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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第7話 一年と一日ぶりの再会
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第7話_オピィの魔法

 夢を見ていた。心樹のわたしにはこれが夢だと、わかっていた。

 わたしは蝶になって桜の木では得られない自由を謳歌していた。

 蝶のわたしは自由に飛び回り、たくさんの花を行ったり来たり。

 まるで本当の蝶になった気分――そんな気持ちが心を躍らせる。

 そのときふと思い当たった。これは本当に夢の中なのかどうか。

 蝶の自分が夢なのか、それとも桜の木である自分が夢なのでは。

 しばし考えるわたし。どっちがわたし、どちらもわたしなのだ。

 そうだ、夢とか現実とか関係ない。どちらもわたしに違いない。

 本質のわたしは夢でも現実でもちゃんと生きている。それが証。

 ならば起きよう、そしてその場にあるわたしで生き楽しむのだ。

 夢も現実も、一生の中でわたしが生きる場所。それだけが真実。

 そこに違いなんてないのだきっと。ねえ、そうでしょう……?

 

 オピィは夢から覚めた。身体は根を張り枝は伸び花を咲かせているいつもの身体だ。

(少々名残惜しい気もするわね、また蝶になれるかしら)

 夢への淡い希望を抱きながら起きると、随分と寝過ごしていた事に気付くオピィ。

 西に沈む太陽が、そこから空を強く眩しく、光そのものの黄金色に染める一方、反対側の東の空には、夜を彩る星々が、ぽつり、ぽつりとまだ小さな夜空に光を放っていた。

 そう、今はまさに日没の時。夜空と夕焼け、そして上空の青空が混じり合う、ありふれた、でも神秘的な時間帯。

 そんな風に時間確認したオピィに投げかけられる、一陣の声。

「いい夢見れたみたいねオピィ。そして起きるタイミングも完璧。みっつの色に別れた空がわたしたちに空と言うカンバスを彩るマジックを魅せているところよ」

 詩人ね――オピィは自分より先に起きていたミコの詞を聞いてそう思った。それでもオピィはさっき見た夢の意味と、ミコの旅をダブらせていた。

 どっちも主体は自分であるなら夢でも現実でも楽しめばいい。知が区別する領域など、どうでもいいことなのだからと、あの夢ははっきりオピィに教えてくれた。

 そして、一年と一日前、ミコと初めて出会ったとき、ミコは言った。“残せる”かどうかに興味はない。そんな些細なこと、最後どっちに転んでもいいじゃないって――ミコの目的があるようで決してそれにこだわらない旅。逍遥――自由な境地のままに。ミコの旅路が気まま気まぐれにこの世を渡り、そして遊ぶ。旅する生き様を“楽しむ”ことを、ミコはその背中で一年と一日前から示してくれていたのだ。一年と一日を通して、ミコの生き様とオピィの認識が合致した瞬間だった。そしてオピィははっきりと意識を覚醒させる。

 ミコはもう寝てはいなかった。オピィよりも早く起きて、オピィの身体を昇り、幹から枝分かれした枝に腰掛けていた。背中を預けられている感触でわかると同時に、こんな構図もいいなと一考する。まあ、それよりも先にミコの詞に応えてあげなくてはいけないだろう。それは友達としてできることであるだけじゃなく、友達の証であるのだから。

『本当……空が絶妙なバランスで何色にも彩られているわね。夕焼け、普段は陽炎のようなオレンジ色なんだけど、今日はすっごい黄金色ね。でもいいのミコ。わたしに跨がってなんていて? これだけ空が綺麗な色で塗られているのにわたしの中に入っちゃったら、頂の花とかで空が見えないんじゃない?』

 オピィの至極もっともな美意識を感じさせる問い。されどミコもまた美意識を持っている。ちょっとオピィや世間一般のそれとはちょっとずれているけど、ミコはこう話してくれた。

