第6話_封印型端末の残酷な運命
同じ端末と言っても、僕達封印型は契約型とは全然違う。
適性という名の許容量でもって、起こるはずだった自然現象を全てその身に封じ込める。
そんな僕達の精神が、自然現象の意思と共存できるはずもなかった。
封印型端末の歪な由来――人間にとって都合の悪い天災を人間のエゴで封じ込める。そんな起源の僕達封印型端末の精神は、現象の意思と永劫の闘争状態にある。現象の意思に認められ、理解し合って力を振るう契約型端末とはえらい違いだ。致命的とも言える。
ゆえに、封印型端末はどんなに健全な精神を持っていてもやがては卑屈になり、被害妄想を抱き、どうしようもない宿命と自分への絶望から廃人になる。そして耐えられなくなったとき、死んで次の代に引き継がせる。これが封印型端末の「寿命」だと、そう教えられてきた。そして僕とウェイブも、実際になるまではそれを受け入れていた。つもりだった……。
だが。
実際にクエイクとウェイブの名を継いだ僕等は想像以上に重いその「役目」に苦悶した。ヒストリークラスの災厄を、この惑星で歴史上起こるべきだった地震と津波をその身に封じた僕達の身体が悲鳴を上げるのに、そう時間はかからなかった。なまじ力加減が下手なので、ガス抜きをすることもできず、溜まっていく一方の力を解放したい衝動に駆られた。
しかし、そんな矢先、一族屈指の実力者だったレインが神様の問題を解いたのだ。人間・生命世界の歴史において紛れもなく偉業として記されるはずのその快挙は僕達にも一抹の希望を与えてくれた。神様の座を褒賞とするほどの問題、それを解決し、新たな神様となるレインなら、僕等の苦しい運命も変えてくれるのではないか――そう期待したのだ。
……が、そんな期待も木っ端微塵に打ち砕かれた。レインはこの世界に帰還した途端、一族を抜けたのだ。なにも語らず。なにも残さず。
当然追った。どこまでも追った。もう僕達封印型端末が救われる可能性は、神秘にしかなかったから。でもレインは逃げるのがうまく、いつも後七歩で逃げられた。
そんな折、気象一族仲間のスノウがレインに追いついたとの知らせがあった。そしてそれを裏付けるようにレイン本人からのメールも来た。決して届かないわけじゃない。少し希望が持てた。なのに今の一族を牛耳るシャインとクラウドは老人連中をも説き伏せて追跡を取り止めさせた。希望の芽が摘み取られ、絶望の暗雲が心を覆う。
そんなとき、夢を見た。たかが夢とは思えぬ夢を。
神々しい方が仰ったのだ。「レインはガデニアに行く。消えぬうちに会いたければ花一族、自然学派と組むのだな」と。
たかが夢。されど夢。予知夢という詞もあるこの俗世、切羽詰まった僕は賭けに出た。
同じく禁断症状に苦しむウェイブを連れて、一路ガデニアに向かったのだ。その途中、偶然に自然学派の山野辺、河野と出会った。不確かな夢を、情報として信じたくなった。
相手は自然学派きっての過激派、会えば一触即発だが僕は必死に説き伏せた。元々神様の問題を解いたのがレインとも知らない連中、僕の夢はさておき、本当の情報は彼等にとって有益だったのが幸いだった。二人は実力行使で奪おうという僕達の提案に乗っかったのだ。
四人に増えた面子でガデニアに到着。花の都は祭の真っ最中。元より抑止力としてしか使われなかった僕とウェイブ、つまるところ戦場投入はされていない僕達。花一族とのパイプなどあるはずもない僕達。どう利用するか悩んだし困ったのだが、ちょうど外勤から帰ってきた三人の女と遭遇した。名をシクラメン、アキレギア、スオウバナといった。
彼女達を花一族と見破ったのは山野辺と河野だった。曰く、花っぽい匂いがするとのこと。実際嗅いでみると、確かに一般人にはない匂いがした。話しかけると外回りの営業ウーマンとのことでよく喋る。その中で彼女達はあの夢を予知夢と確信させてする情報をくれた。レインがここガデニアに来ているという情報を。頭は興奮し、普段とは違う思考をする。
そこからは僕の独壇場。夢を夢とは言わずに分け前をやると餌で釣って三人を協力者・内通者に仕立て上げた。作戦も閃いた、こちらから取りに行くのではなく、レインの方からやってくるよう仕向ける策を。
深夜、雨の降りしきる中僕達七人は花一族の本拠地、栄華会館の最深部、大宝庭に侵入した。一度口車に乗せた人間というのはよく働いてくれるもので、手を組んだ花一族の外勤族、シクラメン、アキレギア、スオウバナの三人は怪しまれないように分担して必要な情報を集めていたらしい。その成果もあって花一族の宝、リバムークを盗むのに難関は存在しなかった。正直拍子抜けしたほどだ。
脱出も簡単、いとも容易く抜け出した僕等はそのままホテルに直行。今後の予定、レインから奪った設計図の割り振りなどを話し合ったのち熟睡した。こんなにすぐ寝れたのもよく寝れたのも久しぶりだった。きっと好転の兆しだろう――根拠はないが、そう思った。
翌日、闘いになる可能性を潰すべく、猛る自然学派の二人を渋らせつつも保護特区の自然公園に陣取る。自然学派の提唱だ。休憩所の屋根に露が滴り、昨日の雨を物語る。
そこに届くシクラメン達へのメール。非常事態・現状待機の指示。どうやら花一族の面々に僕達が起こした行動の結果が知られたようだ。上々。そうでなくてはこっちが困る。
タイミングを見計らい、シクラメンを代表に電話をかけさせた。胸が高鳴る。
是々非々とした問答、やがてシクラメンの口から「全部」という単語が出てきた。直感した、電話の向こうで話しているのはレインだと。その途端、僕とウェイブは原因不明突然の痛みを感じた。現象意思の足掻きかとも思ったが、程なくして痛みは引いた。丁度電話が切れたとき――何かの暗示だったのだろうか?
だがそれも些細な問題。電話をかけたシクラメンが交渉成立の成果を告げる。この瞬間、喜びが沸き上がってきた。遂に救われるときが来た。僕達の苦しみも、歴代のクエイクとウェイブの無念も晴らされる――そう思っていた……なのに。
湖面から水門連絡で現れたのはレインだけじゃなかった。データと口伝てで存在だけ知っていた花一族対外戦闘部隊の隊長ツバキと、それが率いると思しき連中が多数。
なんで……ですか。
そう言いたかった。いや、問い詰めたかった。なぜ僕達の思いを――苦しみを理解してくれないのかと。
だから僕は、前に出た……。




