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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第7話 一年と一日ぶりの再会
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第7話_神様だっていろいろ事情があるのです

 俗世からちょっと離れた場所に位置する、神様達の俗世本拠地。

 其処に先の味酒の月、標的であるミコ=R=フローレセンスと接触してきた神様達39体が帰還した。神様仲間の面々が思っていたのはミコとの接触を果たしたという高揚と他の人間無勢にも負けたと言う悔しさ、そして人間の底力を肌で感じて畏怖した、等である。満足残念悔恨天晴と個々に思う感情は違えども、皆がガデニアでの夜の思い出に浸り戻ったのだ。

 だから中に入るまですっかり忘れていた、此処に置き去りにしていた神様連中――ミコとの決着の為に仕事に励んでいる神様達がどんな状況で働いていたかなんて。

「ただいまー」神様仲間の代表格、魚=ブラックナチュラルが隣に可愛い愛弟子2名、祝=エイプリルフールと哉=アリバイを引っ付けて本拠地の扉を開く。魚達3名が率先して玄関先の大ホールに向かう。其れに同調する絵=パッションと迷=アンティックを中心とした女神勢力に、女相手に気後れすることもない整=キャパシティブレイクと熱=デファクトスタンダードを中心とした男神勢力。女神と男神の別は在れども、皆此の一年間ミコを追っかけた仲間として、其の一年の体験を解放するかの如く、我も我もと大ホールの長椅子やソファに腰掛ける。先月ミコと闘った後、言伝も終わったので大挙しつつも一目散に此処本拠地に足を向け、数日掛けて帰ってきた。軈て39名全員が椅子に腰掛け背凭れに寄りかかり、終わった仕事の疲れを今から取ろうと思った矢先。

 疲れを癒すどころか逆に疲れさせてくる、熱い咆哮が聞こえてきた。

「できたあぁ! 遂にできたぞゲームの概要! 待っていやがれ製作班、今俺僕達スーパークリエイタ達が概要を持って行ってやるぜ!」

 そう言って吹き抜け2階の一室の扉を開け、長袖ポロシャツの上にマフラーを巻き、ボロジーンズをパタパタ動かし同じ2階の製作班待機部屋まで完成データを持って行こうとしている奴が居る。神様仲間の中でもお調子者で名が高く、其の場の勢い任せで動く事で殊更知られる進化の神、進(すすむ)=スターマインだ。

 出来たと進は叫び現れた。然しその様は見窄らしかった。何時間、何日、何ヶ月寝ずにゲーム創作作業に勤しんだのかは分からないが、1階大ホールで休んでいた魚達から見た進の目は濁り澱んでいた。最初の叫びの声量とは裏腹に、身体も落ち着きなく上下して、まるで燃え尽きた灰だ。服もはっきり小汚いと分かる。そんな進、見下ろせる絶好の位置にいる外から帰ってきた一階大ホールの神様仲間達には目もくれず、飛び出してきた「創作班」の表札が書かれた部屋に向かって先までとは一転して、息も絶え絶えに嗄れた声を掛ける。

「ほら……士(つかさ)、直(なお)、剣(つるぎ)、巧(たくみ)、巡(めぐり)、颯(はやて)、守(まもる)、いくぞ、俺僕に着いて来い……ハァ」

「うゔうゔうゔうゔ〜」

 白衣の直をはじめとする進に急かされた神様達は、まるで怪物のように生気のない不気味な表情で先の呻き声を上げながら創作班の部屋から出てくる。中にはドアの縁に寄りかかった途端廊下に倒れる神達まで居た。其の異様な雰囲気に、下の1階大ホールで見ていた魚達外出組も流石に動揺する。特に魚より神望が少し劣り、そのくせ心の余裕も劣る環や葵をはじめとする女神連中が反応し、声を掛けた。

「ちょっと! 直、巡、大丈夫? そんなに疲労困憊って身体で……無茶しちゃだめって外に出る前アタシあれだけ言っといたのに……」

 其の環の声が響いて初めて両者は相互関係を構築した――1階大ホールに帰って来ていた外出組の存在に気付いていなかった進達8名が、ようやくその存在に気付き、各々大ホールに目を向けた。というか進以外の7名は全員部屋のドアから動かぬ身体に鞭打ってぞろぞろと手摺の柱に首を嵌めて、此方に泣きっ面を見せて訴える。最初に声を出したのは直だった。

