第10話_集結した神様達。出会い頭に化かし合い
遊戯の神翠=ミュージックは此処に至るまでのミコとの因縁、そして其処に至る抑の原因だった自分達神様仲間達の半生を振り返り終わると目を開く。目の先にはミコが居て、真っ直ぐ此方を見つめていた。神様仲間は皆翠の後ろに移動し、ロビーから大ホールにかけて群がっていた。
遊戯の神、翠=ミュージック。
好機の神、暁=ネットワーク。
対価の神、要=コンセント。
初恋の神、愛=メトロノーム。
撤収の神、刀=クロック。
根性の神、祭=エネルギィチャージ。
節目の神、茂=エマージェンシィ。
妥協の神、環=スタンドプレイ。
密室の神、直=ファンクション。
夢望の神、巧=キャットウォーク。
継承の神、牙=クラシックライフ。
瓦礫の神、焰=スピーカノイズ。
寒村の神、㬢=ミルキィウェイ。
母性の神、葵=ジャッジメント。
情熱の神、遥=シークレットパーティ。
骨董の神、雅=プロフェッサ。
情報の神、紫=ミュージアム。
変異の神、巴=フラッグシップ。
風流の神、萌=プリズムリリック。
騒動の神、巡=サーキットドリーム。
進化の神、進=スターマイン。
真実の神、治=エターナルドライブ。
戒律の神、守=ウェルス。
送迎の神、学=エヴォリューション。
深窓の神、士=インフィニティループ。
奉仕の神、湊=ミステイク。
爆発の神、哲=ヘヴィワーク。
調停の神、務=フォーチュン。
暗闇の神、落=パーフェクトハーモニィ。
最高の神、戦=サイズ。
発案の神、颯=ピンポン。
個性の神、彰=ジャンクション。
暗殺の神、極=セキュリティホール。
美学の神、語=メタフィクション。
泥棒の神、扉=カレイドスコープ。
商売の神、熱=デファクトスタンダード。
奈落の神、整=キャパシティブレイク。
切札の神、剣=スペード。
算盤の神、羅=モノトーン。
道徳の神、完=ネクスト。
波紋の神、球=キューブ。
冒険の神、礎=イノベーション。
評価の神、雷=ダークサイド。
尊厳の神、宝=ニーズ。
留守の神、幽=クリスタル。
音楽の神、天=キャリオキ。
栄光の神、華=フィニッシャ。
暗転の神、帳=フリージア。
標識の神、羽=ブルーバード。
記念の神、迷=アンティック。
本物の神、絵=パッション。
寓話の神、哉=アリバイ。
絆の神、祝=エイプリルフール。
粋の神、希=ニックネーム。
印の神、透=パーソナルスペース。
食の神、禊=ハレルヤ。
道の神、翔=スリースピード。
夜の神、失=ナイトメア。
数の神、始=フィナーレ。
旅の神、魚=ブラックナチュラル。
そして此処にはいない神様が二名。先ずは単独行動を取って不登校になっている神――。
友の神、零=ファクタ。
最後にミコと接触した後消えてしまった、死んだも同然に居なくなってしまった神――。
嘘の神、泉=ハート。
ここに集結し神様60名、完全を帰す為に此処には居ない2名の名前も列挙し、改めて神様達の略全てが、ミコ一人に対して其のような大集団で以て対峙しているという状況を再認識する。あの日、自分達の待望を叶え自分達の在り方を壊した何とも形容し難い相手に。各々抱いている感情が千差万別なので呼び方も色々であるが、圧倒的な実力だけは皆が一様一律に認識していた。因みに此の場、大掛かりな勝負の舞台を任されている翠の場合は端的単純に『敵』である。迷うことなく選択し、周りの意見等気にせずに、初志貫徹と通してきた。そうすることで、予め決まっていた此の瞬間に向けて詞を慣し熟し、少しでもミコに『神様仲間達は纏まっているんだ』と云うイメージを押し付けているのだ。まあ、然うでもしないとミコと云う女は圧迫感の類を感じないだろうから。何しろ最初出会った時にたった一人で神様全員に暴れて魅せた女である。其の実力の凄まじさは此方の方が痛い位良ーく分っているからという切実過ぎる理由アリ。
そんな小細工と云われれば其れまでだが、其れでも翠の手間隙かけた小細工は一定の効果を生んでいた。群集心理の為すべき業か、神様という素材神材が善いのか、唯一人対峙している『敵』、ミコ=R=フローレセンスは神様達を見下し見くびる動作を見せず、一人直立不動で固まった様に立ち尽くし、泰然と、或は悠然と構えて真っ直ぐな目で此方を見ている。作戦成功――翠は細やかな満足感にちょっぴり浸る。だがこんな前哨戦以前の演出で満足するわけにはいかない。最大最優先の目的はミコを負かすことなのだから。
