第6話_湖面上の対峙
「どういう……ことですか。レイン先輩」
ミコと対峙した七人の中で、ただ一人進み出た男――クエイクがそう言った。萌枝がミコの黒い腕に捕まっている事情もあり、ミコのすぐ隣にいたサクラはミコとほぼ変わらない視線(高さだけはどうにもならないが)でクエイクの困惑している姿を見て取れた。
驚いている、少なからず当惑している、そして自覚はないようでも怒っている――サクラはクエイクの様子を観察してそう分析した。そこに共感もできた。ミコはシクラメンとの電話の中で、会いに行くといった。それを交渉成立と受け止めるのは決して自分勝手ではない。しかし他ならないサクラの主張でこっちの方針は交渉無視の実力行使、強硬手段での奪還で一貫している。その姿勢を目の当たりにしたのであの反応なのだろう。
(さて……ミコさんはどう出るか)
サクラは「隊長」たるミコの応対に期待を寄せる。予想とか推測とか、無粋な真似はしない。そもそもミコの言動が計算できるほど、サクラはIQ高くない。なので期待するだけに留めとく。分相応、これ大事。
ミコはしばらく間をおいていた。その沈黙が緊張を生み、場の空気を重くする。なるほど、こうやって場をコントロールするのかと、サクラは大変勉強になった。
やがてそれも十分と見て取ったのか、ミコは両手を持ち上げ、自分達同行者達を紹介するような素振りを見せてから、余裕の笑みを浮かべた顔と、とぼけた声でしれっと答えた。
「見てわからない? 闘いに来たのよ、わたしたち。厳選すれど大挙してね。そっちが七人なのに、こっちが一人ってわけにはいかないわ。大体7対1なんて、卑怯だと思わないの?」
「そんな……闘いに来た? 交渉は? レイン先輩、取引に応じたんじゃないんですか!」
クエイクが荒ぶる気持ちを吐き出すように怒鳴った。キテるわあ――サクラはここに来る前ミコが呟いた詞の意味を理解した。これが封印型端末とやらの禁断症状なのかと。そりゃ神秘にすがりたくもなるわけだ、サクラはクエイクとウェイブの動機を理解し、そして同情した。が、それとこれは話が別だ。
ちょうどミコが答えるように、こちらの趣旨を語りはじめた。全く、すこぶるこの人は時間の使い方がうまいと感心させられる。特に最初に飛び出したフレーズは圧巻だった。
「昨日の自分は今日の他人よ。つまるところ過去の情報、記憶、約定なんてものは今現在の自分を縛ることはあっても新たな可能性は示さない。そんなんじゃ大きなことは成し遂げられないわよ。そもそもここのサクラちゃんが電話を終えた後、わたしたちに啖呵を切ったの。こんなの取引でもなんでもない、筋の通っていない不条理だって。嬉しかったわあ……みんな感動してね、実力行使の奪還作戦に一気に傾いたわけ。で、さっきも言ったけどこうなったの。理解した?」
ミコの痛快な答弁が終わるとクエイクとウェイブは苦みに顔を引きつらせたような歪な表情を見せた。雨の中捨てられた子犬のようなその眼差しは、紛うことなき救いを求めているのだろう。どこまでも揺さぶってくる二人である。それとこれとは話が別だというのに……実に未練がましい。
しかし、そんな未練も唐突に終わる。否、終わらざるを得なかった。鳴り響いたのは一発の銃声。周囲の木々がざわめき、小鳥達が空に飛び出す。気付けばミコの影帽子から新たにもうひとつ、黒い手が飛び出ていた。その手は拳を作り、なにかをきつく握っている。
「やってくれるわね、イヴァン。突然無言の宣戦布告。物わかりがよくて助かるわ」
そう言ってニヤリと笑うミコの眼前で、黒い拳が一層体積を凝縮させてからふっとしたはずみで力を抜き、その手に握っていたものをパラパラ零す。それは……粉々に砕かれ塵芥と化した、弾丸だった。焦げた匂いでよくわかる。それに、自然学派の男――イヴァンが銃をミコに向けていた。それで確信できたのだ。
イヴァンはトリガーガードの中を使ってクルクルクルと銃を華麗に回転させたが、別にホルスターに格好よくしまうとかいう展開はなかった。ただ単に銃を回して、再度グリップを握り直す。そして隣のミヒャエル同様、ミコに不敵な、実に好戦的挑戦的な微笑みを向けて語りだす。
「ッハハハハハ。やっぱこうでなくっちゃ面白くねえよなあ、レインよう。仮にもアンタは気象一族の最高戦力と呼ばれた女だ。闘わずに奪うだなんてそんな濡れ手で粟みてえなこと、面白みに欠けるんだよ……」
「ああ、イヴァンの言う通りだ。取引というものはリスクを怖れてハラハラしながらやるものだ。もしお前がこの花売り子達や地震津波の望むまま簡単に神の設計図とやらをオレ達に渡していたら、どう暴れたらいいかわかんなくなっちゃうからな」
