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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第二章 34 【平穏を取り戻せ】

 ユーセラスの名産物、名品…所謂「特産品」とは何か?


 この件に関しては商人ギルド、魔導協会、商店街の皆さま―――果ては十教皇の耳へと届き様々な意見が論議され、洗練された。

 彼は言った。自然豊かなユーセラス周辺で取れる野性鳥類魔獣の類の肉、酪農だろうと。

 彼女は言った。魔法技術による培養麦で作られた環境にも美容にも良いパンだろうと。

 貿易で運び込まれて見事栽培に成功し特産物となった米であろう、堂々に老婆は言い放った。

 最後に。元漁師の老爺は、海辺の町ならユーセラス産の新鮮な産地直送の魚介類である。と、確信した。 


 否、否、全ての意見、是非もあり。

 

 そうであるなら、そうあればよし。

 美しい橋の景観と川の流れを楽しむ観光名所『流麗町』。そこに店を構えるのはユーセラスの人々、観光客に最も人気な老舗の喫茶店で()()()()()()()()()()場所。 


「うまっ?!」

 

 深紅の瞳、髪は雑に後ろへと。赤黒の二本角を額から生やす藍色で焔の刺繍の羽織を纏うは“白銀の英雄”が一人『獄炎(ゴクエン)炎煉(カレン)』。


「ほほう。これはこれは…」


 足の露出度が高い至極色に包まれた黒髪と金の瞳を持つ厚底のブーツを履いた少女。同じく英雄『ニーナ・レイオールド』。


「ええ、そうね。臭みが無いのは素晴らしいわ」


 不服そうに、しかして心内(こころうち)は幸福に。

 触感を、味をと楽しみつつに作った者へと称賛を送るは、翠玉色を基調とした魔法使いの衣服を着こなす『フィリアナ・ルーゲル・フェンドルド』。


「うんうん、うまい!」


 三者三様、良き笑顔。炎煉、ニーナは頬一杯にかぶりつき、フィリアナも続いて上品に口へと運ぶ。

 見守りながらに食卓を囲み、同じように頬張る彼は白銀のリーダー『ロー・ハイルヘルシャフト』。そうして、はこの店一番人気のユーセラスに蔓延る派生品の()()

 少しばかりに溶けはじめたチーズに覆われたカリカリ揚げたての白身魚のフライとシャキシャキの玉ねぎ。彩るは、ピリリと刺激のあるからしを混ぜ合わせた柔らかなマヨネーズ。

 それらを上下から挟み込んでいるのは、柔らくもっちりとしたほのかな甘みのある丸っこパン。

 米粉のパン、産地直送の魚介、自然豊かな乳製品。“白銀”の彼らが手に持って食するのは、オーソドックスに特産品をふんだん使用したフィッシュバーガーであった。


「はちち………うん、玉ねぎの触感と舌を程よく刺激するからし。白身魚も素材の味を主張しながらに他を邪魔することなく全てが丁度よくマッチしてる」


 落ち着いた休暇をここで過ごそうと炎煉の提案を若干の、ほんの少し、渋々に、飲んだローであった。しかし、予想外の揚げたて作りたて熱々のカリカリなフィッシュバーガーはサクサクと噛むたびに音を奏でて、当然に舌鼓する。


(仕事仕事に駆り出されて、ホントは宿で寝たかったけど……こう落ち着いて皆で集まって、食事をするのは良いことだな。バーガーも美味しいし)






 ペインキル姉妹を倒してから二週間が経った。

 あの後、別動隊の決死隊はソウジとシガミを筆頭に屋敷から倉庫までの安全な道を確保し、人員の補充を終えていた。

 その為に事は迅速に済まされ、()()無事であったユーセラスの市民百名の救出は完了。しかし、残念な事にその内に十教皇の誰一人もおらず。

 ゴミとして捨てられていた衣服などの遺留品により、全員の死亡が確認されて至極当然の疑問を彼はぶつける。


「蘇生魔法は使用しないのですか?」


「………無理だ」


 十教皇の役割は国の方針、政策を定め、外交をこなし、一つの分野に秀でた魔法を扱う。

 国の上に立つという事は国一番を自負できる魔導師でなければならない。魔法の技術は継承され、秘匿されるべきというのが彼らの考え。

 ―――なかでも蘇生魔法は秘匿中の秘匿。

 回復系統の魔法使い(ウィザード)でも修めるのが難しい分野で、ルージェスが無理だと言い放ったのは、この国唯一()()()()()()()を扱うアサミネというご婦人がすでにこの世におらず。今はただ、ソレを記した魔法学書を残すのみ。

