第5話_デルタフラワーズここに参上!
特急仕様に変えたノンストップエレベータで栄華会館の地上1階に辿り着いたミコ達8名は、真っ直ぐ正面エントランスを抜けて雨上がりの空の下に踊り出る。アンダースフィアの密閉空間から出た開放感なのか、ミコはステップを踏み、その場で軽く踊りだす。その様子を見ていたストックやカトレアは「これから戦場に向かうというのに……勿体無いくらいいいダンスを」とミコの舞踊を称えつつも、サクラと萌枝の身体を確保し注意する。曰く、戦場に向かう前に踊るのは死亡結末の条件成立だから真似してはいけません――と。なるほど確かに、闘いの前の踊りとは綺麗なまでにいっそ散るというような結末を想定しやすい。サクラと萌枝は口を結び、固唾を飲んで見守るだけにした。
なのに。
ミコと一緒に踊りだす奴が二名いた。言わずもがな、コスモスとスイートピーだ。なるほど、他の委員達から死んでこいと言われるわけだと、サクラはいまさらながらに理解する。こんなの理解しない方が幸せだったんじゃないかとも一瞬思ったが。実際ストックにカトレア、ツバキの三人は頭を抱えて嘆いている。
が、上には上がいるように、下にはさらに下がいる。それはやはりやってきた。
突如聞こえる謎の曲。やたらと格好つけときながら、どこか理解し難いセンスの曲に合わせ、そいつらはサクラ達の後ろ、正面エントランスの玄関口にいた!
改造人間を思わせるモンスターじみた風貌の大柄な男。
我罪人と言わんばかりに矢やら剣やら身体に刺した男。
もはや生気の欠片も感じさせない、死体そのものの女。
どれもこれも悪趣味極まる、コスプレで身を纏った三人が、曲に合わせてポーズを取り、面倒臭い名乗りを上げる。
「ビンカ!」「サザンカ!」「ホウセンカ!」
「コスプレ」「タクティカル」「フォース」
「我ら三人、デルタフラワーズ!」
風が……冷たかった。
涙も出ないとはこういうことか――サクラは今大人の嗜みというのを理解した。雨上がりの天気のはずが、吹く風はこんなにも乾いているだなんて。自然も中々空気が読めると感心した。
そして、こいつらは空気が読めないと改めて確信した。だってみんな固まっているんだもん。直属上司のツバキや委員会委員のカトレア、そして花君ストックに、さっきまで踊っていたミコ、コスモス、スイートピーの三人も含めて、全員が沈黙させられたのだから。
それでも筆頭は度量が大きい。ストックが詞をかける。
「待ってましたよ、ビンカ、サザンカ、ホウセンカ」
かなり引きつった声だったが、詮索するだけ野暮である。それよりも自分を立て直すほうが先と思っていた矢先、困り者部隊の三人は全く恥じらうこともなく堂々と立ち上がり、筆頭ストックに頭を垂れる。代表して発言したのはデルタフラワーズの紅一点、ホウセンカだ。
「ありがとうございます、花君様。改めて花君様より今回の任務を賜りとうございます」
「自然学派と気象一族の過激派が客人であるミコちゃんの持つ神様の設計図を奪い取ろうと、シクラメン、アキレギア、スオウバナの三者を誑かしリバムークを盗んでフィルエル自然公園で待ち構えています。ですがそんな取引は論外です。貴方達はミコちゃんの指揮下でリバムークとシクラメン達を奪還してきてください。また対外戦闘部隊の実力でミコちゃんが選んだサクラと萌枝ちゃんの護り手としても働くようにお願いします」
「かしこまりました」
命を下したストックに頭を下げたデルタフラワーズは歩を進め、ミコの元に歩み寄る。それと同時にストックとカトレアの居残り組はサクラと萌枝の身体を解放した。ミコの元へ向かいなさい――そう無言で語り聞かせるストックの意図を感じたサクラは、萌枝の手を取りデルタフラワーズとは別の方向から先にミコの元へと駆け寄った。ミコはそんなサクラと萌枝を温かく迎え入れる。ツバキもやって来て、これでミコが選抜したメンバーが全員勢揃いとなった。このころにはすっかり自分のペースを取り戻していたようで、ミコはいつもの陽気な口調で、物怖じせずにデルタフラワーズに語りかける。
「久しぶりね、デルタフラワーズ。そのコスプレ好きは相変わらずかー」
「然様でござる。拙者達対外戦闘部隊の精鋭デルタフラワーズ、何時如何なる時に死んでも恥ずかしくないよう、仮装には気を使っているのでござるよ」
「その通りじゃ。儂等が如何なる戦闘にもコスプレに興じ臨むのはその素晴らしさに殉じる姿勢と覚悟を示さんが為よ。戦闘ほど宣伝になるものもないからのう」
「変わってないわー。サザンカはござる口調でビンカはまだ若いくせに爺口調。それにしても今日のコスプレはどういう趣向? 『闘う前に死んでます』的なメッセージ?」
「んーん、ダーツで選んだらこうなっただけよ」
ミコの問いにあっけらかんと答えるデルタフラワーズ。その変人ぶりにサクラは頭痛を覚える。こんなのに守られるのかと思うと、ちょっと悲しくなる。
が、個人的な感傷は捨てなくてはならない。そのときが来たからだ。ミコが「OK、それじゃ、行くわよ」と告げて周囲に万遍なく手を翳す。すると周りに点在していた水たまりの水がミコの足元に集まりだす。やがてそれらはミコの元に集まったサクラ達の足元をも覆うほどの大きな水たまりになった。
「ぱはは。雨を操るレインの力。コスモス、相変わらずですよこの人」
「そうねースイートピー。ここから一気に水門連絡を使う気よこの人」
「水門……連絡?」
萌枝が初めて聞くその単語に疑問を挟もうとした矢先、ミコは影帽子から一本、黒い腕を取り出して萌枝の身体を掴み取る。ご丁寧にその先は手ではなく枷になっていた。
「きゃっ……ミコさん?」
「ゴメンね萌枝ちゃん。これから向かう先は水面の上、なのでね……」
ああ、そういうことか。サクラは一人納得した。友達として萌枝に目配せして挙動不審を戒めると、ミコから「ありがと」と言われてしまった。そんなつもりはないのに、なんかすごく心地良い。
「それじゃ、行ってくるわ」
「行ってきまーす」「ぱよーならー」「出動だ」「アイアイサー!」
ミコの挨拶に続き、コスモス、スイートピー、ツバキ、デルタフラワーズの順に放たれる挨拶。そのときサクラと萌枝はハッとする。もう出動なんだと。そしてミコ達が誰に挨拶しているのかも。大急ぎで二人して振り向き、継ぎ接ぎながらも見送ってくれているカトレアとストックに「行ってきます」と最後の挨拶。
それにカトレアとストックが微笑みを返してくれたのを最後に、感覚全てが暗転した。




