第10話_あの日から…
ミュー達――神様と呼ばれる存在が俗に云う「神様の問題」を出したのには其れ也の訳が在る。偶然宇宙的なエネルギィで満ちた所為で矢鱈活動的なこの惑星が定期的に繰り出す“星裁”を幾度となく見てきたからだ。文明のリセット、生態系の絶滅執行に依って其の影響を受けない設計図持ちのミュー達が、何れ程心を痛めてきたことか。㬢なんて見てられないと部屋に逃げ込み其れでも泣いて、突然死なされた生命達を弔っていた。程度と個体差こそ在れど、其の気持ちはミュー達神様仲間が皆一様に抱く気持ち。何とかして此の惑星の悪趣味極まる“星裁”から一つだけでも、助けたかった。其れこそが理由。「設計図を盗み、“星裁”から解き放たれる新たな神様仲間と成れ」と云うのが、ミュー達神様仲間が遠い過去、「神様の問題」を出題した動機だった。
だが、出題してから幾星霜、正答者は現れなかった。“星裁”が起こる度に、定期的に新たに生まれた人間を初め全生命に神告宣下で問題を告知し続けた。実際解こうとしてくれた者達も居た。が、全員徒骨折って脱落した。鍵を持って扉を開き、ミュー達の居るアパートへと辿り着く――其れ丈のことがどいつもこいつも出来ずに死んだ。情け無さに呆れ果て、余りの救えなさに涙も出なかった。救えないなら亡びも必定――とうとう然う考えるに至り、戦が神告宣下に依る出題だけを暇つぶしの様に続けて、悠久の時が流れた。
何時しか俗世は『人間・生命世界』等と過去を知らない愚か者共が付けた全く以て望みの無さそうな世代へと移り変わり、愚か者共は相も変わらず挑んだ振りして諦める。又望みのない世代。滅びる運命にある世代。然う思っていた――。
然し。
惰性任せに積み重なったミュー達神様仲間達の事実の固体予測は、此の世代に因って破られた。一人の少女が、アパートに辿り着いたのだ。
其の名はレイン。諦め切った愚か者共ばかりの人間達の中では割合問題への関心熱心執着心が有る一派、気象一族の一員。雨と契約した39代目の雨声端末。
唐突突然のことにミュー達は虚を衝かれ対応も接待も出来なかった。皆アパートの個神部屋に籠りきり。気配を感じ、情報が入った後でさえ先ず皆がしたことは、真偽を疑うことだった。
その隙を突いたのかは知らないが、レインはロビーもホールもシアターも通り過ぎ、勝手許可無く或る個神部屋に入った。ミュー達神様仲間達は基本的に個神部屋ではプライパシー保護を施術しているので、此処でもミュー達は後手に回った。62の個神部屋の一体何処に入ったのか、其れさえも分らず更に時間を稼がれた。そして最早客とも呼べない侵入者となったレインの居場所を突き止めた刹那だった。
レインの居場所だった個神部屋の主、嘘の神、泉=ハートの気配が消えたのだ。設計図の反応は有るのに、侵入者レインの気配も在るのに、部屋の主である泉の気配だけが唐突に消えた。ミューが真先一番手で泉の個神部屋に駆けつけ部屋の中を確認したが、居たのはレイン一人だけ。其の時初めて交わした会話、今も鮮明に覚えている。
「ミューは遊戯の神、翠=ミュージック。貴女、ミュー達が待ちに待った問題の正答者、気象一族のレインでしょ? 此処の主、泉を一体どうしたのかしら。答えて頂戴。聞いてあげるわ」
ミューが尋問すると其の子は花のように淡く柔らかく笑って答えた。
「泉さん……自分の宿命を自覚したみたいで消えちゃいましたよ。『この世に未練無し』って言って、わたしに完成した“歌心”を残してね――。もう潮時ね。元からわたしは泉さんの歌を聴いて会いたいと思ったから来ただけだし。わたしもわたしの“宿命”を知っちゃったしねー。時間がないわ。でも急がない。ただ残りの神様たちに親切心から嫌がらせして帰らせてもらおーっと。ね、翠様」
其処から先、ミューの記憶は一時途絶えた。と言うのもレインがミューのことを急襲し気絶させたからだ。遊戯の神なんて通り名ですが、ミューの実力は決して遊戯に限った話じゃない。だけどレインの攻撃は的確且つ正確で、ものの一撃で気絶させられた。
そして意識を取り戻した時、既にアパートは荒らされた後。レインという名の嵐は各個神部屋62部屋全てを襲い派手に暴れてとんでもない爪痕惨状を残し、挙句あっさり俗世へと消えていたのだ。魚の神言で全員が招集され、ロビーに久々集合すると、事の深刻さが想像以上だったことと知る。集まった神様仲間達の内、実に28名がレインに設計図を奪われていた。居なくなった泉の設計図と合わせて29個、半数未満、然れどほぼ半数の量をあの小娘は盗んで逃げたのである。盗まれた組は大半が嘆き、悔しがっていた。まあ中には整の様に「自ら渡した」と悲観しない者も居たし、盗まれてない組でも希の様に「見逃された」と屈辱に身を震わせている者が居る等、十人十色に多様な思惑と心情を持ってはいた。が、審議の結果は一本締めのオンリーワン。他の選択肢は出る幕すら無く、「解答者出現の神告宣下と全員での俗世への降臨」が満場一致で採択された。意見が別れ始めたのはこの後で、レインに対する対応策に話題が移り始めてからだった。レインに対し直接復讐だの観察だの説得だのと、其れこそ個神個神が自分の置かれた状況から導かれる思惑に忠実に成ったが為に出るわ湧くわの意見乱発。今思えば此れで相当数の時間を浪費したと思う。だってその間にレインは気象一族さえ抜け、剰えレインからミコ等と名前まで変えてしまっていたのだ。結局レイン、いやミコと一番始めに接したミューと一番長く接していた魚が決定権を握り、神様仲間達を思惑別に組分け班分けすることになった。
