↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第4話 影が忍び寄る盛花祭
PR
33/167

第4話_走る影はトントン話す

 ところ変わってガデニアからかなり離れた高原の夜道。

 和気藹々と話しながら走る二人の女がいた。

 一人はフォーマルなシャツの上に紐ネクタイと二色配置のベストを着込み、短パンと言って差し支えないほぼ股しか隠さない短いズボンにそれを補うがごとくそこから下の素足をオーバーニーハイソックスで隠す、薄着っぽく見えながらも、ほとんどの肌を隠した、長い後ろ髪を黄色いリボンで一房にまとめた凛々しい女性。

 そしてもう片方の女は、どうみても移動には不向きな、パーティでも目立ちそうな赤い高級ドレスを着込み、ロングスカートを両手で持ち上げながら走っている場違いとも言えそうな女性。

 その二人が、高原の一本道を生物の域を超えたスピードで走りながら疲れる素振りも一切見せず、まるで座って喋っているかのように落ち着き払って道中話しているのである。

「この先が合流地点で間違いないのね? 巴(ともえ)」ドレスを着ている女が相方に話していたのは、そんな詞。すると訊かれたもう一人の女が微笑みながら答えた。

「ええ。この先7500km、大陸の向こう側にあるのが目的地ガデニアよ、萌(もえ)。走っていけば到着は明日。でもそうはならないでしょうね。道中休憩したりするし、その過程で他の神様仲間と合流する予定もあるしね。盗まれた組が多いんだっけかな?」

「わっかんないわよねー、あいつらの熱心さ。私達が盗まれなかった組だからなのかもしれないけど。あのレイン……いえ、ミコ=R=フローレセンスに設計図を盗まれた子達の彼女への執着は凄いわね」

「落なんて特によね。自分をコント勝負で負かしたからって漫才コンビの相方にしようと人一倍執着してるからね。ありゃ神様仲間といえど庇えないし愛せないなあ」

「うん。その一方で設計図の奪還に躍起になっている連中もいる。盗まれて調子の狂った湊や愛が見てられないからって。保護者気取りの連中がね。代表的な奴を挙げると……務(つとむ)や環(たまき)っちがそうかしら?」

「環っちは姉御肌で通っているし、務は湊と仲がいい上通り名が調停の神だものね。そりゃ熱心になるでしょうね。それにしても……」

「にしても?」途中で詞を切った巴の語尾を萌が繰り返し疑問符をつける。巴はひと呼吸おいて続きを語り出した。

「設計図を取られた組やそれに関わるみんなの盗り返そうって気持ちだけじゃなく、他の思惑があってあの娘を追いかけている神様もいるっていうのが、なんだかとても……不思議な感覚だわ」

「一致団結してないってことでしょう? 確かにそうね。私達は泉っちの死の真相を知りたいっていう、透(とおる)っちの提唱に賛同した神だけど、あの娘こそが泉っちを殺した犯人だって主張し追っかけているはぐれ神様もいる。落のように積極的に次の神にしようとする神様もいれば、あの娘を泉の仇と狙っている神様もいるし、整のようにその人間像に興味を示す輩あり、そもそもこの事態にもあまり積極的でない奴もいる。そして……」

「同じ神様仲間なのに、その心中が読めない者達がいる。さすがに冠詞5文字の設計図を持つ人達は違うわよね。四人全員、設計図を守りきったのだからね」

「そしてそれには及ばずとも匹敵し得る格を備えた神達がそれに同調している。私も正直怖いわね。不老不死を体得した神様ともあろう存在が、こんなにも一人の人間によって分割され、踊らされているのだから。でも仲間意識は失わず、情報共有及び共同歩調を保っている。そこが不思議だっていうんでしょう? 巴」

 萌がそう確認を取ると、巴は「ええ」と頷きまた続ける。

「奇妙な感覚。でもこんなかたちでも繋がりを破棄しないところは私達神々の誇り高い美徳であり、財産でしょうね。ま、その話はもういいわ。萌、さっきの会話の中で出てきた整関連の話でもうひとつ花を咲かせましょう」

「こうして移動する前、先月百敷の月に整、帳の情報探索班と合流したときのことでしょう? ええ、憶えてる。甘酒とはいえ飲みすぎて酔った整が暴露した、彼の真実」

「あの娘が整と対峙した際、整は躊躇うこともなくあの『狂活字獄』を喰らわせた。私達神様仲間をも狂い死にの一歩手前にまで追い込んだあの破滅兵器を。でも私達同様あの娘は耐え、そして整から『気味悪さの設計図』を戴いた。でも――」

「実際整が見た話では、あの娘はほとんど『狂活字獄』で苦しまなかった。もちろん受け止め受け入れ理解することは『狂活字獄』唯一の解法。だが整が見たところ、あの娘の肉体は最初こそ発症したものの、5秒も経たずに戻ったということ、だったわね」

 萌の説明に巴が頷く。

「信じ難いことだわ。最初から解法を知っていたとはとても思えない。私達神様仲間でさえ、『狂活字獄』を初めて知ったときはその新しさと異質さに戦いたほどなのだから。解法を導き出したのは実験で喰らわされて数時間も悶絶したあと。整からのヒントでようやくよ? それを彼女はたった5秒で解き放った。度し難い速さだわ。そこに整があの娘に執着する理由がある」

「あの娘の肉体そのものが人間達により造り出されたなんらかの秘術によるものではないかと……。心身一体、かつ心が完成されているのはミコ=R=フローレセンスにとってはもはや当然であり、さらに肉体になにか別の、私達でも知らない秘密があるのではと。整は酒の席でそう言っていたわね。それを俺は知りたいとも」

「そうして実際調べを進めるうち、整と帳の二人はまた面白い情報を寄越してくれたわね。あの娘は、気象一族最高のレインとして、一族次代の担い手を産ませるための母体として、気象一族の益荒男二名に身柄を狙われているとも」

「シャインとクラウドだったっけ? 目的は違えど、見るものは一緒ってことよね。奈落の神整=キャパシティブレイクはその肉体を知りたい。気象一族の種馬共はその肉体が欲しいと。どうして私達神様と違って人間ってこうも下賎な欲望しか持てないのかしら」

 萌の問いに、巴は控えめな苦笑でもって答える。

「ま、あの娘の策略によってその二名はしばらく様子見に入った――とも言っていたしね。全く……あの娘、ミコ=R=フローレセンスの力量には脱帽するわ。今に世界が彼女に踊らされるでしょうね。できればその前に捕まえたい。それが私達神々の総意」

「この先の目的地ガデニアに近く手がかりになり得る大きな出来事が起こるやも知れぬゆえ、来られる班は全て集結し潜入せよ――節目の神である茂(しげる)の発言となると、無下にできないわよね」

「ええ……さて、話に花も咲いたし、待たされたって文句いわれるのも面倒だわ。急ぎましょう」

「ええ。萌と巴、読みがほぼ同じと意気投合し、どちらが上でも下でもない、姉妹の契りを交わした私達ですもの。この絆、たとえ神様仲間といえども穢していいものではなくってよ!」

「じゃ、行くわよ」

「ええ。飛ばす!」

 そう言って話を打ち切った二人はさらに速度を上げ、夜道からその姿を消した。

 変異の神、巴=フラッグシップ。

 風流の神、萌=プリズムリリック。

 偶然にもミコのいるガデニアを目指していた二人の女神の神速に、ついてこれるものはいなかった。ただ、星の光が照らす彼女達の影の残像だけが、そのスピードの証明だった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。