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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第8話 ふかふかのぱんでみたしましょう
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第8話_神様達の見本市

 ミコがそんな感じに、花の道に導かれ、ノイマン家に辿り着いた前後の時間軸……。

 俗世から一寸離れた場所に或る、神様達の俗世本拠地で一寸した動きが有った。

 逆を言えば其れまでは何の音沙汰も無かった。魚達外出組が帰還した丁度其のタイミングで進に乗っ取られた創作班がゲームの委細詳細を纏め上げて進が追い出された逆襲とばかり提出に行って、直ぐに返り討ちに遭ってドッペル藁人形に括りつけられた傷だらけの身体を外出組と製作班の休んでいた一階大ホールに投捨てられてからと云うもの、何の音沙汰も兆しも無かった。

 その間述べ数日に渡り、実質魚が率いる神様連中はこの世の堕落を体現するかのような暇つぶしに興じていた。飲み、食い、騒ぎの酒池肉林。元々不老不死なので栄養摂取も何も関係ない身の上だが、神様だって心持ったる生き物である。枯れかけているとは言え個性もあるし、長い神様生活の中で磨かれてきた趣味嗜好と言った物も有る。久々の俗世に降りた以上、俗世の食文化を楽しみたいと――神様の大半が心中思っていたことなのだ。

 そこに抜擢指名された食の神こと禊=ハレルヤが徹頭徹尾徹底的に手を抜くことなく秘密裏に買い集めていた俗世の高級食材を、神の手で調理し振る舞った事でこうなった訳だ。

 飲めや歌えやの大晩餐会。自業自得の進を土台のドッペル藁人形ごと広間の中央にオブジェとして配置し、其の回りに沢山の絨毯を敷き詰めて禊の手料理を配膳、神様達は絨毯の大きさに合わせて小グループに別れ、盛り上がっているわけである。で、其の宴会何日目という所で、製作班がカンヅメしている部屋の扉が突如開き、進を下克上した製作班の神様面々が夫々其の手に紙持って吹き抜けから一階大ホールへと飛び降り飛び込み飛び入りしてきたのだ。四方八方を縦横無尽に暫く飛び回る其の神様仲間達は、食べ物を取り、飲み物を取り、進を蹴り――等さんざ好き勝手に動き回った後、漸く其の足を床に着けた。

「来たな……」宴会していた神様達が其の出現を予測していたかのように呟く。製作班の仕事部屋から飛び出してきた神様9体が進を背にして取り囲むように、皆の中心に立ち、登場到着した事を是見よがしに見せつけた。各々飲み食いしていた外出組39体、創作班7体、そして見せしめのスタチューにされている進1体。計47体の神様達が各々諸々の視点で見つめる中、新たに登場した製作班9体はすぅ〜と息を吐き、「点呼!」と突然叫んだかと思いきや、順に右手で隣の神様仲間を指差しなぜかそいつの名前を呼ぶ。

「要(かなめ)!」

「治(おさむ)!」

「遥(はるか)!」

「祭(まつり)!」

「学(まなぶ)!」

「牙(キバ)!」

「暁(あかつき)!」

「宝(たから)!」

「華(はな)!」

「グルッと一周全員勢揃い! 進の支配から卒業し、叛逆の狼煙、業火を溶かし、冷まし固めた灰から作り上げたわ9通りのカードセット! さあ皆の衆、決戦占拠の決選挙よ! 不精まだまだな私達が丹精込めて作り上げ出来上がった珠玉の名作カードゲームが9セットここに揃ってる。これぞ解散分裂の呼び水よ!」

「来たようぇるかむ難解女神、華が華々しく気勢を上げたね」

「全くロンリネス。華に喋らせると豪華難解詞化けなのにね」

 魚と並ぶ実力者、通称珊瑚衆の他二極を占める御両所、絵と迷が見ていた方の立場から製作班のリレー点呼とその仕掛人にして仕置人である製作班の1体、栄光の神、華=フィニッシャの最大個性とも云うべき「良さげな詞過剰羅列しまくり説明」を聞き終えて取合えずの反応を示す。ここでスルーしたら多分9名全員泣いて暴れだしかねないから。