追跡班、情報収集班、観察・伝言班からなる外出組と、創作班、製作班、プレイヤー班からなる俗世本拠地での留守番組にミュー達は神材を編成したのだ。此れを見返せば分るのだが、ミコへの逆襲や復讐と云った戦闘希望の面子は意外に少ない。全員ミコにしてやられたので勝ちたい気持ちもほぼ全員が共通して持っていたが、勝負方法自体はミューを代表にして遊戯勝負……則ちゲームで勝てば良いと考える者が多く、自らの手で闘って負かさなければ気が済まないとまで宣う急進派強硬派は追跡組に押し込んだ。だが追跡班が二組六班編成の内の一班でしかない様に、其処まで宣う連中というのは当初はそんなに居なかったのだ。其れ丈に外出組がミコを追ってガデニアに集結した際、追跡班情報収集班観察・伝言班の垣根を越えて希望者全員で負けに行ったのには驚いた。聞けば気象一族の追手に自然学派のタカ派と買収された花一族の造反者、更には端末の身体を乗っ取った自然現象の意思そのものとミコが闘っていた場面を見て、戦闘意欲を掻き立てられたのだと云う。其れを聞いちゃあ抜け駆けされた形になるミューでも納得するしかなかった。ミュー達より遥かに劣る実力でミュー達を破ったミコの相手が務まる訳がない。ミューでもバトルを考えるだろう。新たな神になれる実力を持った女の子の相手には神様こそが相応しいのだから――。
でも闘った処で負けるのは目に見えていた。実際ミューは先程の文で、「負けに行った」と云っている。単純戦闘ではミコがアパートから出る前に起こした騒動で皆壊滅的に負けている。戦闘接触がない神様仲間にしても、“格の違い”と云うものを認識させられ負けている。其れなのにバトった処で、設計図を返して貰える筈も無い。事実闘った者達は、ミコは疎かミコが引き連れた人間仲間にさえ負けたと云うではないか。其の上、真の実力者である魚、哉、祝のトリオに迷に絵、始の爺は参戦しなかったと云うのだから、結果は聞くより先に見え透いていた。正直、徒に神様の株を下げただけだと思う。まあ此れもミューと魚の計算通り。血気盛んな仲間達を良い塩梅に諦めさせ、ミュー達留守番組が1から創り上げたゲーム、“ファニータイム”による勝負をミコに受けさせることに成功したのだから。或る意味予定調和と云えよう。
そして魚達が正式に宣戦布告したことも有り、開発を急がなければならないのがミューとミコの勝負手段、カードゲーム“ファニータイム”だったのだが、創作班が結構時間を食い潰して思いのほか浪費しやがったのには呆れた。公明正大なゲーム作りは此方としても望む処だが、対決には『適時』と云うものが在る。要はタイミングの問題。実際にプレイしない連中には分らんだろうが、神様にも『ツキ』が有る。既にミュー達プレイヤー班はミューの“最高勝率期間”を演算して割り出していた。今年の草枕の月〜細波の月にかけてがミューのラッキータイム、其れを圧迫、剰え過ぎてしまうようなことは絶対避けたい流れだった。幸いにも梓弓の月、魚達外出組が帰って来た時丁度創作班の作業が終わったので安堵の溜息を吐いたものだ。因みに「神様バカぼっち」の進が製作班を追い出されていて創作班に逃げ込んで、挙句乗っ取り騒いでいたことが創作班の遅滞原因と同時に判明し、安堵の溜息は二回吐いた。製作班は進よりも上手な宝と華が牛耳っているので心配はせず、安心した影響もあって其処からミュー達プレイヤー班は緊張の糸が解れ今の内にと長期睡眠を取った。その後夢半ばで居た時に外出組、其れも追跡班だった希に「完成したわよ」の目覚ましチョップで目が覚めた。睡眠時間はざっと数日〜半月そこら。まあ精神を落ち着かせ安定させるには十分な睡眠と解釈が皆合致。希を本人の希望通りプレイヤー班に編入させ、5人体制で検証作業とミューが使うべきデッキの構築作業に入った。其の過程で希からミュー達が寝ている間、進の“素質覚醒”で無駄に才能を開花させた製作班も暴走して各自オリジナルのデザインで同じカードを9パターンも作り、外出組と創作班も合わせて誰のデザインが良いかなんて又もバカげた回り道をしてたことを聞き、心底寝留守していて良かったと思った。誰のデザインかなんてどうでもいい。其れはきっとミコでも同じことを言う筈だ。
然うしてミューの戦略戦術――ミコを倒すという目的を最大限に叶える手段として、ミューのデッキは完成した。この時点を以て、神様仲間達は次のフェイズに移行。則ち、魚達の伝言――宣戦布告を受けたミコ=R=フローレセンスを出迎える準備に入った。使者に遣わすのは通り名通り、学である。直ぐに遣わし、そして帰って来た。ミコ=R=フローレセンスを連れて……。其れが今。