なので同じ様に満足感にどっぶり浸かっていた他の神様仲間達を叩き起こす意図も含め、翠は本題を切り出した。自らの物体操作術で箱一式を出現させ、其れをミコ目掛けて神速で放ったのである。翠の其れは洗練されており、挙動で神速発動を見破ることは困難であった。然し流石は『神殺し』と目されるミコ=R=フローレセンス。彼女は翠が神速で放った箱一式、余裕を持って受け取った。何時の間にかは知らないが、既に頭に被っている影帽子のがま口チャックを開き、黒い腕を使ってだ。
「ずいぶんなご挨拶ですね、翠様?」ミコが皮肉った笑顔を浮かべながら口を開く。其れ丈で翠が手をかけて仕込んだ小細工は崩壊。俄に神様仲間達の間に緊張感が蔓延しだす。
だけど今回の神様代表翠は一味違う神様。そんな損気な空気に染まることもなければ、ミコに気後れすることもない。「ふ……ふふふ、受け取ったわね」と前置きすると、直ぐさま話を進め出す。
「其の箱にはミュー達神様が愛と希望と恨みと執念で創り出した対泥棒ミコさん専用の勝負道具のカードゲーム、“ファニータイム”一式が入っているわ。此処にはキミ用の個室を用意してあるから、これから其処に籠って60枚以上62枚以内のレギュレーションとルールに則ったデッキを作って欲しいの。でも、その前に一つだけ、此の場で決めて欲しいことがある」
「あら? なにかしら」
楽しそうなワクワク感一杯の笑顔でミコが相槌を打つと、翠は澄ました顔して指一本で話を繋げる。そして其の指一本人差し指は、ミコが受け取った箱からルールブックを取り出すと、ミコの眼前に浮いてページをペラペラ。とあるページで停めた。翠がそうしたのも、話を円滑に進める為。其のページが此れからの話に絡んでくるからに他ならない。
「ざっと流し読みしてもらえれば分ると思うけど、此のゲーム、“ファニータイム”は俗世で普及している様な低俗なTCGとは訳が違うわよ。抑地べたを這いつくばる様に上から目線で机上に撒いたカードを見下すなんてしない。ミューは然う云う『何様ゲーム』、略して『様ゲー』って超嫌いだからね。此の“ファニータイム”は然う云う要素を排してミュー達神様や泥棒ミコさんがプレイするに相応しいゲームになっているのよ。さて、指定したページにも書いてあるけれど此の“ファニータイム”、ゲームプレイのコストとして設計図を使うんだよね。こんな風に……さ!」
パチン!
翠は其処までで一旦詞を区切り、指を鳴らす。すると翠を始め神様達……所謂『盗まれてない組』の神様達の身体から小さな光る星が飛び出て浮かぶ。蛍の様に飛び回り、星の様に軌道を描く。此れこそ時空隔絶領域アパートにて神様達が生み出した神々の証、不老不死の神具、『大切なもの』――『設計図』、なのだ。
数々爛々と輝く設計図。翠の合図で盗まれてない組の神様達が一斉に其れ等を取り出した光景を見たミコは、一旦目の焦点を翠によって開かれたページに移すと、「ああ……そういうことなのね。了解よ、翠様」と翠の意図を察したようで自分もまた影帽子のがま口チャックの中から、あの日盗んだ設計図29個を取り出した。冠詞の文字数に応じて数の違う超極小概念恒星群である設計図達。盗まれた組から奪った数に違わず、70個の恒星群。29色色とりどりの光を放ち、29の星座印象を変わらず放ち続ける神の星々、設計図。
その様子を見た神様達、凄く物欲しそうな顔をする。代表なのか戦が翠の後ろからこんな痴れ言をぬかしてきた。
「其の設計図、神に返しなさい! ……ってあ痛ぁ! 何をするのです、翠!」
「黙れ正論バカ! 折角の仕込が台無しじゃないのよ!」
空気の読めない正論バカこと戦を、物投げつけて制裁&激しく厳しく叱咤の二刀流で以て押さえつけ気味に黙らせると、乱れた雰囲気を態とらしく「オホン」と咳払いすることでリセットし、翠は話の続きを語る。
「デッキを創って貰うのは此方が用意した個室、そしてプレイするのは此処大ホール。聡い泥棒ミコさんならもう解っていると思うけど、既に此処大ホールは“ファニータイム”で闘う戦場と化しているのです。う……ふふ、もう処置済みですよ? 其の証拠が此の出現させた設計図。ミュー達無視して何処か行ってる放浪迷子の零の分を除く、61個の設計図が、こうして恒星の正体を晒している。“ファニータイム”戦場に於いてプレイヤーの頭上背後に現れるコストエリア、プラニスフィアに集結するのです!」
「プラニスフィア……なるほど」
「で、取り上げている問題と云うのはお互いが所有する設計図の数、なんだよね。ミュー達が保有している設計図は32種恒星76個。一方泥棒ミコさんは29種70個。此のゲームでは設計図の冠詞文字数からなる恒星の個数がコストに直結している。コストの数を多く要求するカードには強いカードも在る訳で……元からイーブンにとは考えてないわ。ただ建前でも善いから使えるコスト数、そして出来れば設計図自体の数も対等にしたい。其の決定権を泥棒ミコさん、キミに託すと云いたかった訳よ」
