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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第9話 夭折した母の残した詞――思い出したいつかの誓い
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第9話_ノイマン家の花畑、なんでか神様もやってくる

「終わったあ〜。いや〜母様にちゃんと『さよなら』を伝えられてよかった。ね、兄様」

「そうだね。姉上が知らせてくれたこの奇跡のおかげで、ボク達は家族の絆を取り戻せたんだ。知らせてくれた姉上にお礼を言わなきゃだよキティ。……って、アレ? 姉上は?」

「いない……どうして!」

 黄金と光が織り成した奇跡が破れ、現実へと戻ってきたキティとアイズの兄妹は、奇跡への感慨をかみしめながら、まずはミコに全部感謝だとミコにお礼を伝えようと思ったのだが、どうしたわけか、元の花畑からミコの姿は消えていた。まさか……ノイマン家再生計画が完了したこともあり、最悪の事態を想像してしまったキティは我を忘れ、取り乱した声で叫ぶ。

「姉様! どこにいるんですか! わたしイヤです、こんなすぐのお別れなんて。わたしまだ姉様に甘えきってない……もっともっと姉様としたい! どこにいるんです……いったいどこに行ったんですか!」

「ここに行ったの」キティの絶叫のあと間髪容れず聞こえてきた声。その声が誰のものかなんてすぐにわかったキティとアイズは声の方を振り向く。するといた。ミコ=R=フローレセンスが。ちゃんといたのだ。

 キティは溢れる感情を抑えきれずすぐさまミコに飛びつき抱きついた。何度やっても飽きずにミコの身体を堪能して一瞬でも抱いた不安への慰みとすると、すかさずミコに奇跡の件の感謝を告げる。それと同時に、改めて「どこ行っていたんですか」と訊いた。ミコもキティの身体を慈しむように抱きしめると、あっさりうっかり答えてくれた。

「奇跡要素は奇跡の場を作ったでしょ? でもね、なにも起こせる奇跡の数がひとつだけってわけじゃないのよ。あなたたちノイマン家の家族再生の場にわたしは不要だったからいなかったけどわたしはわたしで用意された別の奇跡の場に入っていたわけ。その奇跡が今終わったから、戻ったわけだけど……一足遅かったみたい」

 あれまとお茶目にとぼけてみせるミコ。その調子はいつものミコそのもので、キティもアイズも心底安心する。キティはミコの顔を見上げて目を合わせると、奇跡の中で起こったことをあのねそのねと報告する。時おりアイズにも喋らせたりなんかして、ユーモアと毒舌をちょっぴり添えたりなんかして。これも全部、ミコに教わったこと。

「そう……お母さんに会えたの。よかったわね。キティ、アイズ」

「はい」兄妹は声を揃えて頷いた。ミコはここで視線を空へと向けてぼそり呟く。

「お母さんもやるわね。わたしだってもういるわけじゃないのに、クェンティンさん排除ですか……斬新。理解できてしまうわたしはおかしいのかしら?」

「えっ……? 姉様はこの決着に反対なのですか?」

 キティが訊くと、ミコは人差し指で口元を突き上げ、「え〜とね」とか言いながら語り始めた。それは詞を選んでいるようで、いつものミコらしくないとキティは思ったものだ。

「わたしにとってみればね、人間なんて自分以外の人はみんな他人よ。これは辞書にも書かれていることだわ。他人は無条件に幸せや喜びを自分にくれるわけじゃない。それは家族でも例外じゃない。家族いえども他人だってね。でもね、自分と他人との間に切りたくないと思ったものがあるなら、それは確かな“絆”だし、ずっと一緒にいたいと思えるなら、それがきっと“家族”なんだと思ってたりしてたのよ。まあ、家族しくじった女の戯言ですけど。だからあなたたちの決意表明と昇天したお母さんの遺言はわたしにとっても新しい、やってみる価値アリの詞とも思う。おもしろそう。これだから旅はやめられない。でも二人と姉ごっこして色々教えたりしましたが、やっぱり10歳にも届かない子供二人で8年暮らしきれるかって……心配しちゃう。ごっこだけど姉だけに。もっと言えば他人だけに、ね」

「姉様……大丈夫ですよ。兄様とわたし、姉様に御教授いただいた教えをもって、8年生き延びてみせまさらあです。だから姉様、お願いですからお別れはどんなに早くても明日以降にしてくださいまし。今日の晩ご飯、わたしと兄様が作った料理で、姉様にお礼がしたいのです」

「そうだよ姉上。ボク達の作った料理、食べてくれるよね?」

 案外存外まともに兄妹のこれからを心配してくれるミコに「大丈夫」と答えるキティとアイズ。続けざまにミコを今日だけでもノイマン家に縛り付けようと晩餐御馳走の提案をする。自分たちで言うのもなんだが完璧である――だってミコに教わったやり方だし。人間である以上カチッとハマってくれるはず。そうキティもアイズも確信していた。

 なのになのによりにもよって。渾身本心の口説き文句囲い作戦は一刀両断に断られてしまった。他でもないミコの口から。それもとんでもない要因によって。

 ミコが再度キティの身体をギュッときつく抱きしめて、でも視線は遥か遠くを見てこう言ったのだ。

「ゴメンね。キティ……アイズ。わたしもう出立の時間だわ。だってほら、旅の息抜きに寄り道を勧める迎えがきちゃったんだもの」

「えっ、迎え?」「姉上、何を」

 断り文句と別れの詞に動揺する幼い兄妹。そこに続けて聞こえてきた父の声が、二人の耳を震わせる。

「ああ、あいつか」

 聞いたときにはもう二人とも顔を動かしていた。とりわけキティはミコとの抱擁を急ぎ引き剥がして振り向いた。そこに――いた。

 どこかのホテルマンみたいな黒ずくめのスーツと運転帽姿の、男が――。

「姉様、いったいあいつ誰なんです?」

「ほぼぽ。お嬢ちゃんにお坊ちゃん。初めまして。私めは学=エヴォリューションと申す者也。しかし真名など霞の中の街路灯。ここ俗世では送迎の神との通り名こそ私めを示す物也。さて、理解して戴けただろうか?」

「送迎の……神? ええええええっ!」

 アイズとクェンティンは腰を抜かした。キティも立っていられずミコにしなだれかかった。それくらいの衝撃、ショック。

 だって目の前にいるいかにも人間っぽい人が、あの神様だというのだから。

 しかしなぜ? 神様なんかがミコを迎えに現れたのだ?

 パニクった頭で考えても答えは全然出てこない。するとキティの頭上でミコが「あ〜またしくじったか〜」と一人ぼやく。そしてキティの頭を撫でながら、トドメの一言を大したことない風に、しれっと言い放ったのだ。

「ゴメンこれも言ってなかったわね。わたしは元気象一族のレインだったんだけど、実は神告宣下であった神様の問題を解いた女でもあるのよ。で、神様連中は問題を解いたわたしを追っかけて勝負を吹っ掛けて、こうして迎えにきたってとこ」

 ――?(理解するまで数秒かかりました)

「な……なんじゃそりゃあ!」

 怒髪天を突く、ならぬ驚愕天を割るとはこのことか――と思わせるメガホン級の大音量でキティたちノイマン家の三人は叫んだ。

 それはもう声ではなく、衝撃波だった。

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