第5話_お茶屋に集結する神様達
さて、ガデニアを支配する花一族の渦中でそんなお家騒動が起こっていたころ、そこから遠く離れた街道沿いのとあるお茶屋、結構大きいそのお茶屋の野外に備え付けられた椅子にお茶とお菓子を戴きながら佇まっている二人の男がいた。
一人は、ありきたりな服の上に割烹着を着込んだ、いかにも給食係といった感じの男。
もう一人は、オーバーオールで身を包んだ、座っているのにこまめに足踏みしてる男。
そんな二人の男が団子とお茶を食しながら、なにやらなにかを待っていた。
「お茶が美味いね。暇つぶしにはいいもんだ。中々どうして人間・生命世界の料理というものも悪くないね」
「そうか? 俺はとにかくこうして地団駄踏むな。暇を持て余しちまうと」
「はあ、君は相変わらずだね。走りたがりやの急かしやさんだ。酷使するばかしじゃなく、少しは休ませてあげたらどうだい? 肝心なときに動かなくなったら困るよ」
「それこそ無用の心配だろ。俺達ゃ盗まれていない組だぞ?」
「……それもそうだね。僕達はあのミコ=R=フローレセンスに設計図を盗まれなかった神様だしね。やれやれ、実に半数の神様が盗まれたとは……嘆かわしい」
そんな対話をする二人の元に、駆け寄ってくる女が二人。その女達は物怖じせずに座っている二人に近寄り、フランクな挨拶をかけてきた。
「おーい。禊、翔、来たわよ」
「待った? でも私達休まず来たのよ。咽渇いたからこれ頂戴」
「おお、来たね。巴、萌。ずいぶん遠くから来たみたいだけど、やっぱり君達は早いね」
「でも待ったぞ。俺達は。ほら、萌、このお茶いい塩梅に冷めてるからさ、やるよ」
「ありがと」
そう言ってドレス姿の女――風流の神、萌=プリズムリリックは翔と呼ばれた男から口もつけてないお茶を貰い受け、勢いよく咽にかっ込む。相方の女――変異の神、巴=フラッグシップはあまりに急ぎすぎて案の定むせてしまった萌の背中を優しくさすってやっていた。微笑ましくも飽きさせないその様子を眺めていた残る一人、禊と呼ばれた男が二人に問いかける。
「巴、萌。君達は二人だけ? 途中で他の班とは合流しなかったのかい?」
「うん。私達の班はここを目指して直接の最短ルートで来たからね。他の班とはついぞ合わずじまいだったわよ。ねえ、萌?」
「そうね。他ならぬ茂の占いだからって、ここいらの神様全てを集めたのよね。もうじき時間だって言うのに、集合場所のここにいるのがまだ四人じゃ」
「そうでもないぜー」と、ここで聞こえる別の声、四人が振り向くと作務衣に手拭い、蟹股の草履で歩く男――奈落の神、整=キャパシティブレイクが他の神々を連れて一挙大挙とやってきていた。先導して引き連れているその面子は――。
暗転の神、帳=フリージア。
泥棒の神、扉=カレイドスコープ。
個性の神、彰=ジャンクション。
暗闇の神、落=パーフェクトハーモニィ。
調停の神、務=フォーチュン。
奉仕の神、湊=ミステイク。
妥協の神、環=スタンドプレイ。
節目の神、茂=エマージェンシィ。
撤収の神、刀=クロック。
初恋の神、愛=メトロノーム。
粋の神、希=ニックネーム。
印の神、透=パーソナルスペース。
整い含めて以上13名の神様がいっぺんに集合場所へとやってきた。にわかにお茶屋が賑わいだす。
「来たぜ、俺達も。歩いてくたくただからよお、とりあえず、注文いいか?」
整の問いに禊、翔、巴、萌の四人は顔を合わせ、黙って目で語らい合うと「いいよ」と簡素な返事を返す。それが合図となり、整はじめ13名の神様達は一斉にお茶屋の中に突入した。中から我先にと矢継ぎ早に注文している声が聞こえる。
その様子を眺めていた巴と萌も「そういや私達も注文はしてなかったわね」と呟いて中に向かっていった。屋外の椅子に残ったのは、最初と変わらず、禊と翔の先客コンビが残る。
と、中から出てくる影が三つあった。作務衣の整、着物の帳、そしてもう一人、ジャケットにジーンズで身を包む女――透だった。
「隣、いい?」透がお茶と羊羹をのせた盆を片手に、フリーのもう片方で禊と翔の隣を指差すと禊はいいよと答えて動く。翔も溜息悪態をつきながらだが禊に従い場所を空ける。空いた席に透と整、帳の三者が座り込み、それぞれ自分が注文したお茶やお菓子を頬張った。
「うん、美味しいですね。ほっぺたがおちそうになりますよ」
「全くね、帳の言う通り。これが自然の恵みを凝縮して練り上げた人間の味か……禊、食の神としてはどうなの?」
「美味しいよ。73点といったところかな」
「まあ」「え〜っ」
「厳しいんじゃねえの? 禊」帳と透の悲鳴に続き、整までもが苦言を呈する。三対一、禊ピンチである。