「オピィの枝葉に花に守られて、オピィを傘にして隙間から覗くこの空も、いいものよ。この自然の奇跡にあなたの満開の花が散りばめられ、それを見上げる。不完全の美――想像させる美になっていいもんだわ。それに――」

『それに?』

「わたしはあなたに守ってほしいのかもしれない。こんな空の奇跡みたいな景色、いつまでも見ていたらそれだけになっちゃって毒されてしまうかもしれないから。あなたという傘に、守ってほしいとか……ね?」

 このおくびょうもん――と『声』では言いつつもオピィはそのいじらしさ・愛らしさ溢れる詞に大きく同調した。なるほど、過ぎたるは猶及ばざるが如くとはこういう場面で使う格言なのだろうと、納得する。

 そうしたら……一気に心が軽くなった。心と身体が繋がって、エネルギーが循環する。生きているって実感を、オピィに与えてくれる。

 その生き生きとした生の実感が、ある直感をオピィにもたらした。

 もう覚悟はできてる――オピィは黙ってその詞を待つ。

 そして、枝に立ち上がったミコからその“詞”は出た。

「ここまでね。再会も果たしたし、桜島は満喫したし、なによりわたしは行かなきゃいけない。ごめんねオピィ、旅立ちの時、別れの時よ」

 空が、落ちてきた気がオピィにはした。ミコがいなくなる心の穴を埋めるべく、空に縋ったのかもしれない。それでもやっぱり埋めきれない。ミコの存在はそれほどまでに大きく、輝いているから。

 そしてこれが『最後』の機会になるかもしれない――なぜだかそれをオピィに確信させるひとことを、ミコは続けて告げたのだ。

「心樹の力の使い道……わたし、思いついちゃった。このリバムーク・プロトタイプが華々しく避ける場所まで、わたしを導いてほしいの」

 そう話すミコの手には影帽子から取り出した黒い箱と絹の布、そこに包まれた、19粒の瑠璃色の種。

 遂に来たか――オピィは感極まる思いだった。一年と一日前に心樹の力を使っていいよと提案したもののすげなく却下されてから、いつか、いつか……と待ち望んでいたときがきたのだ。

 さらにミコが自分に関することではなく、持っている花の種のために自分の力を願ったことも、また予想の範疇だった。そういう気ままなことで動くのがミコ達“旅人”だし、この願いもある意味、花を幸せににしたいという、ミコ一流のお節介。つまりは嘘偽り無く、ミコの願望でもあるからだ。この場のタイミングと状況によってそれは変わり得るものだけど、オピィとしては同類の植物を、花を導くべく力を使うというのは実に本懐、心が弾む願いだった。異論など挟む余地もない。いや……それでも冗談混じりに『声』に出そうかとも思っていたが、やっぱりやめた。ミコは全てお見通しだと気付いたからだ。なら今から『声』に出して切り出そうとした会話もきっと出す前に終わってる。会話しないのは愚行だろう。でもわかりきったことを蒸し返すことだって愚行。どっちに進んでも“愚か”に繋がる道の上で生きてる自分達。オピィは黙することを選んだ。それがきっと、オピィとミコの繋がり……そういうものなのだと思ったから。

 オピィは葉から思いっきり息を吸い込み、力を『声』にのせて叫ぶ。

『よっしゃ! 数百年ぶりの心樹力最大解放よ。ミコもよーく見ておきなさい。これが、“心咲かせる花の魔法”よ!』

 オピィが叫ぶと同時に、オピィの身体である桜の木からほのかな緑色の光が、花、葉、枝、幹、根など全ての場所から飛び出してきた。まるで蛍を思わせるその淡い緑の光は、放出されると同時にオピィからそれ以上離れることはない。むしろオピィに纏わりオピィを『桜の木』から『桜の木・奇跡行使モード』へと変貌させているのだ。緑の光はオピィに吸収され、そこで変わらぬ光を放つ。こうして蓄えていた心樹の力を解放すると同時に、目的のために力を留めておくのだ。

(そう、この子がわたしに願ってくれた。今はそれが、何より嬉しい)

 願いの中身など関係ない。ミコが願ってくれたことこそこの感動の源だ。それを知っているからこそオピィはこうして数百年分にも匹敵する奇跡を起こせる魔法の力を使い切ろうとしているのである。

 そうしてオピィが緑の光に染まりきったとき、光は消え、遂に魔法が発動した!

