだ、綺麗になったんだから気を付けろ。変な奴に目を付けられても知らないからな」
「シリルってばまだまだ坊やだね、レディを褒める時は堂々とハッキリと口にしなきゃ」
まぁ確かに? 偽妃業務の都合上、常日頃からお城の侍女達にピカピカに磨かれてますからね。以前よりもちょっと髪や肌がツヤツヤしているかも知れない。そこは否定しない。
でもね、レイシーちゃんは生まれた時からスーパーハイパーウルトラスペシャルな美少女であるからして、いったいどれ程の効果があったのかは疑問だね。
「……レディ?」
「本気で疑問符を付けるのやめろよ」
煽りとか抜きで素で困惑しやがったぞコイツ。
「ま、そういう訳でここからは気を付けろよ、色んな奴が居るから」
「誰に言ってんの? 地元だから知ってるよ」
「それもそうだな」
迷路のような道を抜け、狭い路地から一歩外の大通りに出れば、そこは貧民街の中心地である。
ここは他の区画とは違って綺麗に整頓されており、通りに面した建物はどれも多くの灯りや華美な装飾が施されている。
浮浪者や物乞いといった見た目の悪い人間は徹底的に排除され、ちょっとお行儀の悪い帝都の夜の街としてそれはもう賑わうのだ。
帝都の夜の街といえば他にも色々あるけど、ここではちょっと表に出せないような商品が取り扱われる。
今は昼間なのでそういった後ろ暗い商品は裏に引っ込んでるけど、夜になるとそれはもう貧民街とは思えないくらい人が増えて煌びやかになる。
そして太陽が照らす今でさえ、中層区と同じくらいの人通りがあるくらい、ここは貧民街の中でも異質な場所だ。
常に外から人の流入があり、その分さらに治安が悪くなってる掃き溜めでもある。
「おっと、失礼」
今でもこのように、私達がただのガキだと思ってスリがぶつかって来た。
「どのくらい入ってた?」
「五十ライト、屑野菜くらいしか買えないね」
まぁ、私を標的にしたマヌケはこうやって逆に財布をスってやるんだけど。
「てかやっぱり目立ってんな」
「あ、やっぱり?」
いやぁ、先ほどからめっちゃ視線を感じるとは思ってたんだけど……マジで前来た時よりも凄い注目されちゃってるね。
「急に、なんだ、綺麗になったが、どんな仕事してるんだ?」
「それは守秘義務があるから言えないかな」
「……変なことはやらされてないよな?」
「ないってば」
まぁ、変なことはめちゃくちゃやらされてるんですがね……皇帝陛下の偽妃とか、イチャイチャバカップル演技とか。
そのせいで貧民街に似合わない身なりになっちゃったんだけども。
「あれだよ、お城ってお貴族様が沢山居るからさ、それなりに見た目を良くしないと問題があるんだよ」
「……そういうもんか?」
「そういうもんなのさ」
本当にみんな心配性というか、行政とかに対する不信感が凄いというか……まぁ、仕方ないけど。
「それよりも店に着いたし、プライベートな話はお終いね」
「……はぁ」
通りに面した建物の一つ、昼間は料亭、夜間はうっふんあっはんなお店に早変わりする『幻水亭』の扉を勢いよく開く。
「たのもー! 久しぶりのレイシーちゃんだぞー!」
「だから! 私一人じゃ無理だって言ってんでしょ!」
「……おろ?」
なに? 揉め事?
「どう考えたって人手が足りな――あっ!?」
あ、こっちに気付いた。何やら大声を出していた女性が凄い勢いで迫って来る。
「貴女! ちょっと協力してくれない!?」
「え? まぁ、手伝いに来たので良いですけど?」
「ホント!? 良かった〜! もう人手が足りなくて足りなくて……じゃあ早速裏で着替えましょうか!」
「は? なに? 着替え? いつもはそんなこと――」
「じゃあ店長! 私この子の準備してくるから! ちゃんと対策考えててよね!」
「いや待ちんさい、その子は――」
「じゃあこっちよ!」
えぇ、何がなにやら分からんのですが……てかこの女の人、知らない顔なんですけど新入りかな? 年齢は私よりも上っぽいけど、何者なんだろう。
スマホ執筆だかは親指も痛いわよ(半泣き)




