第6話_神様、遠くから覗き見る
「おいおい、ちょっちヤバいんじゃねえの。これ震災級の地震じゃねえ?」
「ああ! あっち海が盛り上がってる! 津波が陸に向かってきてるよ!」
ガデニアゾーン9の高層ビル、クマンタ・ミラージュの屋上を乗っ取り、ゾーン7フィルエル自然公園でのミコ達の闘いを見物していた神様達がその身に感じる揺れ、反対側海岸線から迫ってくる高波を見て危機感を募らせる。文句なしに地震と津波、それも100年に一度あるかないかと言うくらいの規模のものが今まさに此処で起こっているのである。時空隔絶領域アパートに長年住み着き、俗世から離れた神々であるが神なりに心配くらいはする。人間達を慈しみもするし、自分の危機には怯えもする。そう、神様が危機を覚えるくらいの状態異常が今この惑星を揺らしていたのだ。
「小娘……いらぬ挑発をして。自業自得の自殺行為だわ」
撤収の神の通り名に違わず、戦略眼に優れた刀が見聞きしていたミコの戦闘一部始終を批判する。するとミコに否定的な務をはじめ、他の神々もその意見に同調しだす。世界が人の世(人間・生命世界)と呼ばれる前の時代から見守ってきた神様達。幾多数多の滅びも見た、嘆きも悲鳴も聞いてきた。だがそれ全て自然と生命の因果の果て。この惑星に住まう無限の要素が絡まり成してきた結果である。それをミコはなんだ、たった二人の後輩が禁断症状に苦しんでいる――それが見てられないというたった一人の、一個人のエゴにも似た感情を理由に数千年単位で封じてきた地震と津波を一斉解放しようと言うのか。損得勘定もなにもない、目の前の些事にかまけた無思慮極まる行為である。故に否定する――それが神の思考・神の論理だった。
と纏まればいいのだが、何分神は62体。ここにいるだけでも17体。決して一枚岩ではないのが特徴。この危機に際してなお、事を招いたミコ=R=フローレセンスを擁護する声もあったのだ。ここクマンタ・ミラージュに陣取った17体の神様の中でその立場を取ったのは――、
印の神、透=パーソナルスペース。
奈落の神、整=キャパシティブレイク。
暗転の神、帳=フリージア。
この3名だった。3名の中では実力トップの透が反証の口火を切る。
「大丈夫でしょ。ミコちゃんならこれくらい対処してみせるわよ。ねえ帳」
「そうですね」
「俺も同感だ」
「はあ?」ついに仲間が現実逃避したのかとミコ非難派が別の意味で心配するような顔を一斉に向けてくるが、透、整、帳の3名は澄まし顔。涼しい声でこう切り出した。
「あなた達、何を見てきたの? 少し人間を舐めすぎよ。この人間・生命世界には私達神々が出した問題を解こうとした強者達がごまんといるのよ。気象一族、花一族、自然学派に伝承楽団。他にも機械技術を極めた者達、生命技術を極めた者達と私達に挑み、近付き、届こうと手を伸ばし、己を研磨した猛者達が生きる場所――それがここでしょ?」
「そしてミコさんはその数多の実力者の中でも唯一人、わたしたちの問題を解いてみせ、あろうことか半数近い29名の神から設計図を奪ってみせたのですよ。その実力、その力量、わたしたちが証言せずしてなんのための神でありましょうや」
「そして最後に付け加えとくぜ。俺達が知っているのは『そこまで』だ。ミコに関して知っている事は彼処にいる、ミコの隣にいる『お仲間さん達』の方が知っているかもしれねえじゃねえか。俺達も知らない更なる秘密――ミコ=R=フローレセンスの秘密をよ?」
透の説明、帳の確認、そして整の指摘が終わると、意気軒昂と猛り荒ぶっていた神様達も大人しくなる。しおらしくなり、黙ってしまう。3名が織り成す論説三段活用を聞いて、思い当たる節があったのだ。遥か昔――千ではなく万という単位で年を数える原古始代の時の頃、62体になって久しい自分達神が人に与えた一つの問題。これまで誰一人とて解くこと適わず散っていった人の限界の証左だった問題を解いてみせた眼中の女。
ミコ=R=フローレセンス。
神の問題を解き、神から設計図を奪い、剰え神の死に関わり、そして逃げた。ただ一人の人間。
いつしか神様達のミコを見る目は変わっていた。「見せてみろ。お前の力を」「この程度のはずがない。こんなものではないはずだ」と、まだ見ぬミコの未知の可能性に賭けたのだ。ある意味信じたと言ってもいい。それでも未だ大半の面子は半信半疑ではあったが。
津波が刻一刻と陸地へと迫る中、都に警報の音はない。眼下の民衆は花の祭典に踊り酔いしれ没頭している。今更避難誘導などできないのだろう。
神様達は人の愚かさを怜悧な心持で受け流しつつ、ミコの対処に目を凝らした。