「ゔゔ〜みんな〜、帰ってきてくれたんだね。立派に仕事を果たしてきたんだね。ミコに宣戦布告してきてくれたんだね。直達はもう、ボゴボゴだよ」

「整の兄貴ーっ! 助けてくれーっ! 俺達兄貴達が出てってからゲームのルールとか作ってたら突然製作班の進が乗り込んできて我が物顔で無理矢理俺達を従わせやがったんだあ! それからの扱いは見ての通りだあ! さあ見てくれ、さあ!」

 直の簡潔な現状説明に続き、整を一方的に慕う士が事の経緯を個神的な熱は在れど詳細に説明してくれた。そして其れは魚をはじめとする外出組全員にとっても聞き逃せない事だった。徐に長椅子から立ち上がる外出班の神々達。進に問いを投げたのは魚ではなく、母性の神こと葵だった。

「進、今の証言この状況、聞き捨てならずまた捨て置けませんね。あなたはゲームを作る留守番組の製作班に編入されたはずです。それがどうして創作班にいる不真面目男になったのですか? 直達本来の製作班をこんなになるまで……見るに耐えません。返答に因っては、分かってますね?」

 母性の神の通り名に違わず、虐げられてると映りし直達の味方を気取った追及だった。其れに同調したのが神様屈指の情報通。情報の神紫=ミュージアム。

「そうだよね。留守番組はミコに勝つための必勝ゲームを作る為に“創作班”、“製作班”、“プレイヤー班”に割り当てた。決め方だって籤とかじゃなくてちゃんと魚、絵、迷の珊瑚衆で公平且つ適正に神材を分配したはずだし。進、お前は類稀な『素質の設計図』を持ってる自分を活かせるならどこでもいいけど、強いて言うならイラストデザイン系、実物を作る製作班がいいって言って、珊瑚衆はそれを叶えてくれたじゃないか。それがなんで創作班にいるのさ?」

 葵に続き、情報通の紫が抑の経緯を解説しながらより明確に進の現状、其の矛盾を指摘する。すると見る見る内に顔色を悪くする進。干し柿を始めとし、まるで干涸びて皺だらけに成った実の様に、如何にも「苦し紛れ」と行った表情を見せてくる。下から前から其の視線を一斉に浴びせかけられる進に、更に創作班もう一人の女神、巡=サーキットドリームが追い討ちを浴びせる。

「あたしら創作班がゲームクリエイティングに勤しんでいたらさ、いきなりドア蹴破って現れてさ、“素質覚醒”で作業を捗らせてくれたよ。でも同時にさ、支配信号も組み込ませてさ、あたしらを徹底的に働かせ続けたわけですよ。休憩返上報酬カット、その上尊厳一切無視ときたもんだ。そりゃあたしら人間じゃなくて神様だから過酷労働もドンと来いだけどさ、さすがに現度を越えてたぜ」

 巡の詞は止めだった。遂に渋顔止まりでまだ立っていた進が体勢を崩したのである。其れも此れも巡の発言を聞いた神様達が一斉に非難轟々の強い視線を進に届けたからだ。

 と、此処で謎の逆転現象。徹底的に追い詰められていた筈の進が、何かを悟ったかのようにすっくと立ち上がり、自分に目を向けている神様仲間達に向かって言い放つ。

「お前らー、俺僕が製作班でどんな扱いを受けたか知っているのかー? 俺僕は親切にも製作班に“素質覚醒”を施したー。しかし中々創作班からの連絡が来なくてジリジリしてなー、遂に俺僕が一寸様子見てくるって製作班部屋を飛び出したら……閉め出されたんだ」

「……え?」

 今迄本人だけが秘めていた事情の告白。聞いていた神様仲間達は被害者達の情報から「どうせ実際やってみたけど合わねえって判断したから鳴り物入りで押し掛け乗っ取ったんだろ」程度の解釈であったが、進の告白は全く別ベクトル。閉め出された? それではまるでリストラではないかとちょっと進に同情してしまう。進は更に続ける。

「俺僕は必死にドアを叩いた。『入れてくれー。戻してくれー』って。しかし中の連中の返答は『No,お前はもう用済みデース。我々が飽きない為に創作班にも“素質覚醒”して仕切ってこいって』内容だったー。そうだ、俺僕は締め出された、追い出されたんだー。お前らにー、リストラされた奴の気持ちが分かるのかー? お前らにーっ! リストラされた俺僕の気持ちがわかるのかーっ! あああああああーっ!」

