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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第二章 33 【パルプ・フィクション・ガム】

「ゴハッ……オ………―――――」


 灼ける、燃える、蝕まれている。肉はこそげ落ち、眼は霞み。

 自身の内側より焦熱の激痛が、生ける臓物の全てを殺さんが故に血反吐を撒き散らさせる。


(アキラは…分かってくれただろうか………ウ―――――)


 しかしながらに彼は“英雄”――ロー・ハイル・ヘルシャフト――。

 自身や背負っている彼女の心配をする訳ではなく、勝利へと一歩を進まんとする者である。が、今の彼は実に無力、無駄、無意味に足掻くことしかできず、唯一の勝利できる彼に希望を託すのみ。


(ニーナは仮死状態にあるから大丈夫だとして…こりゃあ、キツイな……)


 今一度、背負う―――というよりかは、背中に縛り付けている至極色の少女の口元に手を当てる。微かなだが呼吸を行っている様子。


(だが…成程。ユーセラスを包む毒の霧は単純に、()()()()()()()()()()()………)


 毒の霧が姉妹の“(ギフト)”だとすれば、この街を覆えるのは当然であろうし、それ故に広範囲へと版図を伸ばせば薄まるのは明白。そして、自身らがこれまで効果の無かった毒に侵されているのは、大元へゼロ距離に近づいた為であろう。

 英雄にせよ、何にせよこの青く輝く獰猛な毒の霧からは逃れられず。


(恐らくは、“場”に作用する究極呪文と同等の“(ギフト)”だろう。)


 少しでも身体を動かせば、毒は自身を蝕んでくる。その動けぬ代わりにか、冴えわたる思考。

 究極呪文アルティメット・スペルとは、その“場”に影響を及ぼすモノや天使の“軍”勢を呼び出す超級魔法の類。フィリアナの<ヒュヘル・ニヴル>も“場”に変革させるその一つ。

 要は、それぐらいにこの毒の霧は強力なのだ。ローの頑強さを無視し、ありとあらゆるモノを殺す魔の毒の霧。


(こんなことならガスマスク、貰っておけばよかったなぁ…)


 微塵の後悔を覚える――――もう時間は無く。

 応急処置を施した右肩の肉は腐敗し殺されつつあり、耳、鼻、目などの場所から止めどなく深紅の血潮が溢れ出る。


 心臓の音が耳障るぐらいに、振動は眼窩を揺らすぐらいに、知覚は全て痛みに殺され(ペインキル)変わっていく。


「クッ…」


 不意に姿勢は崩れ、刃を突き刺し耐えはするも目の前は真っ暗に。いや、真っ暗闇の真っ赤色に段々と染まっていき、遂には膝を付くこともままならず、その場に伏して意識は深く沈んでいった。











 “白銀の英雄”から投げられたのは、何の変哲もない鍵の掛かった黒い箱だった。魔法による細工は一切にされておらず、また中身を開け見ても空。


(こ、これは…でも、どうしろって…?)


 魔力が微塵も感じられない鍵付きの手のひらサイズの箱。だが、コレについての記憶は鮮明に思い出せる。――――――アキラ・トシカワ(自分自身)が『救援』へと来た彼等に対して、自身の“(ギフト)”を行使したことを。

 何をどう分解すればいいのか、何をどう再構築すればいいのか。唯一、ガスマスクを装備していた事により無事であった彼は、青く染まる周囲を警戒しながらに“白銀”の彼の言葉に従う。

 まずは、自分自身に何ができるか、彼に投げ渡された()()は何をする為のモノなのか。ソレらを調べるべく、持ち物を確認。


(今手元にあるのは……分解して砂鉄にした武器の瓶が九つと、<パルプ・フィクション・ガム>の両腕、一発限りの緊急用の魔弩。あとは―――――)


「あらあら、諦めましたか?」


 鈴を鳴らすような澄み切った二つの声音が、


「そんなゴミ、どうするのですか?」


 毒の霧の中で共鳴する。


(もう来たのかッ?!) 