もはや「闘うこと」を大前提として語る自然学派のイヴァンとミヒャエル。それに食って掛かったのは戦闘を想定していなかったクエイクとウェイブ、そして花売り子と呼ばれたシクラメン達であった。
「ちょっと、イヴァン! ミヒャエル! どういうことだ、貴方達。取引が成立しようとも闘うつもりだったのか?」
「聞いてないです。そんなの作戦会議には出ていませんです。異議申し立てをさせていただきます……って、きゃあ!」
シクラメン達花売り子達の異議申し立ては却下された。いや、遮られたというべきだろう。ミヒャエルが空中高く飛び上がり、シクラメン、アキレギア、スオウバナ、そしてクエイクとウェイブの五人になにやら投げつけたのだ。途端、五人の挙動がおかしくなる。
「見えた?」ミコが自軍のメンバーに今のなにかわかったと確認を取ってきた。サクラと萌枝は透明な針のようなもの、コスモスとスイートピーは光ケーブルと答えたが、ここでミコは解答解説をツバキとデルタフラワーズからなる対外戦闘部隊に振った。彼等は自然学派、ミヒャエル=河野との対戦経験もあったのだという。
「ありゃミヒャエルの悪趣味な工芸品のひとつ、他人をロボット・ラジコンのように操るためのアンテナだ。あれをやられたら肉体は本人の意思よりもミヒャエルの命令を優先して動いちまう」
「久方ぶりに見ましたねツバキ元隊長。私達も大変苦労させられました。望まぬ同士討ちを強いられるのですから」
「そうじゃったな。しかも体内に埋め込むタイプのくせに受信感度が抜群というタチの悪さ。命令電波の遮断も不可能なんじゃ」
「そんな……防ぐ手だてはないの?」
サクラの問いに、ここまで喋っていなかった最後の一人、サザンカが無情に首を振る。
「有機電波という奴であってな、カタチとしては有機質。がその実侵入の際には電波化するのであらゆる物質を透過するのでござるよ。そして肉体に侵入した直後、有機質化して神経系と全身の血管をそのアンテナ質で覆いつくすことで身体そのものをアンテナとしてしまうのでござる。まっこと、厄介で候」
「ああ、ただ解決策がないわけでもない」サザンカから引き継いだツバキがここで可能性を示唆し、ミコに話を振る。するとミコは深呼吸し、気合いを込めて解放した。
光が震える。大気が戦く。ミコを中心に謎の発光が起こったのだ。眩い閃光に目が眩む。
その眩しさは、瞼を閉じてもなお皮膚を通り抜けて網膜を刺激するほどだ。
やがてようやく刺激が収まり、光の光度が落ち着くと、サクラは目を開ける。開けて……驚いた。
目の前に自分の影が「よお」と(は言ってないが)手を上げて立っていたのである。サクラだけじゃない、萌枝も、ツバキも、コスモスにスイートピー、デルタフラワーズ、そして敵である七人の影もが全て実体化して足を地に着け頭を天に向けていたのだ!
「これは……まさか。こうすんの、お前?」
ツバキの事後確認をミコは不敵に笑い、ええそうよと肯定した。
「向こうもこちらも実力行使。ならしかるべき手段をとるべきでしょう。戦争は数よ、使える者は利用する。そう、影でさえも!」
ミコは両腕を広げ、大々的に叫ぶ。
「わたしは影の秘術を使いしミコ=R=フローレセンス。レインとして雨を呼び、雨を使い、雨を知る。それと同じように影を作り、影を立たせ、影を使う! 影の秘術をカゲナシとして極めしわたしの大技。他人の影を影法師として顕現させ味方とするわたしの空間。影法師躍動空間・天雨乃原!」
「あ、あまのはら……」
サクラはその名を呟きつつ、目の前の光景に圧倒される。自分達の影法師、そして敵七人の影法師、計15体の影法師が味方として参戦するという状況の激変ぶりを未だ受け止めきれずにいたのだ。無理もないことだとわかってもらいたいくらいである。
とは言え、時間が経てば慣れるもの。というより、ミコが打ち出した次の一手を目の当たりにして、馴染まざるを得なかった。ミコはイヴァンの銃弾を受け止めてから手持ち無沙汰のフリー状態となっていた二本目の黒い手、その五指からそれぞれ五本、黒い矢のようなものが射出されたのである。時速、秒速、音速、光速……否、速という字はミコの行動を形容するには役者不足。瞬息の間にその矢はイヴァンとミヒャエルの自然学派バトルマニアコンビを除く五人の身体に的中、もとい貫通し、矢はそのまま各自の影法師へと当たり取り込まれたのである。するとビックリ奇なりな現実、なんと影法師からシクラメン達の声が発せられたのだ!