 そう吠えて男泣き、吹き抜けから奥の方の製作班部屋に突貫する進の姿を見て皆何故か一抹の寂しさを覚えた。利用された残り7名の神様に1階大ホールにいた外出組の39名は進の詞にやられた。特に最後の叫びは皆の胸をキュンと射った。利用された筈の7名が「進……進ゴメン!」と這いずる状態から叫び匍匐前進してでも追いかけようとする姿勢を見せたのだが、遠い奥に消えた進からは「来ないでくれー。一人でやらせてくれー」と悲愴な返事が帰ってきた。そうか……進には進の事情があったんだと、受けた仕打ちに掻き消され、そんな当たり前のことにも気付けなかった。彼もまた大事な神様仲間の一員だというのに。進、ゴメン――一部始終を目撃した神様達の大半は進を責めた己を恥じた。其れが此の後あんなオチになろうとは、まだ誰も知る由もない。

 取り敢えず覚醒した進が創作班の完成データを古巣の製作班に逆襲と言わんがばかりに持って行く、それで神様達の俗世本拠地の騒動は一段落とは……ならなかった。手摺や廊下に倒れ込んでいる製作班の7名を、放っておけない“仲間意識”からミコとの接触を体験してきた外出組39名が引っぱり上げ、疲労回復効果のある1階大ホールへと其の身柄を宙に浮かせ、ソファに落とした。直と巡は女神仲間のど真ん中、堂々と横になって勝手に膝枕とか借りつつ眠る。其の相手が愛と男神の湊なのがまた神望を自負する環と葵を刺激する。シャツに背広姿の士は敬愛する整に飛びつこうとするが、周りの女神仲間達に実力行使で阻まれ、当の整も女神仲間達にさりげなく移動され隔離されるが逆らえない。古代の凝った民族衣装に身を包む守と着の身着のまま荒布の修行装束一枚着である颯は仲間の了解を得て長椅子に寝そべり毛布迄羽織る守と此れも修行と言わんばかりに椅子に背中を預けるだけで、座ったまま寝る颯と云った此れまた実に対照的な休息の取り方。ウィンドブレーカーに身を包んだ巧と俗世でも剣を持ったまま歩けそうな騎士服を着込んだ剣は、『常識神』のポジション・評価に違わず、何の騒ぎも起こさずに、外出組の輪の中にすんなり入り込み、自分達も長椅子に座ると背もたれに上半身と首を預け、そのまま寝に入った。創作班の最後である巧と剣が見せたその余に自然な仕草に感化され、帰ってきた外出組の面々も、残る製作班の面々も狸寝入りの疲労回復と我も我もと眠りこける。

 そんな中、隣に可愛い華こと愛弟子の祝と哉を膝枕している魚は、帰ってきたなり起こった此の騒動を経て、確実着実に事態は先月自らが相手に直接告げたミコとの決着に向かっている事を漠然と思っていた。此れから製作班が“実物”を作って、プレイヤー班がゲームをテストプレイして試験し、確実にミコに勝てる迄戦略と戦術を練り上げる迄、もう殆ど時間はかからない。創作班が其の身を削り絞っている間に、連中は連中で「勝手」に作業を進めている筈だから。個神個神は違っても、長年一緒にアパートで暮らした神様仲間、なんだかんだ言っても抜群のチームワークを誇る集団、其れこそが神様連中。多少予想と違うのが完成品として上がってきても直ぐ適応し、其れ以上の物にしてみせる。其れが神様クオリティ。ただ、相手はあのミコ=R=フローレセンス。突如として現れ、想像以上の騒動を起こした人物。そしてなにより、神を死なせた少女――その存在が魚に別の可能性を想起させる。こちらがどんなに策略謀略を練っても、其れをひっくり返してしまう可能性を魚は頭から切り離せなかった。ミコちゃんなら、やってのけそう――そう思うと同時に、そっちの可能性もまた面白そうな気がするのだ。其の片方は神様仲間達への裏切りだろうが、どっちの可能性も楽しめる神生、其れも一生に一度有るか無いかの稀少度である。魚は此の時密かに決めた。

(わたしはこの勝負、両方の立場から楽しもう)と。

 そう決意すると一気に眠気が襲ってくる。魚は小さく欠伸をすると、ソファの背もたれに寄りかかって、傍らの祝と哉を抱きかかえるように眠りについた。

 一応完全に眠りに落ちる前、今回頑張った創作班のメンバーへの賞賛も忘れずにこなす。

 進化の神、進=スターマイン。

 深窓の神、士=インフィニティループ。

 切札の神、剣=スペード。

 発案の神、颯=ピンポン。

 戒律の神、守=ウェルス。

 夢望の神、巧=キャットウォーク。

 密室の神、直=ファンクション。

 騒動の神、巡=サーキットドリーム。

 以上8名の創作班を担い完成させた神様仲間達への偽らざる感謝を胸に、魚の意識は深層に沈んだ……。

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