 一寸先は見渡せず、当たり一面には輝く青が広がっている。

 自身の装備を調べ終えたアキラは満足のいく答えを得る事できず、急ぎ敵へと向き直った。扱う武器は砂鉄の入った瓶ではなく、剛腕の<パルプ・フィクション・ガム>を構えたわけでもない。

 ただ一発、遠距離の放てる特別製の魔弩が右手に。


「でも、どうでもいいです。貴方が何をしようと、――――」

「――――(ワタシ)満足出来て無いので、()()()()()()()()()()()()()()。」


「なッ?!」


 右腕を突き出し半身となり、すぐにでも撃てるように構えた魔弩。

 一発しか撃てないが、込められた魔法は強力で第五級魔法の<龍爆炎弾(イヴェアトラ)>。弾丸のように放ち、触れた対象を火龍の息吹が如く焼き尽くすれば、内側から爆散させる魔法――――故に、この超が付く程の強力な一撃しか込めることができず。

 その奥の手の奥の手は、狂気に染まる大きな鎌によって目の前で斬り裂かれ瓦解する。


「ふーん、ちょっと強い武器ですのねソレ」


 突然に、唐突に、霧よりいでしは血に染まった飢える大鎌が一つ。関心を示す彼女は、甚振るのを嗜むように。


「でも、スティ。壊れちゃったら意味ないわよね?」


 姉妹の姿は片鱗さえも瞳に映らず。対して、歓心にある姉は付け加えて言葉を紡ぐと同時に、いとも簡単に大鎌を無駄なく振るう。


「シャァァァァァァッッ!!」


 ギリギリに大鎌を後ろへと下がる事により躱した彼は、すぐさまに剛腕の連打(ラッシュ)をひとえに見えた大鎌へ繰り出す。しかし、殴り抜ける<パルプ・フィクション・ガム>の鋼の腕は空を切るのみ。


「ほらほら、こっち」


 甘く囁く嗜む声は息を吹きかける距離に耳元へと響き、続いての凶刃による刈り取りが始まった。

 三百六十度からの狙い断つは彼の両足でも、本体でも、鋼色の歯車の巻き付いた両腕でもない。


「武器がッ?!!」


 手始めに断ち、斬り裂かれたのは腰にぶら下げていた雑嚢の中身。全て、瓶に納められていた砂鉄が半壊して平坦な床へと散らばる。


「よそ見は駄目よ?」


 (きた)る刃、今度は見えた。


「<パルプ・フィクション・ガム>ッ………」


 霧に潜む姉妹の位置は未だ不明だが、これなら当たるだろうと、湾曲する刃が懐へと近付く瞬間に()()()()()(ギフト)”を発動。

 

