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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第6話 子供達の邂逅――クロスウェザー事件
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第6話_唐突も無く現れた新手

 ガデニアゾーン17、ドレイク自然公園の丘陵の天辺に備えられたいくつものベンチ。

 そのベンチに空席はない。密着していたり、一方では隙間風が吹くくらい隣と間隔が空いていたりしていたが、とにかく全てのベンチは完全に占領されていた。

 丘陵の頂上、ガデニア一の高台からは都の様子が一望できた。全てのゾーン、全ての建物、全ての公園、そして海も。

 なので、そこからは街の全てが丸見え。有り体に言うと、お見通しだった――。

 なのに、そこに陣取っている者達の中心中央にいる女性はそこを見ているわけではなかった。その女性は時々視線を目元に落とす。そこにあるのは。

 

 視界に見える景色が立体映像になったみたいな、小さな幻視画(ジオラマ)の収められた本――。

 

 その本を持っている中央の女性、そして両隣に寄り添った小さな女の子とそれよりちょっと成長した感じの少女が両脇から女性の仕草に合わせるように三人一緒に本を覗き、三人一緒に現実を見る。そんなこんなの繰り返し。

 そして三人の座る中央ベンチのさらに横のベンチを占領している連中は、ひたすら街の様子を観察していた。そこに詞は存在しない。声の出る幕も全くない。

 ただそこにいる者達はガデニアの街を俯瞰していた。随分と揺れる大地、海から襲いかかってくる大波、海岸線に沿って展開された上昇気流。何事もないかのように祭を満喫する都の住民、クマンタ・ミラージュでフィルエル自然公園をのぞく神様達、そしてフィルエル自然公園で闘っているミコ=R=フローレセンス達――。

 一方向左右(双)方向だけ見ていては決して分からぬ全体像。それを認知しているのは、間違いなくここではこの者達だけだった。

 ここで漸く何処からともなく小言が漏れる。全体像を把握し終わり会話に相応しい話題が出揃ったのがその理由。

「ミコおねーちゃん、ちゃんと対策打ってるみたいですね師匠。地震も津波もなんとかなりそう」

「ホント……アレがコノ惑星全てに契約した自然現象を行使できる気象一族最大の利用価値、デイリークラス・プラネットスケールの底力って訳ね。まあまあやるじゃない、ヒストリークラス・ユニオンスケールの天災をコウも捌いてみせるなんて。さすがは師匠が見惚れた女ね」

「ふふふふ。祝ちゃんも哉(かな)ちゃんもわかっているようで嬉しいよ。そうだね、あの暴走した自然意思、“クエイク”と“ウェイブ”じゃちょっとミコちゃんの相手には物足りなかったみたい。もっとも、ミコちゃんを本気にさせる存在なんてないのかもしれないけどね」

「それは私達も含めていっているの?」

 三人の座る中央ベンチの右隣から割り込まれる仲間のノイズ。発信源は手すりに乗り出し三人を注視する女性。その問いに対し中央の女性は「ええ」と肯定する。

「焰(ほむら)ちゃんでも役者不足だね。辛い話だけど大事なことだから二度言うね。焰ちゃんならあそこの“クエイク”と“ウェイブ”よりちょっとはいい勝負できると思うよ」

「あのう……二度の予想が私の心(こわれもの)にクリティカルヒットしたんですけど。特に二度目の表現……ぐはあっ!」

「焰!」「しっかり!」「ん? なになに?」同じベンチに座っていた者達から遠く反対側のベンチの連中まで、かなりの数が焰と呼ばれた女性のオーバーアクションに引寄せられる。さながら明りに集う虫、若しくは蜜に群がる虫。つまるところ虫である。

 ベンチを離れ、焰は駆け寄った群衆に介抱される。そして彼女は容態が快復すると、感情任せに叫ぶ。

「悔しい……実力不足を指摘された自分が悔しい! だから勝負はあいつに任されたわけね。あいつの得意分野を存分無限に活かせるあの対決に……でも私、やるから!」

 やるとは闘うという意味。つまるところ、勝ち目が無いのはわかった。でも闘いたいということである。焰の自己中な我侭発言だが、なぜか周囲は理解者だらけ。止めることなど皆無に等しく、揃いも揃って煽り立てる。