 オピィの桜の花びらが、咲いている分も蕾の分も、全て花開き「一瞬の10割満開」を見せつけると、全ての花びらがオピィから飛び散り浮遊し、ひと回りオピィの周りを飛んで遊ぶと、全ての花びらがミコの足元から「ある方向」へと、花びらの道を作ったのだ。

 空の先へ続く、一本の道を……。

 一切合切全てを見届けたミコは、「わぁ……」と感嘆の詞を上げて静かに顔の前で静かに量の手を合わせる。目で追う花の道の行き先に、思いを馳せているのだろう。

 そしてミコとオピィは、今生最後の会話を始めた。

「すごい魔法ねオピィ。全ての花びらを使って、わたしとこの子たちに“道”を示してくれてる。この空に架かった橋を渡って行けば会えるのね、この子たちが輝ける場所に」

『惑星全体に問い合わせて、最高の場所を導き出したわ。行ってあげて。そこにはあなたの手にあるその子たちを待ち望んでいる人がいるわ』

「それにしても空の道とは、くふ……あはは」

 ミコはケラケラと笑った。屈託なく笑った。心の底から笑っていた。空に敷き詰められた桜の花びらからなる花の道。これを歩くこと、それは空中散歩と同義だということ。目立つわね、ただそれだけの理由、ちょっとした羞恥でミコは笑ったのだ。それはとてもちっぽけで、幸せと思える、素敵な出来事……。

 だからオピィも一緒に笑った。一緒に笑いつつミコの笑い声を賛辞として、拍手として、そして最後の声として聞いていた。もう二度と、忘れることのないように。

 そしてミコとオピィ、二者の笑い声は自然と止む。ミコはその目を立っている枝の根元から枝先、そしてその先っぽから果てなき空へと伸びる花の道に向けていた。どれだけ時間が経っただろう。やがてミコは無言で一歩、また一歩と枝先へと、花の道へと進んでいく。これでお別れ。いつもずっとこれからも経験し続けていく出来事だが、久々に心を許したミコ=R=フローレセンスとの別れは、名残惜しく、物悲しさを感じさせる。

 わかっているのに。止められないと。見送らなければならないと。

 でも……勇気が出ない。

 そんな臆病風にオピィが怯えていたら、ミコは枝先と花の道の始まりまで歩みを進め、そこで立ち止まっていた。顔をこちらに向けることなく、いつも魅せるのはその背中。

 そしたらなんとミコはオピィの予想を裏切り、最後の詞の上書きをしたのだ。

「オピィ、わたしはもうあなたと再会する『次』を感じられないけど、わたしがもし『託せる子』に『残せた』なら、きっとその子もここに来る。あなたに会いにわたしが来させる。だから……これで最後だけど、さよならだけど、これで終わったなんて思わないで。終わるのはそれこそ生き物が生を閉じたとき、物事に決着が着いたときだけで十分。そうして繋がって行くものでしょう? 絆って。時間って」

『ミコ……そんな先の世話まで焼いて、あなたは優しすぎる。それが旅人だと言われればわたしは反論できないけど、もうちょっとその優しさを自分にあげてもいいんじゃない?』

「なにをいいますか。系統樹を外れ舞う葉ことこのミコ=R=フローレセンスが自分を労らないわけありますか。ただ他の人間には愛想つかしているぶん、世話を焼いちゃうだけですよ」

『そう……』

「そう……」ミコとオピィの会話が途切れる。まるで、夜が隙間風を吹かせたよう。しかし、この二名に隙間風なんて表現は似合わない。ミコは小刻みに身体を、顔を、背中を震わせながら、精一杯の真心込めたと思しき声で、オピィに最後の詞を贈った。