「キャっ」


 床に散らばるは先程の砂鉄。幸運にも武器を剥奪したと思わせておいての一撃は、何処に居ようと周囲一辺文字通りに不意を突く―――――――――いや、突かれた。


「ウ…グッ?!」


 床から刎ね出る槍衾は何となし。大鎌二つに貫かれるは動けぬようにと右足を、そして左腕を。

 形成した槍衾は砂鉄と還り、当然に最小限に感染を防ぐべく、しゃがみ込むがもう遅い。アキラの右足、左腕より段々と毒は蝕み始める。


「無駄よ、無駄」


 激痛が全身を駆け巡る中、加虐の彼女より、優雅で歓心を示す躍るような声音が聞こえた。


「例えギフトの力によっても、ワタシ達を傷つけることは不可能。」


 額には大量の汗、手は悴み震え、足はじたばたと音は無いが微塵に言う事を利かず。


「ここは私達の世界なのだから。何人も――――」

「ワタシ達を殺す事は出来ない、ただただワタシ達に甚振られ、痛めつけられ、殺されゆくのみ空間」

「いくら足掻こうが走ろうが、」

「出口はありません。」


 ドロッ、と瞳から流れ出るモノがあった――――涙ではない自身の血液。


「どうして、だ…?」


「?」


 あらゆる知覚は痛みに溺れて激痛の中、血反吐混じりにアキラは言葉を呟いて、


「どうしてこの街をこんな目に合わせたんだ!?」


 姉妹の目に移るサティ、スティへと語り掛ける彼の様は正に万策尽きたモノで、死の間際どうしても知りたいと彼の瞳に宿る好奇心が見えた事だろう。

 その座り込み動けぬアキラに加虐(あね)嗜虐(いもうと)の両名は一抹に理解し、霧に紛れ、霧となった最も安全な場所からご講演。


「…死ぬ間際ですし、お答えしましょう」


 何と無し、ソレが当然であるかのように加虐(あね)は彼の問いへと言葉を濁さすはっきりと。


「勿論、私達の趣味……―――――」


 と、否定と肯定を兼ねるは嗜虐(いもうと)の役目。


「―――もありますが、私達(ワタシタチ)はオトウサマとグレゴールサマの期待に応える為ですよ」


 聞いたことの無い名前に疑問を覚えるも、すぐさまにその二人が件の元凶である事は理解でき、当たり前のように姉妹は対話の意思を見せて、


「お前たちは一体何をするつもりだ…?」


 更なるアキラの問いに姉妹は嗤い、


「世界を救う為です」


 当然の事実であるかのように確固たる意志で加虐(あね)は話す。


「は?」


 今だ、目や口などからの流血は止まらずだが、霧の向こう側より聞こえし回答は正直言って、口をぽかんと開けるぐらいに意味の分からないモノ。

 正直に言って理解に苦しむ、矛盾した言動に怒りが取って代わる。


()()だと…徹頭徹尾お前らは間違っている!!」 


 ユーセラスを毒の霧で包み、神話の魔物を解き放ち、民を悪戯に殺す。一片たりとも“救い”などではない悪魔が如き所業。しかし、


「いいえ」

「世界を天秤にかけるのなら多少の犠牲は必要です」 


 そう確信し、薄く揺らめく姉妹の指があらぬ方向を指す。霧に映し出されるは無残にも血を流しながら床に伏す別たれた四人の“英雄”。


「それに、いくらかは間引いてもいいと許しは貰っていますしね」

「そしてあなたも彼らと同じように無残に…―――――」











「―――…なに?」


 地面が揺れる、猛毒の世界が揺れる。突然に起こり得る地鳴りは霧となった彼女らにも知覚できる物であった。


「…正直に言おう。時間が欲しかったんだ」


 立ち上がるアキラ・トシカワの雰囲気が一段と変わった。その手にはあのゴミであった何の魔力も感じられない物理的に鍵の付いた黒い箱。


「自分の力でどこまでできるのかは知らなかったが、時間がかかるであろうことは理解していた。」


 彼へと一筋の光が差す――――其れは、勝利への一歩。


「き、霧が?!」


私達(ワタシタチ)不死性(いたみ)が?!!」


 青く煌びやかな辺りを包み、離さんとす魔の毒の霧がゆっくりと確実に消えていく。霧散し、霧の一部となり漂っていた姉妹は実態を強制的に取り戻される今の様、驚愕の顔色にあった。


「吸収壁を知ってるか…? ユーセラスの建築物ほぼ全てに使われているだけどな―――」


 “吸収壁”ことアン・ヴァニッションの“効果”は、文字通りに霧や吹き付ける潮などの()()を『()()()()()()()()()()』する。

 そして、吸収された気体類は壁自体に補強の一部分として使われる一石二鳥の万能材質。<パルプ・フィクション・ガム>は既に触れているのであるからに、


()()()()()()()()()()()()()()ッ!! よって、吸収していたモノが無くなった壁は最も周囲に多い気体を吸い始めるッ!!」

 