 ともあれ実力者である絵と迷の返事が雷管の合図に成った。他の神々も口々を動かし、製作班の苦労を労い始める。湊が。希が。透が。務が。雅が。紫が。葵が。焰が。颯が。守が。十人十色の声色と、十人十色の表現で、詞一つ揃える事は無く、だが其の言質は誰一人横道に反れる事も無く、一様にゲームを完成させた9名への賛辞だった。情熱の神である遥や好機を逃さない好機の神である暁などが其の賛辞を受け取りつつ手を振るが、突如其の手が示す物は「照れ」から「待った」に変わったのだ。場違いな程真剣な眼で変わった場の空気に、褒めていただけの神様連中は息も停められ息を呑む。

 そして9名の製作班は夫々が無味乾燥な手拍子で、其の足元、其の頭上、其の正面に作業用二重厚紙製のデカい箱を出現させ、結局各自の足元に落とす。最初から素直に足元に出していた華、宝、要は無事だった。だが正面に出現させた牙、遥、学。頭上に出現させた暁、治、祭の6体は出した勢いを殺すまいと後先考えずに自由落下させたため、結果箱に爪先を潰されたり、脳天植木鉢落としの如く頭に落として潰れるなど、思慮の足りなさから事故を起こし、見ていた他の神様仲間達に要らぬ失笑と失望を与えてしまった。

 そう、既に勝負は始まっていたとしたら、この6名はビハインドを背負ったという風に。

 そもそも飲み食いしていた神様仲間達からすれば、箱が9つ出て来た事が不思議だった。ごく一部の“例外”を除いて、神様連中は挙ってその訳を訊き出すが、其の答えは、返ってきた内容は軽率にも神様なのに訊いた連中を大いに狼狽・げんなりさせる物だった。

 9個の訳を訊かれた製作班。今度は華ではなく、エキサイトホリックの祭とモノの価値を知るデータベースの宝、2名の女神が熱く冷静に互いを補完し合いながら経緯を話し出した。

「いやね、ほら、クリエイティブな作業っていうのはチームワークと個々のバイタリティ、そして才能が必要じゃん? 進は“素質覚醒”に支配信号を付与してそれを一顧に纏めようとした。が度を越えていた! だから今こうして、肉晒しの刑に処されてる次第」

「でもね、進の処置自体がマイナス効果一辺倒だったかっていうとそうでもなかったんだよ。進を追い出してからのわたしたちはゲームの概要ができるまであれやこれやとデザイン案を濁流のごとく出せていたし、空想は膨らみ希望に満ち溢れていたんだよね」

「だがしかし! 追い出した進からゲームの資料を受け取ったあたしたちは今までの妄想を燃やしつくしていざ実作業と意気込んで、それぞれの作業を始めた。一見何の問題も無いようにダチの諸兄はお思いだろう。けれどあたしたちは致命的なミスをしていた。誰がどこを作業するか――所謂『担当』を全く決めずに始まりから終わりまで誰一人気付くことなく全身全霊個人のキャパシティをフルドライブさせ続けてそれぞれのデザインによるゲームを完成させてしまったというわけなのよ!」

「その結果がこれですよ。創作班が創ったカード8782枚、全てワタシ達は個人で作り上げてしまったって訳です。それがこのダンボールの正体。気付いたときには遅かったわ。取り掛かったのが同時なら、終わる時も一緒だったんですもの。そこで、ワタシ達9名が作り上げた“ファニータイム”の異なる9つのカードデザイン、どれがいいか皆に決めて欲しいのよ」