「願いを聞いてくれてありがとう。この道の奇跡、無駄になんかしないから。魔法が見れて、わたしすっごく嬉しかったから……だから、さよなら」

 オピィ――最後に一年と一日前、知った心樹の名前を呟いたミコは、それを合図に一歩一歩、オピィの用意した花の道へと足を進め、夜空に向かって旅に出た。そんなミコの背中に浴びせかけられる、オピィの『声』

『行ってらっしゃい! わたしはここにいる。ずっと、死ぬまでずっとここにいるから!』

 その『声』を届けた瞬間、ミコの歩みは一旦止まった。しかし、その場で夜の中大きく深呼吸をすると、手を持ち上げて背中越しのオピィにサインを見せ、改めて花の道を進んでいった。既に踏まれ通過された道の花びらは魔法と奇跡の力でまた一番前へと循環して行く。そうして花の道はミコを目的地まで空中散歩の形で運ぶのだ。

 いつしか夜空の闇と恒星の瞬きが空色をいつの間にか染め上げていたころには、ミコの身体も気配も、既に桜島から消えていた。それでもなおオピィはやったという満足感と希望を心に秘め、ずっとミコが歩いて行った方角に思いを馳せていた。

 その心を満たすのは、眩しく輝くたくさんの――『ありがとう』

 

 そうしていつになく短い桜の開花時期を終えて、心樹オピィは『声』を噤んだ。

 これからもずっと、ここにいる。その“道”にずっと、在り続けるために――。

この度は愚者ぐしゃなわたくしの作品を読んでいただき、心より感謝申し上げます。

さて、本日も無事第7話を章ごとに分割してサブタイトル付けて無事投稿完了しました。


昨日の第6話投稿はすんごいPV数稼いでくれました。これは当然みなさんのおかげですし、ある意味25章もの数が稼いでくれたと言えなくもないですが、みなさん長編の方がお好きなんでしょうか? しかし残酷かな、今日の7話は、このとおり途轍もなく短いんだな〜(笑・自嘲)。

やはり今回も章ごとの文量のムラが激しくなっておりますが、神様達の進捗状況を取り除けば、ミコちゃんと桜の樹、心樹・オピィとの心の交流がメインテーマとなっております。こういうハートフルっぽい話、個人的には不得手なんですが、たまにこうして挿入すると、意外と輝いてくれたりします。

「どこが輝いてんだよ?」と言われれば、この話の中でいくつもあるシリーズの大きな流れについての解説がかなりできたことでしょうか。


1.神様達との因縁に決着の予感?(ミコちゃんの始まりでもありますからね〜)

2.シク=ニーロとの因縁(コスモサーカス事件は第1話より前からの話ですから相当です)

3.ガデニアでミコちゃんが造り上げた種の行き先にオピィが羅針盤役として道を示したこと(4話からの流れ)


これらの「流れ」について2名の会話の中でいろいろ話せたことは「流れ」から切り離されていたこの話ならではだとおもいます。ま、みなさんに受け入れられるかは別問題ですが…。


相当愚者ぐしゃな作品ですが、みなさんの才能・感性・能力でなにか感じてもらえるものがありましたらこれ以上嬉しいことはありません。


一日1話のペースでチャプター・章ごとに分割してUPしていきたいと思っています。よろしくおねがいします。


Twitterやってます。「心環一乃(ここのわむの)自称"地球人"(@kokonowa_life)」です。書き手さんも読み専さんもフォロー歓迎します。逆にこちらも無言フォローすることありえますのでそれは御了承ください。


感想・評価・誹謗中傷に御意見に至るまで絶賛募集中です。アカウント作らなくても感想受付中ですよ?


2017年ミコちゃんシリーズエイプリルフール企画(!?)でもある「シリーズなろう投稿運動」。この4月の間、お付き合いいただきそして楽しんでいただければ幸いです。

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