 消える、消える、消えていく。魔の毒の霧が、悪魔の姉妹の激痛が確実に。

 “吸収壁(アン・ヴァニッション)”の効果を発動させたまま気体との接合を分解した。という事は、辺りに最もある気体は、壁の補強へと自動的に使われるのだ。


「『応用』とはよく言ったものだ。自分は……――――力の使い幅を今一度に広げる事で、自分のこの能力は<ヨリ一層に成長することデキタ!!>


 突然に驚愕の眼差しと顔色をペインキル姉妹は自分自身から、アキラ本人へと―――――否、彼にあらず。彼の背中にある者へと、ただただ眼差しを向ける。


「何ですソレ?」


「私達そんな事聞いてない!」


 背を預ける(自分)に振り向くまでもない、実感できた。


「<我はアンタ、アンタは我。正しい力の使い方は正しい成長を促す>」


 足音も無く。自身の前へと躍り出る自分()は見知った鋼色の両腕を持っていて、


「<そして、アンタの成長は我の成長デもある。故、我は成長シテミセタッ!――――贈り物(ギフト)からアンタの(能力)へと昇華シタ!!>」


 鋼色の両腕は銀の歯車が所狭しと食い込んで上半身体の斜め半分は鎧、もう半分は流れ星の刻まれた赤と黒と白にある。

 頭は青白の布で覆われて、若干の後ろ髪。口元には歯をむき出しに笑顔が描かれており、頬から頭のてっぺんまで左右に三つ、中央に一つに十字印の刻まれた半透明の板が生えて、紐で結ばれている。総じて下半身は簡素に鎧もどきの硬質な物が足を形作っていた。



「フッ…分かってるさ。パルプ()フィクション()ガム()ッ!!」 



 右手に掲げるはもう必要のないガスマスク。毒の霧は完全に消え去った。残るは、諸悪の権化のみ。


「よくやった、アキラ!!」


 ペインキル姉妹は迫る重圧を間一髪に掠り、現れるは依然血まみれにある“白銀”の英雄が一人と障壁を構築し、治療に専念する三人。

 最重量の大剣を掠め、脇腹より血の溢れ出る嗜虐(いもうと)――――その表情は驚愕から、憤怒に。 


「よくも…―――――」

「――――…よくも()()()()が、()()()()()()()がァッ!!」

「お父様に作られた、至高のワタシ達に傷をつけるなんて!! サティ!?」

「ええ、スティ!!」


 姉妹は呼応し、乱れ、その姿形は変貌しきる。

 美しく儚くあった黒百合の嗜虐で加虐な悪逆の姉妹は二人重なり、肉片はグネグネと形を変えて痛みを感じる間もなく、ただ自身らに傷を付けたクソカスを殺すべく“真の姿”へと戻っていった。


「オニ…だと……?」 


 英雄の頭の隅にあった記憶が口へと呟やかれる。

 確かに姉妹が変質したその姿、形容するのであれば鬼であった。赤く、凶悪な牙で、変質した跡が残る巨大な図体に二本の角―――しかしながらに、その角は両の目に当たる部分に捩じり込んだように歪に生えていた。


「一匹も逃がさないィィィィィッッ……――――――全部、殺スゥッッッッッッ!!!」


 迎え撃つローの数倍もある図体にも拘らず、その巨躯を持つ姉妹であった怪物は一瞬にして彼らの背後へと回り、自身の身体に傷が付く原因である人間を狙う。


「速い?!――――避けろ、アキラッ!!」


「シネェッ!!」


 その右手にあるは姉妹が優雅に扱っていた大鎌の一部―――刃は所謂オニの爪。


「いいや、これでいい。()()()()()()()()()!!」


 爪先を撫でる様に横なぎに、繰り出されるは全てを斬り裂く破壊の一閃。


「アガ、ナ、ニィ…?!」


「自分のやったことを忘れたのか?」


 怪物の動きは撫でぎられ、振るわれる寸前に完全に止まった。怪物が視線を下へと向ければ、無数の槍がその巨躯を貫いている。


「辺りに散らばる瓶の中身を再構築した。これで身動きは取れまい――――――決着だ、パルプ()フィクション()ガム()ッ!!」


「イエッサー!!」


 瞬間、地面の砂鉄を握り込んだパルプ・フィクション・ガムは雄叫び、


「怒ッ――」


 口元の絵柄は引き裂かれ、獰猛な牙が露出する。

 力強く、右の拳は胴体を射抜き、左の拳は頭蓋を殴り上げる。


「シャァッッッ――――――」


 間髪入れずにまた右が、左が重い音を奏でるは秒間十発以上の連撃。殴る、殴る、殴り込み―――――――――――ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、滅多打ッダァ!!



「VAVAVVAVAVAVAVAVAVAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッッッッ――――――――――!!!」



 おまけの仕込みの槍衾。串刺しにオニの巨体は砕かれる。


「ぐガァバァッッッッ………―――――」

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