「なんつう傍迷惑な……」訊いていた神様連中を代表して呆れのコメントを発したのは最初の神にして通り名は数の神、仲間内ではジジイだの御老体だのおじいちゃんだの呼ばれる老神、始=フィナーレだった。一番神の呟きに周囲も次々に同調する。其れは、小さな旋風が海面を揺らし、波紋を広げていく様に。仲が良いのか悪いのか、頭が良いのか悪いのか、進を追い出した事が良かったのか悪かったのかと周囲の神様面々は色々な側面から製作班の「無駄すぎる努力」を解析する。そして其れに対する結論は、魚に寄り添い甘える祝=エイプリルフールの「まあ〜、『似た者同志』ってことでしょうね〜。早くしましょう。もう作ったことは取り返しつかないんだし」と言う至極的を射た一言で終わった。又もざわわとぞよめきながらも意見は収斂され、皆が祝の詞に合流していく結果に終わる。

 そう、作ったものを即座に無礙にする程、神様達は非道く無い。其れが同じ“ステージ”に居る神様仲間の作った物なら尚更だ。面倒臭い気持ちも或る。ミコとの早期決着を急がねばならないのにと言う不満も或る。でもなればこそ、祝の言う通り。さっさと作業に取り組むべきなのだ。「じゃあこっち来て」との声が九つの方向に構えた製作班の面々一人一人を呼び、其れに応える様に製作班の神様達9名も足元の箱こと『自分の作品』を持ち上げ、浮かし、絨毯の上で待ち構える神様仲間達の元へと運ぶ。中から出て来たのは、本当に凝ったデザインのカード達。これがミコに勝つために神様達が仕掛ける勝負、カードゲーム“ファニータイム”なのだ。

 何処からとも無く、誰からでも無く、皆が自分の方角に置かれたカードを浮かして飛ばして条件付けして、進を中心とした絨毯円に居る仲間達の頭上へ飛ばす。デザインの出来を比較検討する為だ。条件付けしたので、空に飛ばしたカード達は夫々最短の待ち時間で、つまり『今』別デザインカードを必要としている神様の元へと自動で飛んでいく招かれていく。此れが神様流のシステマティック。製作班が情熱の余り忘れていた、分担作業の真髄だ。

 作業は進む。進を残して。

 そんな作業途中、神様連中の筆頭格である魚=ブラックナチュラルが製作班にこんな事を訊いた。

「そういえばさあ〜、華ちゃんたち製作班は、わたしたちの処に飛び込んできたけど、デザインの決定を残る最後の一角、プレイヤー班に託そうとは思わなかったの? 大事なことだから二度いうけど、こういうのってわたしたちが『これ!』って決めてもプレイヤー班の子たちにひっくり返される畏れ、なくない?」

 魚の発言、特に後半部は吟味作業中の宴会してた方の神様連中の顔を引きつらせた。そうだよ、其の可能性大じゃん――魚の投げた一石が、作業自体の存在意義を洗い流す津波に成りかねなかったが、其処は良く出来た製作班。女神陣で喋ってなかった遥が「ここしかない!」と妙な危機感を匂わせながらも、簡素明快に答えてみせた。

「行ったわよー、プレイヤー班の部屋に。先に。でもあいつら、冬眠モードで爆睡中だったの。正直ムカついた。だから私達こっちに来たのよ」

 その詞を聞き、皆は黙々と作業に戻った。理由なんて語るまでもない。

 だから語らない。ただ、作業は黙々とから段々とかつての活気を取り戻しつつあった事だけは、神様なりの使命感・責任感とか言う物なのかもしれない。

 斯くして進一人を磔に円を描き、神様達のデザイン選定作業は粛々と進められていたのであった。

 好機の神、暁=ネットワーク。

 対価の神、要=コンセント。

 継承の神、牙=クラシックライフ。

 真実の神、治=エターナルドライブ。

 送迎の神、学=エヴォリューション。

 根性の神、祭=エネルギィチャージ。

 情熱の神、遥=シークレットパーティ。

 尊厳の神、宝=ニーズ。

 栄光の神、華=フィニッシャ。

 以上9名の力作から、『この唯一』を選ぶ作業が。

 着々と。素早く。間違い無く。

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