 

 死んだ者にもう一度と会う事も無く、死に顔の判別など出来もせずに悲しむだけ悲しみ、泣くだけ泣いた。

 

 これではいけないと。

 喪に服すユーセラスの人々を立ち直らせ、先導したのは現在ルージェスや一部技術者と共に政を執り行うタエギ・ショウジ嬢。彼女の指揮により、国のトップを失い大切な者を失った彼らはロー達“白銀”やアキラ共々にアグァンの掃討作戦を決行。

 作戦は成功。毒の霧も晴れた事でコベルニクスからの支援も始まり、この二週間で人々は活気を取り戻し、今に至る。


 




(ん、通信か……)


 落ち着いた休暇中に食事を楽しんでいると、こめかみに僅かながらの着信音が鳴る。ローは急ぎ、手を綺麗に拭いてから指を音の鳴る場所へと添えた。


「誰……―――アキラか、どうした?」


「休憩中の所、すいません。実はルー爺さんが急ぎの話があるそうで今から城へ来てほしいとのことです」











 空は快晴に、空気は澄んでいる。

 その部屋の壁を覆う本棚には隙間なく本が敷き詰められて、部屋の奥には横長の気品ある木製の机と椅子。“白銀”の四人とアキラが呼び集められたそこは、最後の十教皇の自室だ。


「ペインキル姉妹の寝室から、こんな物が出てきた…――――――お主らは見た事あるか?」


 ユーセラス最後の十教皇「ルージェス・アルゴ・ナセル・リスカ」に渡されたのは、雑に細工を施された白色の何かで作られた釘の形状をしたモノ。


(材質は骨…? それっぽい感じではあるが……)


 手触りはざらざらと片手で持てるほどに軽く、シャープペンシルほどの大きさ。

 炎煉、ニーナ、フィリアナ、三人の知識にも見当はつかず。自身の所感、知らない事をルージェスに話せば、彼は残念に納得しつつローの手から骨片を回収し、懐にしまう。


「で、私達を呼び出したのはコレ(骨片)が理由ですか?」


「……実は―――――いや、目的地には幾ばくかの距離がある。歩きながらに話そう」


 そう言うと彼は自室の扉を開けアキラ、ロー達を先導し、深緑と赤っぽい絨毯の敷かれた廊下を歩いていく。すると、廊下の一番奥にあったのはコベルニクスで見た形のスイッチのある両開きの扉の前へと到着。


「奴らの目的が分かった。」


 到着したエレベーターに乗り込み、簡素に簡潔に驚くべき情報をルージェスは提供する。


()()? ペインキル姉妹の仲間ですか…?」


 深々にローの言葉を頷くことでルージェスは肯定、話は続く。


「自らを大罪である『強欲』や『傲慢』と名乗っていた男二人と白衣の化け物。そ奴らの目的はユーセラスに掛かった魔法防壁の停止…」


 上昇していたエレベーターは目的の高さで停止。扉が開けば、ユーセラスの街並みを望む景観がそこに。しかし、目的地ではない為、斜面に沿った緩やかな螺旋階段を老爺は元気よく歩いていく。


「魔法防壁とは……今、街を覆うコレですか?」


 フィリアナが指さすは雲一つとして無い快晴の空。いいや、と目を凝らして見れば薄い光のベールが天上に揺蕩っており、


「その通り。魔法伝導率の最も高い希少鉱石『黄金金剛石(ゴールディダイヤ)』を使用した街に魔物を侵入させない様にする装置――――じゃが、皮肉な事にもペインキル姉妹の能力により、防壁が消し去られても魔物が街へと侵入する事は無かったがの」


 毒の霧はアグァンなどの例外を除く全てを殺すモノ。ソレが街を繭の囲んでいたのだ、魔物が侵入できないのはさも当然。


「で、装置は壊されてたのか?」


「いいや、炎煉殿。装置を本当に停止させるだけであったらしく中の金目の物――黄金金剛石(ゴールディダイヤ)――には指一本と触れておらんかったし、壊されてもいなかった」