そこに入る助け舟。禊とペアを組む翔が割って入った。
「73点、いい点だな。こいつとアパートからこの人間・生命世界に降りて、今まで一緒にミコの奴を追跡していたけどよ、途中で食べたもので70点越えたのここが初めてだぜ。もっとも、こいつの味覚が絶対とも俺は思ってないけどな。疲れたときに食べた甘いものってのはいつでも1000点ってのが俺の持論」
「ちょっと! 翔そんなこと思っていたのかい。とんだ泥舟に乗せられちまったね」
禊が心外だという風に食って掛かる。だが、論点を掻き乱した翔の発言には確かな意味があった。禊をおちゃらかしていた整達がそれ以上の追及をやめたのだ。その気を削がれたのだろう。
行き場をなくした会話の先。話は唐突に変わる。
「透、お前まだ真実を知りたいとか思ってんの?」
翔の突飛な発言。しかし訊かれた透は悠然と答える。
「ええ。知りたい。だって謎なんだもの、泉さんの死に至る経緯。目撃者はミコちゃん一人。なんとしてでも聞き出したいわ。そもそも真実を知らずして、彼女の価値を勝手に決めていいものかって思わない?」
「神様が筋道を畏れてどうするんだ? 神様の行く道作る道こそ筋道だろ。そもそも筋道と正しい道はイコールにはなりえねーと思うぞ俺は。ミコの奴が何を知っているかなんて問題じゃない、あいつが俺達の定めた問題を解きながらその褒美を蹴ってこの人間・生命世界に戻ったことの方が余程問題だ。まずはあいつを捕まえてきちんと神の座に就ける。俺達神様の面子にかけてな。それが済んだ後、真実でもなんでも聞けばいい」
「さすがは道の神ですね。道に関しては一家言あるようですよ、透」
「みたいね、帳。ま、それでもミコちゃんの捜索を共通の行動原理としているだけ私達神々は捨てたもんじゃないわね。降りてみて改めて知らされたけど……人間っていうのは悲しいくらい仲良くない」
透の詞に皆が頷く。神様62体、喧嘩すれども仲は良い。殺し合うなどもってのほか。それが蔓延るこの俗世――人間・生命世界に呆れているのだ。
と、そんなことをぼやきながらお茶やお菓子を食していた五人の脳裏に強烈な『信号』が届く。人間でいう予感を超えた、神の感じる信号は、人間のそれよりも確実性と信憑性で勝っていた。
「感じた? 今の……」
透が尋ねると四人とも頷いた。空模様が変わったのだ。とんでもないことが起こる前兆――緊急時対応を取る必要があることを五人は本能と神としての義務感で理解した。残るお茶とお菓子を袖に置き、中で休んでいる連中に声をかける。
「おい! いつまでも休んでるんじゃねえよ! すぐにガデニアに行くぞ!」
「どうしたのですか? 翔」どこぞの学校で着ている制服のような格好のお嬢様風女神、盗まれた組の愛が怯えるように尋ねる。それに答えたのはこの中のリーダー格、透だった。
「空模様が変わったわ。ガデニアで大きな動きがある。もう茂の勘とか占いなんて不確定要素を飛び越えている。これはこの俗世での大きな波乱の予兆だわ」
「えー、私の予報がそんな非常時警報になっちゃったのかい?」
「そうですよ茂。みなさん、即時スタンダップ! 店主、私達のお代はこれで。お釣りはいりませんよ」
神々が集まるそもそものきっかけたる予報を発した茂が確定してしまった現実に複雑な気持ちを覗かせるが、上物の着物に鋼の髪を靡かせた帳がそれを一喝し、同時に神々17人分の代金を、標準金貨17枚を入れた袋で店主と思しき人物に投げ渡して支払う。それに呼応して店の中にいた神達も余りを残して立ち上がり、みんな一斉に外に出る。空を眺めると、彼等も『信号』を感じ取り、その重大性を肌で理解した。
「なんてことよ……とんでもない力の集結が起こってるじゃない」
姉御肌で知られた環が戦慄しつつ呟くと、翔と禊が前に進み出て皆に声をかける。
「ガデニアはこの道走ってあと1時間だ。俺の走力貸してやるから、お前ら、ちゃんとついてこいよ!」
「おう!」「ええ!」「はい!」バラバラな返事ながらも皆が翔の走力付加提案を受け入れる。翔が皆に手を向けると、その手は四つの輝きを持ってその光を禊はじめ、他の神々に分け与える。その光を各々の身に取り込んだ神様達17名は、目を合わせて頷き合うと、瞬きする間も感じさせないうちに消えた。
食の神――禊=ハレルヤ。
道の神――翔=スリースピード。
そして他の神様、全部合わせて17体。
神様達も感じ取っていたのだ。ガデニアで起こっている事件の気配に。ただ、それに自分達が追っているミコが絡んでいるとは、まだ知らないままであったが……。