「痛た……もう、闘いなんて望んでないです。って、あれ?」
「なんやのん、この身体?」「真っ黒だ!」
シクラメンの丁寧口調。アキレギアの雅な口使い、そして少年っぽい喋りのスオウバナ。三人の声は、紛うことなき実体化して起立していた口もない真っ黒な影法師から発せられていた。意識が転送された――ということなのだろうか?
サクラがミコに視線を投げ掛けると、ミコはそれを感じ取ったようで、サクラに振り向きそうよと答える。
「影の秘術、心移しの矢よ。貫通したものの心を矢にのせてそのまま各自の影法師に移したの。どうせ身体はミヒャエルに操られちゃうからね。それならこのほうが戸惑うこともなく、わたしたちの味方になれるでしょ?」
「なっとく〜」サクラと萌枝、それにコスモスとスイートピーが一斉に感嘆の声を上げる。ミコの鮮やかな手腕に心底感心したからだ。これでシクラメン達は影法師の身体を使い、こっちの味方になれるってことだ。
(……うん?)
と、ここまで考えたサクラはひとつの疑問にブチ当たった。解決しないとムカムカするので遠慮せずミコに訊いてみる。
「ミコさん、クエイクとウェイブも味方にするんですか? あの二人、闘いを好むかどうかはともかく、今回の事件には主犯格で関わっているんじゃ……」
「いい質問ねサクラちゃん。お答えしましょうその疑問。わたしもね、神様の設計図を渡すつもりなんざ毛頭ないわ。でもね、別に苦しんでるあいつらを助けてあげないとも言ってないのよ」
「というと?」首を傾げたサクラの疑問に、ミコは不敵に笑い答える。
「ミヒャエルは所詮自然学派だから封印型端末の脅威を知らない。クエイクとウェイブの抱えている重荷もね。それはあいつの趣味ごときでコントロールできるものじゃないわ。そうでしょう? “クエイク”、“ウェイブ”!」
「レイン先輩……」「お、お姉ちゃん……」
影法師に意識を転送されたクエイクとウェイブがミコの声に応えるが、ミコは「違う! あんたたちじゃない方!」と珍しく怒鳴り散らした。足踏みまでして。珍しい。しかも妙に愛らしい。
そしたら感じる不穏な気配。身体を震わす不気味な気配。平穏とは真逆の、まさに不穏そのものの気配。目を逸らしたくなる衝動を必死に振り払い、サクラが意を決して見た先には――。
クエイクとウェイブの身体があった。影法師じゃない、ミヒャエルに有機電波を挿された本体の方。
だがその身体が発する気迫は、今までのクエイクとウェイブとは似ても似つかぬ異様なものだった。純粋な力――それゆえに災いの予感と畏怖を感じさせる。ミヒャエルが操ってこうなっているのか?――そう勘ぐるサクラだが、すぐにそれも違うと判明。なぜなら当のミヒャエル本人が二人の挙動にうろたえているから。
「な、なんだコレ? オレの制御を受け付けない、だと……?」
至近距離で冷や汗を流しているミヒャエルの証言はミコの正しさを物語る。ミコは全く臆することなく、クエイク、ウェイブの本体を指差し、こともあろうに丁寧な挨拶をした。
「はじめまして。自然現象の意思、“クエイク”に“ウェイブ”。お初にお目にかかります。知っているとは思うけど、自己紹介させていただくわ。わたしはミコ=R=フローレセンス。元気象一族のレインであり、今も“レイン”と契約している、神様の問題を解いた、旅人よ」
「御丁寧な挨拶痛み入る。が君の言う通り、自己紹介は不要だ。我々はずっとこの器を通して、君という存在を見ていたのだから」
「同じく。礼儀には礼儀を以て代えさせてもらおう。ただし長続きは期待するなよ? 我々は暴れたくてしかたないのさ。ではこちらの自己紹介を」
クエイクとウェイブの身体をつかう“そいつら”はその身体、その衣装を正し礼儀正しい仕草をもってミコの挨拶に応じ、そしてミコ達に自己紹介した。
「自然現象の意思一部、地震を司る“クエイク”だ」
「同じく。自然現象の意思一部、津波を司る“ウェイブ”」
名前こそ身体の持ち主と一字一句も違わない……が自然現象の意思と自己紹介したそいつらを前に、サクラは息を呑み込んだ。
息が詰まる。時を永く感じる。迫力が静寂を呼び、出会いは静かな応酬だった。