 ユーセラスで一番高い山。つまるところ、今向かっている山頂にその装置があるそうで。


「ところで、ロー殿。アグァンの話は聞いたかな?」


 長く話題が逸れてしまったとルージェスは一呼吸し、改めて本題に入る。


「…確か、土着した神話体系から呼び起こされた生物。に、類似しているから、そう呼ばれていたので?」


「左様。此度の姉妹による大規模テロにおいて、囚人トヅマ・ノイがギフトにより大繁殖させた生物個体アグァン」


 螺旋階段についに終わりが見え、見渡す景色は頂上へ。


「王国や帝国では偶像に虚像を重ねた神がやれ信仰されているらしいが、ここ(ユーセラス)は違う。土着した神話とは()()()()()。」


「これは…」


 到達した頂上、見渡す限りの大森林だが、見れば見るほどその異様さに目を奪われる。


「見渡す限りの全てが、その証拠。我らの代よりも更に前……文献によれば、おおよそ数千年前だろう―――――神々の戦いの痕跡が此処にある」


 森、川、山は全てが乱雑に形無くなるまで決壊寸前に崩れ、確かに豊かな大地ではあるが、所せましにクレーター(穴ぼこ)が存在している。


「今日は此処なのかい、ルーじいちゃん?」


「ああ、このあたりじゃ。」


 言葉を絶するほどの景色に四人が心を奪われていると、おもむろに老爺が手をかざすのは丸い形で魔力を天高く持続的に打ち上げる装置の“隣”―――ただの何の変哲もない雨風を凌ぐ屋根を支える石柱。


「オルパ」


 ルージェスが呪文を唱えれば石柱はみるみるうちに一部が扉へと変貌。彼はその扉を開け、


「来てくれ」


 と、催促。断る理由もないので、彼の言葉に従う五人。

 扉の中へと入れば、青白い魔法の光が左右均等にある肌寒く薄暗い一直線の廊下が続いている。


「自信を『強欲』と名乗っていたグレゴールは()()()を探していた」


 呼び出されたこの為か。と、記憶に該当する言葉をもしやと思い口にすれば、


魔呪全書(スペルブック)か」


「左様。君を連れてきたのは、ほかでもない。あのサティ、スティ両名に()()()()()と呼称されていたそうで―――」


 続く言葉は核心を突くモノ、紡ぐはアキラ・トシカワが。


「“プレイヤー”とはユーセラスの神話に出てくる実在した神々の呼称―――――改めて聞きます、“白銀”の皆さんはプレイヤーなのですか?」


 ここまで来て、言われて隠すことなし。で、あるが、話の筋から否定し肯定するローは最善の安全な道を選ぶ。

 自身がプレイヤーであるの情報、“神”として“プレイヤー”が扱われているのなら彼女らに被害が及ばぬようするのが彼の務めだから。


「いや、全員ではない。私が“ロー・ハイル・ヘルシャフト”のみがプレイヤーだ」


 意外にも忌避するわけでも驚愕するわけでもないルージェスとアキラ。いや、片方は朗報だと浮足立っているが。


「ほほ、やはりか。――――まあ、驚きはせんぞ。この国もプレイヤーが作ったのだしな」


 進む足は止まり道筋を終え、着いた先には何重にも鎖が巻かれた両開きの赤い扉。


「ならば、この扉の文字を読めるのではないかなと思ってな? 『汝、人類の寄る辺とならん』」


 手慣れた様に呪文を唱えれば、青白く半透明の文字が空中に浮かび上がり、ルージェスは扉の前から退いてローに読むように促す。


(そういう事か…)


 ユーセラスの街の看板、文字には日本語の『漢字』『ひらがな』、そして王国、帝国の公用語が使用されていた。

 唯一日本語の『カナ文字』は無く、不思議に思っていた。

 しかし、目の前に見える『カナ文字』を多少改変した浮かび上がる文字を見れば、理由(ワケ)をこそ理解できた。

 彼等に『カナ文字』を教えなかったのは、秘匿する物の機密性を高めるものだろうと。


【■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■】


 閲覧できる文字には、変に線や点が付いていたがソレを省いて見てみれば、


(『セイショニカカレテイルオトコトオンナノナマエクダモノ』…)


 『カナ文字』を教えなかったプレイヤーの意図を汲み、口には出さぬよう問いを得る。


(聖書に書かれている男と女の名前と果物……えーと…)