翠が不敵に笑いながら解説し、話の主旨を云い終える。ミコが盗んだ設計図を見て騒いでいた神様仲間達も一転、何時の間にかしんと静まり返っていた。翠の説明を聞きし此の場にいる神様仲間全員が、設計図取引の“予言”を思慮していたのである。翠に預けている設計図――所謂ミコに盗まれなかった設計図は32種76個。対してミコが奪った設計図は29種70個。コストとして扱う設計図の恒星の差は6個。更に翠は設計図自体の所有数も対等にしたいと申し出た。『完全なフェア』は設計図の一覧上不可能だが、『形式上のイーブン』は可能――一見親切な提案に見えるが、其れは所詮見せかけ。翠の謀略は既に始まっており、此れも其の一つ。故に神様仲間達は考えていた。ミコが、一体どのような要求をしてくるのかと――。
其れでも大半の神様達の“予言”は一致していた。「所有数と個数の差から考えて、翠の手持ち分から偶数文字数の設計図一つをお互いが使わない“中立”に隔離。其の上で残った文字数の半分文字数の設計図を翠からミコに渡せば、30種同士で文字数も一致する」と。安直だが大半の神様達が直ぐに導き出した、言わば“模範解答”だった。
然し、ミコと云う女は其れが当て嵌まるほど分り易い女じゃなかった。彼女は神様仲間達と同じ時間考えた上で、こんな難癖をつけてきたのである。
「わたしは落とコンビ組むつもりなんてないからさ。わたしの持ってる落の『グループの設計図』を中立にして設計図2つ文字数合計5つで交換しましょ。遥ちゃんの『主観の設計図』と希ちゃんの『悪知恵の設計図』くださいな」
「何! 私の設計図を寄越せって言うの!」
「あわわ、ミコちゃん! そんなんやや!」
ミコの詞を聞いて翠よりも早く間髪容れずに反応したのは二位指名された希。其の経歴も相まってなのか、とんでもなく複雑微妙な嬉し憎しと言った感の顔をしている。そして続けて捨てられた落の絶叫が続く。他の神様仲間達も一位指名された遥の事等眼中から見失ってしまっていた。其れ位ミコが希の設計図を所望した事はインパクトがあったのだ。
ともあれ其れは所詮二の次。誰が嫌と言おうが喚こうが、此の場に於いては決定権を持つのは翠。翠はミコの要求に、一本通じるものを感じたのであっさり了承、手を上げた。
「いいわ。ゲーム中に落の『グループの設計図』を中立として使わないようにしてくれるのね。条件は呑む。受け取りなさい、『主観の設計図』と『悪知恵の設計図』差し出すわ」
翠が然う答えると同時に翠の背後頭上プラニスフィアから二つ星と三つ星がミコの方へと向かっていく。星らしく放物線を描きつつも最速のスピードで延長線上、ミコのプラニスフィアへと入って行った。そしてミコのプラニスフィアから透き通った白色に光る四つ星がプラニスフィアからミコの影帽子の口の中へと戻る。然う、戻ったのは中立扱いで話が着いた落の持っていた『グループの設計図』。盗みつつも使わない――落の危惧する通り、ミコはこの行為を持って落とお笑いコンビなんか組む気はないときっぱり明言……元きっぱり表明してみせた。翠は背後で落のどん底オーラが満ちているのを感じ取っていた。其れ丈で別に害はないのだけれど、こうして“ファニータイム”で対決する翠とミコのコストエリアプラニスフィアには夫々30種の設計図と文字数コスト71個が揃い、見てくれだけでも等しくフェアになった訳である。下準備は整った。となれば次は本準備だ。
「く……くく。ハイ用件終わり。泥棒ミコさん、付き合ってくれてありがとう。これからキミには個室でキミだけのMyデッキを作ってもらうわ。さっ、此の場は此れでお開きよ。泥棒ミコさんを個室まで案内する役目は、魚、哉、祝の極楽トリオに任せるわ」
ハイ解散――然う云って翠はパンパンと両手を叩く。出された物も箱に戻った。其れを合図に翠に指名された魚、哉、祝の極楽トリオがソファから立ち上がりぽてぽてと翠を追い越しミコの方へ歩み寄り、「久しぶり〜」等と碎けた関係の友達の様に接してミコの手を取る。そして其のまま引っぱって大ホールから個室エリアへと消えていった。
其れを見届ける事も無く、翠はミコ達に背を向け前後逆転して視界に入り込んできた有象無象の神様仲間達を一人残らず大ホールから押し出し、自身も専用の個室(神様仲間達全員入れる位広い部屋)に戻る。程なく大ホールから気配が消える。後に残るは空の場所だけ。でも其れはとても大ホールらしく感じられる、殺風景、だけど洗練された閑散さというものだった。