だけどそんなのノノンノン。この出会いの本質は闘い。この挨拶はただの前座に過ぎないのだ。それを証明したのは、やはりミコ。
しかも不言実行という潔さ。いきなりがま口チャックから一本の剣を黒い腕に握らせた状態で取り出すと、先程黒い矢を撃ってからまた遊ばせていた黒い手に柄を握らせ、抜刀。すかさずその手はぐいんと伸びて、七人の盗人の「身体」をたたっ斬ろうと横一文字に一閃したのだ。だが「身体」を持つ連中は全員空中に飛び逃げた。
「来たぞ! 開戦だ!」
一部始終を見ていたツバキが間髪容れずに宣言すると、みんな一様に身構える。デルタフラワーズも、コスモス、スイートピー、萌枝とサクラ。そしてそれらの影法師に意思を影法師に移されたシクラメン、アキレギア、スオウバナ、クエイクとウェイブ。闘いを躊躇っていた「本心体」とでも(勝手に名付けた)いうべき本人意思をもった影法師達。さらにガチで本体も敵であるはずのイヴァンとミヒャエルの影法師も。
総勢23体の戦力が、「味方」としてミコの力になるべく、自然学派と操られた花売り子達、そして現象意思に身体を乗っ取られた気象一族、計七人を闘う相手として認識し、闘う決意を固めたのだ。萌枝だけは未だにミコの黒い腕に抱えられた状態だったが。
なるほどこうして味方を作るのかと、サクラは心底感心していた。一連のやりとりの中で、色々有耶無耶煙に巻いて、敵であったはずのシクラメン達とクエイク、ウェイブを自軍に引き込んだその手腕に、滅茶苦茶惚れ惚れしてしまったのだ。
……が、今は感傷に浸る間ではない。サクラは気持ちを切り替え、戦闘仕様の思考に入る。枝骸装甲を纏って戦闘体勢を整える。何時如何なる時にでも闘えるように。
すると、ミコが自分自身の指でパチンと音を鳴らした。そしたらなんと湖の水がサクラ達「ミコの味方・影法師じゃない方」の身体を覆い、枝骸装甲とはまた別の武装となったのだ。特に萌枝のものは水による装甲が枝骸装甲の分も兼ねた一際丈夫な造りになっていた。それと同時に、ミコは黒い腕による萌絵の拘束を解き解放した。その装甲の効能だろう、萌枝は難なく湖面に着地し、起立することができたのだ。
「おお、萌枝ちゃんも立った!」「わたしが立った!」
一抹の感動に身を焦がした後、萌枝もサクラもやはりまた戦闘体勢を取り直す。
それを確認したようで、ミコが一歩進み出し隊長として指示を飛ばす。
「急いでないけど時間もない。一気に制圧するわよ。“クエイク”と“ウェイブ”はわたしが相手するわ。元とはいえ、目には目を、気象一族には気象一族だもの。みんなは自然学派のバトルバカ共とあいつらの操っている本体たちの相手をお願い。影法師たちは基本地面に足をつけてないといけないけど、影だけに身長を伸ばせるしこの天雨乃原を展開している間はわたしの影帽子にしまっている黒い武装を貸し出せるわ。とりあえず、対空装備ね。あとあなたたち本体には雨装活化で装甲を作っておいたから、好きに使って。残りの指示はツバキに任せる」
「了解だぜ。いいかお前ら! コレは基本空中戦だ。影法師達は対空装備で地上の死角から狙い撃ちオンリー。俺達本体連中は空中戦担当と基本ミコの奴の雨装活化を活かせる水上待機に分割。俺とデルタフラワーズが空中突撃、残りが水上待機だ。いいな!」
「おおーっ!」サクラ達隊員達の掛け声が湖面にこだまする。不満がないと言えば嘘になるが、前線任務は自分達には危険だし早いともわかっていたので、サクラ達はその命令を受け入れた。
一歩前にいるミコの横に、ツバキとデルタフラワーズの三人が並ぶ。このとき初めてミコは顔を背後のサクラ達に振り向け、あの柔らかい微笑みをもう一度見せてくれた。
「それじゃあ、行ってくるよ」
そう告げるミコにサクラは世話役のお節介からか、こんなことを言っちゃっていた。
「気をつけてくださいね。死んじゃダメです」
立場逆転とも勘違いしそうなサクラからミコへの心配。ミコは一瞬虚を衝かれた、吸い込まれそうな瞳をしてから、やがてその目に光を戻して、自信ありげにこう言ったのだ。