「いいんじゃね? 何事も経験だし」

「うん。あの程度でも闘いを見ていたら血沸き心が躍るよね。やりたくなる。闘うに10票」

「多いな……一人10票とは」

 雑多滅多とわいわいがやがや、先程までの沈黙は遠く彼方へ何処やら。話しだすと止まらなかった。それでもまとめはできるらしい。中央の女性が膝に置き、開いていた本を持ち上げポンと閉じる。その音で皆が纏まる。どういう理屈の結束なのか。

「いいよ。せっかくだもん、ミコちゃんにコンタクトくらいはとっておきたいよね。その前に闘うくらいのことはいいと思うよ。準備運動予行練習、大事だもん」

「おお……」焰が嗾けた発案を肯定するその詞に、皆一様に慄き唸る。ただ、女性は忠告も忘れなかった。

「でもね、焰ちゃん、真剣勝負で勝ち目はないと知ったのだから、適当なところでそそくさと退散。これ忘れちゃダメだよ?」

「私不死身なのに?」焰が退散の必要性を問うが、女性の隣にいる一番小さな女の子が、しれっと割り込み返してみせる。

「そりゃ、わたしたち神様は不老不死の秘具である設計図を持ってますよ。ましてや焰さんは盗まれた組でもない。でもね、忘れてません? ミコおねーちゃんと出会った泉さんは……死んだんですよ」

「あっ……」同じベンチに座っていた二人を除く全員がハッとした顔をする。気付いたのだ。

 ミコと出会った嘘の神、歌の神とも呼ばれていた泉=ハートが死んだ事実に――。

 その詞を中央の女性は神妙な微笑みを称えた顔で聞留めたあと、引き継いで焰に忠告する。

「そう、祝ちゃんの言う通り。だから引き際は大切なの。いかにわたしたちが不老不死の神様であっても、死ぬことはあり得る。ミコちゃん相手ならなおさらのこと、ね?」

「わかった。気をつける。私も遊びで命は落としたくないし。うん……壊せればいのよ。適度にほどほどに。この衝動を満たしたいってだけだしね。私の動機」

 焰も納得返事をチラリ。聞いてたみんなも合点しウンウン。集団の合意が取れたところで中央の女性は指示を出す。

「クマンタ・ミラージュにいるみんなにも連絡してあげなきゃね。焰ちゃんがやると決めたのなら、同時に当てて然るべきだもん。仲間はずれは可哀想だしね。ところで、ここにいる神でやりたい人はどれくらいいるの?」

「はい」「ほい」「俺も」「面白そう!」

「加えてクマンタ・ミラージュの武闘派さんたち……うん、今やっている闘いよりもミコちゃんを燃えさせられそうだよ。祝ちゃんと哉ちゃんはやらないほうで。わたしと一緒にセッティングするよ。クマンタ・ミラージュの方への遣いは、御両所にお願いします」

「おーらい」

 女性の依頼に返される、気怠気な二つの間延びした声。しかし一点の曇りも無い宣言に、その場の全員が惹き込まれる。

 その了承を得て、遂に中央の女性と両隣の花たる女の子と少女が立ち上がり、ミコの姿を眼に入れて微笑む。

「久しぶりに会えるんだね。見れるんだね、その背中を……」

「師匠……」両隣の少女2名が自分達に一瞥もくれないその精悍な背顔に見とれる中、女性は最後の指示を出す。

「これからわたしがミコちゃんを誘う御膳立てをするからまだ待機していてね。決行は真夜中、閉まったあとの建物で」

「おーらい、魚」

 御両所と呼ばれた2名の同意と共に、周囲がその詞に服従の意を示す。それを魚と呼ばれた中央の女性は片手に本を抱えたまま、じっと立ったまま、ミコを見ながらもしっかりはっきり、聞留めていた。

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