 十川は聖書を読むほどに信心深くは無かったので少し悩んだ末、聞き耳かじった答えを口に出す。


「アダムとイヴとリンゴ?」


 正解であった。

 解呪の呪文を唱えたのと同時、扉に巻かれた太い鎖はスルスルと幻の様に闇の中へと消え、何重にも掛かっていた高位の魔法防壁が解かれる。


「ほほぉ! 我の目に間違いは無かったな」


 喜ぶルージェスを傍目に部屋の中へと進入すれば、目に新しくない本が目の前の祭壇に。しかし、先程の同じように何重にも魔法防壁ありはするも、手慣れた彼は文字を呼び出す。


「汝、人類を救済せんとする。」


『カナ文字』をあえて教えず、現れる問題はプレイヤーにしか分からない。魔呪全書一つの為にここまでする労力に敬意を表しつつ、現れた言葉もこれまた、聖書を聞きかじっていればおのずと記憶されるモノ。


【■■■■■■■】

『ノダイコウズイ』


「ノア?」


 呪文を唱えれば、何重にも敷かれていた防壁は無くなり、宙に浮いていた本はゆっくりと祭壇に置かれる。


「ははっ。やっぱり僕の目に狂いは無かった!」


「ボク?」


「ああっ、僕だとも!!」


 途端、爽やかな声がこだましたのと同時にルージェスはこと切れたかのようにその場に倒れた。

 彼からにじみ出る様にその場へと足を下ろすは、空よりも青く、荒れ狂う海よりも波打つ髪を遊ばせて。深淵を覗く蒼天の眼を見開き、腰と腕に飾った銀装飾は純黒(殉国)のコートと共にジャラジャラと音を立てる者。


「初めまして、最後に登壇したプレイヤーさん。僕の名はグレゴール・ライフマン」


 本を片手に指を鳴らせば、彼以外の彼らの身体へといつの間にか氷柱(つらら)が深々と幾つも身体に串刺しにあり、身動きは取れず。


「………ッ?!!――――…なん、だトッ……!?」


 巨人の剣戟を防ぎきる彼が全くに気付く事ない間、おおよそ一秒にも満たない隙間。その間に、手や足に刺さるのは氷点下で形作られる本物の氷柱だった。

 ローやアキラ、フィリアナ達は先の戦いを生き抜くことで、より一層に成長できたはず。なのに、彼、彼女ら五人はいともたやすく瞬きに、重傷となり息をつく暇もなくにして追い込まれていたのだ。


パルプ()フィクション()ガム()ッ!!」


 アキラの途端の判断で彼の影は拳を振るうが、


「なにィッッ?!!」


 その拳は呆気なく砕かれ、能力は自身であるが故に砕かれた右手は同じように血が溢れ砕ける。


「ここまでごくろうさま。サティ、スティを倒したのは正当に評価するよ」


 おもむろに魔呪全書を持っていない手でグレゴールは、先程の骨片を取り出して教師が諭すかのように一方的に話し始める。

 

「その景品として、文字を読み解いた御礼として、冥土の土産に一つ教えてあげよう。此の骨片、あるだろ? これがギフト能力を人工的に授ける物なのさ」 


 情報は簡潔簡素に伝え終えて、グレゴールは次の一手を詰めるべく天高くに右腕を振り上げ――――――――





「じゃあ、バイバイ」





 その刹那。強欲なる者の必殺を白髪の老人が間一髪に彼等の前へ出る事により、身体を貫く氷柱の強襲は防がれる。


「ペウニー・スウェニー・ケェイニ、防御しろッッ!!」 


 老躯による魂の叫び――――老骨に刻まれた能力を改めて発動させ、グレゴールの手元にあった金銀装飾の本を存在ごと掻き消す所業。


「ア……?」 


 思わぬ事態。得体の知れない強欲は怒りに任せ、グレゴール・ライフマンはその場にいた全員を先程のように殺すかに思えた。


「……………」 


 しかし、そうはならず。

 深く息を飲み込み、心ここに無しと表情を一変させてロー達と同じように空中から取り出すはとある金装飾の福音書。


「ああ…そゆこと――――――興が覚めた、今回は君達の勝ちだ。じゃあね」


 荒れ狂う竜巻のように、強欲の彼は唐突に瞬く間にその場から消え去っていた。

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