「ありがと、サクラちゃん。ま、あいつら二人はヒストリークラスの災厄だけどね。でもその実態はヒストリークラス・ユニオンスケール。対するわたしはデイリークラス・プラネットスケール。惑星レベルで展開される日常の脅威を、思い知らせてやるわ」
スケールという謎の単語を付け加えたミコは膝を折曲げてから湖面を跳躍した。さほど高さは大したことない。しかし最高点に達したとき、影帽子のがま口チャックから飛び出た一対の黒い羽根がミコの身体をさらに上へと飛び上がらせた。横道に逸れること一切なく、ミコは自分がやると言った“クエイク”と“ウェイブ”に向かって急接近する。それを見ていた相手陣営、撃ち落とそうとミヒャエルがシクラメン達三人の身体を操り、種子島でもって撃墜を謀っていた。そのときサクラは直感した。今こそ自分達の出番だと。
目には目を。歯には歯を。そして射撃には射撃だと。
「みなさん、援護射撃です!」
そうサクラが叫ぶと、間髪容れず萌枝が「わかった!」と答え、居残り委員のコスモスとスイートピーも「サクラは偉いね」と褒めてくれた。そしてその意思に呼応するように本体たちには雨装活化が変形した雨水製の大口径砲、そして理解が遅れて後からついてきた形のシクラメンにクエイク達影法師には黒いガトリング砲が備わった。まさに援護にうってつけの装備。
そうこうしている間に空の相手がミコ目掛けて種子島を撃とうとしている。そんなとき居残り委員の二人が「サクラ、号令かけていいよ」と言ったので、間を置かずにサクラは叫んだ。
「撃てーえ!」
奇しくも相手の種子島と同時の射撃。相手を制止することは敵わなかった。しかしサクラ達の水製砲が発射したのはなんとレーザー。光の速さで進む光線はあっという間にミコを追い越し、ミコを撃墜しようと放たれた種子島の弾幕にヒット。全ての弾を蒸発、消滅させた。
驚く連中に向かって影法師達の第二射撃が発射される。こっちはまともで黒い弾丸の連射だった。毎秒20発を優に超える弾幕が、影法師達15体から連射される。しかもガトリング砲は両肩にひとつずつ――即ち一人につきふたつなので、数の暴力と言わんばかりだ。
その弾幕が自然学派のイヴァンとミヒャエル、さらにミヒャエルに操られたシクラメン達計五人、ミコが相手にしないよと宣言した連中に向かって放たれる。バラバラの位置に点在している影法師達の一斉射撃だったが、狙いは明確。自然学派&花売り子達と“クエイク”、“ウェイブ”ペアとの分断である。目論見は見事成功、弾幕を裁ききれないと悟った自然学派達五人は“クエイク”と“ウェイブ”から遠ざかるように攻撃を避ける。そこに割って入るようにミコが“クエイク”、“ウェイブ”の前へと到着する。ミコは“クエイク”と“ウェイブ”の方にしか向いていなかったので、必然的に隔離した自然学派やその操り花娘達五人の敵には背中を見せる形となったが、味方がいれば助けもある。ミコに遅れて馳せ参じたツバキと彼に率いられたデルタフラワーズの三人がミコの背中を守るように、ミコと背中を預け合うように敵五人の方に相対した。ミコのコンパクトな黒い羽根に対し、ツバキ達花一族は枝骸装甲による蔦と葉でできた巨大な羽根。コントラストが際立っており、ツバキ達の方がなんかやたら目立つのだ。ミコの姿はちっぽけで、すぐにでも見失いそうになりそうな注意喚起を自覚させる。と同時にミコの方は見る必要すらないのかもしれないともサクラは思った。その方が自分のことに集中できるし、ミコの実力に対する信頼になるとも思えたのだ。それも見越してのことだとしたら、ミコ=R=フローレセンス、とても計算高い女だ。
ともあれ、ミコの狙った通り敵の戦力は二分化され、戦線もふたつに別れた。
分割された戦局、挟まれたミコとツバキ達。だがツバキ達はお得意の葉切剣や種衛銃を作り出してすぐに闘いに討って出た。対するミコは、浮遊している位置はそのままに、影帽子からさらに多くの黒い腕と足、そして備え付けの武装を取り出して、一斉に“クエイク”と“ウェイブ”目掛けて襲いかからせた。
戦いの火蓋が、切って落とされた。




